表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ラブワールド  作者: ササデササ
年下の旦那様
20/64

これは不倫になるのかしら?

 私はラブグラスの電源を入れた。

 もう見慣れた光の演出、少し見慣れてない増築したばかりのマイホーム。

 そして、いつもなら、聞き慣れたはずのゴーダ君の声が聞こえてくるはずなのだけれど、今日はない。

 まだ正午だし、平日だし、まぁおかしくはないのだけれど、寂しい。

 なんて必要のない『しんみり』を味わっていると、スマートフォンが鳴った。

 ゴーダ君が、リアル世界からメールを送ってきたらしい。


『ゴメン。

 っていうか早いね。もしかして、今日休み?

 言うの忘れてたけれど、今日から学校の友達と温泉旅行なんだ。

 ほら、平日だと安いから』


 私は返信する。


『そうだよ。今日から三連休だよ。

 旅行は何泊なの?』


 直ぐに返信は帰ってくる。


『二泊三日。せっかく休みなのにね。一緒できないとちょっと寂しいね』


 ナチュラル攻撃キタ。

 私は体感温度を上げながら返信する。


『私も寂しい。

 帰ってきたらいっぱい遊ぼうね』


 うわぁ。送るんじゃなかった。

 返信直後からの後悔。

 私たちは仮想夫婦ではあるけれど、恋人でもなんでもないのだ。

 でも、いくら待っても返信は帰ってこなかった。

 薄情な奴め。

 

 しかたなしに、私はごカレーを食べてから、仕事に向かった。

 今日も余裕のSランク。

 1300円を稼いだ。

 さて、どうしましょうか。

 ナチュラル甘えを見せるゴーダ君は、さりげなくいつもリードしてくれていた事を、私は知った。

 何をしていいのか、全く分からない。

 分からないから、適当に歩き、適当なベンチを見つけ、座った。


 流れ行く人たちを考えながら、さっきのゴーダ君との会話をリプレイ。

 もう、認めざるを得ない。

 こりゃ~、芽生え始めの恋だ。

 参ったな。


「参りましたな」


 ドキッとした。

 私の頭の声が、ラブグラスの誤作動で声に出たのかと思った。

 でも違う。

 白髪としわで装飾されたおじいちゃんアバターが話しかけてきたのだ。


「どうも」


 恐らく私に声をかけたのだと思う。

 とりあえず、挨拶。

 私が会話に入ってきたと認識したのか、おじいさんはもう一度言う。


「参りましたな。全く、何をして良いのか分からないですな」


 うさんくさい喋り方。

 多分、実年齢はおじいさんじゃないのだろうなと思った。

 ロールプレイってやつだ。


「何に参ったのですか?」


 多分、この質問をしなくちゃ私は解放されない気がしたので、聞いてみた。


「普通のゲームですと、目標が常に設定されているものですのじゃが、このゲームは全くない。

 何をして良いのか、分からないのですじゃ」


「私も。私もそれで悩んでいたんですよ」


「なるほどなるほど。お互い、ビギナーですな」

 

 おじいさんは私を見つめた。

 私も見つめ返す。

 すると気が付いた。

 同じ人を見つめ続けていると、頭の上に名前が表示された。

 彼はイチローさんだった。


「ワシは、このゲームのお仕事しか知らんのですが、お前さんはどうなのですじゃ?」


「私も似たようなものですよ」


 ステータスのこと。知っているお店の場所と内容。増築のこと。

 私は知っている情報を、出来るだけ伝えた。


 おじいさんは、「ほー」とか、「なるほどですじゃ」とか、頷きながら熱心に聴いてくれた。


 丁度私の引き出しがなくなってきた頃、おじいさんのお腹が鳴った。


「それでは、私は早速はんばーがーを食べてきますじゃ」


 そう言って、立ち上がる。


「はい。お気をつけて」


 一期一会。これでお別れなんだと思った。

 でも、おじいさんは少し歩いて、振り返った。


「明日のお昼も暇でしたら、またここでお会いしませんか? ですじゃ」


 ゴーダ君は今日も明日も明後日もいない。

 ゴーダ君のいないラブワールドは私にはちょっと退屈。

 おじいさんも悪い人じゃなさそう。

 断る理由は得になかった。


「はい。構いませんよ」


「良かった!! ……ゴホン。ですじゃ」


 そう言って、おじいさんは今度こそ立ち去った。

 私はこの時になって気が付く。

 あれ、もしかして、私ナンパされた?

 断ったほうが良かったのかな。

 そうは思っても、もうおじいさんの姿は見えなかった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ