聖域の詩と取り立て道中
薔薇の実と加密列を加えた薬湯に一垂らしの蜂蜜。
湯気と香気に包まれて滑らかな女の手が見える。
「ここらで一休みいたしませんか?」
薬湯を入れる手の持ち主が根を詰めすぎだと暗に示す。
器に注がれるのは紅色を薄めたような色、この薬湯には白磁がよく似合う。
溶けていく蜂蜜は揺らぎにも似た模様を残している。
加密列が放つ、果物にも似た香りに書類に没頭していた男は顔をあげる。
木に成る物の香りが如何して地に這う小さな花に宿るのだろうか?
男の周りに漂っていた陰鬱な気が香気に振り払われているような気がする。
それだけでも一杯の薬湯の意味があるのだろう。
男は女に礼を言うと薬湯を喫して一息入れる。
女は作業机の上にある書類の数字を見て一言。
「潮時でしょうか?」
「そうだな、どう考えても戦争をするには兵がなく、払う金もない。連合に頼るのも一つの手だがここを荒されるのは勘弁願いたい。」
草原には種種の花が咲き乱れ、その花を荒野の民の馬やらデブ兎が一心不乱に食んでいる。
疎らに生えている木々の下ではいつの間にか出来たのか元農奴達と私兵達とか恋を語らっている。
私は子供達に色々と教えを垂れながら片手には酒の杯を持っている。
本日の課題は【人の傷をえぐるな。】である。
先日の対決により哀れな奴隷戦士は精神的にも社会的にも大打撃を受けて本当に再起不能に陥ってしまった。今頃はどこかの娼館で思い切り心の傷をいやしていることだろう。
少なくとも夜這い連敗記録をばらすのは酷いことだと思う。
「ご主人様も人のことを言えなさそうですもの。」
孤児姉が膨れて言ってくるのは可愛い嫉妬心か、王命で婚約したからといっても私が受け入れているわけでもないから不安なのであろう。
「賢者様もいろいろ武勇伝があるものね。」
「そういえば孤児姉が寝ている部屋の隣で大々的にやらかしたとか・・・」
「王宮の法務官執務室でゴニョゴニョとか・・・」
「そういえば孤児弟と兄弟だとか・・・・・・・・」
「だんな、それは初耳だよ!」
別に隠すことでもないし恥じることではない。私は性愛神の忠実なる信徒であり娼婦遊びと支払いを怠るべきではないだろう。孤児弟も判ってくれると思うぞ。
「男ならば佳い女といたいと思うのが当然だよな。兄弟よ。」
孤児弟の肩を叩いて同意を求めると孤児姉に孤児娘たちが揃って白眼で見てくる。
教えを受けている子供たちの中からも呆れを含んだ視線を感じるが無駄な倫理教育を受けている弊害だろう。某王国神も啓蟄神もろくでもない教えばかり垂れてばかりいないで、信徒達に弱者の救済とかを命ずればよいものを情けないことだ。
いやいやいやいや・・・・・・・・・・ それなんか違うから。(by某王国地方担当地方神)
農奴とかの扱いに不備があるのは認めるが、そっちは関係ないだろう。(by啓蟄地方担当地方神)
それ以前に好いてくれる娘の前でゴニョゴニョとかある意味酷いだろう。(by聖徒王国地方担当地方神)
実際娼婦遊びが過ぎて破産したり家庭崩壊するのがいるから何とかするのが当然だろうに。(by綿羊国地方担当地方神)
そもそも我とてそんなうらやま・・・・ もとい、怪しからん事を・・・・・・・(by霜降地方担当地方神)
お前らただ単に羨ましいだけだろう。(by極北地方担当地方神)
当り前だろう・・・・・・・そもそも、可愛い娘ばかり侍らせているお前には発言権はない。そういえば、先週酒盛り市場で棒手振り娘達を侍らせていた分際で!(by某王国地方担当地方神)
そんな事をしていると極光神に電撃食らわされるぞ(by魔王国地方担当地方神)
ああ、あれ。俺いたぞ。あと酒精神に厨房神、森林神に豊穣神、結構色々着ていたし・・・・・・・・極光神も娘達侍らせて満悦だったからな。(by極東地方担当地方神)
なんかバカな神々がバカなやり取りを・・・・・・・・・
「俺、市場に飲食部分作ったの間違いだったかな?」
あっ、補佐見習がうなだれている。どう考えても想定外とは言わせないぞ。
よしよしとばかりに傷跡娘が慰めているのだが、諦めて開き直ればよいのに・・・・・・・・・
少なくともお前の功績となっているのだから。税収も上がっているし、名所として外貨も落ちているのだから。
でも、神様達よく飲み代ありましたね。
いやぁ、王国神殿につけておいたから。(by極東地方担当地方神)
あわれな・・・・・・・・・・・ ひげもじゃな神殿長がやり繰りに苦労している場面を想像して思わず同情した。
神々だから遠慮せずに飲み食いするしな・・・・・・・・
てめぇ!人の金で何飲み食いしてやがるんだ!(by某王国担当地方神)
ごたごたは神域でやってね。
脱線しているな。
「子供達よ、酒は自分の金で飲む。人にたかるのは美しくないからな。」
「「「「はーい。」」」」
素直な良い子達だ。私の教えをちゃんと聞きいれてくれる。
「あまり説得力がないと思いますが。」
「孤児姉、私はたかられる側だからちゃんと幼少の者から教育しないと・・・・・・・・・末王女とか王妃とか官僚とかが・・・・・・・・金があるのにたかってくるだろう。あと庭園公とか・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・なんか納得しました。王妃様が度々ご主人様に同行して王都の飲食店で散々飲み食いされておりますし・・・・・・・・」
末王女ならば仕方無いと思うぞ、子供達と混じって仕事しているし給金がないに等しいから。
王妃は個人的支出用の資金は手渡されているだろうに・・・・・・・・・・・・・・・・・
青草の季節よく乾いた緑の毛氈の上で私主催の倫理教育がおこなわれるのであった。
翌日、なぜか子供達が集められ王国神殿の神職達による倫理教育が執り行われるのだがお前等ではまともな教育が行われないだろうに。
「王室顧問様、さすがに乱行を行うものに倫理教育というのは・・・・・・・・・・・・」
そういう目で見るのか、この神職の顔見覚えあるな。
あっ!【王室顧問除け護符】を売り出した神職!こんなところに左遷・・・・・・・・・
「左遷言わないでください!貴族達の泣き言聞かされないで済むと思っていたら、今度は子供に怪しげな事を教えて・・・・・・・・・・・私の仕事増やさないでください!」
「人の傷をえぐるような事をするなということと酒は自分の金で飲めということのどこが間違っているのかね?」
「その中の会話とかがいかがわしくてだらしなくて・・・・・・・・・・・」
「いかがわしい?男女の仲は素晴らしいことだぞ。それに酒飲みの云々はお前のところの神も一口噛んでいるぞ!」
「なんですと!そんなことがあってたまりますか!それが事実ならば王妃の年齢を大声で叫んだって構いませんよ!」
「そんな自殺行為はしなくていいから・・・・・・・・・・」
子供達に昨日の話をしろと命ずると・・・・・・・・・・・
事実だと確認してしまいがっくりと項垂れる神職。
「畜生!王国にはまともな神がいないのか!」
泣き叫ぶ神職、
「さぁ、神職殿。約束を・・・・・・・・・・・」
「こうなったらやけだ! 王妃様の年齢は(王妃自らによる削除)歳の糞婆だぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
大声で言いきった神職、その後
「ぐはっ!」
盛大に吐血して後ろ向きに倒れるのであった。無茶しやがって・・・・・・・・・・・・
後ろでは子供達が右往左往しながら療養神殿の物を呼ぼうとしたり匙が飛び交う光景があるのだが別に大したことではない。
ここで教訓
「出来もしない約束はしない。」
誰も聞かないって・・・・・・・・・・・(by療養神)
そんなバカな日々を送っているときに商会公から手紙が届く。
『王国出身者の解放の交渉が決裂、制裁と取り立ての準備を請う。』
どれだけ無茶な交渉をしたのだろうか?
金貨一〇〇〇〇〇〇枚とか言っていないだろうな。
全然本筋が進まない。そうだ!酒が足りないんだ!酒だ!
今日はサヨリの刺身と皮の焙りで一杯やるか!