第52話 大いなる『火力』
炎の女神の祝福により生まれたキッチン。
傍目にもコンロ等は現代日本の物に近い事が分かるため、まずは俺が一通りチェックする事にした。なんだかんだと言ってキッチンは危険な物が多い。
ロニとリウムちゃんは手こそ出さないものの、俺の隣で興味深げに覗き込んで来る。クレナはその少し後ろだ。ラクティはクレナの背に隠れていた。
花崗岩を削りだしたシンク。流し台、コンロだけでなく広々とした作業スペースも確保している。それがキッチンの中央に鎮座しており、皆で囲んで料理出来る様になっていた。
水道からはちゃんと水もお湯も出る様だ。流しの隣に操作盤がある。
今までは食器を洗うのも洗面台だったが、これからはこちらを使えば良いだろう。
コンロは炎の女神の祝福のためかIH調理器ではなくガスコンロだった。もっとも、俺のMPで動いている訳だから正確には「ガス」コンロではない訳だが。
「……なんだよ、『神』って」
問題は、コンロの火力を表す目盛りに「弱」、「中」、「強」に続けて「超」と「神」と言う字があった事だ。漢字で。
とりあえず強火まで出してみたが、それ以上にする気にはなれない。
スイッチを捻るだけで火が付く事に驚き目を輝かせているロニ達とは裏腹に、俺はそれどころではなかった。
とりあえず皆には目盛りの字について説明し、「強」以上は使わない様にと言っておいた。
「その、『神火』と言うのにしたら炎の女神が召喚されるとかないでしょうね?」
「さ、流石に炎のお姉様でもそれは無いと……思いますよ?」
自信なさげなラクティだったが、彼女が言うには火力だけで召喚出来るなら今頃レムノス火山からひょっこり顔を出しているらしい。
棚の中も調べてみたが、包丁やお玉など一通りの調理器具は揃っていた。包丁と並んで獲物解体用のナイフが並んでいるのはこの世界ならではと言うべきか。
大きめの引き出しを開くと、いくつかの調理器具が入っていた。その一つを指差しながらロニが問い掛けてくる。
「トウヤさま、これは何ですか?」
「ん? ああ、これは泡立て器だな」
しかも電動だ。いや、魔動と言うべきか。取っ手を持ちスイッチを入れるとモーター音を響かせて泡立て器が猛スピードで回転し始める。
それと同時に勢い良く後ずさるロニ。スイッチ一つで火が付くコンロより、完全に未知の物体であるこちらの方が驚いた様だ。
他にも色々と現代日本の調理器具がある。鍋やフライパンなどは焦げ付かないぐらいの効果はありそうだが、それ以外は特におかしなところはなさそうだ。
逆に食器の類は一つも無かった。食器棚に使えそうな場所はあるのだが、その中身は空っぽなのだ。こちらは元々持っている物があるので問題はないだろう。
「で、リウムちゃんは何してるんだ?」
いつの間にか俺の側から離れていたリウムちゃんがくるくる回って小躍りしていた。
水晶術師である彼女にとって、現代日本の調理器具の数々は正に宝の山らしい。
とりあえず可愛らしいので、しばらく眺めておく事にする。
途中から面白がってラクティも参加したダンスをひとしきり眺めた後、俺達は荷物の整理を始める事にした。
場所は炎の祭壇の隣。成長した新しい『無限バスルーム』の中で最も広いスペースだ。
力仕事は俺とルリトラ、簡単な鑑定はクレナとラクティに任せる。
貴族のお嬢様であるクレナは教養として骨董品の知識があるし、ラクティは見る目がある訳ではないが魔力の有無やその強さぐらいは分かるそうだ。
手入れが必要な物は一旦外に出して、居間の方でロニ、リウムちゃんに外への対応と一緒に任せる事にした。
元々服や寝具を買いに行く予定だったのだが、それは急がねばならない様な事ではないので荷物の整理の方を優先すると言う訳だ。
その後、仕舞い込んでいた武具をただ古い物、骨董品としての価値がある物、魔法の武具の三種類に分けて庭になったスペースに並べていった。
ロニとリウムちゃんに手入れをしてもらっているのは古い物の中でも錆など無く汚れているだけの物だ。汚れを拭き取るだけで結構見栄えが良くなる。
その間に来客は二度あった。
一度目は魔法の教本を持ってきた神官。
ロニに呼ばれ居間に出て応対し、教本を受け取った。
問題は二度目の来客だ。
「は? クリッサが訪ねて来た?」
なんと『魔力喰い』の鎧の調整を頼んだ鍛冶師・パルドーさんの娘であるクリッサ・ポールが訪ねて来たのだ。
頼んでいた仕事の事で何かあったのだろうか。とりあえず皆で会ってみる事にする。
神官に案内されてVIPルームに入ってきた真っ白い毛並みのクリッサは、黄色のワンピースを着ていた。
「昨日の今日で申し訳ありません。実は頼まれていた仕事の件でご相談したい事が……」
そう言ってぺこりと頭を下げるクリッサ。やはり問題が発生した様だ。
ソファに座ってもらって話を聞く事にする。
ちなみに小柄な身体のおかげか尻尾があっても背もたれは邪魔にならない様で、人間用のソファの上にちょこんと座る姿はまるでぬいぐるみの様だ。
頬を緩めて眺めていたくなるが、気を取り直して話を聞く事にする。
「それで相談したい事と言うのは?」
「実は……あの鎧、頑丈過ぎるんです」
多分、深刻そうな表情をしているクリッサの言葉を聞き、俺達は顔を見合わせた。
鎧が頑丈なのは良い事なのではないのか。
俺の気持ちを代弁するかの様に戸惑った様子のルリトラが問い掛ける。
「……それは、良い事なのでは?」
「そ、その……お恥ずかしい話にゃのですが、お父さんとシャコバおじさんでは歯が立たにゃいんです……」
「もしかして調整も出来ないの?」
怪訝そうな顔をしたクレナが問い掛けると、クリッサは俯いたままコクリと頷いた。
彼女が小柄な体格のせいか、子供を責めているみたいで心が痛いな、これは。
「……原因は?」
「火の石です。火の石の力が足りにゃくて、あの鎧に手を加えられるだけの熱を生み出せにゃいのです。
あんにゃ金属は初めて見たとお父さんも言ってました」
燃料となる火の石が問題なのか。
逆に言えば他の鍛冶師の所に持ち込んでも問題は解決しないと言う事になる。
そもそも亜人でも構わないと言う事であえて紹介してもらった人だ。これ以上の人をヘパイストス・ポリスで探すのは難しいだろう。
「量が足りないのか? それとも火の石以外に何かが必要なのか?」
「もっと大きにゃ火の石があれば或いは……」
クリッサの説明によると、火の石と言うのは込められている炎の精霊力によって大きさが変わり、大きい火の石ほど強い熱を生み出せるらしい。
しかし今使われている火の石より大きい物を手に入れようとするならば、もっと火山の中心部まで掘り進める必要があるらしい。火山の中心部の方が精霊力は強いのだ。
そして、それをすれば今まで眠っていた火山がどうなるか分からないとの事。事実上不可能と言って良いだろう。
足りないのは熱――そこまで考えたところで俺はある事を思い付いた。
クリッサに少し待ってもらい、クレナ達と俺の『ギフト』を使えば何とかならないかと話し合ってみたところ特に問題は無い。むしろ、他に方法が無いと言う結論が出た。
他に選択肢があるとすればあの鎧自体を諦めると言う事だが、これからの戦いの事を考えるとそれは悪手である。
問題があるとすれば秘密が守られるかどうか。
気にし過ぎかも知れないが、俺の『ギフト』は単に強いのではなく便利な能力であるため、これが知れ渡るとどんな厄介事が舞い込むか予想し辛いのだ。
単に「大して強い能力ではない」と知られるだけでも大きなデメリットだと言える。
「あ~、クリッサ。パルドーさん達に伝言を頼めないかな」
「は、はい、にゃんでしょう?」
俺が声を掛けると、クリッサはハッと伏せていた顔を上げて答えた。
「手を貸せるかも知れない。でも、そのためには秘密を守ってもらわないといけない。そう伝えて欲しい」
「手を貸せる……ですか? でも、どうやって……?」
「詳しくは言えないが、『勇者の力』と言っておく」
俺の返答にクリッサはこわばった表情になって頷いた。
念のために言っておくが、嘘は言っていない。
結論から言うと、パルドーさん達は俺の申し出を受けた。
頼まれた仕事を無理だと投げ出したくない職人のプライドもあったのかも知れない。
俺達は神殿長にその事を伝え、今日からパルドーさんの工房に泊まり込む事にする。
神殿長は残念がっていたが、「鎧を調整するのに勇者の力が必要なので協力する」とだけ伝えると何やら感動しながら納得してくれた。でもポージングは止めてくれ。
炎の神官魔法については、俺自身基礎は出来ているのでとりあえず独学でやってみて、それでも無理なら改めて神殿で修行を受けると言う話になった。
ここでの修行は非常に暑苦しそうなので、自力で何とかしたいところである。
再びパルドーさんの工房に行くと、そこにはパルドーさん以外に二人のケトルトがいた。口元や手が白いキジトラ白猫と茶トラ猫だ。
どちらもパルドーさんと同じく作業服を着ているが、煤けて汚れていても気にしないパルドーさんに対し、二人は同じ作業服でも身嗜みを整えている感じがする。
猫の顔付きから年齢は分かりにくいが、茶トラ猫の方はキジトラ白猫より一回り小さい。と言っても茶トラ猫の方もクリッサよりは大きいのだが。
大きいキジトラ白猫がパルドーさんの友人であるシャコバ・リーマス。小さい茶トラ猫はその息子であるマーク・リーマスだと、クリッサが紹介してくれた。
シャコバさんの方は「シャコバ・リーマスにゃ」とどこか気取った仕草で肉球付きの手を差し出し握手を求めてきたが、マークの方はペコリと頭を下げるだけだった。
パルドーさんとシャコバさんは若い頃から親友同士で、その子クリッサとマークは幼馴染みらしい。
まず俺達に話し掛けて来たのはパルドーさんだった。
「クリッサから話は聞いたにゃ。人の秘密を吹聴する様にゃ趣味はにゃいけど、どうやって火の石以上の熱を出すつもりにゃ?」
「実際見てもらうのが一番早いんだが、これ自体が秘密だからそのつもりでいて欲しい」
パルドーさん達は互いに顔を見合わせて頷き合うと、再び俺の方に視線を向けてきた。
「分かったにゃ。秘密は守るにゃ」
「それじゃ――」
俺が『無限バスルーム』の扉を開くと、クリッサが驚いてパルドーさんの背に隠れた。
パルドーさん達三人は目を丸くしながらもたじろがずに平然としていると思ったが、よく見ると皆尻尾がぶわっと膨らんでいた。
「こ、これは……」
真っ先に立ち直ったのはパルドーさん。鑑定士の血が騒ぐのか、興味深げに扉に触れながら観察している。
「おーい、本命は中だぞ」
パルドーさんの肩を叩いて中に呼ぶ。クレナ達に促されシャコバさん達も不安気な表情で扉を潜って後を付いてきた。
そして案内した先は、あの炎の祭壇だ。
軽く二ストゥートは越えていていそうな石柱サイズの大きな火の石。大きな物が必要だと言うのであれば、これ以上の物はあるまい。
神火のコンロも使えないかと思ったが、あれは取り外す事が出来なさそうだったのでこちらを紹介する事にした。
ぶっちゃけた話をしてしまうと、ケトルトの体格にあの流し台は高過ぎるのである。
「ほぅ、これは……」
まずパルドーさんは庭に並べられた武具の数々を見て感嘆の声を上げた。
「魔法の武具もいくつかある。建物の中にもな。まぁ、それは後で見て欲しい」
「分かったにゃ!」
片手を上げてビシッと返事をするパルドーさん。更にやる気が出たらしい。
そして俺達は武具の山を通り過ぎて炎の祭壇の前に着く。
「こ、これは……!」
「まさか、こんにゃサイズの火の石が……!?」
パルドーさん達はそれを見て絶句していた。普段から扱う物だけに俺達以上にその凄さを理解しているのだろう。
早速祭壇を調べ始めるパルドー。シャコバさんとマークも真剣な表情でそれを手伝う。
俺達はクリッサと一緒に少し遠巻きでそれを見守った。
改めて炎の祭壇を見てみる。
直径半ストゥート程の火の石柱。それが乗る一ストゥート程の台座。そしてその前に底の浅い箱が置いてある。
それを見た俺は「賽銭箱」と言う言葉を思い浮かべた。
「ふーむ、これは……」
箱を調べていたパルドーさんはおもむろに立ち上がると、工房に戻って黒い石が入った麻袋を担いで戻って来た。
傍目には炭を思わせるその黒い石は精霊力を失った火の石で、火の石から発した熱を金属に満遍なく伝えるための媒体として使う物らしい。
パルドーさんは麻袋の中のそれを箱の中に敷き詰める。その中に金属を埋めたりするために砕いて使う物らしく、小石サイズの黒い石が箱の中を埋め尽くした。
それを見て石焼き芋の屋台を思い出してしまったのは秘密である。
「火の石と箱は繋がってるにゃ。だから、こうすれば……」
パルドーさんが火の石柱に指を向けて何やら唱えると石柱が光り出した。
隣で見ていたリウムちゃんが、あれは基礎の職人魔法だと教えてくれた。火の石から精霊力を引き出すための魔法で、引き出す力の量も調節出来る基礎にして最も重要な魔法らしい。
それに合わせて力が吸い取られる様な感覚を覚える。なるほど、あの石柱の力の源は精霊力ではなく俺のMPか。
普段『無限バスルーム』内の施設を使っている時よりも消耗が激しい気がする。しかし苦しいと言う程ではない。
これが大した消費じゃないのか、俺のMPが成長したおかげかは分からないが。
パルドーさんの言葉通り火の石柱と箱は繋がっていた様で、続けて箱の中の黒い石が熱を帯びて赤く光り始める。
火の石ではなく俺のMPだが、十分な熱量らしくパルドーは力強く頷く。どれだけの熱か分かるのも職人魔法だろうか。
「……よし! これにゃらいけるにゃ!」
「マーク、準備にゃ! 道具をここに運ぶにゃ!」
「は、はい! 父さん!」
パルドー達が慌ただしく動き始める。
「ルリトラ、荷物運びぐらいは手伝ってやってくれ」
「分かりました」
ルリトラにも手伝ってもらい、てきぱきと準備が進められていく。
一方俺は、その間もMPを吸い取られ続けている訳だが、どうもその感覚が神官魔法を使っている時の感覚に微妙に近い。
これは精霊召喚をする時の感覚、しかも光でも大地でもない感覚。
おそらくだが、これは炎の精霊力を引き出す感覚ではないだろうか。
俺のMPと言っても、あの火の石柱はちゃんと炎の精霊力を引き出しているのだ。
つまりこれは炎の神官魔法の練習にもなる。俺はMPが尽きない様に気を付けながら教本で魔法の勉強をすれば良いと言う訳だ。
それにどう処分するか悩み所だった武具も、パルドーさん達に頼めば問題なさそうだ。
俺はクレナ達の方に視線を向ける。
「しばらくは、この工房が拠点だな」
「拠点と言うか、トウヤはしばらく動けなさそうね」
そればかりは仕方がない。その間は落ち着いて魔法を勉強する期間だと考える事にしよう。
「まぁ、私も付き合うわ。ハデス・ポリスで手に入れた本も調べてみましょ」
そう言えば、それもあった。
五百年前に何があったのか、何が歴史から消されてしまったのか。それを紐解くカギがそこにあるかも知れない。
身動き出来ないと言っても退屈する事はなさそうだ。
俺は賑やかになった庭を眺めながらそんな事を考えていた。
その日の晩、俺は再び夢を見た。
あの時と同じ自分が立っているのか、寝ているのか。自分の身体が浮かんでいるのか、沈んでいるのかも分からない世界。
ただ、あの時の様な痛みや苦しさはない。
俺の背中にラクティがしがみ付いていた。
そして俺の前には金色の髪を高く結い上げ、真っ白なドレスを着た女性。ラクティは彼女から隠れようとしてるのだろう。
今なら分かる。彼女こそが光の女神だ。背が高いと思っていたが、改めて見てみると本当に大きい。俺よりも背が高そうだ。
怒っているが、前の様に叱りつけたりはしない様だ。俺が間にいるからだろうか。
波打つ碧の髪の女性、彼女は大地の女神だろう。光の女神の隣で彼女を宥めている。
改めて見てみると本当に大きい。光の女神より高い身長もそうなのだが、あれだけ大きいと角度によっては顔が一部しか見えなくなる事を初めて知った。
身体が動けば思わず拝んでしまっていたのではないだろうか。
おかげで表情は分からないが、それでもきっと優しそうな表情をしているのだろうなと思える。そんな穏やかな雰囲気を持った女性だ。
と言うか前は意識していなかったが、改めて見てみると大胆なドレスだ。
どこかの民族衣装を思わせる模様の付いた三分の一ストゥート程度の幅の帯二本をスカートの吊紐の様に身に着けている。
おかげで前面が大胆に開いており、胸元からヘソまで褐色の肌が覗いていた。
スカートは長いがスリットが深い様で、隙間から褐色の足が覗いていた。
何より彼女には感謝しなければならないだろう。ケレス・ポリスで祝福を受けてからここまで大地の精霊召喚に助けられた場面は多い。
そんな事を考えていると大地の女神が近付いて来て、朗らかな笑顔で俺の頭を撫でて来た。前屈みの体勢になっているため、大き過ぎる胸が揺れながら目の前に来てちょっと照れる。
すると光の女神が急に怒り出した。俺の背に隠れていたラクティが身を縮めたのが分かる。きっと怯えて俺の背に隠れたのだろう。
しかし彼女はそれを意に介さず俺に向かって怒り続ける。どうやらラクティではなく俺に対して怒っている様だ。
もしかしてもっと光の神官魔法を使え、感謝しろと怒っているのだろうか。
大地の女神に比べて慎ましやかな、どちらかと言うとラクティ似のそれのおかげで怒っている訳ではないと思う。
そんな事を考えていると光の女神は顔を真っ赤にして更に怒り出したが、きっと無関係だと思う。多分。
そして今日の夢にはもう一人の人物がいた。
すぐ隣で俺の肩を抱き、光と大地の女神を見て笑っている赤毛の健康的な女性。
そう、彼女は炎の女神だ。
その髪は肩を少し越えた辺りまで伸びており、ちょっとルーズっぽくも見える手ぐしで整えた様なラフな髪型をしている。
真っ赤なドレス――と言って良いのか甚だ疑問だ。一言で言えばパレオを巻いたビキニ。ここにいる女神の中では最も露出度の高い格好だ。
ちなみに光の女神以上、大地の女神以下である。
彼女はラクティの頭を撫でてみたり、俺達二人に抱きついてみたりとやりたい放題。
何と言っているかは分からないが、満面の笑顔で何やら楽しそうだ。
俺を抱き寄せ、怒る光の女神に対して舌をべっと出してみたりしている。
『無限バスルーム』の様子を思い出すと何となく炎の女神の意図が分かる様な気がする。
彼女は大地の女神と同じく俺を守ってくれているのだ。俺の中で起きている光と闇の祝福同士の反発から。
総本山の祝福であるため、大地の女神以上に俺を守る事が出来るのだろう。だからこんなに距離が近いのかも知れない。
それに『魔力喰い』の鎧を調整する事が出来たのも炎の祭壇のおかげだ。
祝福を授かったばかりだと言うのに彼女にも助けられている。
声を出す事は出来ないため、せめてもの感謝の想いを込めて彼女の方に視線を向ける。
するとそれが通じたのか炎の女神は目を輝かせ、満面の笑みを浮かべてかぶり付く様に俺に抱き着いてきた。
その張りのある胸に押し付ける様に抱き締められ、感覚が無いと言うのに柔らかな感触を感じた気がして思わず頬が緩んでしまう。
この光景を目の当たりにした光の女神の形相が更に凄まじい物になったが、多分関係ないと思う……いや、思わせて欲しい。
薄れ行く意識の中で俺は思った。
この女神達の饗宴、通信する際に春乃さんに伝えるべきかどうかと。




