おやすみなさい
「時間は……」
ゴーダ君は小声で独り言。そして、スマートフォンを取り出し何やら見ている。多分時間を確認しているのだろう。
なんだか、初期装備であるのに、腕時計で確認しないのが学生っぽい。
「良し。ギリギリあるな。試しに廃人の仕事ぶりを見てみる?」
「というと?」
「俺、職業大学生だから、どこでも働けるの。給料は半分だけどね。アルバイトってやつ」
「うん。見てみたたいな」
私たちは急ぎ、食べ終え、レジのお姉さんの所に向かった。
道中、説明してくれたのだけど、
「梅バーガーセットで50回復するんだ。
竹で満腹だけど300円。
松は充実度も5回復するけど4000円なの」
「そう。松だけやたら高いのね」
「それだけ、充実度は回復する手段がないんだよ。まぁ、一日小時間プレイなら気にならない事なんだけどね」
なんて会話をしている間に、お盆を片付け、レジのお姉さんの所までついた。
「あの、バイトしたいんですけど」
「かしこまりました。ゴーダ様のランクはレジバイトレベル1、厨房バイトレベル4ですね。どのレベルに挑戦しますか?」
「厨房レベル1で」
「それでは、奥にどうぞ」
ゴーダ君は、「じゃあ、見ててよ」と言い残し、カウンター奥に、厨房に消えていった。
私は病院でもった疑問の一つを解決する事ができた。
ゴーダ君が厨房に入って直ぐ、視界右上に、『パーティメンバーがお仕事を開始します。見学いたしますか』のシステムメッセージ。
おそらく音声認識だと思った私は、「はい」と答える。
すると、恐らくゴーダ君の視界を共有できた。
画面半分、画面中央にゴーダ君の視界が移るのだ。
イメージとしては、パソコンでブルーディを見るとき、全画面にしなかったみたいな。
厨房のお仕事は、ハンバーガー作りだった。
音声が流れ、コンベアラインの速度に負けないように具材を重ねていく。
例えば……。
『チーズ』と指示アナウンスが流れると、パンを手に取り、お肉を乗せて、チーズをはさみ、レタスをはさみ、最後にパンを置く。
レタスとお肉は固定で、チーズや照り焼きソースや目玉焼きの三種類の具材があるみたいだった。
ゴーダ君はもたついていた。
レタスは落すし、お肉も落すし、材料は間違えるし、もたついていた。
ゴーダ君は病院を出たとき、私の手を握ろうとして空ぶっていた事を思い出す。
ゴーダ君が出来の悪い子でないのなら、やっぱり私って、えへへへへ、凄い『子』なのかも。
あ、『子』よね。
あ、24歳はまだまだ『子』よね?
20分後、ゴーダ君のお仕事が終わり、45個成功のAランクだった事を知り、視界ジャックも終わった。
厨房から出てきたゴーダ君は照れ笑いしながら、
「レベル4までハンバーガーショップで働いてるのに、レベル1でこの様だよ」
「でも、頑張ってたじゃない。Aランクだよ! 凄そうだよ!」
「いや、そうじゃなくて、スーナの凄さをわかって欲しかったんだ」
そう言いながら、ゴーダ君は報酬カードを貰う。
私のご機嫌をとるためだろうか、わざわざカードをスマーとフォンに食べさせる所を見せてくれた。
「ちょっと待ってね。残高じゃなくて、増えた金額を表示するように設定するから」
とスマートフォンを操作してから、見せてくれた。
『あなたの入金は225円です』
と表示されていた。
「あら。あらあら」
「同情は要らないよ。バイトは半額なの。成功単価」
「そうなのね」
「でも、大学の講義料は安いんだ。普通の人が倍かかると言ってもいい」
「講義なんてあるんだ。今度は講義も見てみたいな」
「うん。今度ね」
そう言ってゴーダ君はスマートフォンをとりだし、
「そろそろ帰ろうか。スーナの時間もそろそろでしょ?」
「そうね」
腕時計を見てみれば、リアル22時30分。ゲーム内18時だった。
タクシーを呼ぶとハンバーガーショップ前まで来てくれた。
私たちは家に帰り、最後に寝る方法に教えてもらった。
「ベッドに横になるだけ。リアルの俺たちは寝る必要ないんだよ。その間チャットとかしててもいいし、リアルの用事を済ませても良い」
「へ~。寝てないね。寝てるのに」
「そんなもんだよ。だって、……」
「ゲームだからね、でしょ」
「そう。ゲームだからね」
私たちはトンネルを抜け、マイハウスに戻った。
「それじゃ、そろそろ時間でしょ? おやすみなさい」
「うん。今日は色々ありがとうね」
「いえいえ。さてっと……。俺も一人で寝るのダルイし、落ちようかな」
「あ、そうか。ログアウトしてる時も回復するんだっけ?」
「そうそう」
「それじゃ、おやすみなさい」
「うん。おやすみ」
こうして、私のラブワールド初日は終わったのだ。
歳下の旦那様はどこか頼りなく、失礼で、でも時々優しく、沢山褒めてくれる。
あと18歳。
私は、とりあえずは、彼についてさほど悪い印象を持っていなかった。




