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ラブワールド  作者: ササデササ
年下の旦那様
13/64

注射レベルが上がったよ。でも、私にとっては重要じゃないの。

 ラブグラスを装着し、スイッチを入れると、やっぱり光の線が走る演出から始まった。

 だけれども、数秒後に私が到着したのは、マイホームの入り口だった。


「お、こんばんは」


 どこからともなく、ゴーダ君の声が聞こえてきた。


「うん。こんばんは? あれ? どこ?」


 辺りを懸命に探してみる。

 でも、ゴーダ君の姿は見当たらない。


「あ~。夫婦は自動パーティだから。

 もちろん離脱もできるし、自動解除の設定も出来るんだけどね」


「つまり?」


「俺はどこでもスーナと会話できるの。

 で、今ショッピングエリアにいるよ。バイト中」


 そう言われて、時間を見てみれば、リアル21時、ゲーム内12時だった。


「ってか、終わった所だから、直ぐ帰るよ」


「あ、待って。私もお仕事したい。私がそっちに行くわ」


「そっか。分かった。じゃあ、病院前で待ち合わせしよう」


 でも、私はショッピングエリアへの行き方が分からない。

 タクシーに乗るのは知っているけれど、タクシーの呼び方を知らない。


「どうやって、タクシーを呼ぶの?」


「あ、そっか。そっか。ゴメンね。教えてなかったや」


 そう謝る所が、いえ、謝ってくれる所が、空君とは違う。

 空君はいつも『マニュアル読めよ』とうるさかった。


「あのね、普通に電話するの。

 電話帳にも登録されてるよ。

 『タクシー』でね」


「うん。ありがとう」



 

 そうして、私はショッピングエリアへと向かった。

 病院で合流し、今度は81人に注射をすることに成功し、つまりはまたSランクを取る事ができて、私は注射レベル2に上がった。


「やっぱり凄いじゃん」


 と、やっぱりゴーダ君はおおげさに褒めてくれる。


「ありがとう」


 素直にお礼を言う私は、仕事中の私しかいないはずだったのに、今日だけで5回はゴーダ君にありがとうを言っている。


「それじゃ、どうしようか?」


 時刻はリアル21時30分。ゲーム内で14時。

 私は、友達相手でも恋人相手でも仮想夫相手でも、とりあえず相手に聞いてしまう癖がある。

 とりわけ、普段から強い欲求に支配されないのだ。

 のんべんくらりと生きているのだと自覚している。

 だから、今日、早くログインしたくて、アキコの電話を切ったのも、ちょっと普通じゃない私。


「買い物しよう。

 俺もさ、レシピと食材持っているけれど、ってか見たかな。

 補充したよ。家の冷蔵庫に」


「ううん。見てない。家に入らないで、来ちゃった」


「まぁ、後でのお楽しみで。

 とりあえず買い物しよう。

 ……スーナの手料理食べたいよ」

 

 流石歳下。

 ナチュラルに甘えてくるわね。


「良いよ。味はしないだろうけど」


「いいのいいの。気分気分」


「でも、料理の仕方も分からないよ。あ、もちろんゲームの話ね」


 これは本当。

 一応一人暮らしだし、自炊派なので、それなりに料理は出来るつもり。

 もしかしたら、自称かもしれないけれど……。

 一人にしか食べてもらった事はない。 

 彼には、空君には、評判が良くなかった。

 でも、彼がグルメ過ぎるのだと私は思っている。

 考え事をしながら、ゴーダ君の説明を聞いていた私は、ちゃんと話を聞いていた自信がないので、確認のために復唱してみる。


「えっと、私は目玉焼きしか作れないのね?」


「そうそう」


「でも、料理スキル1から初心者カレーが作れるのね?」


「うん」


「ゴーダ君はカレーが食べたいのね?」


「そう。夢だったんだ」


「だから、カレーのレシピを買いにレシピ屋さんに、食材を買いにスーパーに行くのね?」


「そそ、そういうこと。

 ちょっと変な人だよね。

 俺、こんなに確認されたの初めてだよ。

 天然ッスな。スーナは」


 笑えない、親父ギャグ。

 でも怒れない、私の不手際。


「ゴメンゴメン。ちょっと、本当に私は、リアルの私は料理が出来るのだろうか考えながら聞いていたから、不安だったの」


「そんな事考える時点で、やっぱり天然だよ」


 ゴーダ君は、大げさにお腹を抱えて笑った。

 恐らく、噂の、自動アクションを使った。

 

 それでも、ちょっぴり腹が立つだけで、どちらかというと照れくさかった。

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