騙してたのね!
電源を入れたまま、ラブグラスをはずす。
ちょっと早めのお昼ごはんを食べる。
再びラブグラスを装着する。
すると、奇妙な音が聞こえてきた。
キューン。ズズズズ。シクシク。
どうやら、私のアバターが、私の意志とは無関係に泣いているらしい。
何事かと思い、私は焦った。
「ねぇ。泣かないで」
私は私を慰めてみるも、1分に1回5秒間。
規則正しく私は泣き続ける。
焦る。焦る。焦る。これは、困った。
しかし、人は焦っている時に、別問題の答えが見えたりする。
あら、いけないわ。
イチローさんのお誘いに、オッケーのメールを返していない。
私は泣きながらメールを送信。
その時だ。
我が家のドアが開かれる音が聞こえた。
ゴーダ君が帰ってきた音だ!
「ただいま~」
彼はのほほんと挨拶。
「おかえりなさい!」
私は自分でもビックリするぐらい陽気に挨拶。
っていうか、何それ?
「なんで黒いの?」
「日焼け日焼け。ほら、旅行帰りってさ、日焼けのイメージない?」
「ないよ。
それに、ゴーダ君は温泉に行ったんだよね。
もっとないよ。
温泉で日焼けした話なんて聞いた事ないよ」
「だから、イメージ。雰囲気。アバターってそういうの大事よ?」
「そう。あなたが満足なら、私は何も言わないわ」
彼はちょっと変わっている。
大興奮の私を、一瞬で冷静にしてくれる。
でも、その尖った部分が、なんだか愛おしい。
他の人ならば、欠点にしかならないはずなのに、彼の時は愛おしいのだ。
じゃなくて、そうだった。
「大変なの! 私、泣き虫ちゃんなのよ!」
「あはは。本当に大変そうだね。
さっきまで忘れてたのに、その慌てようは大変そうだ」
ゴーダ君は自動アクシャン付きで大笑いしてみせる。
「そうよ。大変なのよ!」
「大丈夫。ほら、もう泣き止んでるでしょ?」
「あら、あらあら、本当だわ」
「シャックリみたいだね。
本人が気付かないうちに泣き止んじゃってるなんて」
「もう……。笑ってないで教えてよ。答えを知ってるんでしょ?」
「うん。知ってる」
彼はそう言って、スマートフォンを取り出し、少し操作してから、私に画面を見せてくれた。
画面にはゴーダ君の4つのパラメーターで状態が表示されていた。
「寂しさ度が減ってるんだよ」
お腹も減ってないはず。ゴーダ君と遊ぶために準備したもん。
疲労度も大丈夫なはず。ゴーダ君と遊ぶためにベッドで放置してたもん。
でも、寂しさ度は無関心だった。
確か、プレイヤーとコミニケーションをとらないと駄目なのよね。
昨日、イチローさんと遊んでから、結構な時間1人で遊んでたけれど、誰ともお話していない。
私は慌てて確認してみる。
私の寂しさ度は33だった。
「だから泣いてたのね」
「そうそう。寂しいと泣いちゃうんだ」
「ふ~ん」
……。沈黙。何故かゴーダ君はワクワク顔で私を見つめてくる。
私は反応に困る。
痺れをきらしたゴーダ君は首をかしげながら聞いてきた。
「怒らないの?」
「何に?」
……。沈黙。
「いや、ほら、騙したじゃん。俺」
私は思い出した。
ゴーダ君は、寂しさ度は特に悪影響がないと言っていた。
「酷い! 騙したのね!」
私はプチ噴火。
「騙したのさ!」
ゴーダ君は本日2度目の大笑いアクション。
私は少し腹がたつけれど、やっぱり彼といる時間は幸せだなと思っていた。
この時は、後に大噴火するなんて、思ってもいなかった。




