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異世界混浴物語  作者: 日々花長春
お風呂場の勇者
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第18話 いじっぱりな女の子

「もう大丈夫よ」

 その声に振り返ると、そこには着替え終えたクレナが立っていた。

 先程までの鎧下と同じ様な長袖長ズボンだが、微妙にデザインが異なる。ロ二の方も一緒に着替えた様だ。

 色はどちらも濃い紺色。服の色合いが地味だけに、二人の銀とカスタードクリームの色をした明るい髪がその分目立つ。

「それじゃそこに座って事情を説明してくれ」

 俺は地面に敷いた布を二人に勧めた。二人が一緒に座れる十分な大きさがある。

 二人を寝かせていた方の布は熱中症の治療で水で濡れてしまったので片付けた。

 二人が布の上に足を崩して座るのを見届けてから、俺も二人と向かい合う位置に敷いた布に座る。

 ルリトラは俺の右斜め後だ。彼等リザードマンは、地面剥き出しのテントを使っているだけあって元々地面の上に直接座る風習がある。

 俺達も座るとクレナは姿勢を正し、深々と頭を下げてきた。

「改めてお礼を言わせてもらうわね。私とロニ、主従共々あなた達がいなければ助からなかったわ。本当にありがとう」

 身嗜みも整え、堂に入った態度だ。

 隣に並んだロニも一緒になって「ありがとうございました!」と頭を下げる。こちらは何と言うか元気が良くて微笑ましい。 

「もう大丈夫みたいだな。二人とも無事で良かった」

 俺がそう言うとクレナ達二人は頭を上げる。先程まで顔を青くしていた二人だが、今は顔色も良くなっていた。

 金属鎧を身に着けていたため熱中症はロニよりも重症だったと思われるのに、火傷の痛みで意識を失う事も出来ない。

 しかも周りは面識もない男とリザードマンと言う無防備になる事も出来ない最悪とも言える状況。

 表面上は何とか強気な態度を取ってはいたが、クレナは内心相当辛かったのではないだろうか。

 それだけに二人が回復して元気になった事が嬉しい。

 それに今の彼女の態度を見れば無理をしていない事が分かる。それだけ俺達の事を信用し、心を開いてくれた事が何よりも嬉しかった。


 それにしても、こうして改めて真正面からクレナを見てみると、座った彼女のふとももは実にむちむちしていて思わず目を向けてしまう。

 しかし、春乃の胸をこっそり見ていた事がバレていた事を思い出した俺は、すぐに視線を上げた。

 すると丁度クレナと視線が合った。何か言いたげな表情で頬を染めているが、もしかして今の一瞬でバレてしまったのだろうか。

 とにかく俺は話を進める事にした。

「そ、そもそも、どうして二人は『空白地帯』に? 俺の方は目的があった訳だが」

「……笑わないでよ?」

「努力はする」

 クレナの隣に座るロニが心配そうな顔をして彼女を見ていた。そんなに笑ってしまう様な変な理由なのだろうか。

「私はね、『砂漠の王国』に向かってたのよ」

「南の砂漠の真ん中にあると言うアレか?」

「……笑わないの?」

 クレナは不安そうな面持ちで問い掛けて来た。

 何がそんなに不安なのかと俺は首を傾げ、そして思い出した。『砂漠の王国』に関する話は、神殿でも信憑性の低い、眉唾物の話として扱われていた事を。

 おそらくこの世界の人達にとって「『砂漠の王国』を探す」と言うのは、俺達の感覚で言えば「未確認動物(UMA)を探す」と言っているのに近い感じなのだろう。

 ロニが少し焦った様子でクレナに話し掛ける。

「あ、あの、クレナ様。トウヤ殿は召喚された方ですし、『砂漠の王国』の話を知らないのでは?」

「いや、知ってるぞ」

「えっ、そうなんですか!?」

 話が聞こえたので俺がすかさず訂正すると、ロニが驚いて俺の方を見た。またしっぽがぶわっと膨らんでいる。どうやら驚くとああなるらしい。

「言っただろ、俺はトラノオ族を助けるためにここに来たって。場所は分かってたんだから、『空白地帯』については事前に調べるさ」

「な、なるほど~……」

 ロニは人間の耳と同じ位置にある大きな狼の耳をぴくぴくさせながら、感心した様子で俺を見る。リウムちゃんとはまた違った子供っぽさが感じられる。

「笑うとすれば、荒野・砂漠用の外套も用意せずに金属鎧で荒野を旅した事だよ」

「うぐっ……し、仕方ないじゃない! こんなに暑いなんて知らなかったんだから!」

 クレナが顔を真っ赤にして反論した。

 この辺りはこの世界と俺達の世界との情報量の差が原因の様な気がする。

 俺は荒野や砂漠に行った事は無くともテレビでなら何度も見た事がある。しかし彼女達は伝聞や本でしかそれを知る事が出来ず、それ以上は自分で想像するしか無いのだろう。

「感謝してるわよ。ここまで運んで命を救ってくれたリザードマンにも……その、女としての命を救ってくれたあなたにも」

 恥ずかしそうに視線を逸らしながらお礼を言うクレナ。「女としての命」と言うのは、おっぱいの火傷を治した事だろう。

 あれは見事なむっちり巨乳だった。あれを傷痕一つ残さず治せた事は誇って良いと思う。

 そんな事を考えていると、クレナが顔を真っ赤にしたままジト目で見てきたので、俺は話題を元に戻す事にする。

「と、とにかく、『砂漠の王国』を目指している事を笑うつもりはない。話自体には俺もロマンを感じていたからな」

「……そう、ありがと」

 クレナとロニはほっとした様子だが、甘い。俺の話はまだ終わっていない。

「ただ、それを聞いたからには、お前達をこのまま行かせる訳にはいかなくなるぞ」

「準備不足って事?」

「それもあるが、俺自身砂漠の実態を知って断念した身だからな」

 そこで俺はルリトラの方に視線を向ける。

「ルリトラ、話してやれ。ため池を襲ったサンドウォームについて」

「なるほど、分かりました」

 ルリトラはすぐに俺の意図を察してくれた様だ。

 クレナ達の方に向き直り、トラノオ族の生命線とも言えるため池が砂漠のモンスター・サンドウォームに破壊された事。

 そしてそのモンスターとの戦いで何人もの戦士が命を落とした事を丁寧に語って聞かせた。

 その話を聞いて二人の表情が強張っていく。

 ロニなどは明らかに怯えた表情をしているが、膝の上で拳にぎゅっと力を込めて耐えていた。尻尾は力無くへたれ込んでいたが。

「それ以外にもジャイアントスコーピオンってモンスターもいるそうだ」

 そう言って俺は、ルリトラの鎧をコンコンと叩く。巨漢の彼の身体を包む甲殻製の鎧。材料として使われている甲殻の主がどれほどの大きさなのかは推して知るべしだ。

「荒野以上の暑さに、強力なモンスター。たとえ準備してたとしても無事に辿り着けると思うか?」

「そ、それは……!」

 クレナは言葉を詰まらせて俯いた。

 ロニがおろおろしながら、俺とクレナの顔を交互に見ている。

「根本的な問題として『砂漠の王国』は実在するのか? あるかどうかも分からない王国の遺跡を探して砂漠を彷徨うなんて自殺行為だぞ」

「じ、実在するわ! それは確かよ!」

 クレナが弾かれた様に顔を上げ、大声で反論してきた。

「そこまで言うって事は、何か証拠でもあるのか? ユピテルの神殿ではそれらしい物は見付からなかったんだが」

「それは……消されてるからよ。『砂漠の王国』の存在そのものが」

「……どう言う事だ?」

 俺が問い掛けると、クレナはばつが悪そうな表情で視線を逸らした。

 何やら躊躇している様子だ。俺に話して良いかどうか迷っているのだろうか。

「クレナ様……」

 心配そうに声を掛けるロニ。

 クレナはちらりと彼女の方を向いて小さく微笑み、そして決意を秘めた瞳で俺の方に向き直った。

「命の恩人だものね……それに、トウヤ。あなたにとってもこれは無関係じゃない」

「俺に関係してる……?」

 訝しげな表情で俺が問い返すと、クレナは神妙な面持ちでこくりと頷いた。

「『砂漠の王国』は確かに存在したの。でも歴史から消されたの」

 あえて記録を残していなかったと言う事か。それならば神殿で調べても情報が見付からなかったのも理解出来る。

 問題は何故歴史の記録から抹消されて、それがどう俺に関係しているかだ。

 そんな俺の疑問は、次の彼女の言葉で粉微塵に吹き飛んでしまった。


「魔王と魔族は……『砂漠の王国』で生まれたのよ」


 クレナから詳しい話を聞いて見ると、『砂漠の王国』が滅んだのは今から五百年以上前の話だそうだ。

「当時はこの辺りも緑豊かな土地だったらしいわ」

「魔王が生まれた時に何かあったのか?」

 俺が問い掛けると、クレナは黙って首を横に振った。

「そこまでは分からない。私はそれを調べるために『砂漠の王国』を目指していたの」

「なるほど……」

 魔王との戦いは他の勇者――主にコスモスに任せると言う考えは今も変わっていない。

 しかし、自分で出来る範囲の事であればそれをする事もやぶさかではなかった。

 魔王と魔族が生まれた地、調査する価値があるかも知れない。

「サンド・リザードマンなら何か知っているかと思ってたんだけど」

 そう言ってクレナはちらりとルリトラを見る。

 黙って話を聞いていた彼は、クレナではなく俺の方に向けて口を開いた。

「長老ならば何か知っているかも知れません」

「どう言う事だ? 砂漠には足を踏み入れないんじゃなかったのか?」

「確かにそうなのですが、代々長老のみに伝えられる口伝があるのです」

 ルリトラの説明によると、トラノオ族の長老の座は代々戦士長が跡を継ぐもので、新しい長老と戦士長は同時に選ばれるものらしい。

 そして、新しく長老となる者は、その時に先代から口伝を伝えられるそうだ。

「もしかしたら、その口伝の中に『砂漠の王国』に関するものがあるかも知れません。砂漠に足を踏み入れるなと言う話も、長老の教えですから」

「砂漠について何か知ってるから、そう言う話になる……か。だが、そんな大事な事教えてくれるか?」

「普通は無理でしょう。長老になる者以外、ましてはトラノオ族以外の者に教えられるはずがありません。しかし『女神の勇者』であり、恩人でもあるトウヤ様ならば或いは」

「なるほど……」

 考え込む俺。クレナとロニも期待する様な目で俺を見ているが、それ以上に俺自身がその話に興味があった。

 そもそも俺達が召喚された理由が封印が解けそうな魔王をどうにかしろと言うものだ。

 しかし肝心の魔王に関する詳しい情報は、ユピテル・ポリスではほとんど見付ける事が出来なかった。

 魔王をどうにかしろと言っている割には、その魔王がどこから来たのかも分からなくて妙な話だと感じていたが、その歴史が抹消されていたとすれば色々と納得がいく。

 そして、その抹消された歴史の謎を紐解く鍵があるかも知れないのだ。『砂漠の王国』には。

 正直、魔王との戦いについてはまだ乗り気とは言えない。むしろ可能であれば避けたいとも思っている。

 しかし俺は、手をこまねいて逃げてばかりはいられないとも考えていた。

「長老、まだ起きてるかな?」

「今夜は皆警戒しているでしょうから、おそらく」

 そう言ってルリトラは視線をクレナ達に向ける。

 元・戦士長のルリトラが連れて来た俺と違って完全に外部の人間なので、リザードマン達も警戒しているのだろう。

「二人を放置ってのも不味そうだな。四人で聞きに行ってみるか」

「分かったわ。行くわよ、ロニ」

「はい、クレナ様!」

 クレナとロニだけをテントに残して行けば、二人もトラノオ族の皆も不安がるだろう。

「武器は返せないが勘弁してくれ。俺と一緒にいれば集落の中での安全は保証する」

「トラノオ族の恩人、それだけの立場って事ね。分かった、信じるわ」

 俺は『空白地帯』周辺の地図を持ち、はルリトラ、クレナ、ロニの三人を連れて長老のテントへと向かった。

「あ、布も持ってくぞ。他の家には無いから」

「リザードマンはなんで地べたでも平気なの?」

「そうは言っても、我々にとってはこれが普通だからな」

 座るための布を忘れずに持って。


 テントを出ると、いつのもの倍の四部隊でテント周辺の警備をしていた。その中にはドクトラの姿もある。

「ルリトラ、客人を連れてどこへ行くのだ」

「長老の所へ話を聞きにな」

「ほう、俺も行っても構わんか?」

「ああ、ドクトラならば構わないだろう」

 彼は今の戦士長。いずれ長老となる時に口伝を受け継ぐ立場だ。

 ドクトラも連れて五人で長老のテントに行くと、向こうも二人の事情が気になっていたのだろう。すぐに会ってもらう事が出来た。

 中に入ると、そこにはドクトラのそれよりも立派な羽根飾りを被った長老がいる。

 長老と言う言葉から、身体が小さく、背が曲がった老人をイメージする人も多いだろうが、トラノオ族にはそれは当て嵌まらない。

 何せトラノオ族の長老は代々戦士長が受け継ぐもの。目の前にいる長老も例に漏れずルリトラ、ドクトラに並ぶ巨漢のサンド・リザードマンだ。

 リザードマンと言うのは見た目で老若男女を区別するのが難しいが、年を重ねるごとにウロコが分厚くなると言う特徴があった。

 くすんだ琥珀色のごつごつしたウロコが、彼の年齢を表している。


 持ってきた布を敷いて長老の向かいに座った俺は、早速『砂漠の王国』について尋ねた。

「なるほど、それで口伝を。残念ですが、代々の長老に伝わる口伝は群を率いる上での注意すべき事ばかりなので……」

 だが、長老はゆっくりと首を横に振った。口伝の中に砂漠の王国に関する物は無いらしい。

 それでも諦めきれないクレナが食い下がる。

「ちょっと待ってよ! そんなはずないわ、あなた達は『砂漠の王国』の末裔だって聞いてるわよ?」

「あ、その話は俺も聞いた事がある。実際のところはどうなんだ?」

 クレナに便乗して俺も尋ねてみた。

「それは誤りですな」

 しかし、長老はあっさりとそれを否定する。

 長老に聞いてみると、彼等トラノオ族がこの地に移り住んだのは『空白地帯』が出来た後の話らしい。

 つまり『砂漠の王国』に住んでいた人達がサンド・リザードマンになったと言う説は迷信でしかなかったと言う事だ。

 彼等の先祖は『空白地帯』の更に南方から来たらしいが、砂漠の北側まで来る際もやはり砂漠は迂回して進んだらしい。

 口伝の中に砂漠が危険だから近付くなと言うのがあるのは確かなのだが、それも単に砂漠のモンスターを警戒する様にと言う教訓でしかないそうだ。

「そんな……」

 当てが外れてしまい、その場に力無く崩れ落ちるクレナ。ロニが慌ててそれを支える。

「しかし、トウヤ殿は何故『砂漠の王国』の事を?」

「クレナ達が言うには、そこが魔王と魔族が生まれた地らしくてな」

 俺の言葉を聞いて、あごに手を当てたドクトラが考え込んでいる。

「しかし、砂漠から魔族が来たと言う話は聞いた事がないぞ」

「俺も無いな。仮に魔王と魔族が生まれた地だとしても、今はもういないのかも知れん」

 ドクトラとルリトラが顔を見合わせて首を傾げた。

「魔族……」

 一方長老は何やら考え込んでいる。

「何か気になる事でもあるのか?」

「『砂漠の王国』と関係しているかは分かりませんが、口伝の中には魔族に関するものもあるのです」

「砂漠とは関係なく?」

「ええ、直接は」

 ルリトラとドクトラはもちろんのこと、クレナとロニも顔を上げて長老を見た。

「我々の先祖が南方からこの地に移り住んで来たと言うのは先程お話しした通りです」

「『空白地帯』が出来てからって話だったな」

「ええ。その際に南側から『空白地帯』に入り、西回りで砂漠を迂回してこの地に辿り着いたそうなのですが……その旅の途中で魔族の襲撃を受けたそうです」

「魔族の? 砂漠じゃなくて荒野だよな?」

 俺が問い掛けると、長老は大きく頷いた。

「私も詳しくは知りませんが、西側の荒野には大きな門があり、そこから魔族が溢れ出て来たそうです。そしてその門の向こうは巨大な地下通路が広がっていたとか」

「地下通路……もしかして、砂漠に向けてか?」

 長老は再び頷いて俺の言葉を肯定する。

 クレナもその意味を理解したらしい。俺の肩に手を置き、俺の背にもたれ掛かる様にして話を聞いている。

 思いっ切り背中に柔らかな感触が当たっているのだが、本人はそれどころではない様だ。

「当時の長老は、戦士長と力を合わせてその門を叩き壊して通れなくしたそうです」

「厳重に封印したとか、そう言うのじゃないのね」

「そんな魔法の様な力は我々にはありませんよ」

 クレナが確かめる様に問うと、長老は笑ってそれを否定した。

「調べてみる価値はあるか。その場所、教えてもらえるか?」

「口伝の一部ですが、トウヤ殿にならば……」

 そう言って長老はクレナとロニに視線を向ける。恩人である俺はともかく、余所者のクレナとロニには教えられないのだろう。

 その視線に気付いたクレナはすくっと立ち上がる。

 背中から柔らかな感触がなくなった俺は、振り返って彼女の顔を見た。

 気を利かせてテントを出るかと思いきや、そこで彼女は予想外の一言を口にする。

「大丈夫よ、問題無いわ! だって私は……トウヤに命を懸けて恩返ししなくちゃならないんだから!」

「いのちっ!?」

「…………はい?」

 悲鳴の様な声を上げるロニに、思わず間の抜けた声を出してしまう俺。

 長老、ルリトラ、ドクトラのリザードマン三人も呆気に取られて目をパチパチさせていた。彼等リザードマンは驚くと瞬きの回数が増えるのである。

 俺も立ち上がってクレナの方に向き直った。

「ちょっと待て。どう言う事だ、それは」

「あなたは私にそれだけの事をしてくれた。そう言う事よ」

「だからどう言う事だよ」

「さっきも言ったでしょ。私とロニの命を救ってくれて、更に私は女としての命も救われた。私はあなたに二つの命を救われたのよ」

 つまり俺にとっては行き倒れの少女達を助けて治療しただけだが、クレナ側から見れば貴族のお嬢様に一生物の傷が残るかどうかの瀬戸際だったと言う事だ。

「今の私にはお金とかでお礼をする事は出来ないわ。本当ならお嫁さんになるくらいはしないといけないんだろうけど、今はまだ……」

「いきなり命を懸けるってだけでも相当な話だよ」

 囚われのお姫様を救い出したと言うか、「娘の命を助けたお礼に嫁に」と言う類の話だと考えれば理解出来なくもない。

 クレナの場合、家から勘当されている様なものだと言っていたが、本人の貴族としての矜持と言うものがあるのだろう。

「そこまでするか……」

「そこまでしたのよ、あなたは」

 クレナは穏やかな顔付きで胸に手を当てて言う。

「…………」

 絶句する俺。その彼女の表情を見て理解してしまった。

 クレナは嫌々言っている訳でも仕方なしに言っている訳でもない。本気で命の恩と引き替えに自分を俺に差し出そうとしている。

 視線を少し下に向けると、十五歳と言う年齢の割にはスタイルが良いむっちりした身体がある。

 更に下に向けると、座ったままのロニと目が合ったので、俺は慌てて視線をクレナの顔に戻した。

 こうして見てみると可愛い子だ。ふんわり柔らかい銀色の内巻きボブヘア。パッチリした目の愛らしい顔立ちをしている。

 俺の石鹸を使えば髪も艶やかになり、肌もきれいになって更に可愛くなるだろう。

 ハッキリ言ってしまおう。そんな彼女が俺のために命を懸けてくれる。その申し出、そこに込められている想い自体はすごく嬉しい。

「命をどうこうって言う話はひとまず保留で。とにかく『砂漠の王国』を探す事について、協力する意志はあるって事で良いよな?」

「ええ、もちろんよ。それは私の望みでもあるから」

 だが俺は、ひとまず「旅の仲間」と言う事にしてこの場を収める事にした。

 へたれと言わないで欲しい。初対面で命を懸けるとか、そう言う話をされても困るのだ。

 ただ、それを抜きにして考えた場合、『砂漠の王国』を目指すと言う目的は同じであり、また悪人と言う訳でもなさそうなクレナ達は仲間にする分には何の問題も無かった。

 むしろこんな可愛い少女の二人組とか、こちらから望むところである。

 ちゃんと仲間は増やし、皆まとめて混浴出来るぐらいの力を手に入れる事は、春乃さん達とも約束した当初の予定通りなのだから。


 話がついたところで俺が再び腰を下ろすと、クレナもそれに倣った。それを確認すると、俺は再び長老の方に向き直る。

「長老、この二人は俺の仲間だ。それでも話せないなら二人は先にテントに戻ってもらうが」

「フム……まぁ良いでしょう。口伝と言っても、その部分はそこまで重要なものではありません」

 今は『空白地帯』の北側を住み処にしているトラノオ族にとって、ここに来る途中の西側の情報はそこまで重要なものではないらしい。

 かと言って軽々しく話して良いものでもないが、クレナ達二人に関しては俺が仲間として責任を持てば良いと言う事であろう。

「場所は西側の――」

 長老が教えてくれた門があった場所の説明は、俺やクレナ達にはちんぷんかんぷんだった。どうもサンド・リザードマン特有の表現が混じっていたらしい。

 しかし、ルリトラはちゃんと理解出来た様なので特に問題は無かった。

 俺は持ってきた地図を広げて、教えてもらった場所を確認する。

「ルリトラ。門の位置、この地図のどこら辺か分かるか?」

「この地図では詳細は分かりませんが……大体この辺りかと」

 そう言ってドクトラと一緒に地図を覗き込んだルリトラは、地図上の『空白地帯』の西側をなぞって指で丸を描いた。結構範囲が広い。

「いや、南寄りだな」

 すると長老が手を伸ばして、ルリトラが描いた丸の南半分を爪でトントンと叩く。

 特定とはいかないが、かなり範囲を絞る事が出来た。これ以上は現地に行って確認するしかないだろう。

「だとすると、西に真っ直ぐ行って『空白地帯』を抜けてから、更に南下ってところかしら」

「ケレス・ポリスまで行ったら、そこから東ですね」

 クレナが地図上でルートをなぞり、ロニがその先にある大きな街のマークを指差す。

 それはユピテル・ポリスと同じマークで、すぐ側にこの世界の文字で「ケレス・ポリス」と書かれていた。

「ケレスって言うのはどう言う国なんだ?」

「農業が盛んな国ですね」

「へぇ、のどかそうな国だな。次の目的地はそこか」

 俺の問いにはロニが答えてくれた。

 そこまで話したところでルリトラがハッと顔を上げた。

「ああ、そう言えば報告を忘れておりました。長老、ため池に十分な量の水が貯まりました」

 行き倒れたクレナ達を預かって面倒を見ていたので、長老に水が貯まった報告をしに行くのを忘れていたのだ。

 するとドクトラは残念そうな顔をして尋ねてくる。

「とすると、もう旅立つのか? ルリトラも」

「ああ、準備が出来次第な。トウヤ様はトラノオ族の恩人。俺はレイバーと言う立場だが、任期は関係なしにこのお方の旅に付いて行くつもりだ」

「そうか……ならば何も言わん! 群は俺に任せて行って来い!」

「ああ、頼んだぞドクトラ!」

 そう言ってがしっと肩を組み合うルリトラとドクトラ。

 長老も旅の準備はトラノオ族総出で手伝うと申し出てくれた。旅の間の食料はここで用意しなければならないので有難い話である。

 場所が場所だけに手に入る物は限られているが、俺自身ここで既に半月暮らしている。特に問題は無いだろう。

「トウヤ様、今夜はドクトラ達と酒盛りをしてきても良いでしょうか?」

「ん、ああ、そうだな。旅立ったらまたしばらく会えなくなるだろうし。集落の中にいる内はお前の護衛が無くても大丈夫だろ。準備する時以外は好きにすればいい」

「ありがとうございます!」

 レイバーだからと言って、彼の自由を奪うつもりはない。

 旅立ちが近いと言う事もあり、俺はルリトラに自由時間をやる事にした。

 するとルリトラとドクトラは長老に向かって頭を下げ、二人一緒に嬉しそうにテントを出て行った。他の戦士達も一緒に酒盛りをするのだろう。

 この世界には未成年が酒を飲んではいけないと言う法律はなく、余程子供でない限り普通に酒を飲む事が出来る。

 と言っても、オリュンポス連合で一般的に飲まれている酒は、技術の差かアルコール度数が甘酒並に低いらしい。

 この世界では高級品なワインなどになると、俺達の世界の物と同じ相応のアルコール度数になるらしいが。

 ちなみに二十歳の勇者、神南夏輝から聞いた話である。

 とにかく俺は神殿では酒が出なかった事もあって、今のところこの世界でも酒を飲んだ事は無かった。

 今回もルリトラ達の別れを邪魔しない様に、クレナとロニの二人を連れて三人でテントに戻る事にする。

 長老にぺこりと頭を下げてから長老のテントを出る俺達。

 テントの外に出てみると、早速ルリトラ達が飲み始めていた。俺達はそれを横目に自分のテントへと戻って行く。

 その道すがらクレナ、ロニの二人と並んで歩いていた俺は、ふとある事に気付いた。

「ルリトラのヤツ……もしかして、気を使ったのか?」

 それはルリトラにしか分からない事である。

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