イチローとミーナ
アキコの話によると、恵子がラブワールドを始めたらしい。
俺と別れて、まだ3ヶ月だと言うのに、始めたらしい。
早速、俺はアキコに探りを入れさせた。
今、俺は、電話をかけているアキコの隣にいる。
「はいはい。自分から切れない女のために、切りますよ」
どうやら、電話はもうすぐ終わりそうだ。
「バイバイ」
終わったみたいだ。直ぐに俺は聞く。
「どうだった?」
「聞いてたんでしょ?」
「お前の声しか聞こえん」
「より、もどしたくないって」
「それは分かったよ。俺は諦めんけどな」
「で、歳下の旦那様が出来たみたいよ」
「何~!!」
「18歳だって」
「何だと!!」
俺は怒鳴ってしまう。
別にアキコは悪くなければ、恵子だって悪くないのに、何だか酷く腹立たしい。
「ケッコー上手く行ってるみたいよ」
「名前は? ゲームの名前は?」
「スーナだって。ナースだから逆から読んでスーナを名前にしちゃったの。
笑っちゃうでしょ。あの子、単純なのよね」
「笑えん。クソ。何故、登録したら直ぐに始められんのだ」
「うそ……。アニキもラブワールドやるの?」
「もちろんだ。昨日申し込んだ」
「引くわ~。ラブワールドやる31歳も、元彼女追いかける31歳も引くわ~」
「黙れ。それだけ、恵子は魅力的なんだよ。お前と違ってな」
「さいですか」
アキコは不貞腐れる。
いかん。それじゃ、駄目だった。
「なぁ、2セット頼んだから、お前もやれよ。ラブワールド」
「嫌よ。興味ない」
「まぁ、聞け。もう付き合い始めの女を口説くには、こちらも彼女いるように見せかけるのが一番だ。
油断させて仲良くなる」
「キモイよ。言っとくけど、今、あんた超キモイ事言ってるからね」
「そう言わずに頼むよ。
俺さ、更に油断させるためにおじいちゃんロールプレイするから。
そこで、ロールプレイ失敗するたびに、お前に飯をおごる。
これなら、どうだ?」
アキコは食い意地がはっている。これならどうだ?
少し悩み、アキコは食いついてきた。
「オーケー。分かったよ。
でも、ゲームとかやってる暇ないから、時々だけね」
こうして、俺はラブワールドへ踏み入れるのだった。
俺は工場で働いている。
次の配置換えまで、常夜勤だ。
主にはパートさんがたの指導や管理をするわけだが、ゲーム内ではライン作業をやらされた。
なんとも、良いスコアはでないシステムだった。あるいは俺が苦手だった。
わがままばかり言うパートさんだけれど、彼女たちがいなければ工場は動かない。
もちろん日ごろから感謝はしている。
そしてこのゲームを始めて、ちょっと、感謝の気持ちが強くなった。
が、それはどうでも良い。
丁度、スーナの夜勤明けが間近にあった。
人の少ない昼間にログインしてくれれば、見つけやすいと思った俺は、その日に探す事にした。
ショッピングエリアを散策する事1時間。
恵子、すなわちスーナは直ぐに見つかった。
ゲーム内とはいえ、アバターとはいえ、久しぶりに見る恵子は、俺の心臓は破裂しそうなぐらい激しく動かせる。
リアルと同じく、困った時は、ぼ~っとするのがあいつ流らしい。
ベンチに暇そうに座っていた。
俺はドキドキ高鳴る心臓が、少しだけ落ち着くのを待ち、声をかける。
おっと、その前に、設定しなくては。
このゲームでは、プライバシー的な意味があるのか、変声機能がある。
俺は少し低めの声に設定し、今度こそ声をかける。
「参りましたな」
この日、少しの会話をした。少ししか会話できなかった。
だがしかし、次の日も遊ぶ約束が出来た。
なんでも、アキコの話によると、俺の直ぐ怒る所が気にいらんらしい。
それはリアル上司にも指摘されていた。
直す訓練ついでに、今回は褒め殺しで口説こうと思っている。
さぁ、今日こそが、俺の真のラブワールドのスタートだ。
今度こそ、今度こそ、絶対に手放したくない。




