第127話 名刀乱舞
第118話で登場した本丸外側の大きな階段をスロープに変更しました。
第118話の方は修正済みです。
「私の名はコパン……ですが、かつては別の名を持っておりました。トウヤ殿ならご存知でしょう。五大魔将が一人……そう、私が『炎の魔神』でございます」
その言葉を聞いた瞬間、俺は無言でソトバの剣を大きく振りかぶった。
「落ち着け」
魔王にたしなめられてしまった。
一方『炎の魔神』は、こちらの動きは意に介していないのか、以前と変わらぬにこやかな笑顔で近付いてくる。
「こっそりですが、見ておりましたよ。ヘパイストスでの勲章授与式」
「なに?」
「……楽しんでいただけましたかな?」
その言葉を聞いた瞬間、俺は無言でソトバの剣を大きく振りかぶった。
「だから落ち着けと言っておろう」
再び魔王にたしなめられてしまった。
かくいう魔王にもどこか呆れの色が見える。なるほど、元々魔王がこうなるような性格をしていたという事か、『炎の魔神』は。
まぁ、ネプトゥヌスなどで世話になった事は確かだ。ヘパイストスの件は、俺達の方から首を突っ込んだんだ。彼と敵対している訳でもない。そう自分に言い聞かせて気持ちを落ち着かせる。
「あまりからかってやるな」
「善処いたします」
和やかに会話しているように見えてお互いに牽制のオーラを迸らせあう二人を横目に、『白面鬼』と『魔犬』は、従業員達を落ち着かせるために動き出した。
そのタイミングで、俺達も春乃さん達のところに移動する。
キュクロプス達が心配そうにこちらを見ている。ルリトラ達が彼女達を囲んで守り、周囲を警戒している様子を見るに、白蘭商会が敵に回った可能性も考えていたようだ。春乃さんも剣を抜いている。
まずは安心させようと兜を脱いで皆に顔を見せると、デイジィが飛んできて俺の肩に腰掛け、髪を掴んでしがみついてきた。その手は震えている。余程怖かったのだろう。
羽を小さく折り畳んだ彼女の背を撫でながら皆の側まで行くと、次はラクティが飛びついてきた。ロニも駆け寄ってきて、隣のクレナに無事ですか、怪我はありませんかと矢継ぎ早に問いかけている。
「……どうなってるの?」
銀の串を持ったリウムちゃんが尋ねてきた。完全に警戒態勢だ。
そこで魔王が復活したがひとまずは戦いを回避できた事、この騒ぎの原因は魔王ではなく『闇の王子』達だという事を皆に伝えた。
この話に安心できる要素はあまり無いのだが、それでも白蘭商会を警戒し続けるよりはマシだろう。現状では『闇の王子』よりも魔王の方が話が通じそうだし。
「その……色々とあったみたいですね」
話を聞き終えた春乃さんは剣を鞘に収め、小さく息を吐いた。
セーラさんは何やら疲れた顔をしている。
「そっちは大丈夫でした?」
「え、ええ……丁度買い物が終わったところだったんですけど、私だけが衝撃を感じたみたいで何事かと……。そしたらラクティちゃんが魔王が目覚めたって言い出して、慌てて戻ってきたんですよ」
答えたのはセーラさんではなく、春乃さんだった。
春乃さんによると、セーラさんはラクティの話を聞いて一度卒倒したそうだ。それでそんな顔をしていたのか。
とはいえ、彼女ならば落ち着けば大丈夫だろう。今はそっとしておこう。
それにしても、春乃さんだけ感じた衝撃というのが気になるな。詳しく聞いてみると、足下から頭にかけて衝撃が突き抜けたような感覚だったそうだ。
魔王が眠っていたのはこの町より深い地下、方向は合っているな。まさか勇者だから魔王の目覚めを感じ取ったとでもいうのだろうか。
いや、有り得るな。俺達は光の『勇者召喚』で、魔王達は闇の『勇者召喚』でそれぞれ召喚された身だ。そういう事があっても不思議ではない。
魔王が復活したのは、おそらくあの薄布を剥がしてしまった時。俺はクレナと雪菜と一緒に倒れ込んでいたので気付けなかったのかもしれない。
だが、そうだとしたら、ひとつ問題がある。
「もしかして、昨日アレスに着いたコスモスも……?」
「……感じたかもしれませんね、あの衝撃」
まずい、コスモスの事だからきっと大急ぎで調べに来るぞ。悪いヤツではないのだが、魔王に会った時どう動くかが予測できない。
こちらの話がどうまとまるにせよ、まとまる前に乱入されるのはまずい。そう判断した俺は、魔王達に話の続きは『無限バスルーム』でしないかと提案した。
白蘭商会で話をする場合、キュクロプス達は別の場所で待たせる事になるので、それなら『無限バスルーム』の中に入れてしまった方が良いという意味もある。
「『魔犬』の言っていた空間か……よかろう」
魔王もすぐさま承諾し、『魔犬』と『白面鬼』に指示を出す。
「私を入れてしまってもよろしいのですかな?」
「外に放置しているよりはいいんじゃないか?」
なにやら『炎の魔神』がニヤニヤした顔で脅かして来たが、こちらは軽く流しておく。フリーにしておくより見張れる位置にいてくれた方がいい。
護衛を待たせているとの事なので、それは使いを出して呼んでおいてもらう事になる。
扉は襲撃があっても傷一つついていなかった搬入口の壁に出す事になった。ここならばキュクロプスも問題無く入れるだろう。
魔王達と話すならば、二階の広間だな。先に春乃さん達に入ってもらい、今の内に片付けておいてもらおう。デイジィもちょっと休むと、本丸三階の寝床に飛んでいった。
ルリトラには扉の前で門番を頼みつつ、俺は入ってすぐの所で『魔力喰い』を脱ぐ。
手伝ってくれたのはプラエちゃん。甲斐甲斐しくお世話をしてくれるが、体格差のせいか子供に戻ったかのような気分になる。
服を「どこかの商家の若旦那風」に戻し、マグロ包丁を腰に差す。
二人から買い物の様子を聞き、大きく身振り手振りも交えて話してくれるプラエちゃんを微笑ましく見ながら待っていると、魔王が『魔犬』、『白面鬼』、『炎の魔神』を従えてやってきた。
魔王はナーガの姿のままで、光沢感のある赤い布製の前掛けを身に着け、派手な装飾品で全身を飾っている。
というか、ずっとその姿のままでいるつもりなのだろうか。ハデスで見た像は人間の姿をしていたはずなのだが。
案外人間に変身するのは疲れる事なのかもしれないので、この件については触れないでおくとしよう。
ちなみに『炎の魔神』に変身しているのかと尋ねてみたところ、「昔ほど燃えてない」と返された。答えになっていない。
そして『魔犬』は何やら二つの包みを抱えていた。危険物は持ち込んでほしくないのでそれは何かと尋ねると、魔王は「良い物だ」としか答えてくれない。『魔犬』も「悪い物ではない」と言ってくるので、話し続けても埒が明かないと、そのまま通す事にする。
「ほぅ……あの小倅も珍妙奇天烈な力を使っていたが……貴様も負けておらんな」
扉を潜った魔王は、中を見回してそう言った。「小倅」というのは、おそらく初代聖王の事で、「珍妙奇天烈な力」というのはギフトの事だろう。
放っておくとニョロニョロとどこかに行ってしまいそうだったので、早速二階の広間へと案内しよう。
今の魔王は中の階段を通れないだろうから、外側のスロープの方に案内する。『魔犬』と『白面鬼』もこちらに付いてきた。
魔王は興味津々な様子で庭を見ており、何かを見つけてはあれは何だと尋ねてくる。
「あの大きな風車は何だ?」
「あれは風の祭壇です。常に風を起こしており、あの辺りでは洗濯物がよく乾きます」
「……ほう。あの赤い柱は?」
「炎の祭壇です。港の方で待たせているケトルト達が、鍛冶場として使っています」
「なるほど、ありがたみもへったくれも無いな」
自分でも説明していてそう思う。
「あの大きな池はなんだ?」
「あれはプール……水浴び場です」
「言い直さんでいい。大体分かる」
現代の言葉でも通じるのか。
もしかしたら光の女神の祝福による翻訳によって、魔王にも分かる言葉になって伝わっているのかもしれない。魔王の闇の祝福にも同じような効果があるとも考えられる。
何にせよ、この調子では話が終わっても一通り見て回りそうだ。味噌の話も伝わっていそうだし、今夜は魔王達を泊まらせるつもりでいた方が良さそうだ。
本丸を半周もしない内に二階に到着、広間は玄関から見て奥の方が上座という事になるのだろうが、ここはどちらかが上という事にはせずに左右に座る。
右側は俺を中心に左はクレナ、ロニ、右は春乃さんラクティと並んで座っている。
左側は魔王を中心に右に『魔犬』、左に『白面鬼』だ。魔王はとぐろを巻いている。
「さて、私はどうしましょうか」
「好きにしろ」
「では……」
そして『炎の魔神』は、どちらでもなく広間の手前側に腰を下ろした。魔王側でもないし、だからといってこちら側でもない。中立だと言いたいのだろうか。
聞いてもはぐらかされそうなので、放置して話を進めよう。
魔王は、威圧感たっぷりにこちらを見据えてくる。蛇に睨まれた蛙にならないよう耐えていると、不意に威圧感が消えて魔王がニヤリと笑った。
「トウヤよ……此度の事、誠に大儀であった!」
「えっ……あ、はい」
不意を突かれて間の抜けた反応になってしまったが、そこまで口にしたところで封印を解いた件について礼を言われたのだと気付いた。
「『白面鬼』!」
「はい」
まず渡されたのは『白面鬼』が懐から取り出した見事な装飾が施された筒。中には一枚の書状が入っていた。
俺が魔王の封印を解いた事について書かれており、それを褒め称える内容だ。おそらく、扉の前で待っている間に書かれたものだろう。
「これは……感状みたいですね」
そう教えてくれたのは春乃さん。そうか、時代劇とかで見るあれか。へパイストスの勲章授与式でもそういうのは無かったので。ピンとこなかった。
「『魔犬』!」
「ハッ! トウヤ殿、こちらを」
そう言って『魔犬』は前に出て、抱えて二つの包みをこちらに渡してきた。ロニが前に出て受け取り、俺の所に持ってくる。
中を見てみると大小二本の剣と大きな木箱が入っていた。二本の剣はどちらも片刃の剣で、クレナが持っていたものに近い作りだ。
どちらも柄から鞘まで豪壮なもので、特に大きい方は金銀が散りばめられている。
「それは『北野藤四郎吉光』、銘は『吉光』だな。それと……『星切』じゃ」
「えっ、それって……!」
その名を聞いて反応したのは春乃さん。どちらも有名な名刀の名前だそうだ。
何故そんな刀がここにと疑問に思っていると、横から『炎の魔神』が口を挟んできた。
「そういえば五百年前に流行ってましたなぁ。愛用の武器に、かつて自分が持っていた刀の名を付ける。いや、懐かしい! 実は私も『骨喰』というのを持っておりまして……」
そして、そのまま自分の剣がいかに見事であるかを語り始めた。
なるほど、かつて愛用していた刀の名前を、こちらでも使っていたのか。
「クレナの剣にも名前があったのか?」
「さぁ? 私は聞いた事が無いわ」
「あやつの剣か、『松』だ。女々しいヤツめ」
なにやら面白くなさそうな魔王。あまり触れない方が良さそうだな。話を変えよう。
「では『暗黒の巨人』が持っていた『人間無骨』という槍も……」
「そういえば言ってましたね。それも有名な槍の名前ですよ」
「ええ、ええ、よくご存知で! あの者が愛用していた槍の名前でございます!」
その後もコパンの話は続いたが、ずっと聞いていると切りが無いので、もう一つの木箱を開けてみる。すると中にはいかにも高級そうな茶器が入っていた。
「そういえば当時は、褒美として茶器が与えられていたそうですよ」
「なるほど……」
「そうじゃ! それらを褒美として与える!」
大声で話をまとめる魔王。コパンの話を遮る意図があったように思えるのは気のせいではないと思う。
「更に孫を嫁にというのも考えたが、わしまで何か投げつけられそうなのでな。それは自力で何とかせい」
「ちょっ!?」
クレナが声を上げるが、魔王はそれを笑って流し、話を続ける。
「どちらも精霊魔法の発動体となる刀だ。どちらかをクレナに使わせるといい」
なるほど、『闇の王子』に持って行かれた剣の代わりを用意してくれたという事か。それはありがたい話だ。
「……クレナ」
「どうしたの? 私はショートソードの『吉光』の方を使わせてもらえればいいけど」
「いや、そうじゃなくて……俺、魔王の封印を解いた褒美とかもらっていいのか?」
「…………今更じゃない? 封印解いちゃった事には変わらないんだし」
「そういうものか……」
「そういうものよ」
よし、そういう事ならば、一礼してありがたく受け取るとしよう。
今回のタイトルの元ネタは『刀剣乱舞』です。
いくつか名刀の銘が登場しましたが、それぞれ簡単に説明しておきましょう。
『松』
松姫の名前も意識していますが、郷義弘の刀『松倉郷』が元ネタだったりします。
今は『松倉江』と伝わっていますが、これは江戸時代からの名前だそうです。
桶狭間で今川義元を討った時に、信長が手に入れた刀というのが定説ですが、織田信忠と松姫の婚約が決まった際に、武田家から信忠に贈られた進物の中にあったという説もあります。
信忠が持っていたというのは信憑性が低いのですが、別の郷義弘の刀が贈られていたかもしれないという事で、あえて『闇の王子』の剣としました。
『骨喰』
骨喰藤四郎、粟田口藤四郎吉光の刀ですね。
戦国ボンバーマンが、剣豪将軍を暗殺した際に手に入れた刀だといわれています。
『北野藤四郎吉光』
信長が次男信雄に贈ったとされる、藤四郎吉光の刀です。
『星切』
信忠が家督を継いだ際に、信長から贈られたとされる星切の太刀です。
これらを褒美として冬夜に与えたのは、クレナを孫として、冬夜をその婿として認めるという意味合いがありました。
メタな話をすると、冬夜の斧が『三日月』なのでそれに合わせたという面もあります。




