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異世界混浴物語  作者: 日々花長春
お風呂場の勇者
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第4話 仲間の条件

「人間の身体は、魔法を使える様に出来ていない」

 魔法を教えてやるから来いと言われて神官長さんを訪ねたところ、いの一番に言われたのがこの言葉だった。

 だったら魔法を教えると言う話は何だったのだと思ったが、詳しい説明を聞いてみるとその話が正しい事が分かった。

 以前から話に聞いている「加護の力」。俺の場合は光の女神の加護だ。

 魔法と言うのは全てこの加護の力によるものであり、魔法を覚えるのは自分に「加護の力」と言うもう一つの身体がある事を認識する事から始まるそうだ。

 そのための方法の一つが、加護の力がない身体では魔法が使えない事を自覚する事らしい。


 この世界における魔法は大まかに分けて二種類に分かれる。

 神官魔法とそれ以外の魔法だ。

 なんて大雑把なと思われるかも知れないが、これには大きな理由があった。

 儀式を行い、精霊と契約する事で魔法が使える様になるのだが、神殿で儀式を行える魔法を「神官魔法」と呼んでいるそうだ。

 そして神殿で儀式を行えない魔法がそれ以外の魔法と言う事だ。それらの魔法を使う者を総じて「魔法使い」と呼ぶらしい。

 例えば勇者コスモスと名乗る西沢秋桜の仲間になったこの国の王女などは、王家に伝わる魔法――つまり神官魔法以外の魔法を使える魔法使いと言う事になる。

 俺達を召喚したのも、彼女の魔法を中心に神官長さんを始めとする大勢の神官達が協力して行った儀式の結果なのだそうだ。


 と言う訳で早速神官長さんに手伝ってもらって儀式を行い、光の精霊との契約を結んだのだが、これでいきなり魔法が使えると言う訳ではない。

 これから毎日訓練を行い、本当に魔法――神官魔法の基本である光の精霊の召喚を使える様にするのだが、訓練の前に執事さんが声を掛けて来た。

「トウヤ様。お言葉ですが、契約の儀式を終えたのならば訓練の合間を縫って仲間を探すべきだと思います。出来れば十日以内に」

「と言うと?」

「仲間の防具も用意する事を考えると職人に製作してもらう時間も考慮せねばなりません」

「あっ、そうか!」

 準備期間は残り二十日間。

 防具職人の工房では防具のサイズ調整などをしてもらうために一週間掛かると言われた。

 そう考えると執事さんの言う通り、十日以内に仲間の防具の注文を済ませておきたい。

「仲間か……そう言えば、買い物中にも少し話してたな」

「はい。私はセーラ殿と違ってトウヤ様に付いて行く訳には参りませんが、コネを使って紹介する事が出来ます」

 この老紳士、ただの執事だと言っているがとてもそうは見えない。実は結構偉い立場なんじゃないかと俺は考えていた。

 そうでなくとも聖王家に仕えて長いと言う話だし、人脈も相応にあると思われる。

「と言う訳で、訓練を始める前に希望を聞かせていただけませんか? それに合わせて探しておきますので」

「希望、ねぇ……」

 腕を組んで考え始める俺。改めて考えてみると、これは結構難しい問題である。

 問題は俺のギフトである『無限バスルーム』だ。

 この能力があれば俺は旅先でも風呂に入る事が出来るのだが、自分だけが入って仲間は入らせないと言うのは気が咎めた。

 では仲間も風呂に入れてやれば良いのかと言うと、そこで俺の能力の制限「俺と一緒でなければお湯も出ない」がネックとなる。

「……神官長さん」

「何かな? 分かっていると思うが、私も仲間にはなれんぞ」

 違う。俺が言いたいのはそうじゃない。

「俺は、男と一緒に風呂に入る趣味はありません」

「……そうか。まぁ、そうだろうな」

 その一言で神官長さんも察してくれたようだ。

 俺が誰かを仲間にすると言う事は、それが男にせよ女にせよ「一緒に風呂に入らないか」と誘う事に他ならない。

「そう言えば、執事さんには俺のギフトの事は?」

「ああ、話しておらんよ」

「それじゃ詳細は省くけど、俺の仲間になる人はギフトの関係で俺と一緒に風呂に入る事になるんだ、これが」

「そ、それはまた……」

 俺の説明を聞いて、執事さんは珍しく戸惑った様子だった。俺も、この説明だけだと多分どう言う事か分からなかったと思う。

 しかし、仲間の条件が一緒に風呂に入る事なのは伝わったはずだ。

「また難しい条件ですな」

「俺もそう思う。でも、俺だけ風呂に入って仲間は放置ってのもな」

「それもまぁ、理解出来ます」

 言い方を変えれば、俺が一緒に入りたくないと言うワガママで仲間の待遇を悪くする様な真似はしたくないのだ。

 これは決して悪い事ではないだろう。だからこそ神官長さんも執事さんも俺の出した条件に理解を示してくれているのだと思う。

 一緒に旅をする仲間として春乃さんとセーラさんの顔が浮かんだが、流石に昨日の今日であの二人に「一緒に風呂に入って下さい!」と頼む勇気は無かった。

 あの思い切り着やせする二人を並べて湯船に浮かべるのも浪漫だと思うが、残念ながら今は断念するしかない。


 俺がそんな事を考えていると、執事さんが二本の指を立てて話し始めた。

「とりあえず、二つの案が考えられます」

「二つもあるのか。とりあえず聞かせてくれ」

「一つ目は元より風呂に入らない者を仲間にする事」

「そう言う不潔なヤツはちょっと……」

 想像するだけでも臭そうだ。俺はロコツに嫌な顔をする。

「ああ、勘違いなさらないでください。人間ではありません。そう言う風習の亜人です」

「亜人か。またファンタジーな言葉が出て来たな」

 亜人、すなわちデミ・ヒューマン。人に似た姿をしているが人ではない生物の事である。

 地球での有名所では、ドワーフやエルフなどがいる。もちろん全て伝承上の存在だ。もしかしたらこの世界のどこかに存在している可能性もある。

「風呂に入らない亜人なんているのか?」

「パッと思い付くのはギルマンでしょうか。いわゆる半魚人です」

「うむ、確かにギルマンは冷たい水の中で生きる亜人だ。熱いお湯は苦手だろうな」

 神官長さんが説明を補足してくれた。

「へぇ、どこに行けば会えるんだ?」

「さぁ? 少なくとも私は会った事がありませんな」

「オイ」

「他にもいくつか思い当たる種族はありますが、この聖王都ではほとんど見掛けない者達ばかりなのです」

 ジト目でツっこむ俺に、執事さんは動じずしれっとした態度で答えた。

「あくまで、こう言う案もあると言う話ですな。私の方でも調べてみますが、こちらについてはあまり期待しないでください」

「……まぁ、そう言う事なら仕方がないな」

 無い袖は振れぬと言う事である。

「と言うか、この世界の亜人の認知度ってのはどんなもんなんだ?」

「どれだけ知られているかと言う意味では、誰でも存在自体は知っていると思いますよ」

「でも見た事はないって事か」

「全く無いとは言いませんが、彼等が旅人として人里を訪れる事はほとんどありませんな」

 一応実在はするが、一般人から見れば話に聞くだけで伝承上の存在とほとんど変わらないと言ったところだろうか。

「もう一つの案って言うのは?」

「混浴しても良いと言う女性を選ぶ事ですな。トウヤ様は勇者な訳ですし、探せば意外と見付かるかも知れませんぞ。子種を欲しがる娘が」

「子種言うな!」

 悪びれる事なく堂々と言う執事さん。やはりこの男、変態紳士かも知れない。

「旅の仲間だって事は忘れてないよな?」

「その条件が無ければ、貴族の娘が群がっていたと思います。割と本気で」

「まさか……」

「ハルノ様の方はギリギリまでギフトに目覚めなかったと言う事で、急遽セーラ殿が案内役となりましたが、以前から決まっていた私の方には幾つかの家から申し出が」

「マジで?」

「お望みならば、今からでも会える様にセッティングいたしますが」

「それ、一緒に風呂入る件を知らないで申し込んで来たんだよな?」

「トウヤ様が目覚める前ですからな。上は二十一歳から下は十二歳まで、まさに選り取り見取りですぞ」

「十二歳って何だよ。子供に危険な旅をさせるつもりか?」

「失敬な。しかと成人しております」

「……マジで?」

 俺は神官長さんの方を見て確認を取ってみたが、彼は頷いてそれを肯定した。

 神官長さんの説明によると、この世界の人間は大体十二才から十五才ぐらいで一人前、成人として認められるそうだ。

 十二歳と言うのは早い方だが、一人前として認められたならば成人として扱うのがこの世界の常識との事。

 ちなみに成人なので結婚も認められるらしい。うらやまけしからん話である。

「と言うか、そんなに群がる程偉いのか? 『異世界の勇者』ってヤツは」

 俺のこの疑問にも神官長さんが答えてくれた。

「『初代聖王陛下と同じ立場の者達』と言えば少しは伝わるかな?」

「聖王家に近いって見られてるって事か」

「少なくとも、この国ではそうですな。あなたが望めばウハウハですぞ? 他にも男性の勇者は二人いらっしゃいますので、正に早い者勝ち。やるならば今です!」

 そう言って執事さんは俺をビシッと指差した。

 心動くものがあるのは否定しないが、そこまでがっついた肉食系で来られると引いてしまう俺は、へたれではないと信じたい。

 このまま執事さんを放置するととんでもない方向に突っ走って行きそうなので、俺は別方向に話題を転換する事にした。

「この国ではって事は、他の国ではどうなんだ? ここと仲が悪い国もあるのか?」

 俺がそう尋ねると執事さんと神官長さんは顔を見合わせた。その態度が仲の悪い国があると如実に語っている。

「詳細については長くなるのでまたの機会と言う事にしておきますが、この大陸には十二の国家から成る『オリュンポス連合』と言うものがあります」

「聖王都ユピテル・ポリスは、連合の中心となる国家だ。その立場を狙っている国もある」

「連合組んでるなら仲良く……って言う程簡単な話じゃないか」

「国同士の関係などそんなものですよ」

 口元にたくわえた髭をいじりながらシニカルな表情を見せる執事さん。

 聖王家に仕えて長いだけあって、国際関係についても直接は関わっていなくても色々と知っているのだろう。

「直接どこかと戦争していると言う訳ではありませんのでご安心ください。三年前までしてましたが」

「安心できねーよ。魔王の脅威はどうした」

「開戦の切っ掛けとなった村同士の小競り合いの裏には、魔王配下のモンスターが潜んでおりました」

 この世界の魔王の軍団は暗躍して陰謀を張り巡らせる事もある様だ。

「……まだ復活してないんじゃなかったのか?」

「実態は分かりませんが、封印された状態でもなおモンスター達の王として君臨していると言われております」

 そして魔王本人は俺の想像以上にやばい相手らしい。


「まぁ、こちらも条件がストレート過ぎるので大々的に募集する訳には参りませんが、何とかやってみましょう」

「と言うか、探せるのか?」

「向こうはがっついておりますが、こちらがこうもストレートだと難しいかも知れませんな」

 神官長さんが心配した様子で尋ねると、執事さんは僅かに眉をひそめた。

「まぁ、言いたい事は分かる。大々的に募集じゃなくて個人に当たるとしても『一緒に風呂に入るのが条件です』とか言えないよな」

「いえ、そうではなく。トウヤ様が強気の条件を出してきたと見れば、先方は主導権を握れなくなる事を恐れるかと」

「どこまで肉食系なんだよ!」

「貴族としての誇りがありますからな」

 やはりしれっとした態度で答える執事さん。

 これまでの話を統合して考えると、早々に申し込んで来ていた連中は非常にプライドの高い肉食系であるらしい。十二歳の高飛車系肉食系少女とか、ちょっとドキドキするぞ。

 それはともかく、「初代聖王と同じ立場」である俺の子種は欲しいが、主導権は貴族である自分が握っていたいと言う事だ。

「それって種馬扱いって言わないか?」

「ええ。ですから、それに気付く様な方にはお勧め出来ません」

「却下だ、却下!」

「そうなるでしょうな。ついでにお伺いしますが、男でも良いと条件を緩める気は?」

「勘弁してくれ。そんなに広い風呂じゃないんだ」

 露天風呂や銭湯の様な元々大勢が入る様に造られている広い風呂ならば考えなくもないのだが、『無限バスルーム』は一般家庭にある様な小さなバスルームだ。

 能力について確認するために神官長や指導担当神官と一緒に入ってみたりした事もあるが、老人と中年だったから、まぁ親子の様なものだと妥協する事が出来たのだ。

 本音を言えばやはり好き好んで男と一緒に入りたいと思うものではなく、この点については妥協するつもりはない。

 俺の拒絶の意志を感じ取ったのか。執事さんはそれ以上食い下がる事はなかった。

 何やら考え始め、しばらく考え抜いた後、何かを思い付いたのかポンと手を打つ。

「となると残る方法は……ああ、この方法なら亜人も見付かるかも知れませんな」

「どんな方法だ?」

「それは……『レイバー』です」

 執事さんが自信ありげに言ったその言葉は、俺にとっては聞き慣れないものだった。



 翌日、俺は再び馬車に乗ってある場所に向かっていた。御者を務めるのは執事さんだ。

 これから向かうのは「レイバー市場」だ。

 「ドレイ市場」、こう言い換えれば分かりやすいかも知れない。

 昨日執事さんからその話を聞いた時、最初は思い切りぶん殴ってやろうかと思った。現代の日本で生まれ育った人間としては当然の反応だと思う。

 だが俺の怒りを察したらしい神官長さんに宥められながら詳しく話を聞いてみると、俺のイメージする「ドレイ」とは少々異なる事が分かった。

 レイバーと言うのは金で買われて所有され、自由は無く、場合によっては譲渡される事もある。そう言う点では俺のイメージするドレイと変わらない。

 しかし、自由が無いと言ってもそれは仕事中の話。

 休みはちゃんとあるし、よほど酷い主人に買われない限り俺が「ドレイ」と聞いてイメージする様な過酷な待遇にはならないらしい。

 全ての説明を聞き終えた俺は、レイバーと言うのは一種の雇用契約だと判断した。


 まず、レイバーになった者は一生レイバーと言う訳ではなく、任期と言うものががある。

 この国――いや、オリュンポス連合全体にそう言うシステムがあるらしいのだが、この国の人間は「市民階級」と「それ以外」に分かれているそうだ。

 レイバーになるのは大半が「それ以外」の者達なのだが、実はレイバーとしての任期を終えると市民階級をもらう事が出来るのだ。

 犯罪の罰としてレイバーになった等の問題が無ければの話だが。


 実は神殿で働いている人達も、神官以外は全てレイバーらしい。ほとんどは神殿の下働きとして働き、任期を終えると市民階級をもらうのだ。

 しかし中にはレイバーの任期中に見習い神官となる者もいる。

 そう言う場合は任期が終わる前に正神官としての資格を得ると、そのまま任期を短縮して市民階級をもらえる事もあるそうだ。

 当然、市民階級をもらった後は神官として神殿に仕えるのである。

 つまり、このレイバーと言う制度は一種の徒弟制度としての側面も持っていると言う事だ。

 その話を聞いた俺は時代劇などで見る商人に仕える丁稚、年季奉公人をイメージした。


「こりゃもう、そう言う文化として受け容れるしかないなぁ」

 俺は馬車の中で座席に深く腰掛けて力なく呟いた。

 実際、この国の市民の間ではレイバーを雇う事が中流以上のステータスだと言われているらしい。

 家事や農作業と行った労働はレイバー達に任せて、自分達は社会の役に立つ様な活動をする事が美徳とされているのだ、この国――いや、オリュンポス連合全体が。

 例えば先程の神官の話の場合、レイバーから市民階級を得て神官になった者が今度はレイバーを雇う立場になり、家事などはレイバーに任せて自分は神官として人々のために働くのだ。

 金で売買すると言うのは気になるが、こう言うシステムだと任期を決めて前払いで報酬を支払っていると見る事も出来る。

 無論そう言う美徳などものともせず、自分が楽をするためにレイバーを使ったり、過酷な待遇でレイバーを使い潰そうとする者もいるだろう。

 しかし一部の例外だけに目を向けて、このレイバーと言う制度そのものを頭ごなしに否定する気にはなれなかった。


 こう言うのがカルチャーギャップと言うのだろうが、俺が馬車の中でぼんやりとしていると御者台の執事さんが声を掛けて来た。

「そう言えば昨日は言い忘れておりましたが、昨日行った工房の職人達は、店員も含めて皆レイバーですよ」

「マジで!? 痛っ!」

 思わず立ち上がった俺は、馬車の天井に頭をぶつけてしまった。

 頭を抱えて座りながら執事さんの説明を聞いてみると、王家御用達であった武器・防具の工房は聖王家の所有物であり、そこで働く者達は皆聖王家の雇ったレイバーなのだそうだ。

 執事さん曰く職人街にある建物は皆聖王家かこの国の貴族の所有物であり、レイバーでない職人はあの区画には存在しないとの事だった。

「……そうか、技術を守るために」

「その通りです、トウヤ様」

 前述の通り、レイバー制度は徒弟制度としての側面を持っている。

 つまり工房に雇われた職人レイバー達によって技術が綿々と受け継がれていくと言う事だ。

 これは聖王家・貴族達が職人達とその技術を保護、或いは独占していると見る事も出来る。職人の技術を守る事がどれだけ大切なのかを窺わせる話だ。

 実は職人街が造られたのも、一箇所に集めて集中して守る事で職人・技術を保護しやすくすると言う目的もあったのかも知れない。



 それはさておき、俺がレイバー市場に行く目的は言うまでもなく仲間を探すためである。

 レイバーの中には「戦闘レイバー」と言う、大きな戦いがある時だけ臨時で雇われる者達がいるそうだ。

 レイバー市場と言っても普段から全てのレイバーが普段からそこにいる訳ではない。

 普段は町中で仕事などをしながら暮らし、大きな戦いがあれば兵として雇われて戦い、その報酬で任期を減らして市民階級を得ようとする。それが戦闘レイバーである。


 話は変わるがファンタジー世界と言えば、皆はまず「冒険者」と言うものをイメージするのではないだろうか。

 実は、この世界にもそう言った者達は存在している。

 旅から旅を繰り返す冒険者と言う者は少なく、大半がどこかに拠点を持ち、モンスターを狩ったり、市民からの依頼を受けて生計を立てている者達だ。

 そして大きな戦いがあれば報酬を目当てに参加する。戦闘レイバーとして。


 そう、この世界における冒険者と言うのは戦闘レイバー達の事なのだ。

 大きな戦いが無い時の彼等の仕事と言うのが、おそらく皆がイメージするであろう冒険者の仕事である。

 大きな戦いで目覚ましい活躍をすれば貴族達の目に止まり、臨時雇いではなく専属レイバーになるのも不可能ではない。そうなれば市民階級を得た後は騎士への道も開けるだろう。

 ハイリスク・ハイリターン。それを目当てに戦闘レイバーとして登録する腕っ節に自信がある者は決して少なくはなかった。


 加護の力のおかげで女性でもそれなりに重い装備を身に着けられるこの世界では、女性の戦闘レイバーも珍しいものではない。

 そして身も蓋もない話ではあるが、レイバーに性的な奉仕をさせると言うのも決して珍しい話ではなかった。最初からそれを目的として雇われると言うのもよくある話だ。

 女性でも戦えると言う事は、この世界では女性の権利もそれなりに認められていると言う事なので、無論これも男女問わずの話である。


 執事さんが自分の人脈では仲間を探すのは難しいと言ったのは、彼の人脈が王城やその周辺に集中しているためだった。

 その人脈で見付かる人はどうしても貴族やそれに近しい者達になるので、「一緒に風呂に入れる人を探してます」などとは言えないのである。

 しかしレイバーは異なる。最初からそう言う条件で探す事が出来るのだ。

 俺自身「一緒に風呂に入れる」以上の事を求めているつもりはなかったが、よくよく考えてみれば中途半端な条件だ。

 一歩退くと条件を満たさなくなるため、一歩踏み込んだ条件で探すしかない。

 何より俺自身もいざ混浴出来るとなるとそれだけで我慢出来る自信はなかった。


 と、色々と言い訳をしてみたが、結局のところ馬車に揺られる俺は、昨日からわくわくが止まらない状態であった。

 一応、戦いで捕虜になった亜人がそのままレイバーになったりする事もあるらしい。

 そのためレイバー市場ならば亜人を見付けられる可能性もあるのだが、正直今の俺にはそこまで頭を回す余裕が無かった。




「――ヤ様、トウヤ様!」

「…………え? な、なんだ?」

 妄想――もとい物思いに耽っていた俺は、執事さんの声でハッと我に返った。

 いつの間にか馬車が止まっている様だ。何事かと彼の言葉に耳を傾ける。

「前方で騒ぎが起きてる様です」

「ケンカか?」

「いえ、それが……勇者コスモス様が何者かと争っているようです」

「オイオイ、町中だぞ」

 俺が呆れ混じりに窓から身を乗り出して前方を見てみると、そこには確かに二丁拳銃を手に派手な大立ち回りを演じる西沢秋桜こと勇者コスモスの姿があった。

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[良い点] やる夫スレからの流民です。 やる夫スレも小説も、先生が創る設定の緻密さはどの作品からも感嘆し、なるほどと思うものが多いです。 間違いなく面白いと感じています。既刊の小説は全部購入します。よ…
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