私は叫ぶ女なのかしら。いいえ、違いますよ。
最初はレシピ屋さんだ。
正確にはスキル屋さんなのだそうだ。
とても小さな建物だった。
四角い建物で、エレベーター4つ分ぐらいの、小さな建物だった。
入り口を開けると、見えてくるのも2つのエレベーター。
エレベーターに乗り込んでみると、ボタンは二つしかなかった。
1FとB1F。
「この先は個別エリアなんだ」
とゴーダ君はB1つまりは地下1階のボタンを押しながら、言っていてけれど、意味は分からない。
「だから、インスタントダンジョンみたいな?」
とエレベーターの移動中ゴーダ君は言うのだけれど、やっぱり私には意味が分からない。
「パーティごとの個室なの」
ゴーダ君がそう言った後に、エレベーターのドアが開き、やっと私にも意味が分かった。
最初の入り口は小さかったのに、エレベーターを降りたら縦も横も4倍ぐらいの大きな部屋だった。
パソコンディスクと椅子が二セットあった。
人は誰もいない。
ゴーダ君の説明を加味すると、おそらくこの部屋は私たち専用なのだろう。
「やっと分かったわ」
「そう。良かった」
ゴーダ君は微笑み、手を差し出し、『椅子へどうぞ』か『お先にどうぞ』のジャスチャー。
私が座ると、パソコンには黒色のデスクトップだけが表示されていた。
つまりは、スイッチが入ってないのだ。
はてさて、これはどうすれば宜しいか?
私が困っていると、ゴーダ君も隣の椅子に座り、私のパソコンに近づいてくる。
「まずはディスプレイの横に、いかにもスマホを置くための装置があるでしょ?」
確かにあった。
スマートフォンの充電器みたいのがあった。
私は置いてみる。
パソコンは立ち上がり、青色のデスクトップが表示された。
でもアイコンが多すぎて、どれを選べば良いのやら分からない。
「コマンド、コマンド、コマンド、料理レシピ」
と突然ゴーダ君が言った。
「音声認識なんだ」
後出しで説明してくれた。
「今のが?」
「そう。会話と勘違いしないように、『コマンド』を3回言うのがルールなの」
するとデスクトップに、インターネットブラウザみたいなものが表示される。
4つのリンクが表示されていた。
レベルで探す。
具材で探す。
満腹度順で探す。
特殊効果で探す。
「レベルで探す、ね」
ゴーダ君の誘導通りに、リンクをクリックする。
すると私の料理レベルで、つまりレベル1で作れるものが表示された。
意外と多い。
初心者野菜炒めに、初心者スクランブルエッグに、初心者シチューに、初心者とんかつに、えっと、などなどエトセトラ、結構多い。
全てに『初心者』がつくけれど、一般家庭料理は網羅してそうな勢いだった。
「コマンド、コマンド、コマンド、カレーを検索」
ゴーダ君が呪文を唱えると、3つに絞られた。
鶏肉カレー、豚肉カレー、ひき肉カレー(初心者省略)
私は聞いてみる。
「違いは肉の種類だけ?」
「そうみたいだね」
なんか頼りない返答。
理由は直ぐに分かった。
きっと、ゴーダ君はカレーを作れないのだ。
私は鶏肉カレーを選ぶと、『購入しますか? 代金は2000円です』のメッセージ。
「たか~い~!!」
私の2日分の給料よりも高いじゃないの!!
「もう。いきなり叫ばないの。
スキルレシピは高いんだ。
製作者側は個性にしたいだろうね。
安いのもあるけど。
塩おにぎりとか」
「買うわよ。女に二言はあるけど、今回は買っちゃうわよ!」
私は投げやりに言った。『はい』をクリックした。
「ゴメンね。おごってあげられないんだ。自分のスキルレシピは自分でしか買えない」
「良いよ。やっぱり、私もカレー好きだし」
手痛い出費ではあるけれど、早く家に帰りたい気持ち、ウキウキ気分で、スキル屋さんを出た。
今度はスーパーだ。
スーパーは、普通のスーパーだった。
青果コーナーから始まり人参ジャガイモ玉ねぎを、お肉地帯で鳥モモ肉を、あとはカレールーをカゴに入れ、レジに向かえば、今度はゴーダ君がおごってくれた。
でも、これだけ買って50円だった。
「物価が滅茶苦茶だ~!!」
と叫びたい気分だったけれど、周りには沢山のアバターがいるので出来なかった。
私は時と場所を選べる、賢い女だった。
たわいもない話をしながら、主に今日の芸能人カップル結婚のニュースの話をしながら、私たちはスーパーを出て、家に帰った。




