料理じゃないのよ。こんなのは。
まず私は買ってきた食材たちを冷蔵庫に入れる。
特に変わったところはない。
「相変わらず、スムーズに動きますな」
とゴーダ君が褒めてくれた事を除けば、極普通の行動と光景。
だけれども、
「じゃあ、開けてみなよ」
とニヤニヤしたゴーダ君に言われて、冷蔵庫を開けてみれば……、
中身は何もなかった。
てん、てん、てん、てん、てん、てん。
つまりは放心状態。
数秒のち、私は叫んでみる。
「私たちのカレーが盗まれたぁ!!」
冷蔵庫を閉じる。
開ける。
ない。
「ないぞぉ~!!」
「くくく」
とゴーダ君は嬉しそうに笑っていたので、私は彼に詰め寄る。
「どうしてなの? カレー作れないよ!」
「落ち着いて。けけけ。ぐふふ」
下品にゴーダ君は笑いながら、
「冷蔵庫に入れた食材はデータ化されるんだ」
お得意の訳分からん話をする。
「つまり、データってやつが盗んだのね」
「いや、違うよ。ゲラゲラ」
ゲラゲラ笑うゴーダ君はとても嬉しそうだ。
でも、サプライズってされる方は大抵そうなのよね。
私はイライラ。
「冷蔵庫の取っ手に怪しいディスプレイがあるでしょ」
そうなのだ。
取っ手の横には、変な画面がある。
冷蔵庫の各部屋の温度が表示されているディスプレイがある。
背景灰色、文字は黒。
おや。
おやおや。
何か変なのあるぞ。
「お、気付いたね」
ディスプレイには、直感で何をするべきか分かりそうな『食材を見る』というボタンっぽいアイコンっぽい表示があった。
私はタッチしてみる。
ずら~と食材たちが文字として表示される。
「ちなみに音声入力も出来るよ。
コマンドは、色々あるけれど、今回は『初心者カレーを作る』で入力してみなよ」
えっと、コマンドは三回唱えなくちゃいけなくて、つまりはっと。
「コマンド、コマンド、コマンド。初心者用カレーを作りたいから返してよ」
ディスプレは『承知しました』と表示する。
画面には、米、鶏肉、人参、ジャガイモ、玉ねぎ、カレールーが表示される。
カレールーだけは白色の文字で、他は黒だった。
恐らくカレールーはまだ私が持っているから、在庫がないのだろう。
白色は在庫がない事を表示しているのだと思った。
「さぁ、開けてごらん」
私が冷蔵庫を開けてみると、食材たちは帰ってきた。
ご丁寧に一人前ずつカゴに入れられ、ちゃんと二人前が冷蔵庫の中央においてあった。
お米は別口で、ボールに……、恐らく二人前置いてあった。
「部屋にいる人数を自動認識するんだ」
とゴーダ君は得意気に言うのだけれど、
って言うか、思うのよね。
「冷蔵庫にお米を入れるなんて、ゴーダ君変よ」
「変じゃないよ。
食材は全部冷蔵庫が管理するの。この世界ではね。
カレールーをしまわなかったスーナが変なんだよ。
このゲームじゃ」
「変って言うけれど、やっぱりお米は冷蔵庫に入れないわ」
私たちは軽くイチャイチャしながらしばらく言い争った。
でも、ゴーダ君のお腹の音が鳴る。
「早く作ってよ」
とゴーダ君は甘えてくる。
私は「しょうがないなぁ」とお姉さん気分で、キッチンカウンターに食材を置く。
さて、ここからどうしますか?
「ねぇ。どうすれば良いの?」
「キッチンカウンターの下に、包丁が収納されてるよ」
開けてみる。入っている。
さて、もちろん続きが分からない。
「コマンドで『レシピ呼び出し、初心者カレー』ね」
「コマンド、コマンド、コマンド、レシピ呼び出し、初心者カレー」
私は復唱するように、コマンドを唱えると、スマートフォンが鳴った。
画面にはレシピが表示されていた。
なになに。
まずは下準備。食材を切ります。
私はいつものように、玉ねぎの先とお尻を切ろうとする。
でも、玉ねぎに包丁を当てれば、それだけで玉ねぎは皮むき状態になった。
なんか変な感じ。
今度は、真っ二つにしようとするのだけれど、これも玉ねぎに一度だけ包丁を当てただけで、荒いみじん切り状態になった。
「半オートなの」
とゴーダ君は言う。
「スーナには物足りないだろうけれど、普通の人はスムーズに動けないからね。特に細かい動作は難しいんだよ」
だそうだ。
およそリアル10分後。
あまりに早く、なんとも味気ない、そんな料理だったけれど、カレーは無事に完成した。
お味はいかがかしら。(ないのを知っているけれど)
私は聞くのが楽しみで、つまりは早く食べて欲しかった。




