私には才能があるのかしら。
店に着くまでの間、私たちは歩くことにした。
喧嘩してちょっと悪くなった空気を入れ替えるように、私は聞いてみた。
病院にいた時から気になっていたのだ。
「アバターの人はみんな小さいね」
「そうだね。
最初にアバター作る時に三種類あったでしょ。
小サイズで小学1年生の平均、
中サイズで小学5年生の平均、
大サイズでも中学2年生の平均らしいよ。
あ、男女含めての平均ね」
「へ~。詳しいのね」
「どっちかと言うと、廃人だからね。
でも、あんまり信用しないで」
「どういうこと?」
「廃人にも二種類いるんだ。
最先端を進む人たちと、ただログイン時間が長いだけの人。
俺は後者だから」
「良く分からないけど、『下手の横好き』みたいな?」
「ちょっと違うけど、まぁいいや。そんな感じ」
「ふ~ん」
「で、さっきの情報も多分あってると思うんだけど、バーで聞いた話だから絶対じゃないんだ」
「まぁ、大体見た感じそのぐらいだし。正確な情報はいらない所よね」
「そうだね」
そうこう話しているうちに、私たちは目的地についたみたいだ。
そこはハンバーガーショップだった。
「やっぱり、安い食事はファーストフード的な?
このゲームでも定番なんだよ」
「そうなんだ。高校生の時を思い出すね」
私の場合は恋人とではなく、友達とよく行った思い出なのだけど、もちろんそんな事は伝える気はない。
お姉さんとして、弱みは見せたくないのだ。
中に入ると、目の前にカウンターがあり、右手側に食事用の席たちがあり、左手側に二階に続く階段があった。
ゴーダ君は慣れた様子で、こう注文する。
「梅バーガーセット2つ」
「かしこまりました」
そう答えたのは、やっぱり実写のお姉さん。
基本お店はコンピュータがやるものなのかな。
私は聞いてみると、
「受付とか、レジとかは、今の所ね」
とゴーダ君は言っていた。
待つこと、この質疑応答だけの時間。
直ぐに梅バーガーセットは出てきた。
「はやっ」
ファーストフード店でも、これは早すぎる。
ゴーダ君は私の感想を無視して、レジにスマートフォンをかざし会計を済ませる。
二セットで200円だった。
「やすっ」
ゴーダ君は、今度は私の感想を無視しなかった。
「ゲームだからね」
「なんか、ゴーダ君って、便利な言葉として使うようね。
ゲームだからねって」
「だって、ゲームだもん」
「まぁ、そうだけど」
そうして、私たちは一階の席で食事する事になった。
移動中、お盆を見てみると、ハンバーガー、ジュース、ポテトの三種類のセットだった。
「ジュースの種類、聞かれなかったね」
「あ~。味ないから。
あと、ちなみに、梅バーガーは梅味じゃないよ。
ランクの話。
松竹梅の梅ね」
「へ~」
私たちは、一番奥で、一番端の、窓際の席に座った。
さっそくポテトを食べてみる。
本当だ。
「味ないよね。食感もないよね」
「そりゃ、そうだ。
ラブグラスとラブグローブだけでしょ?
スーナが使ってるの」
「なに? ラブグローブって」
「まぁ、味覚を再現できるアイテムが開発されるとは思わないけど」
ゴーダ君は話を途中で止められなかったらしく、私の質問を一度スルーしてから、
「マジで!!!!」
驚いた。
「今、何て言ったの? ラブグローブしてないの?」
「だから、何それ?」
「だって、スーナ普通に動いてるじゃん。
ひょっとしたら、ラブスーツ着てるのかと思うぐらいに」
「だから、何よ!!」
「あ、ゴメン。
ラブグローブって、人工樹脂でできたグローブなんだ。
こう、ゲームで物に触ると、圧力がかかって、本物には程遠いけど、本当に触ってるような感覚に慣れるグローブ」
「そんなのあるんだ」
「ビックリしたよ。
さっきの注射ゲームでも普通に動いてたし、今も普通に食べてるし」
「凄い事なの?」
「普通、ラブグラスだけの初心者の食事は、なんていうか2歳児の食事風景になるはずなんだよ」
えへへ。なんか良く分からないけれど、また褒められちゃった。
「きっと、空間認知力が凄いんだろうね」
「そうかな~?」
スポーツは苦手だけどな~。
「だから、最初からSランク取れたんだよね」
「そうなのかな」
「うん。スーナはこのゲームの才能あるよ!」
褒められるのは良い事だけれど、私には凄いことをしている実感が全くなかった。




