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異世界混浴物語  作者: 日々花長春
激動の海底温泉
119/206

第110話 異世界の雨は主に海底に降る(後編)

 敵リーダーと思われる反応を追って本殿に突入するグラン・ノーチラス号。

 その通路は船体が通るギリギリの大きさだ。注意して進まなければならない。

 神官によるとここは『魔犬』も使用した通路らしい。偶然、とは考えにくいな。やはり情報が渡っていると考えた方が良さそうだ。

 それにしても敵の移動が速い、レーダーの反応がみるみる遠ざかっていく。雪菜のように飛んでいるのか、それとも別の方法を使っているのか。

 必死に追いすがっていると、急に相手が動きを止めて魔力反応が膨れ上がった。

「攻撃くるにゃ!」

「迎げ……!」

 迎撃しようとした瞬間、先程以上の大きな揺れが船を襲う。

 俺以外は皆立っていられず、甲板に倒れ込んだ。

「どうした!?」

「わ、分かんにゃい!」

 キャノピーを少しだけ開いて確認してみようとするが、開かない。

「何かに乗っているのでしょうか?」

 ルリトラがキャノピーを見上げながら言う。確かにレーダーによると、船体の位置が少し下がっているようだ。

「まさか……さっきの攻撃で通路を崩されたのか!?」

 そうとしか考えられない。上に乗っているのは、崩れた通路の瓦礫か。

「通路全体が潰れる可能性もあったのに……無茶をする人ですね」

 春乃さんも信じられないといった顔をしている。

 同感だが、このまま手をこまねいている訳にはいかないな。

「瓦礫が船体に密着しているなら手がある」

 魔砲と瓦礫が接触しているという事は、大地の精霊を召喚して操作する事ができるという事だ。海底であろうと岩は岩。すぐさま変形させて通路を直してしまおう。

 魔法を発動して通路を修復、グラン・ノーチラス号が通れるようにする。

 しかし敵はその間にも先に進んでいたようで、かなり引き離されていた。

「敵、動いてにゃいにゃ。でも、周りに別の反応があるにゃ!」

「これは警備の方達と同じ……冬夜君、戦いが始まってます!」

「出遅れたか! 急ぐぞ!!」

 神官に案内してもらい、先を急ぐ。

 そしてたどり着いたのは水路の終点。空気がある広い空間に出た。淡く光る深い青の岩壁に囲まれたドームのような場所だ。奥に大きな通路があるのが見える。

 キャノピーを開くと、既に戦いが始まっていた。

 まず目に飛び込んできたのはおびただしい血の赤。既に大きな被害が出ているようだ。

「み、皆! 助けないと!」

 その惨状を見て、水の神官が慌てて飛び出していった。それを追ってセーラさんが飛び出し、続いてプラエちゃんも飛び出した。彼女も神官、風の神官なのだ。

 放っておくと危なっかしいので、サンドラ、ルミス、リンに後を追ってもらう。

 広間の中央では大勢のギルマンの戦士達が、三人を囲んでいた。

 よく見ると魔族も一人倒れている。ギルマン達もやられっぱなしではなかったようだ。

 銀髪に翼の魔族がニ人、そして青黒い肌をした大男が一人。その体格に負けていない十文字槍を振り回している。

 この距離でも分かる野性的な出で立ち。あちらの中心は大男のようだ。

 ギルマンの数はかなり多い。このまま押し切れそうだが……。

「厄介なのは、あの大男か」

「多分、闇エルフ……だと思う」

「自信なさげだな」

「詳しい説明は省くけど、あれは闇の女神側についたエルフなの。肌の色とかは聞いてた通りだわ。でも、エルフってあんなに大きいはずないのよ」

 確かにコスモスの仲間であったエルフのフォーリィは小柄だった。

 巨漢の闇エルフ、か……。

「まさか『暗黒の巨人』!?」

 もしそうだとすれば、数の有利をひっくり返される可能性が高い。

 ここは俺も助けに行きたいが……できない。『無限バスルーム』の中に人がいるため扉を閉める事ができないのだ。移動できるのは船内のみ、甲板の端がせいぜいだ。

 ここで皆を一旦降ろして扉を閉めるつもりだったが、予定が狂った。流石にこの状況で戦えない人達を出すのは無理だ。

 だが、ここでも指揮は執れる。魔砲を使えば援護もできる。なんとかしなければ。

 だが、『五大魔将』相手にどうする。

「トウヤ様、ここは自分が……」

 思案していると、ルリトラが自ら闇エルフの相手をすると志願してきた。

「……やれるか?」

「やります。自分以外では無理でしょう」

「……頼む」

 躊躇している暇は無い。ここは信じるしかない。

「リウムちゃんは、ここで待機! 『銀のバリスタ』用意!」

「分かった」

「俺も船首の魔砲をスタンバイしておく! ルリトラ、いざとなったら使うぞ!」

「その時は自分ごと……!」

「やらんわ! ちゃんと避けろ!!」

 コクリと頷き船首に立ったルリトラは、猛々しく吠えるとグラン・ノーチラス号から飛び出し、闇エルフ目掛けて飛びかかった。

 ちゃんと分かっているんだろうな、あいつ。

 それにしてもあの闇エルフめ。いっそもう少し奥まで攻め込んでくれていたら、皆を降ろし、俺も出て盾になれたものを。

 攻める? 無理だ。ここから見ているだけでも、あの闇エルフがとてつもない猛者だというのが分かる。

「冬夜君、私も行ってきます。二人の魔族なら相手にできるはずです」

「私達も行くわ」

 春乃さん、クレナ、ロニ、雪菜。心配だが、止める事はできない。

 二人の魔族は闇エルフには劣るものの、突入に参加させられるだけの実力者のようだ。多勢に無勢の中、上手く闇エルフの背を守っている。

 あの二人をどうにかすればルリトラの助けになる。勝つためには行かせるしかない。

「我々も行きます!」

 グラウピスの戦士達も武装して出てきた。彼等には四人を援護してもらおう。

 舵輪は一旦放っておいて、パルドー達三人には『無限バスルーム』の扉を任せる。

 甲板に待機しているリウムちゃんは俺が守ろう。

「デイジィ、ラクティのところへ」

 俺にくっついていたら万が一の時に危ない。デイジィも分かっているようで、素直にラクティの肩に移った。二人には見張りを任せよう。俺一人では戦場全てを見られない。

 あと『精霊召喚』もしておこう。召喚するのは風の精霊。今朝覚えたばかりの魔法だ。

 鎌鼬を起こして相手を斬り裂く――みたいな真似はできないが、風で相手の炎などを逸らすなど防御に使える他、遠くの音を聞き取ったり、逆に届けたりする事ができる。

 これを使っていつでも魔砲を撃ち込めるよう、戦いを注視しておくのだ。


「覚悟ォッ!!」

 船外の戦いは、ルリトラが参戦した事で大きく流れを変えた。

「チイッ!!」

 槍を振り回し周囲のギルマンを思うがままに蹂躙していた闇エルフが、ルリトラの攻撃で初めて守勢に回ったのだ。

 一瞬動きが止まったのを逃さずギルマン達が一斉攻撃を仕掛けるが、闇エルフはルリトラを蹴り飛ばし、返す刃でギルマン達を薙ぎ払う。

「トカゲ……あの珍妙な船に乗ってたヤツか。道を塞いでやったのに、わざわざ死にに来るとはな」

 今にも噛みつこうと威嚇する狂犬のような声だ。声だけでも凶暴性が伝わってくる。

 背丈はルリトラと同じぐらい。俺と並ぶと頭二つ分ぐらい高いんじゃないだろうか。

 改めて見てみると、防具は申し訳程度にしか身に着けていない。戦場が戦場なので仕方がないが、それが野性味を醸し出している。

 細身だが筋肉質の身体は、青黒い肌に包まれてまるでブロンズ像のようだ。

 髪はここからだと銀髪を通り越して白く見える。おそらくプラチナブロンドだ。

「てめぇ、俺が誰だか分かってんのか?」

「我が主は、『暗黒の巨人』ではないかとおっしゃっていたな」

「ほぅ……やるじゃねえか、正解だ! 褒めてやるぜ!」

 やはりあの闇エルフ、『暗黒の巨人』だったか。当たっても全然嬉しくない。

 ギルマン達は先程の一薙に動けなくなっている。セーラさん達は一薙にされたギルマン達を助けたいようだが、『暗黒の巨人』がいるため動けないようだ。

 春乃さん達は魔族二人を引き離すべく隙を窺っているが、こちらも芳しくない。

「……だが、分かって攻撃してくるとは、お前さては阿呆だな?」

「さて……どうだろう、な!」

 この状況で動いたのは、やはりルリトラと『暗黒の巨人』だった。

 繰り広げられる激しいグレイブと十文字槍の打ち合い。ルリトラが一方的に攻めているように見えるが、『暗黒の巨人』はまだ余裕がありそうだ。むしろルリトラの力を量っていそうな雰囲気がある。

 だがルリトラも考えなしに攻めている訳ではなさそうだ。手を緩める事なく、果敢に攻め込む事で戦いの場を徐々に奥へ奥へと移動させていった。

 この隙をついてセーラさん達が怪我人に近付き治療を開始する。

 二人の魔族がルリトラの背を狙おうとするが、それはクレナとロニ、春乃さんと雪菜がそれぞれに攻撃を加えて阻止。

 グラウピスも援護しているので、そちらは問題無さそうだ。

 やはり問題は『暗黒の巨人』である。

 ある程度押されたところで奴の動きが変わった。ルリトラの連撃を軽々と防ぎ、あしらい始めたのだ。

 まさか、ルリトラ以外を魔族の対処に回す事で一対一の状況を作ったのか?

 まだギルマン達が彼を取り囲んでいるが、おそらく奴は障害物程度にしか見ていないだろう。ルリトラさえ倒せば勝ちだと判断したのかもしれない。

 魔族二人が倒されれば春乃さん達も包囲に加わる事になるのだが、それまでに決着をつける自信があるというのだろうか。

 それは分からないが、そうなればこちらの負けか。

 どちらのせよこの状況では、『魔犬』が現れれば俺達は窮地に陥る。速攻で決着をつけなければならないのは、むしろこちら側である。

「おい、ひとつ聞きてえ事がある! その鎧……骨製か?」

「……? ドラゴンの骨だが……」

「そうかそうか……こいつはイイ! ククク……!」

 急に笑いだしたぞ。妙な事を聞いてきたな。鎧の材質がなんだというんだ。

「人間の骨ならば、数え切れないほどなで斬りにしてきたが、龍の骨は初めてだ! おもしれえ、試し斬りさせてもらうぜ! この……『人間無骨』でなッ!!」

 そう叫ぶやいなや一転して攻めに転じる『暗黒の巨人』。

 不意を突かれたルリトラは防戦一方になるが、負けていない。

 俺ならば『魔力喰い』があっても負けていたであろう絶え間ない猛攻を、ルリトラはグレイブを使い、大顎の骨でいなして凌ぐ。

「チッ、斬らせやがれ!」

「断るッ!!」

 その瞬間、『暗黒の巨人』がバランスを崩した。

 尻尾だ。ルリトラが尻尾を使って足払いを仕掛けたのだ。

 チャンスだと攻勢に出るルリトラ。しかし油断して大振りの攻撃をする事などはなく、連撃で攻めたてる。

「甘えよッ!」

 だが敵もさるもの、すぐに体勢を立て直して再びグレイブと十文字槍の激しい打ち合いとなった。大きな剣戟の音が風の精霊の力を借りずともここまで響いている。

 今は互角だ。ルリトラが上手く押さえ込んでくれている。

 だが、それもいつまで続くか分からない。なにせ相手は『五大魔将』、このまま押し切れるほど甘い相手ではないだろう。

 この間もギルマン達はずっと周囲を取り囲んでいるのだが、隙を見いだせないのか動けずにいる。

 魔族二人も流石『五大魔将』が連れているだけあって精鋭だ。春乃さん達がそれぞれ優勢に進めていてるが、まだ押し切れてはいない。よって助けに入る事はできない。

 この状況で戦いの流れを変え、勝利を掴む方法は――ある。ひとつだけある。

 それは……魔砲だ。戦場に魔砲を撃ち込む。これしか無い。

 これは下手をすると被害を増やし、敗北しかねない爆弾でもある。

 だが、やるしかない。いつ『魔犬』が駆けつけるか分からないのだ。

 俺は魔水晶を掴む自分の手が、じわっと汗ばんでいるのを感じていた。

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