市場と端切れ屋
あらすじ 糞貴族をしめた。王妹殿下は放置プレー中。
そしてなぜか10000PV突破。見ている人がいるとは・・・・・・・・
今、市場にいる。王妹殿下はそのうちに衛士なり近衛なりに引き取られるだろう。
本当にあんなのを送りつけるなよ。嫌がらせか? 嫌がらせだな!!絶対嫌がらせに決まっている!!
「だんな、だんな!!」
まぁ、気を取り直して市場を楽しむか。商店街と違って自由市は一日単位で場所を借りて雑多な物を売り買いするところだ。店の権利を買えない駆け出しの商人や旅の行商、近隣の農家や平民が思い思いの商品を持って売りに出しているのである。毎日店を出す場所が変わっていたりするので馴染みの店を探すのが大変なのだが、思わぬ掘り出し物が出たりするから結構楽しいものである。
大体敷物一枚分位の広さを借りて店を広げているのだが屋台あり、敷物の上に商品を並べただけのものがあり、商品を並べないで売り子だけいる店もある。一番多いのが近郊の農家が自分ところの作物を山積みにしているだけの食品関係である。
まぁ、私らに食品関連は孤児院あてに来る食物や私兵団の上前を撥ねているから必要ないのだけどね。
先日も農園公夫人がうちの男どもが馬鹿な物を持ち込みましてとお詫びがてらに沢山の野菜やら何やらを持ってきてくださったから十分あるし農園公の女衆も痩せこけた子供達を見て男衆に子供達が瘠せているのに何でスケベ本を持ち込んで食い物を持ち込まないのさと説教をかましていたくらいだからな。
今のところ数が多くて手余りな孤児院の女衆とか孤児達のうちで体の大きな子たちを農園労働者として引き取る算段をしてくださった。うちは独身の男どもが多いから女性が増えるのは歓迎なのさと嘯いていたが一度は苦界に身を沈めた女性たちをまとめて引き取る度量は流石だなと敬意を表す。
見た目は農家のおばちゃんなんだけど・・・・・・・・・・
さて、今日はどんなものがあるのかな?
彩り豊かな果物に不揃いな根菜たち。タロを一つとってみても、親芋に子芋がくっついているもの、親芋だけのもの、子芋の可愛らしいものを笊いっぱいに積み上げていたりとか、葉っぱを食べるもの赤紫の茎を干したモノとか見ているだけでも楽しいものだ。とはいえ、私は貴族。どれがどの料理に使うものなのかよくわからないが。
「大丈夫です。ご主人様。私が全て説明できますから。」
そうだよな、孤児姉は自活していたこともあるからなぁ・・・・・・
今度何か作ってもらうか。
「お口汚しでよければ・・・・・」
楽しみにしているよ。
食物関連でも、色々あるのだが次に多いのが小間物関係。食器や雑貨、香油や染料など貴族専門の店よりも品落ちなものが多いがこれはこれで楽しいものだ。この香りは好いな、何の花だろう?
「旦那、花じゃなくて木の根っこの香りだ。東方に生息する木の根っこにキノコが寄生すると香を発するようになるんだとそれを乾かしておいた物だ。煮出して香水代わりに使うのもよいし、薄く削って炊き込めるのもよい。どうだい?おまけするよ!」
「珍しいな、少し貰おうか。」
「毎度、そちらの譲ちゃんにも香水の一つでも用意してやらないのかい?」
「好みがあるからなぁ・・・ 孤児姉、どんなのが良い?」
「えっと……… この野路菫の香水を・・・・・・」
「渋い好みだねぇ・・・・・ 野で花摘む女の子はこの匂いが染みついていて他の匂いが良いなんて言うのに。」
「街から出たことがないから逆に新鮮ですけど。」
「所変わればそんなものかね。毎度あり!!」
「ありがとうございますご主人様。」
小さくお礼を言う孤児姉の耳は真っ赤で可愛いものだ。思わず頭をなでてしまう。
この髪の毛の感触は癖になるのだよなぁ・・・・・・年頃の娘にすることではないのだが。
色々と細々としたものを買って、適当な露店でつまめる焼き菓子を買って食べ歩きながら冷やかして回る。
そんな中でも孤児弟は軽食とかを買い食いするし姉の方は奇麗な小物とかに興味があるようだ。
今までの孤児暮らしで手に入らないものを自分で稼いだ金で手に入れることができてはしゃいでいるようだ。
金を使うということも覚えておくのは良いことだ。それ以前に楽しんでほしいかな。
私も久方ぶりの外出らしい外出を楽しんでいる。
実際ここ数カ月は孤児院か性愛神殿にこもりきりだったしな。
少し歩くだけでも疲れが来る。これからはもう少し歩くとしようか、旅に出るのもよいな。
この二人を連れて、どこか珍しいものでも見に行くのも悪くなかろう・・・・・・・・
海を見てみるのもどうかな?姉弟も見たことないだろうし驚くだろうな。とはいえ私も見たことがないのだがどんなものだろう?
まだ見ぬ海への想いでぼんやり歩いている私だったが、ふと気がつくと孤児姉が一軒の店に目が釘付けになっているのに気が付く。私がそのまま通り過ぎるので後ろ髪に引かれながらもついてこようとしているようだ。
孤児弟のほうは付かず離れずどこで買ってきたのか菓子の袋を抱えている。どうせ孤児院に戻ったところで弟妹どもに食われてしまうのが落ちだろうに・・・・・・・・
孤児姉がどんなものに興味を示したのか気になってその店をのぞいてみると、レースや何かの端切れを扱っている店であった。そこにあるいろいろなリボンに目が行っている。
「いらっしゃい、旦那。こんな可愛い子が物欲しそうにしているのに無視して行ってしまうなんて意地が悪いよ。どうせ暇なんでしょ、付き合ってあげなさいよ。」
「そうだな、では幾つか見繕って貰おうか。この子を可愛く飾り立ててやってくれ。後で剥いて楽しむから(にやり」
「おやおや、旦那お楽しみですね。わかりました存分に飾り立てて差し上げましょう。」
そんな売り子との会話に孤児姉は耳まで真っ赤にしてうつむいている………
「ぇっ!ご主人様が私を・・・・・・どうしよう、下着は白じゃないし・・・・・・・オテイレガ・・・・・」
動転しているなぁ…・
「二人ともねーちゃんをからかい過ぎだよ。」
孤児弟に窘められる。
「まぁ、飾った姿を愛でるのは悪くないがな。剥いたり無体はしないけど。」
「さぁさぁ、嬢チャン気を取り直して何にする? さっきからかい過ぎたからおまけするよ。」
「どれにしようかな?」
機嫌を取り直した孤児姉は売り子と共にあれこれと悩み始める。
長くかかりそうだ。
私は孤児弟に飲み物を買いに行かせると隣の小間物屋を何と気なしに眺める。
「旦那、暇つぶしですかい?女の買い物は長くかかりそうだからなぁ…」
「仕方あるまい、古来よりそういうものだと決まっているのだから。私も暇だし付き合うくらいよいだろう。暫し邪魔するぞ。」
「じゃぁ、うちのもなんか買ってってくださいよ。おれも暇だし・・・・・・・・」
「暢気なものだな。」
店を見てみると、オオカミの毛で作った服ブラシとか内袋を丈夫な麻でつくり外側に絹と金糸で丁寧な刺しゅうの入った硬貨袋があったのでそれを買う。そうしているうちに孤児弟が飲み物と軽いつまみを用意してきた。
カップに入っているのが三つ、壺が一つ。壺からは酒精の香りがする。
「旦那にはこっちの方が良いだろう。」
「まだ早いと思うのだが、気がきくな。小間物屋お前もどうだ?」
「貴族の旦那に酒を奢られるなんて、珍しいこともあるもんだな。ありがたく頂きますよ。」
小間物屋はカップを取り出し(売り物だが)注がれた酒を嬉しそうにのどを鳴らして煽る。
私も酒を嘗めながら孤児姉を眺めている。つまみも用意するとは長くなることを覚悟しているな。
「だってねーちゃん、選ぶのに時間がかかるもん。おいらたちのことを忘れていると思うよ。」
「ちげぇねぇ。坊主、お前の言うとおりだな。多分、ご主人さまも目に入ってないぞあれは・・・・・・・・」
思い当たる節があるのか小間物屋も水煙草をふかし始める。
「そういや、貴族の旦那。お付きの者が主人を放置して買い物に熱中していいのか?」
「たまには良いだろう。私も暇つぶしできているだけだし、あまりかかるようならばさっさと済ませるがな。」
「甘やかしすぎだろう旦那。」
「まぁ、私が甘やかしてやらんと甘え方を忘れているような娘だしなアレは・・・・・・」
「普通親とかが甘やかすもんだろうが。」
「あの娘の親はどこにいるのやら、小さい頃から弟妹の面倒に追われて我儘を言ってはいけないと思い込んでいる節もあるからな。難儀なものだ。」
「へぇ、旦那は孤児を従者に使っているんかい?物好きなものだねぇ・・・・・」
「孤児だからって馬鹿にしたもんじゃないぞ!こいつらは下手な従者雇うよりも有能だしな。引き抜きを断るのが大変なんだ。」
「この子達がねぇ・・・・・・ 旦那が仕込んだんですかい?」
小間物屋が半信半疑で姉弟と私を見ている。そうだろうな、年端もいかない子供に道楽貴族ですと看板背負っているような私。先ほどのやり取りがつながる様子がない。
加えて、端切れ屋と孤児姉が主人そっちのけでやり取りしているし何処が有能なのだろうかと判る材料がない。
「まぁ、私の仕込みに掛かれば官僚貴族が頭を下げて引きぬきに掛かる補佐官が出来上がるのさ。」
「でも、だんな。従者というか官僚補佐として仕込めたのはおいらたち姉弟だけでしょ。どう考えても今日の王宮伯家とか失敗してるじゃないか。他にも某家の嫡男とかつぶしまくった話を聞いているよ。」
「気のせいだ!」
「旦那いろいろやっているんだねぇ・・・・・ 旦那も官僚だったんかい?」
「今は職を辞してのんきな隠居生活だからね。」
「隠居には早いんでないかい?」
「そうか?普通の貴族官僚の一生分の仕事はしたと思うが。過労死する前に逃げ出したのさ、これからゆっくり酒を飲んで女はべらして自堕落に過ごすんだ。」
「うらやましい御身分で・・・・・・・・・」
小間物屋の皮肉にもう一杯どうだと酒を注ぐが切れているようだ。孤児弟に酒の追加を命じて孤児姉を眺める。
いまだにこれにしようあれにしようと悩んでいる。端切れ屋も年頃の娘が悩んでいる姿を微笑ましくてかどう飾ったら可愛くなるか真剣に悩んでいる。孤児姉が悩んでいるのは財布の中身で端切れ屋は出来上がりという違いがあるのだがそこのすり合わせには時間がかかるのだろうな。
まぁ、よいか・・・・・・・
孤児弟が持ってきた酒を飲みながら小間物屋と二人暇を持て余す。
こういう日常も悪くないなぁ・・・・・・・
二杯目の酒も切れる頃になっても決まらないようだ。
どうも、手持ちの予算で選ぶリボンをどれにしようか選びきれないようだ・・・・・・・・
そろそろ手助けするか
「孤児姉、決まったか?」
「うーん、どっちも欲しいのですけど持ち合わせが・・・・・・・そんでどっちかにしようと思うのですがそれも決まらなくて・・・・・・・・・」
「端切れ屋、この二本を包んでくれ。」
「はいよ!」
「ご、ご主人さま・・・・・・・・そんな事をしていただかなくても・・・・・・・・」
「なぁに、たまにしかしないからなこんな事。あと、端切れ屋悩んで泣く泣く諦めていたのがあったろう!その3本も包んでくれ。」
「ありがとうございます!!」
「ご主人様!そこまでしてもらわなくても・・・・・・・」
「可愛い従者が着飾ったところ見たいだけなんだから………気にしない気にしない。」
「嬢ちゃん、ご主人様がイイって言ってんだから素直に甘えておきな!こっちも売り上げになってうれしいし。」
おい、こら!そこで本音出すな!
孤児姉は真っ赤になりながら
「ありがとうございますご主人様・・・・・・・」
と礼を言ってくる。
気にすることはないと頭をなでる。さらに真っ赤になる。
何度も言うようだが年頃の娘にやることじゃないな。照れくさいのだろう・・・・・・・・・・
「こうやってみると、年端もいかない娘をたぶらかしている男にしか見えないのだがなぁ・・・・・・」
「たぶんだんなは誑かす積りもないと思いますよ。単純に性愛神殿に入り浸っていたから女性の扱いに慣れているだけだし・・・・・・ ねーちゃんも不憫だよなぁ・・・・・・・・・・敬愛するご主人様が道楽者で怠け者、女が好きで王家に睨まれている。どう考えても、仕え続ける主人じゃないのに・・・・・・・・ 一生ついていくつもりだぜあの様子だと。」
「でも、お前等はつかえているんだろ今も・・・・」
「借りがあるからね、あの御方に。あの御方がいなければおいらたち姉弟は今頃よくて牢の中か最悪奴隷にされていたろうしな・・・・・・」
「苦労しているんだなぁ・・・・・・・・・・・・・」
そこの小間物屋と孤児弟。好き勝手言っているではない!!
誰が誑かしているんだ?孤児弟後で査定に入れておくからな!!
「いいよ、だんな。そんときは財務官の所にでも世話になるから!!」
口の減らない餓鬼だ(苦笑
「帰ろうか、だんな。もう夕暮れだし、孤児院の皆もおいらたちを待っているだろうし・・・・・・・・・」
「そうだな、孤児姉もいくぞ!」
何やら端切れ屋から色々おまけして貰ったものを抱えつつ孤児姉も付いてくる。
そうして、我ら主従は夕日に染まる街並みで三つの影となるのであった。
もちろん孤児弟の菓子は弟妹どもに食いつくされてしまいましたとさ。
孤児弟は多分それも計算に入れていた節もあるのですが。
孤児姉ご褒美の巻でありました。
さてと、今日の酒は何だろうな。ハイランドの酒でも試すかな。