Blade:3
「はい、確かに確認しました。報酬金の8000Gです」
ギルド嬢に先ほどダークウルフから剥ぎ取った爪二十個ほどを袋ごと渡す。
ギルド嬢はその中身を確認して一切顔を顰めることもなく淡々と業務を果たす。
爪とはいえ根元に肉片がついているのにそれを見ても動じないのは凄いと思う。
この世界の女性は逞しいな。まあそんなことを言えば殴られるのは見えているので口には出さない。
「お疲れ様っす」
報酬金を受け取り受付を後にする。
ギルド内を歩いているとなんかやけに注目されたが俺にはむさい男どもに見られて喜ぶ趣味は無いのでそのままスルーしてギルドを出た。
どうせ注目されるならムキムキのおっさんたちより綺麗なお姉さんがいいに決まっている。
*
「こんちゃーす。アイン、居るか~?」
「えっ?……はわわっ!?か、カイルさん!?来てくれたんですね」
町の外れにある寂れた鍛冶屋に入る。
店に入って熱い鉄と格闘している少女に声をかけた。
アイン=ベルヴォルト。13歳。
彼女がこの鍛冶屋『ワークス』の若き店主であり、俺が作る〈機巧式魔術武装〉の本体である武器の製作を依頼している。
彼女はそのあまりの若さゆえに甘く見られがちだが、鍛治の腕は一級品でこの周辺の鍛冶屋の中ではズバ抜けている。
前に話した信頼出来る鍛治師というのは彼女のことだ。
「アイン、例のもの出来てるかな?」
「あっ、はい。ちゃんとカイルさんの注文通りに仕上げました。レムちゃん!品物をカイルさんに」
「ウゴオオオオ!」
ガシャン、ガシャンとゴーレムが一つの剣を持って奥から出てくる。
これはゴーレムのレムちゃん。アインの助手兼弟子だ。
初めてここに来店する人はレムちゃんを見て驚くだろうが俺は子供の頃からここを出入りしている常連なのでもう見慣れている。
「ウゴオオオオオ」
「ああ、サンキューな。レムちゃん」
レムちゃんから注文していた双剣を受け取り、品定めするように構えてみる。
うん、どこも注文通りに出来ているな。さすがアインだ。
「どう、でしょうか?」
オドオドとした様子で俺の感想を待つアイン。
その小動物のような仕草がとても可愛くてついつい頭を撫でてあげたくなる。
「うん、理想通りの出来だよ。さすがだな」
「い、いえ。そんな……」
照れてもじもじしている姿もテラカワユス!ああ、もう我慢できない!!
「え?はぅっ!?カ、カイルひゃん、くすぐっひゃいですぅ……」
アインを俺の胸元に抱き寄せて思う存分頭を撫でてやる。アインは気持ちがいいのか呂律がうまく回っておらず、その声はどこか色っぽい。
くすぐったそうに身をよじるが嫌がっているわけではなさそうなのでそのまま続ける。
セクハラだって?違うな、これはスキンシップだ!
「よいではないか、よいではないか。ふぉっふぉっふぉっ」
「んっ……ふぁ、あぁん…」
頭だけでなく猫のように喉元もくすぐるように撫でる。
ん?アインの反応がなんかアレっぽくなってきたぞ。心なしか目もとろんとしちゃってるし息づかいも荒くなっている。あれ?この小説ってそういうやつだったけか?
だが、こんなことで俺の愛撫(笑)は終わらんよ。こうなったらイケる……間違えた、いけるところまでいってやる。
「はぁ……はぁ、あっ、うぅん!カイルさぁん……らめぇ……」
「ブホォーーーー!!」
俺の鼻から鮮血が噴水のように噴射する。
は、破壊力が凄まじい。魔術式銃剣の爆散が幼稚に見える。核兵器並みの破壊力だぞ、これは!
「はぁ……はぁ……」
鼻血を流しながら腕の中の息があがっているアインを見る。
何度も身をよじっていたので服が乱れて、ところどころから彼女の白い肌が顔を覗かせる。
その真っ白の綺麗な肌にゴクリと唾を飲み込んだ。
「カイルさん……」
「アイン……」
俺たちは互いに見つめ合う。
アインは息を切らしてうっすら涙ぐんでおり、その身を完全に俺に委ねていた。
そこにいつもの気弱な妹分という印象はなく、とても魅力的なひとりの女の子として俺の目には映った。
身を寄せる二人。
その影は段々と重なっていき、次第に二人の顔が近づく。
そして―――、
「ひでぶっ!?」
バチコーン!!ドンガラガッシャン!
唇がふれあう前に突如横から放たれた右ストレートによって俺は吹っ飛んだ。
ぐはっ、こんないいところ邪魔するなんて一体誰が?
「げっ」
俺を殴り飛ばした主を下から見上げる。
そこには家で留守番をしているはずのシェオルが俺の前に立ち塞がっていた。
「帰りが遅いから様子を見に来てみたらこれはどういうことかしら、カイル?」
「えーと、これはですね……。その……」
やばい、めっちゃ怒ってるよシェオル。
必死に言い訳を考える。
ここで失敗したら俺は地獄行き決定だ。それだけは避けなくてはならない。
「実は……」
「実は?」
何でもいい。この状況を打破する一言を!!
「……てへっ、ぺろ☆」
無理です!………死んだな、俺。
「有罪ね。たくさん可愛がってあげるわ」
出来る限り抵抗しようとした俺の鳩尾に容赦の無い膝蹴りが炸裂した。
ぐはっ!!ちょっと…、それは反則でしょ……。
腹を抱えてうずくまっていると襟を掴まれずりずりと引きずられながら連行される。
アインはまだあんな状態なので、レムちゃんに剣の代金を渡し『ワークス』を後にして、俺は自宅へと連れていかれたのだった。