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異世界混浴物語  作者: 日々花長春
湾岸露天 古代海水の湯
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第80話 雪菜を待ちながら

 昼はクレナも交えて魔法の練習。夜眠ってからは夢の中で女神達の特別授業。特に光と炎の女神が大張り切りで猛特訓してくれた。

 光の女神は、カギを握るのが光の神官魔法だから分からなくもない。

 不思議なのは妙にやる気を見せていた炎の女神なのだが、これは本人を見ていると察する事ができた。

 間違いない。「猛特訓」とか熱血系のノリが好きなんだ、あの人。

 ご丁寧に赤ジャージに竹刀を持った姿で現れたぞ。どこまでノリノリなんだ。

 ジャージの上着は全開で中には白い体操服。そんな野暮ったい出で立ちでも隠し切れないスタイルの良さで、本当に目のやり場に困った。

 しかも炎の女神は、熱中すると距離が近くなる。それこそ密着する勢いで。

 普段なら諸手を上げて大喜びするところだが、今回はそれどころではなかったのだ。

 光の女神がストッパーになってくれなかったら、もう魔法の練習どころではなかっただろう。炎の女神を正座させて説教する後ろ姿は頼もしかったぞ。

 うん、タイトスカートの丈がもう少し短かったら危なかったな。

 それにしても女神達は、俺達の世界の服について、どこで情報を得ているのか。

 考えてみれば、普段から会話できない代わりに心を読まれている。まさか、俺の記憶からなのだろうか。

 もしや、相変わらずの保健医ルックな大地の女神が、ワイシャツに収まりきらずに隙間から褐色の谷間を覗かせているのも、あのサイズがちゃんと収まる訳がないという俺のイメージ故なのか。

 いや、流石に考え過ぎか。その辺の事は、あまり深く考えない方が良さそうだ。

 ちなみに彼女は、今回は猛特訓には参加せずにフォロー役に回ってくれたのだが、一番の妨げになっていたのもまた彼女だろう。

 女神の中では一番優しい人なのだが、それがかえって攻撃力を高めていた。

 本人達は真剣なだけに何も言えない。俺の煩悩が悪いんだろうし。

 今はただ、この猛烈な波状攻撃に耐えて、五日で『清浄なる光』を覚える事ができた自分を褒めてやりたい。


 もっとも、これにはバルサミナの再襲撃が予想より遅かったというのも影響している。

 ギリギリ間に合うどころか、休息をとれるだけの余裕があった。

「このまま来ないなんて事は……」

「これまでの事を考えると、あれで諦めるとは思えないのですが……」

 これはおかしいとコスモスの部屋に集まって作戦会議。一週間経っても姿を現さないバルサミナに、王女も困惑顔だ。

 今回はルリトラだけでなく、宿に残っている皆がコスモスの部屋にお邪魔している。

 今、『潮騒の乙女』亭にいないのはマークとクリッサ。

 オークションが終わったシャコバ、パルドーと合流し、泊まり込みでロンダランの手伝いに行っている。あちらもラストスパートに入って大忙しらしい。

 魔法の練習となると、マークはやる事が無いからヒマだったのだろう。

 彼等が手伝えば、潜水艦も早く完成するだろう。シャコバがデザインに凝り始める可能性もあるが、パルドーとマークで止めてくれるはずだ。

 職人バカ連中が揃うと生活面が心配になるが、そこはクリッサにお任せである。

「バルサミナ、何かあったのかな……」

 その一方でコスモスは、のん気にバルサミナの心配をしていた。

 いや、これに関しては、俺は何も言えないな。俺も雪菜の事が心配でたまらない。

 だが、このまま手をこまねいていても雪菜を助ける事はできない。もう少し真面目に考えてみるとしよう。

 バルサミナが来ない理由は何なのか。

 これまでと異なる要素は何かと考えると、ある仮説が浮かんでくる。

「もしかして、俺達がいるからとか?」

 その分、こちらの戦力がいつもより多くなっている。それを恐れて攻めて来ないというのは十分考えられるんじゃないだろうか。

 しかし、王女の反応は芳しいものではなかった。

「今まで一人で襲撃していた事自体無謀ですし、今更増えたところで躊躇するとは……」

 言われてみれば確かにそうだ。バルサミナは、想像以上のおバカさんらしい。

 だが、俺は感謝するべきか。もし間違えずにコスモス一行を襲撃していたら、雪菜はどうなっていたのか。

「しかし、そうなると何故だ? 雪菜が止めてるとも思えないが」

「別の誰かの意志が関わってると考えた方が自然ね」

「別の? ユキナさんですか?」

「むしろ雪菜なら、率先して俺に会いにくるはずだ」

「では、何故会いに来ませんの?」

「向こうではどこまで雪菜の意志が通って、自由に動けるかという問題がある」

 あの時も、バルサミナの命令を聞いて退いていたからな。

 それに、俺にはひとつだけ心当たりがあった。

「雪菜を召喚したヤツがいる。あれはかなり高位の魔法なんだろ?」

 そう、『闇の勇者召喚』が使える何者かだ。

 魔法が使えるからと言って頭が良いとは限らないが、色々と勉強しなければならないため、少なからずそういう傾向がある。

 もし誰かがバルサミナを止めているとすれば、この術者が一番可能性が高いのではないだろうか。

 しかし、そうなるとまずいな。雪菜を助けるためには、どこかに潜んでいる雪菜達をこちらから探し出す必要が出てくるぞ。

「バルサミナ達の隠れ場所に心当たりは?」

「それが分かっていれば説得に行ってるさ、ハッハッハッ!」

 そう言って笑うコスモス。つまり、手がかりはまったく無いという事か。

 まぁ、そうだろうな。バルサミナ達に拠点があるとしても、コスモス達の移動に合わせて場所を変えているだろうし。

 この問題に関しては打つ手が無く、襲撃に備えて油断はしないでおこうという事になって、この場は解散となった。


 だが、その日の晩に事態は予想外の方向に動いた。なんと、コスモス達の部屋にバルサミナが一人だけで現れたらしい。

 俺達は、すぐさま武器を手に駆け付けたが、残念ながら到着した時には、既にバルサミナは去った後だった。

 部屋の中はまだ騒然としており、数人の武装した親衛隊が窓の外を見やっている。

 だが、部屋は散らかってないし、壊れてもいない。ここで戦った訳ではなさそうだ。

 コスモスと王女はソファに座っている。その傍らには親衛隊長のリコットが立ち、エルフのフォーリィはお茶を淹れて皆のお世話をしている。

 王女は何やら読んでいたので俺はリコットに近付き、一体何があったのかを聞き出す。

「バルサミナは何しに来たんだ?」

「デートのお誘い……かな」

 するとソファに座ったコスモスが、髪をかき上げながら答えた。お前には聞いてない。

「その、挑戦状を届けに来たようです」

「挑戦状だと?」

 ルリトラが反応し、訝しげな顔をした。

 コスモス宛だったらしいが、今は王女が読んでいるようだ。

 王女の方を見ると、親衛隊の一人に持ってこさせた地図と手紙を交互に見ている。

「挑戦状には一体何が?」

「……バルサミナは、コスモス様を沖合のある島に呼び出してきました。今、海図を確認していたところです」

「島に呼び出して決闘か……」

 巌流島みたいだな。宮本武蔵と佐々木小次郎の。

 そんな事を考えていると、クレナが焦った表情で横から口を挟んできた。

「ちょっと待って。それってもしかして、呼び出されてるのは……」

「……はい、私達だけです。あなた達には知らせずに来いと」

「なんだと?」

 そう来たか。バルサミナか、その背後の黒幕かは知らないが。

 敵の戦力が増えたのなら、分散させてしまえばいい。なるほど、道理だ。

 だが、しかし――

「でも、それって、そちらの船に私達が隠れていれば問題無いのでは?」

――小首を傾げるロニの言う通りである。

 これが徒歩での移動ならばともかく、船で行くのであれば人数を誤魔化すのはそう難しい話ではない。

「これ考えたの、バルサミナさんでしょうね……」

 そう呟くフォーリィの目は優しかった。

「そうなると、それはバルサミナの暴走ですかな?」

「その可能性はありますね」

 ルリトラの問い掛けに、リコットが神妙な面持ちでこくりと頷いた。

「黒幕がいたとして、そいつはこっちの戦力が増えたのを理由に止めた。

 でもバルサミナは、戦力を分散させればいいと考えて、勝手にこの作戦を考えたと?」

「それなら、一週間襲撃が無かった事も説明できるわね」

 俺の考えに、クレナも同意してくれた。ルリトラ、王女、リコットもしきりに頷いて同意してくれている。

「バルサミナ、そんなに僕に会いたかったのかい~♪」

 コスモスがやおら立ち上がって踊り出したが、全員それをスルーして話を進める。

 あ、フォーリィだけスルーしきれてない。チラチラと彼の方を見ている。その表情は頬を染め、どこか見惚れているように見えた。

 まぁ、趣味はそれぞれだ。こちらもスルーする事にしよう。

「ま、まぁ、トウヤさん達にはこっそり乗船してもらって、そのまま島に向かえば……」

 かくいう王女もスルーしきれてないな。ただし、フォーリィとは別のベクトルで。口元がちょっと引きつっている。しかし、それについては俺達がスルーしよう。

 それはともかく王女の案だが、そちらは俺の方から待ったをかける。

「いや、それなら俺の方にも案がある。決闘はいつだ?」

「三日後ですね。移動時間は一日あれば十分でしょうか」

 海図を見せながら、王女は答えてくれた。場所はネプトゥヌス・ポリスの沖合にある内海の島か。そこに隠れ家があるんだろうか。

「準備期間があるなら、こっちでも船を用意してみるよ」

「えっと、私達だけで来いと言われているのですが……?」

「こっちで用意している船は潜水艦と言ってな。海の中を進む事ができるんだ」

 海中を進めば、バレずに島に近付く事ができるはずだ。

 幸い、『清浄なる光』を覚えられなかった時のための保存食を用意してあった。完成した潜水艦にそれを積み込めば、すぐにでも出発できるだろう。

「う、海の中を……ですか?」

 目を丸くする王女。彼女だけでなくリコット達親衛隊の面々も、信じられないと言いたげな顔をしている。

「あれだよ、ロンダランが造ってた」

「……ああ、なるほど」

 それだけにこの一言で納得されるロンダランの扱いは推して知るべしである。

 活動報告の方でもお知らせしておりますが……


 2巻の発売日が8月25日に決定いたしました!

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