初めてのイベントはワクワクしたのよ。
中央公園。
そこは、大きすぎる公園だった。
国営ゲームだけあって、どこかの国営記念公園レベルの広さがある。
東京ドームが十何個か入りそうな広さがある。
1日じゃその全貌を把握できない広さがある。
だけれども、私は迷わない。
中央公園の中央に位置する噴水で、名刺交換会は開かれているらしいのだ。
ちゃんと調べてある。
私は大胆なのに臆病で、臆病なのに大胆なのだ。
ちょっと、今のは意味不明。
まぁ、私の心を読める人はいないから良し。
あ、ラブグラスは私の心を読めるのだっけ。
これって、運営者さんは監視できたりするのかしら。
って考えると怖くなるから、考えない。
などとワクワク心からか、意味不明な自分との会話を楽しんでいると、直ぐに噴水に辿り着いた。
わぁお~。
なんか、人が、っていうかアバターが、いっぱいいる。
1、2、3、4、5、無理! 数えられない。
歩くのも窮屈な人口密度。
こんなにもラブワールドプレイヤーがいたのかと驚いた。
周りを見てみれば、3種類のアバターに分類できた。
大声で「名刺とお菓子交換しませんか?」と言ってる人。
多分、誰と交換するか物色するためうろちょろする人。
多分、もう交換し終わったなりで、談笑する人。
私は、うろちょろする人になることにした。
相手は選びたいのだ。
だって、別居中とはいえ、私は人妻なのだ。
だから、女の人を探す。
私の髪型と同じショートヘアーのアバターさんが近くで叫んでいたので、早速声をかけてみた。
「こんにちは」
「お、こんにちは~」
「えっと、交換してください」
「はいはい。じゃあ、まず私からお願いしますね」
そう言って、ショートヘアーガールは、お菓子を渡してくれた。
私が受け取る。
名刺をスマートフォンから取り出し渡す。
変な効果音が頭の中に鳴り響く。
きっと、この音は、私にしか聞こえてないのだろう。
出所不明、まさに頭に直接聞こえてくる音だった。
バクバクバクバク。
食べてる効果音だった。
私は自分の意思とは無関係に、貰ったお菓子は直ぐに食べてしまうらしい。
身体も2秒間使って、勝手に動いた。勝手に食べてしまった。
「美味しかったです。ありがとうございました」
とお礼を言って、少し1人で、今の演出について考察したかった。
結構驚いたのだ。
臆病なはずの私は、調査不足だった。
「じゃあ、今度は私が名刺役ね」
ショートヘアーガールは慣れているみたいだった。
名刺を渡した後、お礼を言って、立ち去ろうとする私に、さりげなく教えてくれた。
なるほど。
お互いに交換するのか。
そうしないと、私もこのお菓子をいつ渡して良いものか分からないものね。
知り合いも、少ないし。
「あ、はい。ありがとうございます」
私はクッキーを手渡す。
「お、レベル2か~。初心者さんなんだね~」
何故か、私はお仕事レベルを見破られた。
どうしてなのか、聞きたかったけれど、彼女は再び叫び始めてしまった。
「ラスト1箱です。誰か、名刺と交換しませんか~?」
私はトボトボと歩き、彼女から少し距離をとってみて、名刺を眺め、眺め、眺め、何度も読み返した。
・名前 チャンチャン
・性別 女性
・年齢 31歳
この3つしか書いてない名刺だった。
さて、どうして良いものか悩んだ。
でも、直ぐに名刺の取り扱いを思い出し、スマートフォンに食べさせる。
その後、残りの4つのクッキーも交換できた。
スマートフォンに増えた4人の名前。
でも、きっと、もう連絡する事はないだろうな。
ゲームに慣れてない私には、この希薄な関係が妙に思えた。
ともあれ、お菓子を貰って1点、お菓子を渡して1点。
10点ゲットだわ!
私は謎の達成感に満ち溢れ、満足しながら、ログアウトした。




