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異世界混浴物語  作者: 日々花長春
お風呂場の勇者
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第14話 『空白地帯』

 夕食を食べた後、俺は毛布を一枚持って『無限バスルーム』に入る。

 防具を身に着けたまま入ると錆びてしまいそうなので、ルリトラに手伝ってもらい防具を全て外してから入った。

 入浴後は、そのまま朝まで中で休む事になっている。風呂の湯を全て流し、『無限バスルーム』の機能で浴室を乾燥させれば十分寝られる状態になるのだ。

 浴槽のすぐ側の壁に湯の温度などを調整する操作パネルがあった。浴室乾燥もそこにある機能の一つである。

 こうして浴槽からお湯が無くなっても、一度外から扉を閉めて再び開けば湯量は元通りになっているのだから便利な能力である。

 ちなみに外に持ち出したり、使用して消費した物を元に戻すには俺のMPが必要になるが、排水口に流したお湯は、俺のMPに還元されている感覚がある。

 幸い、『無限バスルーム』の中の脱衣室は広いとは言い難いが、毛布に包まって寝る分には十分な広さがあった。

 ルリトラ曰く、下手に交代で見張りをするよりも一人で野宿する方が安全らしい。一晩ゆっくり休めるのは有難いのだが、やはり俺はまだまだ足手まといの様だ。


 そして次の日は山越えなのだが、これは人力車に乗る俺にとっては楽な道程だった。山道では人力車を曳きながら全力疾走する事が出来ないのだ。

 この日は人力車に酔う事もなく、景色を楽しむ余裕もあり、俺達は順調に山を越える。

 木々に挟まれた道だったため、周りは木ばかりの単調な景色だったが、木々が風にそよぐ音や時折聞こえる鳥の声が俺を楽しませてくれたものだ。

 おかげで昼食も夕食も美味しくいただく事が出来た。メニューはどちらも昨日と同じなのだが、天と地ほどの差があった様に思える。

 料理を楽しむ余裕が出来てくると、今度はもう少し料理のバリエーションを増やしたいと考えてしまう。

 俺もルリトラも料理が出来ないと言う訳ではないが、決して得意ではない。俺達のどちらかが料理のレパートリーを増やすか、料理上手な仲間が欲しいところである。

 日が暮れてからも少し進んで山を越え、少し遅めの夕食を済ませた俺達。この日も俺は『無限バスルーム』の中で休む事にした。

 今日は自分では楽なつもりだったのだが、身体は疲れ切っている様だ。まぶたが重い。

 旅立つ前に計った時のレベルは12。この世界の目安で言うと、素人以上一人前未満だ。

 一月の訓練でここまで行ければ十分と言う気もするが、春乃さん達との混浴を実現するためにはまだまだ足りない。

 二日の旅を経て思ったのだが、俺の肉体はリザードマンであるルリトラは当然の事、モンスターと隣り合わせて生きてきたこの世界の人間にも及んでいないのではないだろうか。

 レベルとステータスは連動している訳ではない。

 俺はレベル12だが、ステータスの方が全然足りていない。そう考えた俺は、『無限バスルーム』の扉を閉める前に焚き火の前で休んでいるルリトラに声を掛けた。

「なぁ、ルリトラ」

「なんでしょう?」

「今の俺のMPだとさ、一日に水を出し続けられる時間って六時間ぐらいなんだ」

「神殿に居た頃は、もう少し短くありませんでしたか?」

「夜に石鹸とか増やすために、水の方は加減してたんだよ」

 全ては春乃さんに綺麗な艶ある黒髪でいてもらうためである。

「六時間出すとその後は動けなくなると思う。そこでだ、お前の故郷のため池に水を溜める時は、午前中に身体を鍛えて、午後から身体を休めながら水を出そうと思う」

 水を出している間と言うのは、結構暇なのだ。

 一応、神官長さんから神官魔法を勉強するための本を餞別代わりに貰ってきたが、今はまず身体を鍛える事を優先したい。

「と言う訳で、何か良い方法あるか? 神殿でやってた模擬戦でも良いんだけど」

「そう言う事ならば、狩りなどはいかがでしょうか? 自らの足で荒野を歩き、モンスターと戦うのです」

「狩りか……そう言えば、実戦はまだ経験していないな」

 幸か不幸か、昨日も今日もモンスターに遭遇する事は無かった。

 ルリトラ曰く、全力疾走中のリザードマンに近付く野生モンスターはそうそういないとの事。

 今日は人力車が大きな音を立てていたためだろうとも言っていた。この辺りのモンスターの生態は野生動物のそれに近く、積極的に人を襲う訳ではないらしい。

 彼等も知っているのだ。わざわざ山の中に足を踏み入れる様な人間は、大半が狩人か狩りのために来た戦闘レイバー達。武装しており、黙ってエサになる獲物ではないと言う事を。

 と言う訳で俺の実戦経験は、コスモスが拐かされそうになっていた少女を助けようとしていた時に、悪徳高利貸しの背後に回り込んで首にナイフを突き付けたぐらいであった。

 魔王や、魔王に代わって暗躍していると言う魔王軍の幹部に挑もうとは思わないが、モンスターとの戦いは今度も避けて通る事は出来ないだろう。

 何より、モンスターを倒し祈りを続ける事で加護の力を手に入れて自分のそれを強くする事が出来ると言う話だ。模擬戦よりも効果が高いだろう。

「よし、それで行こう」

「その時の護衛はお任せ下さい」

「ああ、頼む。それじゃおやすみ、ルリトラ」

 そう言って俺は『無限バスルーム』の扉を閉めた。明日はまた二日の距離を一日で踏破する強行軍である。

 出来るだけ体力を回復させておかねばならない。

 『無限バスルーム』の操作パネルは、普段は時計が表示されている。今の時間を見てみると午後九時三十分を示していた。

 元の世界ではまだまだ起きている時間だったが、俺は早々に毛布に包まって眠りに就く事にする。


 そして翌朝、『無限バスルーム』を出た俺は朝日に照らされた「山の向こう側」を見た。草も木も少なく、見渡す限りの荒野が広がっている。

 昨日の山道も途中から薄暗くなっていたので気付かなかったが、振り返って見ると山もこちら側は木が少なく岩が目立っている。

 ルリトラの故郷であるこの荒野はユピテル・ポリスの南方に位置する『空白地帯』と呼ばれる地域だった。

 この辺りの事については、ルリトラを買った日から調べ始めていた。と言っても実際に調べたのは神殿の神官達であり、俺はその報告を聞いただけなのだが。

 何故『空白地帯』と言う名前なのかと言うと、オリュンポス連合の中央やや南寄りに位置しているこの地帯には国はおろか町や村、集落すら存在しないためである。

 と言うのも、この『空白地帯』は中央に砂漠があり、それを取り囲む様に荒野があるだけの不毛の大地なのだ。

 地図で見ると、『空白地帯』は南側が長い歪な菱形の形をしていた。

 北側は山があるため、それ以上『空白地帯』が広がらなかったのだろうと言うのは、調べてくれた神官の弁である。

 ここから先は伝承の類なのだが、かつて『空白地帯』の中央にある砂漠、その更に中央には一つの国があったらしい。

 その国は何かしらの原因で滅び、その原因が『空白地帯』を不毛の大地にしたそうだ。

 それからこの空白地帯に住むのは、サンド・リザードマンとモンスターだけとの事。実は滅んだ国の末裔がサンド・リザードマンになったのではないかと言う説もあるらしい。

 滅んだ王国と言う言葉には非常に冒険心をくすぐられるが、残念ながら神殿ではその滅びた王国に関する情報は見付からなかった。

 調べてくれた神官達によると、不確かな伝承ばかりでそんな国が存在していかどうかも怪しい迷信の類であるとの事だ。

 迷信と言うのはファンタジー世界にも存在しているらしい。

 非常に残念ではあるが、素人に毛が生えた程度の状態でそんな場所に行くのは無謀だと思うので丁度良かったのかも知れない。

 何より、今やるべき事はルリトラの故郷を救う事だ。

 俺は朝食の準備をしながらルリトラに声を掛けた。

「この先にルリトラの故郷があるのか」

「ええ、修復したため池の側にいるでしょう」

 ルリトラの故郷と言っても、集落などがある訳ではない。彼等サンド・リザードマンは定期的に住む場所を変える流浪の民だ。

 これだけ生活環境が厳しい場所だけに、何時もならば水がある場所に水が無いと言うのは非常に困るのだろう。

 水が無いにもかかわらず彼等がため池の近くから離れないのは、他の場所に行っても水が無いからである。

 それにしても、まだ朝だと言うのにここは暑い。この世界では今は春だと言う話だが、ここは夏になったらもっと暑くなるのだろうか。俺は額の汗を拭いながらそんな事を考えた。

「なぁ、ルリトラ。あの外套、もう着た方が良いか?」

 あの外套と言うのは、ルリトラの故郷では身に着けないと危ないと言われた荒野・砂漠用の外套の事だ。

 ルリトラは手で日差しを遮りながら空を見上げて答える。

「いえ、この日差しならば荒野を進んでいる限り大丈夫でしょう」

 結構キツい日差しだと思うのだが、ルリトラ的には大した事は無いらしい。

「それよりも鎧の方を身に着けない方が良いかも知れません」

「大丈夫か?」

「全力で走ればモンスターの方から逃げて行きます」

 自信有りげなその答えを聞いた俺は、ルリトラを信じて防具は身に着けない事にした。

 そして荷物の中から二本の棒と中に入っていた食料が無くなって空になった麻袋を使って人力車に即席の屋根を作る。

 外套は必要なくてもせめて直射日光は防ごうと言う一工夫である。


 昼食を食べる余裕は無いかも知れないので、朝食はがっつりと食べてから出発する。

 メニューはやはり昨日と同じだ。神殿で料理も習っておくべきだった。本気でレパートリーを増やすか料理上手の仲間を探す事を考えた方が良いかも知れない。

 そして一日振りに始まるルリトラの全力疾走。

 相変わらずの揺れだが、尻尾を避けて横たわった俺はじっと耐えた。

 正直な所、俺はルリトラが水を求めると言う話を聞いた時、真っ先にイメージしたのは元の世界における水道の断水だった。

 つまりは、そこまで深刻には捉えていなかったのである。今朝、『無限バスルーム』から出るまでその認識だった。

 だが太陽が昇り、『空白地帯』の暑さを実感して考えが変わった。一刻も早くトラノオ族の所まで辿り着いて水を出してやらねばならないと。

 日が昇るにつれて俺は汗だくになっていた。ルリトラの方は慣れているのでまだ余裕があったが、俺の方が保ちそうにない。

 そのため時折休憩を取り、『無限バスルーム』の中から水を出して水分補給をした。もちろん塩分の補給も忘れない。

「山一つ越えただけで、こんなに気候が違うのかよ。どうなってんだ、この世界は」

「『空白地帯』の気候は『砂漠の王国』が原因だと言われていますが、詳しい事はこの地に住む我々にも分かりません」

 休憩中の俺のぼやきにルリトラは律儀に答えた。

「例の砂漠の真ん中にあるってヤツか……」

 俺の言葉にルリトラが頷く。そう言う彼等も、砂漠まで足を踏み入れる事はほとんど無いため、本当にそんな物があるかどうかは分からないらしい。

 俺の世界にあるフィクションの物語などを参考に考えれば、実はその国は高度に進んだ科学文明か魔法文明を持っていて、何かの実験に失敗して滅んだと言ったところだろうか。

 これは俺の勝手な推測と言うか妄想に過ぎないのだが、もしその余波でこの気候になったのだとすれば何とも迷惑な話である。

 少し早いが、ついでに昼食も済ませておく事にする。食べられる内に食べておくのだ。と言ってもパンに切ったハムを挟んだだけの簡単なサンドイッチだが。


 食事も終わり、休憩を終えて再び出発しようとしていたところで、俺は荒野の向こう側に土煙が上がっているのが見えた。

「なんだありゃ?」

 ルリトラも土煙が上がる方をじっと見て、そして声を上げる。

「あれは……仲間だ!」

「仲間? って事は、トラノオ族か?」

「はい! あれは群の戦士達です!」

「俺達を狙ってる……って訳ではないよな?」

「おそらく我々の接近に気付いて様子を見に来たのでしょう。俺に気付けば大丈夫です」

「じゃあ、気付かれやすい様にして近付いてくれ」

「ハッ!」

 ルリトラは人力車の後ろに積んであったグレイブを持ち、それを大きく振り回しながら俺の乗った人力車を曳いて土煙の方へと近付いて行く。流石に全力疾走ではなくゆっくりと。

 少し進んだ所で、俺はリザードマンの戦士達に取り囲まれた。

 数は十人。皆ルリトラと同じ琥珀色のウロコに覆われて尻尾には黒い縞模様がある。サンド・リザードマンのトラノオ族だ。

 皆お揃いの前掛けを身に着け、槍を手にしている。

「ルリトラ! やはりルリトラか! 戻って来られたのか!?」

 その中でも一際からだが大きく、頭に羽根飾りを付けたリザードマンがルリトラに気付き声を上げた。よかった。気付かれないまま戦う事になったらどうしようかと思っていた。

「ああ、良き買い手に巡り会えてな」

「その鎧を見れば分かる。ジャイアントスコーピオンか? それは」

 大きなリザードマンは物珍しげにルリトラの鎧を見ている。

 ジャイアントスコーピオンと言うのは、この『空白地帯』の砂漠に生息するモンスターの中でも指折りの強さを誇るらしい。

 その甲殻を使った鎧を身に着けているのを見れば、ルリトラがどう言う扱いをされているのか彼等にも分かるのだろう。

「ルリトラ。知り合いみたいだが、俺にも紹介してくれ」

「失礼しました。この男の名はドクトラ、トラノオ族の戦士長を務める者です」

「ルリトラの後を継いだ新米だよ」

 そう言ってドクトラと言う名の大きなリザードマンは豪快に笑った。

 ドクトラは、ルリトラと並んでも遜色が無い巨漢だ。

 二人を比較するとルリトラはがっしりしているが引き締まった体付きで精悍な顔をしているのに対し、ドクトラの方は横幅が更に広く、顔も丸顔に見える。腹も太鼓腹だ。

 その顔付きはトカゲと言うよりも「少し丸くしたティラノサウルス」と言ったところだろうか。全体的に「分厚い」体格をしている。力は相当ありそうだ。

 他の九人のリザードマンは、多少の差はあれどルリトラ達の肩ぐらいの背丈だ。おそらく彼等の方がリザードマンとしては平均的なのだろう。

「ドクトラ、このお方はトウヤ様。今の私の主だ」

「ほうほう……ん? では何故ルリトラは戻って来られたのだ?」

 ドクトラが首を傾げて尋ねてくる。レイバーとしての任期を終えて戻って来たと思っていたらしい。

 するとルリトラはチラッとこちらに視線を向けてきた。俺の事についてどこまで話して良いのか確認したいのだろう。

「いや、俺にはまだこの世界の常識的な判断ってのが分からないからな。どっちにしても見られる事になる訳だし、ルリトラが信用出来るって相手なら言っても良いんじゃないか?」

「分かりました。そう言う事ならば彼等にも事情を説明しましょう」

 俺の返事を聞いて頷いたルリトラは、不思議そうな表情で顔を見合わせているドクトラ達の方に向き直った。

「ドクトラ、このお方は『女神の勇者』様だ。水を出せるギフトを授かっておられる」

「勇者!? 水だと!?」

「あ、勇者って部分は聞き流していいぞ。今の俺にゃ自覚も実力もねーから」

 驚きの声を上げるドクトラに対し、ルリトラの背後、人力車の上からツっこんでおいた。

「俺を売った金で水が届いていたはずだが、そちらの方はどうなっている?」

「使う量を減らして何とか保たせているが、そろそろ底を突きそうだ。雨が降るまであと二ヶ月程、長老が頭を抱えていたよ」

「そうか。だが安心しろ。トウヤ様のギフトがあれば、皆を救う事が出来る。トウヤ様は、そのためにここまで来られたのだ」

「ギフト……そうか、異世界から召喚された!」

 ギフトを持っているのは光の女神の祝福を受けた者、すなわち異世界から召喚された者のみだ。新たにこの世界に降臨する者に、女神が祝福を授けるらしい。

 そのためギフトと言う言葉でドクトラも俺の正体に気付いた様だ。『女神の勇者』と言う称号は『光の女神の神殿の勇者』では長過ぎると直前に変えたものなので当然であろう。

 彼が大声を上げると、他のリザードマン達も騒めき出す。皆の視線が俺に集中して、微妙に居心地が悪い。

 そこで俺は、ルリトラに早くここから移動する事を提案した。

「ルリトラ、お前の仲間の所に急がないか? まだ尽きてないみたいだが、水は今でも足りないんだろう?」

「た、確かにそうですね」

「揺れはもういい、気にするな。思いっ切り行ってしまえ」

 最悪、俺自身はダウンしていてもMPがあれば水は出せる。

「ん? 揺れがどうした?」

「ああ、気にしないでくれ。この人力車、ルリトラが全力疾走すると揺れが酷くてな」

 ドクトラが尋ねて来たので、俺は軽く人力車の揺れが酷い事に触れておいた。

 それを聞いたドクトラは、人力車の車輪を見ながら「脆そうだ」と呟いている。その豪腕から見れば、大抵の物は脆いんじゃないかと思う。

「そう言う事ならば俺の背に乗れ」

「は?」

「この車はルリトラに運ばせれば良い」

「トウヤ様、人力車よりはそちらの方が揺れないと思います」

「そ、そうか? それじゃ世話になるかな」

 尻尾を避けて横になっているよりかはマシかも知れない。ルリトラも勧めて来たのでそう判断した俺は、荒野・砂漠用の外套を羽織ってドクトラの背に乗る事にする。

 仮にも高校生である俺がおんぶされると言うのもどうかと思ったが、いざドクトラの背に乗ってみるとそれは杞憂だった。

 二ストゥートを越える身長で、ルリトラよりも横幅がある大きな背中。俺の方が子供に戻ってしまった様な錯覚を覚える。

 そして三頭のリザードマンが先頭に立ち、その後ろにドクトラ、人力車を曳いたルリトラが続き、周りを他のリザードマン達が固める隊列で皆が走り始める。

「マジで揺れねぇぇぇッ!!」

 驚いたのは、本当にドクトラの背が揺れなかった事だ。

 全力疾走しているので油断していると振り落とされてしまいそうな程の風を感じるが、全く揺れは感じない。

「がっはっはっ! 安定感ならルリトラにも負けんぞ!!」

 驚く俺に気分を良くしたのか、ドクトラが陽気な声を上げる。本当に、これなら酔わずに済みそうだ。

 それにしても背に乗っているため自分では見られないが、前傾姿勢で走るドクトラの姿は正にティラノサウルスなのではないだろうか。

 恐竜の様なリザードマンの背に乗って荒野を疾走し、風を感じる。

 元の世界では世界中を旅行して回っても、こんな体験は出来ないに違いない。

 こう言う所も、この世界に来て良かった点の一つかも知れない。

 そんな事を考えながら、俺は振り落とされない様にドクトラの背にしっかりとしがみ付いていた。

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