啓蟄の都と聖域守護辺境伯私兵団
立ち塞がる者を踏み潰しながら先を進む聖域守護辺境伯私兵団、彼等の行く手を阻むものはいない。
啓蟄の都にはさしたる障害もなくたどり着く、その後には踏みつけられたものたちが多く転がっているのだが。
都にて規律正しい彼等の事、略奪も暴行も行わない。
物資はこれでもかと満載でわざわざ奪い取るまでもないのだし、暴力に訴える趣味はない。
彼らは戦士なのである。
非常に備えて存在するけど抜かれぬ剣でであることを旨とする聖域守護辺境伯領民なのである。
怠け者言うな?(by辺境伯私兵団前衛盾部隊所属若手隊員)
辺境伯家の連中と一緒にするな!(by辺境伯私兵団中衛槍部隊所属中堅隊員)
なんかそんな声が聞こえる気がするが幻聴である。
話を戻そう、啓蟄の都にて私兵団その他と屯しているときに裏道に襤褸切れが動いているのを見た。
私兵団の前衛(盾担当)が猫でもいるのかと覗いてみると襤褸切れは子供達だった。
人外兵団の獣人(鯖虎猫系獣人)が異国というのは治安も気候が良いのだな、子供が路上で寝ていても何事もないとか・・・・・・・・・・と見当はずれのことを言っている。
鯖虎の言うことにそれは違うと突っ込みを入れるのが奴隷兵団の突撃兵である。
鯖虎も、ふざけて言っただけなのだが・・・・・・・
そんなやり取りを遠めに見ている荒野の民の騎馬戦士は落ちている子供を拾うのはこの国の法に反しないのか思案しているのであった。
都見物をしている下っ端兵士達を尻目に襤褸切れ・・・もとい、子供が目を覚まし下っ端兵士達に驚き、共に寝ていた子供達を叩き起こして逃げるように叫ぶと盾担当に向かって体当たりをかますのであった。
いくら決死でも子供の体、ぶつかる事を生業としている盾担当は子供を受け止めて首根っこをつかむ。逃げようとした子供達もそれぞれ兵士達に捕まってしまうのであった。
騎馬戦士はふと考える、彼等の長はかつて子供に怖がられたはず。その二の轍を踏まないように静かに話しかける。
「子供達よ、特に如何こうする積もりはないのだが大人しくしてくれないか?」
「うそだっ!そんな残忍そうな顔しているんだから人攫いか何かだ!」
「・・・・・・・・・・・・人攫いって・・・・・・・・」
「それに猫の化け物に山賊みたいなものもいるから悪者だろう!」
「・・・・・・・・・・・山賊・・・・」「猫の化け物・・・・・・・」
子供の容赦ない口撃に少々切れる公爵私兵団の面々。
某王国内ではまず聞くことがない暴言だから耐性はないようだ。
子供を捕まえる手に力がこもっているようである。
盾担当に押さえつけられている子供もじたばたしている。
なんか野良猫を捕まえたときみたいだと思ったのは内緒にするまでもないが口に出すほどでもないことである。
別に逃がしても良いのだが、路上で過ごさせるのはあまりよろしくないなと提案をする。
「子供、お前等の無事を私が保障するから大人しくするように言ってくれないか?」
「信用できるのか?」
「とりあえずお前を放すから好きにしろ。大人しくさせることができたら飴玉でもくれてやるよ。」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・」
盾担当は子供を下ろしてやる。子供はじたばたとしている仲間と青筋を立てている兵士達を見て
「とりあえず、逃げずに大人しくしとこうぜ。そこのおじちゃんが飴玉くれるといっていたからよぅ。」
「・・・・・・・・・・おじちゃん・・・・・・・・・」
子供達はしぶしぶ大人しくなり兵士達も子供を放す。
その後、路上で寝ていた子供達は神殿に保護されることとなる。
その夜盾担当は一人涙で枕をぬらした。
啓蟄の都で啓蟄神殿の者が炊き出しを行い宣伝をしている。
「はいはい並んで並んで・・・・・・・」
「ありがたやありがたや・・・・・・」
「農奴制が廃止されたので逃亡農奴であっても罪に問われなくなったぞ。」
「な、なんだって!本当か!」
「本当ですって・・・・・・・・・って、胸倉つかんで揺さぶらないで!」
なんだかんだと啓蟄の都に逃げ込む農奴も結構いたわけで、彼等に対する保護を啓蟄神殿にお願いしたのである。
彼らは快く応じてくれた。まぁ、日頃道具として扱っていたのを人として扱えという命令に心から納得しているわけでもないだろうが農奴制が不条理であることを認識させるには神殿の者を利用するのが手っ取り早い。
なんたって神々の命令だし・・・・・・・・・・・
「王室顧問様?どうして神々を・・・・・・あそこまでこき使えるので?」
「酷い事を言うではない。私の真摯な問いかけに神々が応じて奇跡を下さっただけですよ。」
私に質問をしてくる摂政姫殿下(二十代独身腐属性)は信じられないものを見る目で見ている。
「姫殿下、我が国は神々にとっても過ごしやすい場所であるようでお目にかかる機会が多いのですよ。」
正確には市場とか孤児院とか・・・・・・・ 見捨てられた神々でも受け入れているからなぁ・・・・・
人族連合では異教扱いされる暗黒神であっても馴染んでいたからなぁ・・・・・
ふむ、あの子供達は我が宝だ(by暗黒神)
少し分けてくれ!(by療養神)
だが、断る!(by暗黒神)
一応、我が地にて生まれた命だから優先権はこっちにあるのだが・・・・・・・(by某王国地方担当地方神)
あまいな!信仰を失った御主にあの子達は来ないぞ!(by戦神)
こっちは農園孤児を貰っていきますわね。(by豊穣神)
喧喧囂々・・・・・・
又神々が好き勝手に己の取り分を主張している。
孤児達は神神の物ではないのに・・・・・・・・
一番、馴染んでいるのは酒精神で自己主張しているのが療養神、苦労しているのが節制神と境界神だろうな。
判っているなら神神に対して自制するよう言ってくれ!(by節制神)
誰かこの馬鹿神どもにつける薬を・・・・・・・・・・(by境界神)
びゅん!(匙を投げる音)
うむ、これに付き合っていたら脱線するから放置するとしよう。
姫殿下は神神のやり取りに唖然としているようだ。なんか啓蟄神殿の連中も黙って手を止めているし・・・・・・・・
「えっと、王室顧問様?これって神神ですわよね?」
「神神がどうして・・・・・・・・・こんなに・・・・・・・・・・神域じゃあるまいに」
「深く考えたらだめだと思うのだが・・・・・・・・・・流しておくが良い。ただの観衆だ。」
姫殿下、これ扱いは酷いと思うけど気持ちは良くわかる。
皆様方、うちの者はちゃんと躾けるから自重してくださいよ・・・・・・・・降臨の影響が・・・・・・(by啓蟄地方担当地方神)
炊き出しはその後も続き次々に逃亡農奴が出頭してくる。
文字を読めないものに対して広く伝えるには物で釣って、権威あるものが直接伝えるのが一番だな。
炊き出しの列を見てそこから保護を願い出る逃亡農奴達を見ながらそろそろかなと思う。
さらに半月ほど・・・・・・・・・
啓蟄諸王国の主だった町には啓蟄神殿の者が炊き出しをしながら農奴解放の布告を触れ歩いている姿が見えたという。
いきなり農奴を解放すると言われて混乱して詰め寄る地主やらがいるけどそれは神殿と王室に裁いてもらうとしよう。
そのくらいの能力は期待したいものだ。
詰め寄る地主くらいは傍から見て笑い話だけど説明する本人としては苦労したとか啓蟄神殿の者がぼやいていたのは笑い話だ。
貴族地主階級と神殿勢力がやや離れて寄付金がぁ!とか叫んでいたのは見なかったことにしよう。
そもそも神殿が金を持ちすぎるのは良くない。回さない金なんて意味がないからな。
そんなこんなで、ある程度の事を整えた私は王都に戻るように命令を受けて帰国することとなる。
少し寄り道して帰るとするかな。温泉とか海とか・・・・・・・・
【某王国、啓蟄諸王国 農奴引渡しにおける条項】
1、啓蟄諸王国は農奴制を廃止して某王国出身者のうち希望するものを引き渡す。
2、啓蟄諸王国は残留を希望する者に対して一定以上の待遇を用意するものとする。
3、某王国側は帰国希望者に対して生計の道を用意すること。
4、両国共にこの件に関する遺恨は残さないこと。
5、桃笑国の摂政姫殿下の私物のうち、不適当な物を完全処分すること。
以下条件面での細かい定義が並ぶ。
「ちょっと!何で私の宝物を処分するのですか!!」
「姫、我等は負けたのですから耐え忍ぶしか・・・・・・・・・」
「爺、言っていることは苦渋に満ちているけどほっとした表情を浮かべてますわよ!」
「そりゃそうでしょうとも、この爺と鼻毛の祐筆殿の絡み本なんて存在してはならないものなのですから!」
「・・・・・・・・・姫殿下、私まで毒牙にかけていたのですか・・・・・・・・・・・」
なんか問題がいくつか残っているが後の課題としてもらおうか・・・・
「私は決してくじけませんわよ!魂の姉妹である某王国の王妹殿下は我が苦境に力添えをしてくれるはず。いえ!聖徒王国の聖女様や魔王国の雷竜姫様もこんな暴挙を許さないはずですわ!この恨みは王室顧問総受本を・・・・・・・・・・・・・・・ひぎゃ!」
うん、思わず神秘緋金属張扇で殴ってしまったけど許してくれるだろう。
「我が国は見なかったことにする。流石にそれは関わりたくない。」
「ついでにうちの娘や某伯爵婦人とその令嬢の私物も・・・・・・・・・」
「これは流石に規制するべきだろう・・・・・・・・・国に戻ってから諮るとするか。」
なんか変なところで食いついているなぁ・・・・・
冗談で加えたけどなんか間違えたかな?
さてと、酒が切れたのでこれにて。
卿は小笠原の袖烏賊をさばいたからそれでやるかね。