王都帰還と孤児院始末
王室顧問様が囚われの民草達を助ける旅に出てから僕達の苦難は始まった。
僕達孤児には後ろ盾はないし、黒髪孤児や酒盛男爵の兄貴達みたいに神の祝福を受けた武器なんて持っていない。ましてや、傷跡の姉御みたいに有形無形の後援者なんて者はないのだ。
孤児娘や孤児姉の姉貴達は・・・・・・・・・・なんていうか、孤児娘の姉貴達は貴族家の弱みを握り・・・・・・孤児姉の姉貴は聖域守護辺境伯家の後ろ盾。
どう考えても、僕達詰んだ?
王国神殿に逃げ込んでも守ってくれなかったし・・・・・・・・・
僕達だって仕事が嫌で逃げていないんだよ。
だけどさぁ、せめて十日に一度の休みを潰して欲しくないんだよ。
兄弟分の一人なんか王都から本気で脱走して行方知れずだし・・・・・・・
年季明けたら他の所にしようかな?
楡林卿の所なんか条件良かったし、そこの家宰見習なんて言うのも悪くないかな・・・・・・・
しかし彼は知らなかった、楡林卿の家宰見習と入ろうにも王家の横槍で・・・・・・・・
自由と休暇への道は遠い。
そして彼と彼の兄弟分が【仕事しろ王家】の旗印の下に集うのであった。
其れって、ただの怠けも・・・・・・・・(by某王国地方担当地方神)
しっ!其処に至る経緯がとても哀れすぎる・・・・・・・(by運命神)
そもそも、王室の執務能力を増強させて負担を下げれば避けられたことであろう(by暗黒神)
子供達に夜の酒場で飯を食わせ孤児院へと連れ帰る。流石に寮に置いておくと近衛だの陛下の手の者が連行しそうになるだろうから・・・・・・・
酒場ではあの無礼な女給が子供を連れてきてとかこんなにボロボロになるまで放置してとか文句をつけてくるのだが半分以上は私のせいではない。
夜の酒場くらいしか適当な飯屋はないのだし、仕事については陛下と官僚共の裁量だ。契約の段階で定期的な休みと安全を確約していたのになんとも酷い話だ。
子供達は久方振りに解放された安心感からか良く食べて良く騒いでいる。
周りの酔客達は子供の食べっぷりを微笑ましいものを見るように見て酒を勧めるのだが女給の木盆が彼等の頭上に落ちるのであった。
ふむ、久方振りの王都の飯は美味であるな。国境地帯は素材の鮮度は良いのだが田舎料理過ぎて単調であったし、啓蟄は塩と香辛料を効かせすぎというか私の口に合わなかった。
私は子供達が大振りの肉の塊に挑んでいるのを眺めながら、蔬菜の新芽を湯掻いたものに木の実を砕いたタレをかけたものや一冬越した根菜の古漬けを羹の出汁で湯掻いた物に卵を落とした庶民料理で酒を舐めるのであった。
「ほれほれ!そんな小さな口で肉は噛み切れないぞ!」
「がははははっ!」
「むぐむぐむぐ!!」
「はいはい!あんた等は煽らないの!チビ共は誰も取らないからゆっくり良く噛んで食べなさい!」
ふむ、微笑ましいやり取りた。
そんな中、私についてきた貴族の三男坊(私の生徒の一人)が聞いてくる。
「賢者様、そういえばどのような契約で私達を売り飛ばしたのですか?」
「売り飛ばしたって・・・・・・ 私の懐には入っていないぞ。一日六時間程度、他教育として二時間拘束。残業は認めないし、休日も月に四日以上は確実に与えるように言い含めておいたはずだが。給金はちゃんと貰っているか?」
「最初言われた額の倍は貰ってますがまさか、残業代込み?」
「最初が銀貨一枚だから・・・・・・・・・・・良い収入だな。熟練工並みに貰っている計算か。」
「家に入れているので母上は喜んでいますが、金を使う暇がないから・・・・・・・・・・・」
「けんじゃさまー そういえばもらってないや!」
孤児達の分は後で確認しておくか・・・・・・・
鱈腹食べた孤児達を連れて孤児院へと向かうこととする。三男坊は実家に戻るという。夜道は気をつけて帰るのだよ。
連日の疲れと満腹からか眠たげな目をしているのが多い、仕方ないので人を使って荷台に子供達を放り込んで運び込んでもらうことにする。寧ろ飲食代より高くつくな。
もともとは戸板送り(酔い潰れた連中用)の運送業務らしいのだが、子供を山ほど運ぶとは運び手達も思いも付かなかったろう。
流石に荷車一つですまないから何台も雇う羽目になってしまった。
子供達が運ばれる事暫し、孤児院に着く。
彼等の古巣、悔しさと悲しさが詰まった場所ではあるが戻りたいなと思う場所でもあるのだろう。
子供達はふらふらになりながらもただいまという。
其処にあるのは残酷な現実、孤児院には子供達の場所がないのだった。
青麦領騒乱、啓蟄解放戦役・・・・・・・・・・・・内外問わぬ戦にて親を失い、糧を得る術のない子供は少なからぬ数いるのだった。
此処にたどり着くことが出来た子供達は幸いである。
弱き者への理不尽を嫌う、愛するべき大馬鹿者達が全身全霊を持って守ってくれるからである。
ただ、子供は旅立つときは来る。
自らの意思で世界を巡るのか、小さい者の為に場所を空けようと宛てもなく彷徨うのか・・・・・・・知らないけど。この子供達の場合は・・・・・・・・・・・・
取り合えず言おう、そこそこ増えている孤児達。縁あって職を得た子供達、しかも帰ってこないとなれば新しい子供達のために場所を空けるだろうな普通は・・・・・・・・・・
どんだけ帰ってこれなかったのだろうか?
「ほんの二月ばかり還れなかっただけで・・・・・・・・・・」
うん、普通に部屋をなくされても文句は言えないな。何処で寝ていたのかは怖くて聞けない、聞いたら本気で王国政府を叩きのめしたくなりそうだな。
「寝る場所は寮の賢者様の部屋。」「近衛の医務室で寝ていたなぁ・・・・・・・・・・・・」「室内天幕が一番寝心地が・・・・・・・」「官僚部屋で力尽きていました。」
住む場所も配慮ないのか・・・・・・・・・・・って、言うか私の部屋を明け渡すな!
「其れは寮母さんが・・・・・・・・・・・・どうせ性愛神殿に入り浸りだからって・・・・・・・・・・」
私も家なき子か・・・・・・・・・・・・ どこかに家でも買うかな。
取り合えず広間でも借りて一夜過ごすか。
暖炉には火が入っていてその前にはデブ兎達が・・・・・・・・・・・仰向けで広がっている。
いびきをかいているのもいるし、野生動物だろうお前等!
「賢者様、なんか兎の方が良い暮らしに見えているんですけど・・・・・・・」
孤児の一人がしみじみとぼやく。否定できないのは笑い話だな。
夜遅くにも拘らず応対してくれる院長は久方振りに帰ってきた子供達を済まなそうな顔をしながら快く迎え入れてくれる。
子供達も駆け寄って親代わりの老人に近況とかなにやらを口々に話すのである。
其れを黙って頷きながら聞いている院長、巣立ったと思ったら単に帰れなかっただけというのは笑い話であるのだが・・・・・・・・・・・・
笑えないよ(by光明神)
笑えぬな(by暗黒神)
作者じゃないんだからそのまま泊り込みなんて・・・・・・・・・(by森林神)
其処で私を引き合いに出さないように(by作者)
そうして私達一行は夜を過ごすのである。
よくよく考えたら私貴族だよ、床で雑魚寝とか扱い悪いのではないだろうか?
今更だけど
朝になり、広間に私達の姿を見た孤児院にいるチビ達は私達の姿を見つけて飛びついてくる。
孤児院を出て王宮勤め(臨時雇い)をしている子供達にあって気分が盛り上がるのも当然だな。
その後から女衆も子供達を見つけて子供達を抱きしめたり頭を撫でたり・・・・・・・・・自分の子供のように扱っている。
新参の子供達は何がなんだか判らないから呆然としてデブ兎と共にすみっこにまとまるのだが。
私も混じって朝餉を取る。
その場での質問
「黒髪のにーちゃんとかこじあねのおねーちゃんはどうしたの?」
そう言えばどうしたのだろうか?
王室顧問其れはひどいと思うぞ。(by某王国担当地方神)