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王都帰還と近衛始末

賢者様達は国境近くで今頃無事にいるんだろうかな、農園孤児はふと彼らのことを思い出して思案している。

王都近郊の王室顧問卿が所有する地所、そこの作物を荷車に山積みにして王都へと売りに行く途中のことである。


農園の小作人となって数か月、麦とかはまだ実っておらぬが葉物だのちょっとした根菜だのはそこそこ収穫できている。

先だって送られてきた鶏も増えて卵を食べきれないくらいに生んでいる。

これらの物を売りに出して地代を得るのと同時に久方振りに孤児院に顔を見せるのも悪くないかなと・・・・・・・・・・・


王都の門を越え、市場にて販売場所を銅貨数枚で借りて荷車ごとその場所に置く。

敷物を用意して広げる物もあるけど、嵩張る食料品とかだからまんまで飾って売った方が手間がない。実際そうやって荷台をそのまま店にする者もちらほらいる。

荷台を引いてきた荷馬は近くの荷馬放牧場に預けてある。これも銅貨数十枚程度。

銀貨3枚を目標に売り込んでみるか。



店開きを始めるや否や枯野の季節で新鮮な葉物とか少なかったからか、葉物を中心に売れ始めている。葉物の羹とか煮浸しでも作るのであろうか?

客が途切れて来る刻限、売り物の葉物を間食代わりに齧りながらのんびりと空を見る。


千切れ雲は更に千切れながら空に消えていく、まるで空に吸い込まれていくかのようである。

そういえば兄弟分は懲りずに王宮にいるはずだが元気にやっているのだろうかな?

過ぎ去ったあの慌しい日々を思い起こしながら一口葉物(売り物)を齧るのであった。


そうやってぼんやりとした時間を過ごしていると次の客が訪れる。

いつぞや王室顧問様と行った酒場の料理人が材料の仕入れをしているのだろうか、こっちの顔を見ると近寄ってくる。


久しく顔を見ないことに対して近況を訊ねられたり、貴族様と喧嘩した事を濁しながら小作人として身を立てていることを話すと結構な量を購入してくれた。

流石にこれだけ縁故で買ってもらって申し訳ないと卵をおまけに付けると逆に恐縮される。

料理人はたまには顔を見せに来いと言いながら店へと戻る。

昼餉は寄ってみるかなときゅるりとなく腹をさすりながら次の客の応対をする。


途切れては寄ってくる客の群れ、見知った顔があり一見の客もあり飛ぶようにとは言わないがこの分では持ち込んだ分ははけそうだと思案する。

売上の方もとうに市場の利用料も馬の預かり賃も超えてほくほくである。


隣で同じように野菜を売っている夫婦者に留守番をお願いして久方ぶりに王室顧問様曰く【失礼な女給のいる店】に立ち寄ってみることにする。

市場から歩く事暫し、酒場街にある馴染みの店。


席に着くと早速料理人が先程の葉物を羹仕立てにしたりして客にふるまっている。

女給も農園孤児の顔を認めるとこちらが選ぶ間もなく葉物の羹仕立てを出してくる。苦笑を隠しきれない農園孤児は麺麭と飲み物を頼み昼餉にする。


久方振りに見た顔に世間話の一つもしたいだろうが昼餉の刻限の掻き込み時だ途切れぬ客に女給も話す暇もない。

出された食事を食べる前に留守番を頼んで夫婦者の為に市場で食べることができる持ち帰り用に軽食を注文すると自分で育てた葉物の羹を麺麭で食べることにする。


自分も調理するのだが流石本職この味は出せないなと考えつつ、美味美味と久方ぶりの他人が作った食事を楽しんでいく。食べているうちに軽食も出来上がり持ち帰るだけの状態として届けられる。

食事も終わり更に客が入りそうな気配がするのでそろそろ市場に戻るかと腰を上げると女給は偶には顔を見せに来いと文句をつけてくる。


ふと軽食を見てみるとたんだ量より多い、鼻を鳴らしながら女給はどうせ独り身でろくに料理などしないのだろうと御見通しだよとばかりに言ってくる。事実だけに言い返せない。素直に礼を言って市場へと戻る。


戻ると対して売れていないわよと数十枚の銅貨を渡してくる。

昼餉の時間だし客もそれほどではないのだろう、そんなものかと留守番の礼を言いお礼代わりに軽食を渡す。

夫婦者も意外な報酬に目を細めて礼を言ってくる。そして世間話をしながら客をさばいていく。

夕餉の菜を求めている町方の婦人達をあしらいながら少なくなっていく荷台の上の野菜、娘を貰ってくれないかねなどと軽口も聞き流しながらそろそろあがろうかどうかと思案する。


そんな時人混みをかき分けるように進む近衛兵の一団。

いやな予感をしながら見ていると農園孤児の前に立ち止まり一言。


「農園孤児殿に申し上げる、助力を願いたい。梳く王宮に参られたし!!」


ざわめく周り、農園孤児は小さく嘆息し返答する。

「おいらは王宮勤めを辞した身、今更戻る事が出来ましょうか。」

「いえいえ、貴殿の力量は宰相閣下をはじめとして歴々の重鎮様方が配下にと請われるほどではないですか。さぁ、この場は私共で片付けますので参りましょう。」


肩を掴まれ強引に引きずられていく農園孤児、売られる子牛の歌が聞こえるようである。


「ちょ!ちょっとまってくれーーーー!おいらはしょるいしごとするつもりはないぞぉぉぉぉぉ!!」


叫びをあげながら連行されていく農園孤児とあっけにとられる観衆をよそに近衛兵達は手早く荷馬を返して貰うと荷車に括り付けて王宮へと進むのである。



「お前さん、あの坊やお偉いさんだったんかねぇ?」

「どう見てもそこらの農家の小倅にしか見えなかったがなぁ、人は見かけによらないものだ・・・・・・・・」


夫婦者の問いに答えることが出来る者はこの場にはいなかった。

朝餉の後、子供達は日頃の疲れがたまっていたのか広間で団子となって眠りこけている。

今日はゆるりと休ませるとしよう。


孤児院の庭で駆け回るデブ兎と追いかけるチビ共を見ながら何処に匿うかと思案する。

少なくとも数日は休ませて英気を養わせないと使い物にならないだろうから。


私は孤児院の一角を占拠している私兵達に王宮からの使者が来ても取り合うなと命じながらまとわりついてくるチビ共の相手をするのであった。

私自身もあの竜の旅は体に堪える。昼寝でもするかと手近な木陰に背中を預ける。


「王室顧問卿と孤児達に宰相閣下からの命である。梳く王宮に参られたし!」

大音響を張り上げる近衛兵に


「うるさい!子供達が起きるだろうが!!」

ゴインという打撃音と共に怒鳴る奴隷戦士。


お前の方がうるさい!

昼寝を妨害された私が怒りの一撃を加えたのは許されることであろう。

うん、許されるはずだ。


神秘緋金属張扇(オリハリセン)の一撃に煙を立てて沈む奴隷戦士。

まさかの背後からの攻撃に唖然とし私に非難の眼差しを注いでくる。


未だ煙を立てて沈んでいる奴隷戦士を見て、その奴隷戦士からの打撃をくらって頭を抱えている近衛兵を見て近衛兵も私兵達もどうしたものかと沈黙している。

いち早く立ち直ったのは近衛兵の古参。


「王室顧問様、宰相閣下も陛下も報告を求めておりますので御身だけでも来ていただけないでしょうか?」

ふむ、子供達が連日の勤務で過労状態と知っての提案か、仕方あるまい。

私は身支度を整えると孤児院を後にするのであった。


取り敢えず、女衆の一人に療養神殿に癒し手を遣してくれと願うよう頼んでおくか。




ただの過労だろう、我が子供(癒し手)達の手を煩わせるほどでもなかろう。(by療養神)

単純に診断書目的だろう、それを盾に子供を引き揚げさせる。(by戦神)

確かにあの現状は子供には酷すぎる。(by厨房神)

我が子供達をこき使った報いはどうしてくれようか。(by暗黒神)


のちに癒し手が見立てたところに拠れば半月位は仕事させるなとの事。良い判断だ。






我が身一つで王宮に参る。

官僚部屋に三男坊が兄と思しき近衛兵の若者に怒鳴りながら仕事をしていたり、農園孤児がいたり・・・・・・・・・って、お前は我が地所で畑仕事をしていたはずだろ!


「ああ、賢者様!助けてください。市場で野菜を売っていたらいきなり連行されて………」

ぴきっ!米神に青筋が浮かぶのが自分でもわかる。

「えっと、お前等人の眷属に何をしてくれているのかな?」

「いやぁ、孤児達が居なくなったから手近な戦力として・・・・・・・・・・」

「貴族家から徴用している人材は?」

「王室顧問全裸事変のあれ?使えるのが大していないし・・・・・・・・ほとんどの所は金で済ませているからなぁ・・・・孤児達を雇った方が安上がりだし便利だし・・・・・・・・・お代わり頂戴。」

「財務官!可愛い孤児達をつぶしておいて何を言う!」

「王室顧問、孤児達でも潰れる状況に俺達がいるのは?」

「それは問題ない。そこの強壮剤があるだろう。ついでに酒樽を差し入れてやる。」

「やったー!って、我等にも休みを!」

「強壮剤は小間物屋用のだろう!酒樽はもう其処に据え付けてある!」

「苦情は陛下に言え!」

「よし、陛下に上奏だ!」「行くぞ!」「どうせ王室顧問も陛下のもとに行くのだしついていこう。」

「今頃は宰相閣下と執務室で詰めているはずだから向かうぞ王室顧問。」

「自由を我らに!」「われわれに酒をさもなくば死を!」「休みをくれ!」


なんか変なところでまとまりのある官僚共だ。




王室顧問も同類。(by某王国担当地方神)


後で神殿にもお礼参りしないとな、私のかわいい子供達の危急に際して手助けせぬような者にはどうしてくれようか?

神殺しを用意して・・・・・・・・・・



まてまてまてまて!!!!(by某王国担当地方神)

どうしてそこまで行くのだ!(by聖徒王国担当地方神)

おちつけ!お前が言うとシャレにならん!(by西域地方担当地方神)





「王室顧問様!神々が怯えてますけどなにをなさって!」

世界を震わす神気の乱れに王宮付きの祭司があわてて駆けつける!

ただ王国神殿をつぶそうと思っただけで何をおびえるのだろうか?


「だから、神を潰すとか考えるのはやめてください!なだめるこっちの立場になってください!」

「気にするな。私の可愛い眷属達を虐げたんですから色々お礼しないと・・・・・・」


「本当に王室顧問は親ばかだねぇ・・・・・」

軽口をたたく儀礼官。孤児達の扱いで後でじっくりと話し合おう。

「お、王室顧問。落ち着け!うんうん、我等にも非があった。だからその手に持っている物騒な得物を手放して・・・・・・・・・・・・・」

「王室顧問、暴力では何も解決しないと・・・・・・・・・・・・」


口々に弁明して命乞いをする官僚共、それを見ていた祭司殿は呆れて立ち去っていく。

「王室顧問様、くれぐれも神々を脅さないでくださいね。」


捨て台詞だけは忘れない。脅したつもりはないのだが・・・・・・・・・・

超越者だの全知全能とちやほやされているから少しは危機感というものを感じさせてやるのもよいのではないかと思うのだが・・・・・・・・・


それはさておき、


私についていく気満々な官僚共に仕事を黙々と片付けている後釜君達に官僚見習いの貴族の子弟達。農園孤児もなんだかんだ言いながら手伝っている、付き合いの良いことだ。

私の生徒でもあった三男坊は


「半月ぶりに家に帰れたと思ったら・・・・・とんぼ返りだし」

とぼやいている。

三男坊のボヤキを聞いて近衛の若者二人は

「なんで俺達まで巻き込むんだ!弟よ!」

「俺達は栄えある近衛隊だぞ!」

「うるさい兄上達!黙って仕事しろ!」


醜い争いだ。昨日書いた推薦状が即実行されるなんて、どれだけ人がいないんだ?

「王室顧問様、お助けください!弟に嵌められて文官として連行され・・・・・・・・・・」

「兄上!私が休みのときに丁寧に連行してくれたのは兄上貴方でしたよねぇ・・・・・・ご丁寧に金一封もらっているし。王室顧問様兄上達に憐憫の情など不要です!」

「弟よ、勘弁してくれないか?」

「兄上、私や孤児達が休みの時少ない自由を満喫しようとしていたのを無理やり連行した者が言っていいセリフではありません!」


なるほど、この兄弟は私の可愛い子供達を連行してくれたのだな。うんうん、三男坊良い仕事をした。

「賢者様、あとで近衛隊の待機命令中の者に文官の手伝いをさせるよう御前会議での議題を出したいのですが手伝ってくれませんか?」

「ふむふむ、近衛隊は基本読みかけ計算が出来るし教養もあるから文官にもってこいだな!中々、面白いことを考えるではないか。」

「お褒めに預かり有り難く思います。」


にやりとする私ににやりと返す三男坊。そのやり取りを聞いていた彼の兄達は絶望に満ちた顔をして・・・・・・・・・・・・

「俺達近衛に戻れない・・・・・・・・・・」「兄貴・・・・・・・・・・近衛から闇討ちされないかな?」「父上も危ないな。」「一家存亡の危機?」

と頭を抱えている。

その後しばらくして、この兄達は近衛の事務部分を一手に扱う羽目になるのだがそれはどうでもよい話である。


近衛の上級士官扱いで出世なんだからその位の労苦は厭うな。ついでだから私が直々に鍛えてあげよう、君達の弟が出来るのだから兄として逃げるわけ行かないよね。


廊下で哨戒勤務していた近衛たちはこの話を聞くと慌てて上に報告しにいっている。

ふむ、軍部も書類仕事(裏方)の労苦を分かつべきだよな。うん。



このやり取りを見ていた官僚達も人が増える提案に成程成程と頷いている。

次は神殿か?神職達も教養あるはずだから事務仕事に・・・・・・・・・・・・・

どうせ寄付金せびりとか御託並べた説法しかしないのだから・・・・・・・・

仕事を与えた方が世のためであろう。





さて、陛下のもとに報告に行くか。

「そういえばさぁ、王室顧問。孤児姉ちゃん達は?」

「私も竜でいきなり連行されたからどこにいるかわからない。まだ国境地帯にいるのではないか?」

「その辺も早く呼び戻して手伝わせてほしいと申し立てないと・・・・・・・・・」

「財務官、子供達の身を案じているのか手数が欲しいのかわからないな。」


久方振りであります。今いる現場の責任者が抜けることになり私に仕事が・・・・・・・・・・大量に増えて増えて・・・・・・・

流しの職人に売り場全部任せるとか何考えているのやら・・・・・・・・

社員はどうした。



ああ、酒呑もう。

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