倒れてしまったよ。
家の入り口近く、私たちはソファーまでカレーとお水を運ぶ。
ここは多分、ベッドも兼ねてるのよね。お布団敷くスペースもないし。
そこで食べるなんて、ちょっとはしたないわ。
そう思っても、口には出さない。
何故かって?
それはね、すぐにこう聞きたいからよ。
「ねね。お味はいかがかしら?」
「うん。ウマーイ!」
ゴーダ君は、恐らく自動アクションで、何度かジャンピングバンザイをした。
テーブルと椅子にぶつかったはずなのに、すり抜けていた。
ただ、分かるのは、私に分かるのは、あの嬉しそうに笑っている表情は嘘ではないことだけ。
私も食べてみる。
味ないじゃん。
そう思っても、私も言うのだ。
「うん。美味しいね」
遠い遠い幼稚園時代を思い出す。
まるでママゴト。
でも、楽しい。
嬉しい。
ゴーダ君はガツガツ食べる。
それを見てるだけで、なんか、本当、美味しい気分だった。
カレーを食べ終え、皿を洗った。
楽しい料理はあんなにも簡略させられたのに、嫌な皿洗いはリアルだった。
ゴシゴシゴシゴシしなくてはいけなかった。
ただ、それはそれ程重要ではない。
突然だった。
予感するだけの情報を私は得ていたはずだった。
予期するだけの情報を持っているはずだったのに、私は悲鳴をあげてしまった。
ゴーダ君が倒れたのだ。
彼の顔は、青かった。
リアルじゃ考えられないほどに、肌色を混ぜてない純粋な青だった。
何度呼びかけても、何の応答も返さない。返ってこない。
私は動機が速くなってくるのを感じながら、彼を揺さぶる。
私の手に感触はなくても、彼の身体は確かに揺れていた。
揺さぶっているはずだった。
でも彼は何の反応も示さなかった。
まるで彼の命が終わったかのように思えた。
気が付けば、私は涙を流していた。
でもね、大したことではなかった。
ただの寝不足だった。
マジで、このゲームの製作者の顔を一度で良いから見てみたい。
そして、ビンタしてやりたい。
ちなみに、5秒後、起き上がり、大笑いしたゴーダ君には、ビンタした。
このゲームは暴力行為が出来ないシステムらしく、私のビンタは彼をすり抜けた。
「ゴメンゴメン。くくく。ぷぷぷ」
ゴーダ君は笑いをこらえながら、謝った。
全然、きっと、悪いとは思っていない。
「気が付いたらさ、疲労度が9になってた」
そう言って彼はソファーに寝る。
そうなのだ。
このゲームでは、疲労度が9を下回ると倒れてしまう、システムがあるらしい。
私は爆発のために、エネルギーを溜めるために、静かに語りかける。
「もう、寝たの? 目開いてるよ」
「うん。ベッド属性のある家具の上で横になりさえすればOK」
「そう。じゃあ、もう大丈夫なのね」
「うん。心配してくれてありがとう」
プププと含み笑いしているゴーダ君には、褒められても全然嬉しくなかった。
この表情勝手に読み取りますよシステムは、こう言う時に役立つのか。
「ふじゃけるにゃ~!!!」
私は、リアル23時と言う時間も忘れて、出来うる限りのでかい声で怒鳴った。
ちゃんと、理性は残っているよ。
だから、怒鳴るために可愛らしく言ってみました。
ゴーダ君には一切の効果がなく、表情を隠すために背中を見せはしたけれど、やっぱり笑いながらこう言うのだ。
「ゴメンって。本当、反省しているよ」
絶対、反省してないけどね。
あまり気分は良くないし、時間が時間なのでログアウトすることにした。
こうして、私の二日目のラブワールド生活は終わった。
途中まで良かったのに、最後は最悪な終わり方だった。
私はゴーダ君にこう告げてログアウトした。
「女の涙は安くないのよ。だからこそ、武器になるんじゃない」
ゴーダ君はリアルの私が泣いてしまった事を驚き、とても真剣な表情を見せ、自動アクションっぽいお辞儀というか土下座をしながら、つまりはソファーから降りて、謝ってくれた。
やっと、笑いを含まない謝罪をしてくれた。
そして、彼はまた倒れた。
今度は、私は慌てる事無く、ドジな奴めとニヤニヤしながら、倒れてる彼を見つめた。
喋られない彼に、
「バイバイ。また明日ね」
と言って、私はログアウトするのであった。
やっぱり、最後も中々上出来な終わり方だった。
私は機嫌良く、寝る準備を始めた。




