聖域の詩と差し押さえ
鷲鼻の大貴族は叩けば響きそうな腹を揺らしながら相手に対して要求を突きつける。
「ふむ、貴国は我が国が用意した前金を受け取っておいて今回の件を地方貴族達の暴走として処理するわけですな。それはそれで宜しいですけど我が国の民を害する事へのけじめを付けさせてもらいますぞ。」
「けじめとは?」
「なに、害された我が国の国民一人につき金貨五枚づつ見舞金として貴国から支払ってもらうことですかな?勿論前金を契約不履行として返還してもらうことと併せてですけどな。」
「ま、まってください!そんなことされたら・・・・・・・我が国は成り立たなくなってしまいます。それだけはそれだけは何卒・・・・・・・・・・」
「いやぁ、安いものでありましょう。奴隷一人が大体金貨数枚、稼ぎとしては十数枚程度いけるはずですよねぇ・・・・・・それに子孫たちは元手が養育費程度ですから一人当たり金貨五枚なんていうのは安いと思うがな。」
「それでも一息にそれをされたら・・・・・・・・」
「なぁに、金貨三十万程度だから我が国の受けた損害に比べれば大した事あるまい。」
「えっ!現在いる農奴が二万で王国出身者とその子孫が三割ですから・・・・・・・・・・如何考えても・・・・・・・・・ボッタクリすぎでは・・・・」
「いやいや、此処数世代に遡れば王国出身者を攫ったりした子孫がいるだろうが。その数を合わせてだ。ついで言えば領主達の報告は下方修正していたぞ。流石にワシも金銭的な物ならば多少は目をつぶるが、ここまで虚仮にされたのでは他の公爵達が押さえきれぬだろうな。ワシも抑えるつもりはないし・・・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・堂々と脅しに来るとは、命は惜しくないのですか?」
太鼓腹の男は腹を叩きながら
「ワシだって命は惜しいさ。だがな、若造。間違うなよ、ワシを一人殺せば国が一つ滅ぶ。いや、聖楯の末裔が今怒りを滾らせているぞ。違うな、怒り狂う虐げられし者の末裔が竜の雄叫びと共に騎馬の奔流と共に男達の歌と共に貴国のみならず世界全てを多い尽くそうとするだろう。それだけではない、今ある苦難を知る子供達が自らが味わった不幸の再現をさせまいとある者は王に取り入り、またある者は神の助力を得て、そしてまたある者は己の身と才覚を武器にして世界に狼煙を上げるだろう。ワシを殺して彼等に口実を与えるか?その先を見れないのが惜しいが、聖楯の末裔が弟子達の道を示してやるのも悪くないだろう。」
朽ち葉色の髪を汗で貼り付けながら太鼓腹の男は更に続ける。
「さて、問おう。ワシ等一族の抱える千年の問いほどではないから即答できるだろう。答えろ、金を払うのか?滅びるのか?」
どうも国境地帯を目指す農奴達が多い。
そしてその半ばにて倒れる者達も、男達は追っ手に立ちふさがるために盾になり、女達は道々の費えの為に体を売る。そうしてたどり着いた少ない者達が涙ながらに訴えかける。
それを見ている子供達が本気の怒りを隠しきれないでいる。
「賢者様、僕達も共にに戦う許可を」
逃亡農奴の子供達と近隣の子供達が共に私に許可を求めに来ている。
以外と仲が悪かったと思っているが子供同士通じるものがあったのだろうか?
一応は私がこの一団の長ではあるのだが、流石に経験もない子供を戦場に連れて行くというのは気が引ける。
無論足手まとい的な意味合いでだ。
戦士達からすれば楽しみが取られてしまうという危惧なのだろうし、神官達からすれば子供を戦の場に上げるなんてという良識的なことからであろう。
補佐見習辺りからすれば経済効率とか言いそうだが・・・・・・・・・
それはさて置き断りを入れるとするか、
「子供達よ、それは親が言い出したことか?」
「とーちゃん達は反対している。」「僕達もできることがしたいんだ。」
「どっちにしても戦う術のない子供に前に出ろなんていわないぞ。」
「荷物もちでも何でもするから・・・・・・・・・・」
「荷物持ちだろうと戦場に出るからには死ぬこともあるから身を守れないものを出すわけには行かない。せめて剣を満足に振れる様になってから出直せ!」
子供相手に残酷ではあるが、無残に散らすのは私の美学に合わぬ。
此処で下がってくれれば良いのだが・・・・・・・・・
「剣が満足に振れればというけど孤児娘講師達は剣持ってないじゃないか。」
「それを言うならば騎馬戦士達も槍だったし」
「奴隷戦士なんか鎖だけだったよ・・・・・・・・・・」
屁理屈を・・・・・・・・・
屁は理屈を言いませんよ。(by療養神)
ぶぅぶぅ、言うじゃないか。(by演芸神)
誰が上手いことを言えといった。(by森林神)
・・・・・・・・・・この駄目神共が・・・・・・・・・・
此処で突っ込んだら負けだ、何に負けだとは判らないが・・・・・・・・・
「私が剣を振るうといったのは身を守る手段的な意味合いだ、騎馬戦士は槍と弓で戦うし奴隷戦士は其々の武器と鍛えぬいた肉体で戦うのだ。人外達は・・・・・・・・・色々だな。説明が面倒だ。」
「で、孤児娘のおねーちゃん達は?」
流石に詳細を言えないなぁ・・・・・男を性的不能にする呪文が封じ込められた指輪とか、王妹殿下作の腐文学を延々と聞かせる魔具とか・・・・・・・・・・・・・・・・・
「孤児娘達は魔法の道具を使いこなして戦うのだ。あれでも盗賊の一団を撃退したことがあるんだぞ。」
「へぇー!」「すごーい!」
素直に感心する子供達。実際を知れば・・・・・・・・・孤児娘のほうが傷つくな。
上手くごまかす事が出来たが子供達の追及は止まらない。
「じゃぁ、俺達も戦う術があればいいんだろう。試験くらいさせてもらっても良いか?」
ほうほう、道を繋ごうとするか意地らしい事だ。
でも怪我されても寝覚めが悪い、だが却下するのは無粋だ・・・・・・
「ならば試してみるか?」
「おうっ!」
意気込む子供、怪我する前に身の程を知れよ。
そして暫したって、子供の一人と奴隷戦士の一人が模擬戦をすることになった。
「では、勝敗条件を説明する。単純に戦意喪失か戦闘不能になった場合に負けとする。手段は構わぬが後遺症及び死亡するような事は反則とする。一応味方同志だからな。双方質問はないか?」
「賢者様、自分の持てるものをすべて使っても良いの?」
「それは構わぬが無茶して怪我するなよ。」
「判っているって。」
何しでかすやら。
「双方構えて始め!」
審判役の騎馬戦士の号令の下で双方駆け寄ってくる。
子供は多少離れた所で
「奴隷戦士のおじちゃん、そう言えば解放農奴のオネーちゃんの天幕殻出てきたとき頬に手形を・・・・・・・・」
「うわぁぁぁぁぁ!!」
子供が暴露しようとして奴隷戦士が止めようと大声を上げる。
「おねーちゃん曰く・・・・・・・」
慌てて子供に駆け寄る奴隷戦士、其処でごしょごしょと内緒話をしているとがっくりと項垂れて・・・・・・・・・
負けを宣言しそうになるのだが、流石にそれは子供を表に出したくないから
「奴隷戦士、負けたら建て替えておいた性愛神殿のつけを・・・・・・・・・・」
奴隷戦士に発破をかけると・・・・・・・・・奴隷戦士涙目になりながら。
「小僧、悪いが・・・・・・・・・・・」
「えー、おねーちゃんだけじゃなくて若奥さんとか後家さんとかにも・・・・・・・・」
あれ、奴隷戦士の顔色が・・・・・・・・・・・・・
此処で戦意喪失されたら癪だから、私は目線で奴隷戦士達に助太刀にいけと命令する。
うわぁ、子供相手に酷いとかという視線を感じるが何名かは従って子供に立ちはだかる。
見物の衆から酷いとか外道とかという声が上がるが気にしたら負けである。
子供の方も助っ人が来たことに憤慨しつつも一目散に距離を取り人外兵団の竜の所に言って一言二言耳打ちをする。竜のほうもしかたないなと戦いの場に渋々向かうのである。
相対する奴隷戦士達と竜。戦力的には竜が優勢であるな。
そして子供と私の代理戦争が始まるのである。
竜が焔を吐けば散開して避け、奴隷戦士達の武具は竜の鱗にはじき返される。
お互いに攻め手に欠ける。命の取り合いでないからというのもあるが・・・・・・・・・・・
そこでかかる子供の声
竜だの奴隷戦士の秘密だの行状がばらされていく・・・・・・・・・・・・
項垂れる竜に奴隷戦士達。
こういうことがあれば囃し立てる奴隷戦士達でさえ、流石にいたたまれないのか聞かなかったことにしている。
そしてこの場にいるのは子どもだけとなった。
情報を制するものは勝敗を制する。
私の教えを実践しているようで誉れ高いが、戦いの場に立ってほしくなかったな。
それは私の感傷か・・・・・・・・・・・・
そして審判役の騎馬戦士が宣言する。
「勝者、奴隷戦士!」
えっ!
私も子供も検分の衆も驚きの声を挙げる。
そこで騎馬戦士はしれっと・・・・・・・・
「どうみても、この馬鹿共は後に響く打撃を受けているだろう。(主に精神、社会的に)したがって反則負けだ!」
暫し間が開いてしまいました。酒が切れたせいでも酔いつぶれたせいでもなく、腱鞘炎で・・・・・・・・・・・・指が開かなかったから・・・・・・・・・・・
さて、酒でも飲んで寝よう。