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王都帰還と王室顧問始末

啓蟄侵攻当時軍の行軍はどれだけの距離を進めることが出来たのかを語るとしよう。


其々の軍装や運用理念によって違うのだが、基本的な歩兵を例に挙げてみる。

王国軍歩兵部隊は徒歩で皮鎧に金属片で補強したものを使用している。武具については個々の得意武器によって変化するが、短鎗に盾若しくは鎚矛に盾といった装備が主流であった。剣とかは他国では主流であるのだが、某王国では長期戦において刃毀れや脂による切れ味の鈍りで戦闘力を低下させる刃物よりも鎧の一部分を貫き通す槍や鎧の上からでも打撃を与えられる鈍器が重宝されている。剣の類は貴族階級や士官が儀礼用で所持しているか(それなりの訓練は受けている)、剣士や傭兵の一部が使用する程度である。要点を言うと訓練を受けたもの以外は剣を使うことは稀であり、剣はある種の身分・技量を示す象徴であり平民階級や訓練を受けていない素人が所持して良いものではないという慣習があった。

故に【剣の身分】と言う古い言い回しは剣を持つことが出来る身分、技量を持つ者は【持たざるもの】に対して守護の義務を負い、その対価として税や賦役と言った物を受け取ることができるのだと言う不文契約を結んでいると言えよう。

逆に剣持たぬ貴族は【民の牧人】と言う言い回しをすることがあるが、これも平民階級を富ませるよう導きその収益を以って生計を立てるという貴族のあり方を羊と牧人の関係を準えて表したものである。

【剣の身分】も【民の牧人】も古い言い回しであるから学の無い者は知らぬことが多いだろうが高貴なる身分である諸君等はその在り方を身に刻み込んで実践することが義務であり誇りである。


話が反れた、行軍速度の話であるが標準的な王国軍歩兵の軍装が金属片で補強された皮鎧に短鎗若しくは鎚矛で他に糧食や何やらを背負っている事としてどれくらい進んでいたのかと言う事を資料から紐解いてみると一日に五里(約二十キロ)から八里(約三十キロ超)を進んでいたと言われる。荒野の民の騎馬戦士は一日に十里から十五里程度、荷馬車隊や戦車隊は一日十里を目安に進んでいたと言う。馬車で旅していた王室顧問卿が王都から国境地帯まで半月ほど掛かったと言うから荷馬車隊の行軍速度である十里(約四十キロ)で計算してみると百五十里(約六百キロ)程度の道のりであったと推測できる。

今は街道も整備されており国境地帯へは十日もあれば馬車でたどり着くことが出来るのだが・・・・・・・・其れでも直線距離にして百二十里強(約五百キロ程度)ある。

この行軍で街道一帯の物理的障害(匪賊、街道整備の不備等々)が排除されて隊商たちの行軍速度や頻度が上がって大いに栄えたと言われているが是も脱線する話なので割愛する。


此処までは地上戦力での移動速度について説明してきたが航空戦力について説明してみよう。

航空戦力として一番の花形は竜族による単騎、少数規模による突撃であろう。

あの巨体から来る威圧感、【竜の咆哮(メンチキリ)】、地上戦力が届かない上空よりの【竜の息吹(ブレス)】等、相対する者から勘弁してくれとか反則だろうとか苦情が出てきそうな戦力である。この竜を戦力として用いているのは、某王国をはじめ魔王領、極東、南部部族連合、極北部族連合・・・・・・・人族連合以外普通保持している戦力であるが竜単体で移動するとなれば一日に百里(約四百キロ)は軽く移動すると言う。魔道師とかを乗せて移動するにしても五十里くらいは歩く移動すると言う。この移動距離は今ある他の移動手段よりも驚異的ともいえる移動距離であり竜族による単体突撃で蹂躙した後で地上戦力で止めと言った戦術が魔王領において定番となっていた。

その中でも飛竜族の移動速度は素晴らしく単騎のみならば一日に百五十から二百里を移動できたと言う。実際運用するときには一日百里程度で余裕を持たせるのが普通であるのだが・・・・・・・・・・

騎乗状態でも一日七十里から百里程度は楽に移動するのだが騎乗するものの負担を考えると五十里程度が限度であると言われている。

他の航空戦力、翼人、鳥人等々は単騎で一日三十里から五十里、補給の問題を考えると歩兵部隊と連携して運用されることが多く(哨戒、斥候等)空を飛べるだけの歩兵等と揶揄されることが多い。




某王国近衛軍士官教育課程の講義より

王宮での晩餐を終えて王宮の一室で我等師弟は夜を過ごすこととなった。

財務官が銀貨で膨らんだ小袋を農園孤児に渡して

「一度荷物置いてからで良いから手伝いに来ない?君の農園も人を派遣して面倒見るから。」

等とふざけた事を言う。

農園孤児にとっては良い迷惑であろう。奴を見ると引きつった笑みを浮かべていた。


「財務官様、おら等よりも使える人材がいるじゃないですか。王都に行く度にに連行されるなんて勘弁して下さい。」

「財務官、財務長の子息を自由にしていいから農園孤児に手を伸ばすんじゃない!それにこの農園は私の所有だ!私の方にも払う物が在るだろう。貴重な働き手を不当に拘束されたんだ、それなりのものを用意するべきだろう。」

「えっ!あそこ王室顧問の所有地だったの?」

「あそこを隠遁地にしようと思って購入したんだ、」

「な、なんだって!一生無理な事に無駄金を使うなんて・・・・・・・・・王室顧問、其処の土地代は払うからそんな無駄な努力をしないでおくれ。」

「何が無駄な努力だ!!」

「隠遁しようとする事。」



我が友財務官よ、其処までして私を働かせたいのか?

無駄に調度の整った王宮の来賓用の客室で夜を過ごすのであった。


翌朝、農園孤児は空になった荷車に料理長から麺麭だのを土産に貰って農園への帰途に付くのであった。料理長とかに幾つか約束させられていたが、野菜を売りに来てくれとかという程度だから良いだろう。

なんか荷馬がつやつや元気な気がするけどたっぷりと燕麦でも平らげたのだろう。

それともとっておきの大麦か?

ずんぐりとした錆色に所々白の斑のある荷馬はぶるるんと一声あげると農園孤児とその荷物を載せて寝床へと向かうのであった。




さて、私も戻るとしようか・・・・・・・・・・何処に戻れば良いのか判らぬのだが。

王城の門を出ようとしたときに

「王室顧問、逃げるのは良くない!」「一人だけ楽をしようなんて許せぬ!」

等と官僚共が・・・・・・・・・・・

仕事をしてたまるか!

私が駆け出したのは悪くない、悪くないはず・・・・・・・・・・・・・・・・

そのまま市場に言ってなし崩し的に酒盛して・・・・・・・・って、近衛が屯しているだと!

運命は残酷だ・・・・・・・・・・・・・


私は囚われの身となった。

そもそも私は自らの住処を定めないといけないのに何故に仕事しているのだろう?


「ああ、隠遁したい隠遁したい。あと少しで隠遁できるんだ。隠遁できたら馬鹿な王族に関わることなく退廃的な生活を送るんだ。」

「王室顧問、不敬表現は置いといて仕事しないか?」

「これは私の担当じゃないですよねぇ・・・・・ 私の分は終わっているはずですが、何でこんなにも山が出来ているのでしょうか?ああ、無能で馬鹿で変態な王族のせいで私は仕事をしているのですか・・・・・・・」

「嫌味を言うのは許すが仕事してくれ!」

「それ以前に私に仕事回さないでください!」

「法務官部分だぞ?」

「しるか!」

「それ以前に俺達の仕事の量も考えて欲しいもんだな。」「是宰相府の仕事だろう。」「王太子婦の仕事は私達に関係ないはずだが。」「残業代寄越せ!」「追加報酬!」


官僚達も便乗して騒ぎ始める。人の尻馬に乗るな。

でも、官僚府の担当じゃない仕事もちらほら・・・・・・・・・・・・

「皆!一度担当外の仕事を仕分けして突っ返すとしよう。」

「うむ。」「諾。」「それは良い。」「自分の仕事を終えて楽になろう。」

声を挙げたのは近衛文官、勿論官僚共も賛同の意を示す。



仕分け仕分け・・・・・・・・・・


うむ、今までしていた仕事の半分は他部門から押し付けられたものだな。

では、是を返して・・・・・・・・・・・・・・・


「皆!是を終えて夜は酒盛だ!」

「「おおっ!」」


仕事の目処が立った官僚達の意気は高い。

宰相府、王室府に仕事を押し付けて(つっかえして)・・・・・・・・・


ざりがりがいりがりがり・・・・・・・・・


計算、検算部分は孤児達が片付けてくれていたから楽だな。


がりがりがりがりがりがり・・・・・・・・・

ふと思った。

「何故、俸給も出ないのに追加の仕事をしているのだろう?これは私の仕事ではないはずだ。」


官僚達の山も殆ど無くなっているので放置して帰るとしよう。

「まて!王室顧問。あと少しで終わるから皆で飲もうではないか。」


友財務官の頼みもあるから暫くだらりとする事にしよう。


なんか他部署の文官共がわめいているが気にすることはない。

ちょいと書類を見せてもらって・・・・・・・・・・・・其れはお前等の部署で処理する書類じゃないか!

突っ返してあげると殴りかかってきたり泣き脅しをかけてきたり・・・・・しているが取り合わないとわかるとそのうちに消えていく。


なんか宰相閣下がいる気がしたけど気にもしない。

「王室顧問何をしているのかね?」

「いえ、我等の業務外の仕事を押し付けてくる馬鹿者を追い返しているだけですが何か?」

「ふむ、如何して官僚共が嬉々として帰宅の準備をしているのかね?」

「そりゃぁ、仕事終えて一杯引っ掛ける心算なのでしょう。」

「今何時か判っているのかね?」

「昼過ぎでしょうかね。どうかしましたか?」

「飲むには早いと思わぬかね?」

「別に早いなとは、世の中には朝から酒を飲むものもいますし我が国でも水の代わりに酒を嗜む地域もあるではないですか。そんな良識派ぶってことの本質を見失うのはよろしくないと思いますが閣下。」

「仕事しろ!」

「終わりました。」

「他を手伝え!」

「断る!」

「命令だぞ!」

「命令する前に我が眷族(子供達)を潰したことに対する保障をお願いします。」

「ううぐっ!」

「金貨100枚程度ですから安いものだと思いますが。」

「内訳は?」

「労賃金貨40枚、治療費金貨20枚、休業補償金貨30枚、慰謝料金貨10枚。端数はありますけど其れはおまけしておきます。」

「高いわ!労賃が何でそんなにするんだ!」

「二十人で半年、通常の文官の給料から考えれば安いと思いますが、治療費も療養神殿からの見積もりがありますし、休業補償なんかも治療後に復帰できるまで休ませなくてはいけないでしょう、普通じゃないですか!さっさと払ってください!」

「ああ、王室顧問。労賃についてはこっちで預かっているから、後で渡しておいて。」

「財務官か、勿論残業代は入っているんだろうな?」

「・・・・・・・・・・・・・・・勿論入れているよ。そういえば宰相閣下、回された書類の分担当部署の予算から我等の残業代いただきますけど宜しいですね。嫌とは言わせませんよ。」


青い顔をする宰相閣下。そりゃそうだろう、単価の高い官僚の残業代なんてまともに支払ったら結構な金額が飛ぶ。その後、書類を回してきた部署から高いだのせめて分割にだのという声が聞こえるのだが知ったことではない。思わぬ副収入の機会に官僚達も嬉しそうだ。


「其れは、後程関係部署と協議する。だが期待はするな。」

「大丈夫ですよ。払いがなければ今後は協力しませんし、他にも色々と・・・・・・・・・」

「色々って何だ?」

「えっと、関係部署のご子息やご令嬢の方々をこっちでごっそり引き込んで仕事を仕込むとか、王族兄妹(ヘンタイ)の側付きに推薦というのも在りますし。あとは特定の部署の予算をごっそり削り取った予算案とかありますしね。」

「こらこら、財務官。脅しは駄目だろう脅しは、こういう時は関係部署の後ろ暗い所を明らかにする査察なんていうのは如何だろう?うちの子供達はそういう嗅覚は鋭いから色々探してくれるぞ。」

「あの子達の感の鋭さは素晴らしいからね。見つけたらご褒美というのは如何だろう?」

「あまりやりすぎると予算が足りなくなるぞ。」

「そうだね王室顧問、うっかりしていたよ。」


高笑いする私と財務官に宰相閣下は嫌そうな顔をして

「国を潰すつもりか!そして如何して其処まで非協力的なんだ!」

「そりゃぁ、ねぇ。」


「「「「「「仕事したくないから。」」」」」」


官僚共一致で答えやがる。無駄に揃っている所が憎たらしい。

そんなこんなしているうちに仕事を終えた官僚共はてんでばらばらに帰り支度をする。


「待たせたな王室顧問、久方振りに一杯やるぞ!」

「向こうの話を聞かせてもらうぞ。」「娘達が居ない間に如何だ色町なんかは。」

「わはははははっ!」


ぞろぞろと足並みをそろえて退出する官僚共、規程の仕事を終えている私達を止める理由などないのだ。

さて、酒盛だ。




と思っていた時期もありました。

如何して官僚共は兎も角、私まで捕まっているのでしょう。

「仕事しろ!」

「断る。」

「仕事しろ。」

「断る。」

「仕事しろ。」

「自分でしろ。」

「仕事しろ。」

「そっちの仕事だろう。」



周りには白い山脈、其れを囲むかのように武具を纏った男達。

陛下が直々に私達を見張る始末。


「お前等、如何して仕事しない。」

「自分等の仕事を終えてますので、帰宅する事の何が問題でも?」

「手伝うとかいう気はないのか!」

「だって、持って来るばかりで手伝ってくれないじゃないですか。残業代も出ないし。」

「王命だぞ!」

「拒否します。」

「放逐だぞ。」

「大歓迎です。」「そういえば酒国から誘いが在ったよなぁ。」「西部平原国からも」「商会公からも誘われていたし」「何処行くかねぇ?」「うーん。」

「命は惜しくないのか?」


きらりっ!


「後で残業代の請求はしますからそっちの予算宜しく願いますよ。」

「財務官、我等の分の残業代の請求宜しく。」

「判った。」

「残業代なんか出るわけないだろう!」

「横暴だ!」「俸給払え!」「第一、仕事していない王太子府の予算なんか要らないだろう。」

「王妃予算も返還されていないし・・・・・・・・・・・」「貴族達から徴収した金貨だってあるはずだ。」

「第一私達に休暇がないのに仕事回す連中に休みがあるのは問題でしょう。」


矛先を変えてくる官僚共、仕事を押し付ける側もぎくりとして逃げようとするが宰相閣下と陛下は近衛に目配せをして押し付けて来た者を一緒くたに引き戻す。


「うむ、幾ら酒しか飲まないで外に出すのが恥ずかしい官僚共でもその一言は正しい。」

「えっと、陛下私共も国のためになる仕事をしているので多少は手伝いが在っても良いかなぁとか、孤児達がいるのだから仕事に余力があるし手伝ってもらうのは・・・・・・・・・・・・」


一枚見てみる。

【王都神殿宛命令書 王妃19歳認識護符の製作設置】

なんだかな

【王都衛士隊 人事予算要求 詰所付き賄い婦 若い子で猫耳】

【庭園公 一般常識教育費】

【透視布 製作要求 王兄殿下】

【異世界男色文学国際愛好会会合 発案者王妹殿下】



・・・・・・・・・・・ろくなものがない。

「陛下・・・・・・・・・」

私が一枚渡すと、陛下は書類を丸めて捨てた。

「官僚共、一度この書類の精査を命ずる。要らん命令書等を全部処分だ!」

「ああ、神よ。この国の馬鹿につける薬が在るのだろうか?」



びゅん!(匙を投げる音)



【請求書、匙代 銀貨40枚 療養神殿】

そういえばこんなのもあったな。



それから、数日缶詰になりましたとさ。

官僚共に押し付けるのは、面倒な命令をたらいまわしにしていただけなんだな。

勿論残業代は請求しましたよ。いやぁ、臨時収入臨時収入。

子供達を連れて市場に繰り出すかね。

なんか話が進んでいないな。気にしたら負けかも。

酒でも飲もう。

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