リアルスコア
ミーナさんがタクシーを呼ぶ。
私たちは三人揃って後部座席に座った。
このシチュエーションは狭そうなのだけれど、不思議な事に、そんなに窮屈な感じはしなかった。
ボーリング場は、交流エリアにあった。
これで私は三つ目のエリアを知ることになる。
マイホームエリア、ショッピングエリア、交流エリア。
交流だけ日本語なのは、まぁ、多分、気にしないほうが良いのだろう。
考えても、製作者と連絡取れない私には、確かめようがないのだ。
ボーリング場は、普通だった。
大きな二階建て建物で、目の前に駐車場がある。
見慣れたボーリング場だ。
しいて難癖をつけるならば、全然車が止まってない事ぐらいである。
「駐車場の意味ないですね。二台しか止まってない」
「あ~、それはね~、まだ車を持てる程稼いでる人が少ないからだよ」
とのことだ。
中に入ると、ちょっと手順は違う。
私の知っているボーリング場は、
靴を借りて、
何ゲームするかを受けつけの人に伝えて手続きをし、
手続きが完了してどのレーンが使えるかが分かり、
それからボール置き場からボールを選んで、
やっとゲームスタート。
だけれども、この世界では開いている場所に先に入り、その場で登録できるのだそうだ。
靴もそのまま、玉も一種類なのだそうだ。
「不思議ですね」
「この世界では、重さを感じないからじゃろうて」
「靴も意味ないしね。アクセサリーだよ。
だから、雰囲気を味わいたい人は自前で用意するし、気にならない人はそのまんまプレイするの」
「でも、満員だったらどうするんでしょう?」
「それは、えっと、どうじゃったかな」
「トイレの奥……、えっとその自販機じゃなくてもっと奥ね……」
私はミーナさんの誘導にしたがって目線を移動する。
突き当たりちょっと手前、右手側の壁に、怪しい扉があった。
人の出入りが激しい、謎の扉があった。
「それがね、インスタントエリアの入り口なの。個人エリアね」
なるほど。
スキル屋さんで経験した、個別エリアのことだ。
「どうします? 4と8レーン空いてますけど」
「4レーンにしましょうですじゃ」
「パーティ組まないと、個別エリアに一緒に行けないしね。
でもパーティ組むと、実年齢が分かるでしょ?
だから、おじいちゃんは嫌なんだって」
「私は構いませんよ。
貸切りボーリングも良いけれど、周りの喧騒あってこそのボーリングって気もします」
「じゃ、4レーン使おうね!」
ミーナさんは走っていく。
あ、場所取りだ。
私も後を追いかける。
でも、走らない。
4レーン手前の待機スペースには、もう玉が4つあった。
ミーナさんが、何やらタッチパネルを操作している。
「オッケー。三人登録したよ」
そう言われて、レーンの上、天井近くにある画面を見てみれば、3人の名前があった。
でも、ミーナさん以外の2人は「???」さんだった。
まだ手続きは完了してないらしい。
「ここ。ここにスマートフォンをかざしてね」
私は指差された、タッチパネルに携帯をかざしてみる。
シャリン、と音がした。
きっと、私の個人情報を読み取ったのだろう。
確かめるように天井画面を見てみると、私の名前があった。
遅れて到着したイチローさんも同じ作業をする。
これで、3人の名前が揃った。
いよいよ、ゲームスタートだ。
でも、その前に……。
私は、1つ、今更ながら報告しなくてはいけない事があった。
うっかり、忘れていた。
「あの、私リアルのスコア、60なんです。お手柔らかにお願いしますね」




