これは大事よ。大変なのよ。駄目なのよ。
「ただいまっと」
ゴーダ君は玄関近くに来ると、少し早歩きをして、外からドアを押さえててくれる。
その気使いにお礼を言ってから、私もただいまを言う。
「お腹すいたでしょ? 直ぐ作るからね」
「うん。でも、作り方知らないよね?」
「もちろん、知らないわ」
「まずはっと、食材を冷蔵庫に入れよう」
そう言われたので、部屋の一番奥、キッチンまで移動し、冷蔵庫を開けてみる。
「あら。空だわ。補充してくれたんじゃないの?」
「まぁまぁまぁまぁ。まずは買ってきた食材をしまってみなよ」
ゴーダ君のアバターはにやけていた。
ゴーダ君は表情を良く変える。
でも、今まで、それは自動アクションなのだと思っていた。
自動だけれども、任意のタイミングで操れるものなのだと思っていた。
でも、多分だけれど、きっと、ラブグラスは表情を自動で読み取るのではないだろうか?
驚く私を予想して、思わずにやけているのではないだろうか?
しかもモリモリさんの説明で、こんな話があったはずだ。
相手に伝えたい言葉か、思っただけか、ラブグラスは分からないから、リアルの方でも喋るようにと。
あらあらあらあら。
そんな機械が、勝手に表情読み取っちゃうのってヤバイ。
これは、どうでも良いことの様で、結構大事だぞ。
「ねぇ。私どんな顔してる?」
「ん? イライラしてる? 眉をひそめてるよ」
やっぱり。
私は確信を持ちつつも、聞いてみた。
「ラブグラスって自動で表情読み取っちゃうの?」
「そうだよ。
クルクル表情が変わる所がスーナの良い所だよね。
あとは、けっこ~平気で欠伸する所好きだよ」
「マジですか!!」
ばれてないと思ったんだもん。
「音も聞こえるしね。欠伸には気付くよ。
まぁ、そんな怒らないで、前向きに考えなよ。
結婚詐欺師に狙われても対処しやすいシステムだ、とか」
「ダメよ。私、天然もヒステリックも認めないけれど、『ずぼら』だけは、他者評価が自己評価と一致するの。
眠たくなくても、楽しくても、欠伸はしちゃうわ。
それに、表情に出やすいみたいで、だからだから、ラブワールドだと平気だと思ったのに~!!
もう、もう、もう!!」
「そんなに怒る所なのかな?」
「違うの。嘆いているの!」
あ~、どうしよう。
「でもさ、カレー作ってくれるって言った時、笑ってたよ。
微笑んでいた。
そういうのも伝わるんだよ。
だから、俺、嬉しかったよ」
「う~。そうね。ちょっとまだ怖いけれど諦めるわ。」
「そそ。気にしないでさ。
みんなもそうなんだから。直ぐに慣れるよ」
例え、私が欠伸女だとしても、ゴーダ君はスルーしてくれていたのだ。
今は、それだけで良い。
それだけが救いだ。
私はやっと気を取り直し、カレーを作り始めようとするのだった。




