啓蟄の都と人外戦士
空は竜が飛び交い、大地を歩むのは異形の者達。
人族からすれば悪鬼の行進とも取れるのだろうか?
その先頭を歩むのは黒外套の男。
痩せた黒馬に跨り、死の匂いを振りまいている。
向かうのは農奴達を口封じにした貴族の領地。
数多の躯を作り出し悲しみの海を嵩増した、報いを与えるためである。
異形の者達は姿形は違えども、義憤に導かれるままにこの地に向かうのである。
魔王の侵略を連想する者もいるだろう。
黒い外套の男は傍らの人外達に声をかけ、馬から降りて懐かしい地を踏みしめる。
一度は親しい者を見捨てながら逃げ出した故郷へ・・・・・・・・・・
荒れ果てた光景に男は伏して慟哭の叫びを挙げる。
その地に残るのは領主たる貴族とその私兵達。
たぶん、ほとぼり冷めたら奴隷だのをかき集めて再建するつもりなのだろう。
故郷に戻った男は拡声の魔術(黒妖精族の魔術師が施行)にて領主たる貴族へ言葉をたたきつける。
死んだ娘の墓にお前の首を供えてやると。
その返礼は数本の矢、男に突き刺さるが物ともせず領主館へと歩む。
更に突き刺さる矢によろめきながらも前進を止めることはない。
性愛神から課せられた呪いは未だ解けることはない。
男の脇を人外戦士たちが突貫し、空からは竜だの鳥人だのが貴族に向かって襲い掛かる。
人外達の後に残されたのは矢襖と化した男。
同道の冥界神殿の弔い手は、埋めるべきか手当てするべきか悩んでいる。
啓蟄の都、人族連合の最果てといわれるが某王国・・・・・・・・・・ひいては魔王国との交易拠点として人も物資も集まる場所である。殆ど刃を交えることがなく降伏するのは王族の自己保身か英断か?
六個の公爵旗と王国旗を従えて私は啓蟄の都城を目指す。
城門は開かれ剣に封をし槍に鞘をかぶせた騎士達が見守る中、謁見の間に向かう。
都の外には軍団が陣を組み、都城の中にいるのは私と商会公、護衛くらいか・・・・・・・・・
民草を脅すのは本意ではないとはいえ少人数でいるのは危うい物だ。
護衛についているものは腕利きの者を揃えているが不安である。
私が儚くなろうとも、外にいる軍団がなだれ込んだら一発で終わるだろうし無茶なことはしないだろう。
「狭間の国、某王国より王室顧問卿入室ぅ!」
儀礼官の声が響く中、私は最後の仕上げにかかる。
「狭間の国の王室顧問、良くぞ参られた。我等一同汝に従おうぞ。降伏文書と玉璽をこれに。」
「はっ!」
啓蟄諸王国の王(代理含む)全てが揃い、我が前にて首を垂れる。
「願わくば配下の者と民草に寛大なる扱いを・・・・・・・・・・・」
「我が命は構わぬが一族の者には慈悲を」
「娘を差し出しますので何卒・・・・・・・・・・・穏便に」
「わらわの処罰は存分に受けますのでわらわ亡き後黒い箱については貴国の王妹殿下のほうに託していただけますよう・・・・・・・・・・」
「我が国は負けたが貴国も他国から色々奪っているだろうに綺麗事を述べるな。」
「倉庚のそれを言っては・・・・・・・」
「どうせ亡き者にされるのだ。言いたい事を言わずしてどうする!」
「それでも悪辣非道の王室顧問お慈悲に頼らざる得ないのですから機嫌を損ねて・・・・・・・・」
「金貨を納めるのは現状で不可能ですので末王子(11歳)を王妹殿下の小姓として差し出すことで・・・・・」
「こっちも王姪(9歳)を王兄殿下に・・・・・・・・・・」
えっと、誰が悪辣非道だ!それに死亡前提で語っているけど吊るしたりちょん切ったりするつもりはないのだがなぁ・・・・
「誰が悪辣非道なのかよく聞かせてもらえますか?」
「ひいっ!」
黒い箱だの悪辣非道だのと言っている桃笑国の国王代理を務める摂政姫殿下は本音を漏らしたことに気が付き小さく悲鳴を上げる。黒い箱の中身はどうせろくでもない代物なのであろう。王妹殿下に処理を願うのだから同類か・・・・・・・
そもそも処刑とか考えてないのだよな、我が国由来の農奴を開放してもらって奴隷を認めないことに同意してもらえば多少の賠償金で納めるつもりなんだが・・・・・
小さい子を王族兄妹の餌食にするなんて親として・・・・・・・・人としてどうかと思う。
世界のどこかにいるであろう幼女守護神様、男児守護神様彼らを魔の手からお守りください。
守るのは王室顧問の手腕だと思うが。(BY男児守護神)
お前の教育も大概子供虐めに近い気がするが。(by幼女守護神)
神は彼らを見捨て給うか・・・・・・・・・・・
他人事だし良いか。
「そういえば商会公、どれだけふっかけたので?」
「せいぜい金貨5万程度だが・・・・・・・・・・・」
「なるほど、払って国傾けるより降伏して有耶無耶にしようとしているんだな。」
「そうそう、同じ国内だと整備にも金を回してもらえそうだしな。」
「それをするならばあとからじっくり利益を得るんでしょう。」
「勿論だともわしを誰だと思っているのかね?お前も一口乗らんか?連合法に詳しいお前がいると楽なんだが。」
「私は安くないですよ。」
「利益になるのならば投資は仕方ないさ・・・・・・・・・後でじっくり話を詰めよう。」
私と商会公が握手をしていると諸王達が私達の事を化け物でも見る目で見ている。
「えっと、そこで何を企んでいるので?王室顧問様に商会公様?」
「化蝶国の貴国に投資してどれだけ利益を上げることができるか相談していただけだよ。」
「私もそろそろ引退を考えているから、老後の蓄えが必要になるしね。うちの国王陛下はケチだから自力で稼がないと・・・・・・・・・・・勿論合法的な商売ですよ。誤解がないように申し上げますけど。」
「えっと・・・・・・・・・・・・・・皆様方、降伏文書をまとめてほしいのですが・・・・・・・・・・祐筆が待ちくたびれて鼾かいてますが・・・・・・・・・・」
儀礼官が話を進めるように促す。
ちなみに祐筆殿は鼾書いていなかった。居眠りもしていないが退屈そうに鼻毛を抜いていた。
王族達が集う場所で不敵なことだ。
「どうせ、私も用済みにされるのですから今更取り繕ってもねぇ・・・・・・・・ 良くて解き放ち、下手すりゃ一族郎党ズンバラリンでございましょう。さっさと済ませましょうぞ。」
初老の祐筆殿は肝が据わっている。
彼に敬意を称して【鼻毛の祐筆】として我が国の歴史に記すとするか。
「ちょ!そんな歴史に名を残すのは・・・・・・・・・・勘弁してください!」
祐筆殿は慌てて懇願するがそれは遅い、不敵な言動は許すが鼻毛は人目につかないところで処理するものだ。
「鼻毛!我等の仕事はすぐに終わって貴殿の出番となるから。」
「陛下まで・・・・・・・・・・」
儀礼官に肩をたたかれて慰められる祐筆殿、哀れな・・・・・・・・・・
「いや、王室顧問様が始まりですから・・・・」
桃笑の姫殿下が冷ややかな目で見ているが気にしない。
そうして、正式に降伏文書が記されるのであった。
これで啓蟄諸王国は我が国の支配下に置かれるのであった。
ああ、解放だけしてもらってなぁなぁで済ませたかったのに・・・・・・・・・・
久しく間が空いてしまった。どうして仕事が終わらないのだろうか?
流しの職人に販売計画とかさせるのはどうかと思うんですがねぇ・・・・・
ああ、酒が飲みたい。