飲酒戦士と巨大猪
酒合戦 戦士心得
1、我等飲酒戦士、正々堂々飲み比べることを誓おう。
2、飲めない相手に無理やり勧めない。下戸に飲ませる酒はない!
3、つまみは相手の好みを尊重すること。
4、酔い潰して意中の相手をお持ち帰りをしない。素面のほうが楽しいぞ。
5、吐くなら飲むな!飲むなら吐くな!!
6、二日酔いと財布の軽さに後悔するな!
7、飲んで絡むな。
8、給仕たちには感謝と礼儀を
9、酒合戦の仕返しは酒合戦の場でのみと考えろ!
10、お酒は楽しく適量を
監修 酒精神
朝食の後、父上は他の貴族家によばれたとかで出立し、長兄は王城に向かい、次兄は国元で私兵団の組織と保護するであろう大人達の受け入れ態勢を作りに向かう。
私と子供達は孤児院へと向かう。
保護された幼女達は最初のうちこそ団子のように固まっていたのだが次第に打ち解け前からいた子供達や私兵団の連中とも仲良くなっている。
で、どうして君達がいるのかね極北飲酒青年団。
「ふむ、その質問に答えよう。うちの大使夫人からイノシシのおすそ分けに来たのだ。」
見ると大きなイノシシが一頭転がっている。
どう見てもイノシシ?ではなくなんかの魔獣ではないのかと疑問に思えてくる。
「こんないのししどこにいるの?」「おっきー!!」
子供たちがワラワラ集まっているが包丁を手にした女衆もどう調理したものか悩んでいる・・・・・・・
しかもイノシシの顔のところがボコボコになっているのだがどう狩ったのだろう?
「イノシシは殴り殺したものがうまい。」
「普通出来ない!!」
「おいらの中の常識がカリカリと削られている音がする。」
「これどうさばいたらいいんですかねぇ・・・・・?」
そこかしこに傷だの痣だの作っている極北戦士。顔の傷はイノシシではなく人の手みたいだが・・・・・・・
そこについては触れないほうがよいみたいだ……
「ところで極北飲酒青年団。」
「飲酒青年団じゃない!!」
「まぁ、酔っ払いであることは確定事項として、その意見は却下して。このイノシシはどうさばいたらよいのかね?」
「ふむ、王都の者はぶら下がった肉しか見たことがないのか?肉というのは自分で狩ってさばいて食べるものだ!!」
「はいはい、そんなに肉をとっても食べきれないから小分けにして売買するのが王都のやり方だ。」
「ふむ、確かにこんな大物我等でもめったに見かけぬ。手に余るのは理解した。では俺がさばこう・・・・・・・・」
そういって、極北戦士は大剣を大上段に構える。まさか真っ二つ?
「剣で二つに割れば食べやすくなるだろう!!」
「待ったーーー!!」
そこに待ったをかけるのは解放公率いる奴隷戦士団の一人。
「貴様は間違っている。真っ二つにしたら切り口が汚れるだろう!イノシシは丸焼きがうまいのだ!!」
「そんなことはこのイノシシを切り分ける技量がないと言っているも当然ではないか!」
「違う!死んだ猪くらい据え物切りしたところで何の自慢にもならない!なんならそこのシロクマでもぶった切って示してやろうか!」
「ほぅ、俺をシロクマ扱いか熊より強いから試してみるかい?鎖に繋がれるのが趣味のおっさんよ。」
「ふっ!熊の分際で口をきくとは面白い。それにオレはおっさんじゃない!!」
解放戦士は戦斧を構えて極北戦士を狩ろうとする。極北戦士も大剣を構えて迎え撃つ。
両者の武器がぶつかり合って砕け散る………破片が飛んで危ないじゃないか!!
壊れた武器を互いに投げてがっぷりと力比べをしている・・・・・・・・・・・・・
力比べはほぼ同格。押して引いての一進一退。
周りの戦士たちはやんややんやと騒いでいる。これは酒の肴だな。
馬鹿らしいから放置。
そばにいた荒野の民の戦士にイノシシをさばけるかと聞いてみる。
「騎馬戦士、イノシシさばけるか?」
「うむ、この大きさは初めてだが我等も狩はするから普通にさばけるぞ。」
「では頼めるかな?」
「狩り取った者がさばくのが礼儀なのだが、この馬鹿どもではぶつ切りが精いっぱいだろう。それこそ命への礼儀にかける。」
めんどくさそうに言うと騎馬戦士は腰を上げると、仲間達と共にイノシシをさばきにかかる。
頸動脈を切り、ぶら下げるかと思いきや・・・・・・・
アバラの境目から切り目を入れて腕を突っ込み、心臓付近の血管をちぎろうとしている。
「ふむ、この大きさだと手ではきついか・・・・・・・・」
騎馬戦士は小さなナイフを手にもう一度手を突っ込む。
あふれ出る血液、これを器に受け止めている。
「血の一滴も無駄にするのは美しくない。後で血の腸詰とかを作るとしよう。」
血を搾り取った猪を腹から切り裂いて内臓を取り出す。
心臓、肺、肝臓、腸、胃、その他もろもろ………
内臓を取って水場に洗いに行っている騎馬戦士、毛皮を器用に剥ぎ取っている騎馬戦士。
肉塊に分けたところで生肉の塊をもらって齧り付く狼系の獣人。
つまみ食いはよろしくないぞ。
「だんなだんな、つまみ食いじゃなくてマジ食いですから。」
「それにしても生肉は美味しいのですかねぇ?」
「試してみるか?」
「俺はやめておく。」
「生臭そうですしねぇ・・・・・」
「・・・・・・・・・・生肉は精がつくと聞いたことがある。補佐見習い食べて。」
「傷跡娘ちゃんは精をつけさせてどうするつもりなんですかねぇ……」
「・・・・・・・・・・・///」
それはともかく旨いのか?
「肉を焼くときだって表面だけ炙る焼き方があるだろう。生は生でうまいのだ。」
これは狼系の獣人談。
「慣れないならば塩と香草で叩いてから食べるとよい。」
人外共は口々に言う………
試しに肉を叩いて細かくしてから岩塩と香草、胡椒で味付けしてから食べてみる。
ふむ、美味・・・・・・・・
「お前ら、人がさばいているのに先に始めているんじゃない!!」
騎馬戦士たちの怒りもごもっとも。自重自重・・・・・・・
ここまでさばいてあれば女衆の手におえる形になっている。
女衆は煮たり焼いたりして食卓をにぎわす準備をする。
ある程度さばいた騎馬戦士たちは、屑肉や内臓を細かく刻んで血と混ぜてゆっくりと過熱する。
鍋の中に塩と香辛料を入れて味を見てから少し冷ます。
その混合物をきれいに洗った腸の中に詰め込んで適当な大きさで縛り形を整える。
大鍋に湯を張って、血の腸詰というべきものを入れて茹でている。
茹でていると赤から黒に変化して腸自体が締まっているのがよくわかる。
ある程度茹った腸詰を引き上げて煙でいぶす準備をしている。
人外達も肉を細く切り刻んで塩水につける。
暫くたったら紐に通して風通しの良いところでぶらさげている。干し肉でも作るつもりだろう。
塩と香草の中に付け込んで塩漬け肉も作っている者もいる。
そうして猪が骨と皮ばかりになったころ。日も暮れて夕餉の時を知らせる鐘が鳴る。
サカサムクドリは群れをなしてねぐらに帰っていくし、ヨタカは町にうろつき始める・・・・・・・・
子供達もイノシシをさばく様を興味津々に見ていて一日が終わったようだ。
それでも荒野の民が色々と雑用を言いつけたりして身をもって教えていたようだが。
「そりゃ、命に対する正しいやり方を教えておけば無駄なく美味しいものを手に入れることができるだろう。」
「生きた授業というわけか・・・・・・・・」
麦秋老が午後の授業を特に言わなかったのは理解した。
技術とか心構えというものを学ぶいい機会だと理解したのだろう。
孤児院にいる、荒野の民と人外達と子供や女や我々は楽しげな夕餉につくのだった。
子供たちは肉の塊に大喜び。肉を食べる機会は少なくないが遠慮せずに肉に齧り付く機会なんて………
結構あるなぁ……農園公の差し入れとか騎馬公の差し入れとか………
あの人たちの差し入れはさすがに丸のままはないから扱いやすいのだが・・・・・
しかし生肉がうまいとは意外だったな……
「新鮮な肉じゃないと不味いから食べることができるのは肉を作るものの特権だな。」
なるほど、世界は広い・・・・・・・・
生肉を咀嚼しながら強めの酒を流し込む。口の中に残った脂っ気とかも流れて次がおいしく食べることができる。これは果実酒よりも穀類醸造酒がいいな。
「うまうま・・・・・・・・」「むぐむぐ」「おいしぃ!!」
「おじちゃん、これおいしいね。」
「そうだろうそうだろう。荒野の民の伝統料理だぞ。」「でもおおかみのおじちゃんがおしえていたけど・・・・・・・」
「それはね、うまのおじちゃんたちが最初に食べ方を考えて狼のおじちゃんたちに教えたんだよ。」
「そーなんだー」
「嘘はいくない!大本は俺たちだ!」
「何を言ってる。ただ生肉を齧り付いていたお前らに俺たちの工夫を教えたんだろうが!!」
「生のうまさを知らないのに教えたのは俺たちだろうが!!」
喧々囂々・・・・・・・馬鹿な本家争いしているけど、どっちが本当なんだろうか?
ふむ、生肉自体食べるのはどっちも最初からあった文化なんだけど荒野の民のは生肉を皮袋に入れて細かく砕けたのを塩振って食べるものだし、人外達は塊のまま香草とか塩をつけるのを好んでいたからねぇ…両者が出会って出来たものといえば出来たものなんだが………
ここで水を差しておくのは無粋だろう。(by厨房神)
なるほど、言い争いも細かくしたのがおれたち荒野の民だから俺たちが元祖だとか香草とか使い始めたのは俺たちだからと本家は俺たちだと人外達が反論する………
ほっとけばいいか、そのうち女衆に・・・・・・・・ あっ!殴られた!
頭を抱える両者に周りは笑う・・・・・・・・
子供達は大人の馬鹿騒ぎそっちのけで肉を食べている。
ちゃんと野菜も食べるんだぞ!!
夕餉は楽しく過ぎていく・・・・・・・・
さすがに一食では食べきれるものではないので保存食にしておいてよかった。
荒野の民や人外達はお土産代わりに腸詰や塩漬け肉等を持ち帰っていたのは当然の報酬であろう。
ところで奴隷戦士と極北戦士は?
庭を見たら、今度は酒合戦をしていた・・・・・・・・・・
「…………ううっ、なきゃなきゃやるなきちゃの!おりぇにゃんっきゃこれでのむぞ!!」
と桶で飲んでいるというか・・・・・・・浴びている。
「ぎゃははははっ!のめてねぇじゃねぇぇぇぇぇぇんぉぉぉぉぉ?ヴかがさけというのはこうのむんだひゃぁ!」
桶をひったくって頭からかぶる………
周りは馬鹿笑いしてうるさい!!
「孤児姉、あれを・・・・・・・」
「はい、ご主人様!」
私は神秘緋金属張扇を思い切り振りかぶると酔っ払い戦士の一団に対して叩きつける!!
「お前らいつまでふざけているんだぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
きらっ★
馬鹿共は夜空の星になった………なんか、尾を引いているが吐瀉物でないことを願いたい。
このつっこみはほんと我が神域に招き入れたいものだな(by演芸神)
ふと思うのだが極北戦士はともかくとして先の合同作戦の時、飯はどうしていたのだろうか?
街娼達が保護されるまでは男世帯だったしそれぞれで作っていたのだろう・・・・・聞いてみると
人外公:それぞれの種族ごとに調理をする。便乗したりおかず交換とかも普通に行っていた。種族ごとの嗜好は違うので好みが分かれる。
商会公:専属の料理人を雇っている。美味美味。
農園公:女衆お手製の弁当。自分でも作る。普通に美味。時々手抜き。
庭園公:自由戦士他数名だったので飯屋に通っている。
騎馬公:移動も戦闘も生活の一部なので自分等ですべて賄う。郷土料理で好みが分かれるが美味。
解放公:料理なにそれ? ぶった切って鍋に入れて塩振ればよい…… 当たり外れが激しい。それ以前にこいつらに味覚あるの?(ただ食べれればよいという考え方)
女衆が加わって料理とか後方支援してもらえるようになったとき泣いて喜んだのは解放公配下の奴隷戦士団だったりする。