ゴーダ君ってこんな人なんです。
一月ぐらい前かな。
俺がラブワールドに興味を持った理由は一つだ。
丁度出会い系サイトについて、慎重に調査していた時に、ブラウザに広告が表示されていたからだ。
月5000円は、正直大学一年生には……、そうでもないかも知れないが、俺には高い。
だから迷った。
しかし、どうも、男性という立場から出会い系サイトを使うと、より経済的負担が高そうだった。
それが理由だった。
しかし、ネット登録してから荷物が届くまで、3日も待たせるのは、頂けないシステムだ、と憤慨したのを良く覚えている。
ラブグラスを装着すると、そこはもう一つの世界だった。
確かにスゲーわ。
民間企業が頑張ってる中、こいつらどんだけの国家予算をゲーム開発につぎ込みやがった?
まぁ、いいや。
俺、消費税しか払ってないし。
とにかく、そのリアルさはスゲー、の一言だった。
俺みたいな、ゲーム中毒者じゃなくちゃ、実写との区別が付かないような圧巻のグラフィック。
ブレインリーダーとかいう、あやしいシステムも中々に反応が早い。
最新技術はスゲーわ。
それからの俺は、暇さえあればラブワールドの住人だった。
当初の目的も忘れ、ひたすら、その世界を遊びつくした。
正直、彼女とかそれ所じゃない出来映えだ。
やるじゃん、日本。
しかし、ふと寂しくなり、ダーツバーの隅っこでクールに一人酒してる女性は口説いた。
仲良くなった。
気が合った。
まるで最初から家族みたいだった。
しかし1週間後、ドキドキしながら実名を載せての名刺交換をしてみれば、マジ家族だった。
母ちゃんだった。
何やってんだよ。
どうやら、呼びかけても反応しないぐらい俺が夢中になっているゲームに、興味を持ってしまったらしい。
家の母親はゲーマーだ。
っていうか、日本。
既婚者ははじけよ。
色々揉め事になるぞ。
そう思いながら、俺たちは『お父さんには秘密ね』とこの話題を封印した。
父親に、出会い系ゲームをやってるなんて、知られたくない。
最近、バイトを始めた。
ラブワールドを気兼ねなくプレイするためだ。
プレイ時間が減るのは悔しいが、やっぱり、5000円は高い。
週2回、1日3時間の宅配補助のバイト。
先週、テレビで特集を組まれたせいか、やたらと送り人に『ラブワールド事務所』が増えた。
いや、結構恥ずかしいゲームだから、送り人からどんな品物かを想像できない方が良いと思うぞ。
と届かないアドバイスを心の中で思う。
しかし、そこが国運営の欠点なのだろう。
仮にこんなにも『ラブワールド事務所』なんて直接的な名前じゃなかったにしろ、いずれはネットで広まる。
嘘をつけない国運営としては、フェイクのしようがない。
俺は手押しカゴから、荷物を一つ取り出した。
また、送り人『ラブワールド事務所だ』
自動ロックの呼び鈴を鳴らす。
階段を駆け上がる。
息を整える(この時間がある分、エレベータ使ったほうが早い気もするけれど、先輩命令で階段しか使えない)。
そして、呼び鈴を押す。
今回出てきたのは、20代中盤ぐらいの女性だった。
ちょっと困ってるみたいなへの字口が、ちょっと良い。
と言うか、シルエットが、雰囲気が、可愛かったっぽいので、顔を見れない。
でも、勇気を出し、指紋認証の時にちらりと見てみれば、やっぱり可愛い。
への字口は、アヒル口の逆だから、年上派アンチアヒル口の俺としてはありだ。
っていうか、この女性的にはありだ。
口ばかりに注意が向いてしまったが、顔全体も小さい。小顔だ。
目は細い。そして、口とは対照的に笑っているみたいな印象を受ける、への字型。
バリタイプなんですけど!
とか見とれていると、目が合った。
冷静を装って、身分確認をする。
こういう、セクハラ系クレームはこっぴどく叱られる。
でも一安心だ。
その後のやり取りから見るに、クレームは来なさそうだった。
帰り際、可愛らしい声で、『お疲れ様。ありがとうございます』と言ってくれた。
今の人で今日の配達は終わりだ。
俺は急ぎ、家に帰り、ラブワールドを起動する。
ログイン直後だった。
運営からメールがきた。
内容はこのようなものだった。
件名『新住人のスーナ様が、夫婦スタートを選びました』
で、中身は軽い挨拶からの、彼女の簡易プロフィールが載っており、って本当簡単なプロフィールだ。これ初期アンケートのだな。
で、希望者は返信してくれ。先着順よ。
と書いてあった。
俺はさっき美人さんを思い浮かべ、返信したのだが……。
彼女は違う。
絶対に、さっきの美人さんじゃない。
天然ヒステリック女。
でも、まぁ、楽しい人だし、しばらく仮想夫婦を続けてみようと思う。
運営からのメールで年齢も確認したしな。
24歳だった。
今度こそ、56歳じゃないのだから。
家族じゃないのだから。
俺は続けようと思う。




