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異世界混浴物語  作者: 日々花長春
湾岸露天 古代海水の湯
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第83話 大解呪物語

「ど、どうするの?」

「構わん、突っ込むぞ!」

 クレナの言葉で我に返った俺は、すかさず雪菜を助けるために動き出した。

 こちらもリウムちゃんに光弾を撃ち込んでもらい、同時に俺、ルリトラ、ロニ、マークの四人で吶喊する。

 フードが何やら大声を上げているが、それに答えてやる義理は無い。

 モンスター軍団は獣型、トカゲ型、鳥型と多種多様なモンスターが揃っている。

 中には、槍が刺さっても平然としているような大型モンスターも数体混じっているが、それにはルリトラが真っ先に攻撃を仕掛けた。

 彼が暴風のごとき勢いでグレイブを一閃させると、雷鳴のような雄叫びをあげてモンスターが倒れ伏す。

 ルリトラも負けじと雄叫びをあげると、モンスター達が怯み、その隙を逃さずマークがハンマーを叩き込んでいく。 

 これは負けてられないな。俺は中型モンスターの群れに突っ込み、『三日月』を振るって蹴散らしていった。

 俺達の足元にスイープドッグのような小型モンスターが群がるが、ロニがうまくサポートしてくれる。

「えっ? えっ?」

 俺達を見て戸惑う雪菜。全身鎧の『魔力喰い』を身に着けているから当然か。

「お兄、ちゃん……? ! みんな、あの人達は味方だよ!」

 そこで面頬を上げて顔を見せると、雪菜はすぐに俺だと気付き、背後の茂みに向かって声を張り上げた。

 誰かいるのかとそちらを見てみると、槍を持った奇妙な集団が姿を現す。なんと、それは少々風変わりなイルカの姿をしていた。

 俺の知るイルカよりも胸びれと尾びれが長く、大きく二又に分かれている力強い尾びれで直立している。

 更に胸ビレは先の方に突起があり、それを親指のように使って器用に槍を持っていた。そして背中には何本もの槍が入ったカゴを背負っている。

 そうか、先程の投げ槍による攻撃は彼等によるものだったのか。

 何者かは知らないが、雪菜の味方であるらしい。陸上で機敏に動けるようには見えないので、矢面に立つのは俺達で引き受けるべきだろうか。

 そんな事を考えていると、雪菜の側にいた白いイルカが錫杖を掲げて声を上げた。

「『水神の行進』ッ!!」

 その言葉と同時にイルカ達が、水もないのに尾びれから水しぶきを上げながら機敏に動き出す。明らかに魔法だ。

 そうか、あの白イルカ、噂に聞いていた水の神官・聖なるイルカか。よく見ると他の薄いグレーのイルカと比べて胸びれ、尾びれが普通のイルカに近い。もしかして別種族なのだろうか。

 イルカ達の勢いは凄まじく、モンスター達は混乱して対応できていない。俺達も呆気にとられてしまっているが。

「行けー! 我らギルマンの島を取り戻すのだーッ!!」

 そんな中、他のイルカより一回り大きい隻眼のイルカが、やけに渋い声で叫んだ。

 ちょっと待て、今ギルマンと言ったか、あの渋イルカ。

 ギルマンの話は何度か聞いていたが、半魚人のような種族だと思っていたぞ。直立歩行している海の生き物だが、そもそもイルカは魚類ではない。


「トウヤさま、危ない!」

「おぉっとぉ!?」

 あまりにもな展開に呆然としていると、獣型のモンスターが飛び掛ってきたが、ロニの声のおかげでとっさにガントレットで受け止める事ができた。『魔力喰い』のおかげで少しMPを消費するが、ダメージは全く無い。

 噛み付いたまま離れないので、地面に叩きつけてそれを倒す。

 呆けている場合ではないな。何故かは分からないが、雪菜はギルマン達を味方に付けているらしい。彼等と協力してフード達を蹴散らそう。

 先程の雪菜の言葉からして、あのフードが『無能な斥候』の魔法を掛けているのは間違いないだろう。他の大物はルリトラに任せるが、あいつは俺が倒す。

 フードの姿はどこかと探していると、丁度雪菜に杖を向けている姿が見えた。

「おのれ、ユキナ! 『闇よ』!」

 フードの力ある言葉と共に、雪菜の胸元から黒いモヤが噴き出してその身体を囚える。すると雪菜は翼を動かせなくなってしまい、地面に落ちてしまう。

 それを見た瞬間、俺は駆け出した。作戦変更だ。

 雪菜が堂々とフードに反旗を翻しているなら、まず敵を倒してから魔法を解けばいいと思っていたが、雪菜の身体からモヤが出てきたところを見るに、敵は『無能な斥候』以外にも魔法を掛けていたらしい。

 これではどれだけ魔法が掛けられているか分かったものではない。命に関わる魔法が掛けられている可能性だってある。雪菜の魔法を最優先で解かなくてはならないだろう。

「トウヤ、急いで!」

 背後から援護していたクレナの声が聞こえてきた。おそらく彼女も俺と同じ判断をしたのだろう。ありがたい。俺は彼女を信じて振り向かないままフードへと向かう。

 俺の頭目掛けて急降下してきた鳥型にロニの投げたナイフが突き刺さる。

 そのままの勢いで攻撃を仕掛けるべく『三日月』を振り上げるが、その直前に別の鳥型が顔目掛けて飛び込んでくる。小回り利くな、こいつらは。

 すかさず『三日月』を叩き込むが、フードはもう目の前、もう一度振り上げるのは間に合わない。

 フードが俺の存在に気付いて杖をこちらに向ける。

「『精霊召喚』ッ!」

 しかし俺は、迷う事なく拳を叩き付けた。手のひらに仕込まれた魔水晶から吹き出した精霊の炎を拳にまとわせたまま。

 顔面でその一撃を受けて吹き飛ぶフード。俺の武器は『三日月』だけではない。フルプレートアーマーである『魔力喰い』そのものが武器となるのだ。

「雪菜!」

 追撃せずに雪菜に視線を向けるが、まだ黒いモヤは消えていない。雪菜自身から出ているためか、術者を殴り倒しても効果は続くようだ。

「おにい……ちゃん……」

 雪菜の口から苦しそうな声が漏れる。締め付けのせいか息も荒い。急がねばならない。

「急いで、トウヤ!」

「お待たせしましたっ!」

 このタイミングでクレナがラクティを連れて飛び込んできた。やはり彼女を連れてきてくれたか。ナイスタイミングだ。信じてたぞ、クレナ。

 俺が動けないままの雪菜を抱え上げ『無限バスルーム』の扉を出すと、ロニも心得たものですぐさま扉を開いてくれる。

「クレナ、ここは任せた」

「分かったから、早く行きなさい!」

 そう言ってクレナはラクティを押し出してきた。

 上を見れば『飛翔盤』に乗ったリウムちゃんが光弾で爆撃している。

 ここはお言葉に甘えて、雪菜を助ける事に集中させてもらおう。

「そっちのギルマン達も! 俺は雪菜の兄だ! 妹の事は任せてくれ!」

 こちらに近付いてきていた白イルカと渋イルカが顔を見合わせている。表情は分からないが、おそらく戸惑いの表情か、怪訝そうな表情をしているのだろう。

 それを追求している時間も惜しいので、返事を待たずに『無限バスルーム』に駆け込む。ラクティも後に続き、すぐに扉を閉めてくれた。

 これで外側は扉も消え、フードの魔法も届かなくなるはずだ。

 しかし、雪菜を見てみると、まだ黒いモヤが身体を縛っている。雪菜自身から発生しているから、フードと切り離しても消えないのか。

「ラクティ、早速消していくぞ」

「はい!」

 中の建物までのスペースは石畳と砂利だが、事前に毛布を用意している。

 羽があるのでうつ伏せに寝かせたいところだが、モヤが出ているのは胸からだ。座ったラクティに雪菜の身体を支えてもらい、モヤの発生源をこちらに向けてもらう。

「雪菜、すぐに助けてやるからな……」

「このモヤは闇の精霊です。私が抑えますから、その間に解呪してください」

 そう言ってラクティが目を瞑ると、モヤが少し薄くなって、雪菜の顔が少し安らいだ。

 俺はモヤの発生源である胸の中心に手を当て、魔法を唱える。

「光るから、雪菜も目を瞑ってろよ……『清浄なる光』!!」

 手から放たれた光が闇をかき消していく。しかし、力を抜くと一旦消えたモヤが再び噴き出てしまう。あのフード、一体どんな魔法を掛けたというんだ。

「そのまま抑えててください……これは魔法じゃありません」

「魔法じゃない……?」

「これは身体を形作る力が、闇の精霊になって噴き出ているんです」

「身体を形作る……闇の精霊……!」

 ラクティの言葉を繰り返すように呟いた俺は、そこでハッとあるものを思い出した。

 ラクティが切った髪――身体の一部を集めて作った黒い宝珠だ。今は畳の部屋に飾っているあれは、闇の精霊力の塊だと聞いている。

 魔族も同じような身体をしているのか。そして雪菜は、それの流出が止まらない状態になっていると。

「これは魔法を掛けられているんじゃなくて、魔法で『傷』をつけられているんです。その傷跡から身体を形作る闇の精霊力が噴き出ているので、それを治さないといけません」

 つまり、解呪の魔法ではなく、回復の魔法が必要だという事か。それも『癒しの光』などではなく特殊なタイプの。

「大丈夫なのか?」

「だ、大丈夫です! 私が治しますから!」

「頼むぞ、ラクティ……」

 目を瞑ったラクティの眉に力が入り、頬を一筋の汗が伝う。

 俺もMPを込めて『清浄なる光』で闇の精霊力を抑え続けていたが、徐々に噴き出す力が弱まり、それに伴って雪菜の様態も落ち着いてくる。

 俺には理解できない何かをしているようだ。これが女神の力か。

 やがて雪菜の胸元から吹き出す黒いモヤが徐々に治まり、完全に止まった。


「ふぅ……やりました。もう大丈夫ですよ」

 ラクティが力を抜いたのを見届けてから、俺も『清浄なる光』を止める。

 すると、まぶた越しに光が収まったのを感じ取ったのか、雪菜がパチリと目を開いた。

「雪菜……」

 優しく声を掛けると、雪菜の瞳に涙が浮かぶ。

 ああ、雪菜だ。あの頃の雪菜だ。

 自分の身体が動く事に気付いた雪菜は、俺に飛びついてくる。

「お兄ちゃん! お兄ちゃん……!」

 そして涙声で何度も何度も俺を呼ぶ。きっと、心細かったのだろう。

 でも、大丈夫だ。これからは俺が守ってみせるからな。

 そう決意を新たにし、俺はその力加減を間違えると折れてしまいそうな華奢で小さな身体を抱きしめ返した。

「トウヤさん……良かったですね」

 ラクティも涙ぐみ、ちーんと鼻をかみながら祝福してくれる。

「雪菜、大丈夫か? 痛いところは無いか?」

「うん……うん……大丈夫だよ、お兄ちゃん」

 締め付けられていた細い腕に赤い跡が残っているが、当面の危機は去ったようだ。

 だが、まだ終わりじゃない。少なくとも『無能な斥候』の魔法がまだ残っている。

「雪菜、残りの魔法も解いていくぞ。もう少し我慢してくれ」

「さっきの光だね、分かった」

 素直に頷く雪菜。やっと笑顔を見せてくれた。この笑顔が再び泣き顔に変わらないように、しっかり解呪してやらないといけないな。

「ラクティ、サポートを頼むぞ」

「あ、はい。『無能な斥候』以外にも、あと七つ魔法が掛けられてます。がんばって全部解呪しましょう!」

「……そんなに掛けられてるのか?」

「大丈夫です! 残りは全部『清浄なる光』で解けますから!」

「お、おう……」

 どれだけ魔法を掛けてるんだ、あのフード。

 ここから出たらまたぶん殴る。そう決意を新たにしつつ、俺は解呪に取り掛かった。

活動報告にて新情報を公開しました。

そちらもご確認ください。


今回のタイトルの元ネタは『大貝獣物語』です。

『召喚王レクス』が好きでしたw

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