友達を騙す私。その名は明子。
私の名前はアキコ。
明るい子供に育って欲しいと言う想いを込められて、つけられた名前が明子。
でも、いつからだろうか。
友達は年賀状やメールで、私をアキコと呼ぶようになった。
なんでも『飽きる子』なんて意味があるらしい。
そらまた失敬な。
されども、あまり腹が立たなかった。
むしろ納得してしまった。
気がつけば、親もメールでアキコと、兄もアキコと、呼ぶようになってしまった。
その失敬な兄が、出会い系ネットゲーム、ラブワールドに興味を持った。
私も巻き込まれた。
なんでも、別れた彼女を追いかけるためらしい。
そして、なんと、ゲーム内でその彼女と接触できたらしい。
彼女は私の高校時代の友人でもある。
彼女は名前を恵子という。
恵子は突然発狂する奇特な人物なのに、とても用心深い性格をしている。
兄と別れて以降、私と遊ぶ時は、必ず兄の所在を確認するようになった。
兄の肩を持つ気もないし、大事な友人を失いたくはないので、嘘をつかないことにしている。
だけれども、今回は騙さざるを得なかった。
まず兄がラブワールドで、恵子と接触できたのは、私の過失が大きい。
ウジウジ悩んでいる兄に、つい手を差し伸べてしまった。
ゲーム内での恵子の名前を教えてしまった。
次に、あいつ、歳下、しかも18歳に恋しかけているらしいのだ。
結構上手くやってるらしいのだ。
これは、是非見てみたい。
ゲーム内でも良いから、会ってみたい。
そう思った私は、平然と彼女を裏切ったのだった。
「ゲーム内の友達にカラオケ誘われちゃった。
でもね、今日ね、2日ぶりに旦那様と会えるの。
どうしよう?」
彼女は電話でこう聞いてきた。
私は答えた。
「良いんじゃない? 彼が自分以外にどう接するかで本性とか見えるしさ」
などや、
「2人きりだと緊張しちゃって、見えてない部分ってあると思うんだ」
と答えた。
恵子は渋っていた。慎重なやつだ。
私はどんどん慎重な恵子を攻める。
「まだ焦る時期じゃないかもしれないけれど、もう結婚を視野にいけなくちゃいけない年齢だよ。
現に私はもう人妻ですし」
「でも……、今日だけは2人きりになりたいの」
「何を大げさな。
出会って1週間ぐらいの人と、たった2日会えなかっただけでしょ?
ウチらは、もうどんだけ会ってないのさ?
2ヶ月は経つよ」
「そうなんだけど~……。
だからこそ、っていうのもあるじゃない?
アキコとはもう安心できる絆があるの。
でも、彼とはないの」
恵子は中々に粘った。
今日だけは私は飽きない。
意地でも会ってやるんだ。
18歳に。
それから、約10分間説得し続け、ついに恵子は折れた。
「その、ゴーダ君だっけ?
彼もみんなで遊びたいって言ってるんでしょ?」
「そうだね。ゴーダ君がオッケーしちゃったの」
「じゃあ、もう答えは出てるじゃん」
「そう……、なんだよね……」
テンションだだ下がりの友人の声は、私に多少の罪悪感を覚えさせる。
しかし、18歳の方が強かった。
「大丈夫だって。
相手もゲーム内夫婦なんでしょ?
じゃあ、安心じゃん!」
「うん……。そだね……。分かった。諦めるよ」
ちなみにゲーム内の友達(兄)の妻とは、私アキコなのだ。
つまり、こうして私は、昼に急な予定ができた。




