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叫びあげる子とでぶ兎

「陛下、商会公様より書状が」

啓蟄地方の某王家。その執務室。

「内容は?」

「はっ、我が国の一部の地主たちが証拠隠滅とばかりに狭間の王国由来の農奴達を虐殺したことに対する抗議と賠償要求です。後、先払いした諸費用の返還も求められております。」


顔を青ざめさえる一同、先払いした費用だけでもけっこうな額なのに賠償まで負わされたら……

けつの毛までむしられても払えない・・・・・

それ以前に支払う事が出来ても王国からの交易が止められる可能性が・・・・・・・

普通に済めばけっこうな儲けになるはずだったのに、何やらかしやがったのだと頭を抱えるのだった。


「後、追伸でこの件に関する使者として王室顧問卿が派遣される可能性が高いと・・・・・・・」

「うわぁ!いやだぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」


「・・・・・・・・・・・・・・」


なに、この亡国のお知らせ。

なんかどこかで私のことを不快な思いで見ている。

「仕事しろ王室顧問!」


そばで不快なこと叫んでいるのが居るのがいるなぁ・・・・・・

「仕事しろ王室顧問!」


なんとも恥知らずな要求をしているのがいるな。

「仕事しろ王室顧問!」


しつこい!私の仕事は終わらせているのに更に働けとは何て卑劣なことをいう輩がいたものだ。


ちゃきっ!

私の首筋に剣を突きつけて要求するなんて、卑劣な怠け者に違いない。

「少なくともお前に言われたくないぞ」、命と仕事とどっちを取るのだ?」

「死ねば永遠に怠けられるかな?」

「筋金入りだな、おい。」

「先祖代々の願望なもので・・・・・・・・そもそも、皆でかかれば半日もかからないのになぜ苦労するんで?」

「官僚の基準で考えるな!」

「孤児弟お前一人ならどれくらいでできる?」

「内容にもよるけど半日もあれば、こなせるよ。」

「子供の手伝い程度で私を患わせるな。」

「黒髪孤児男爵も官僚だろう!」


項垂れる孤児弟。官僚扱いされたのが傷ついたのだろう。

でもな、孤児弟お前は十分立派な官僚だ!


まぁ、あの非常識な連中と同列に扱われたら自己存在意義に深い疑問を持たせるも同意だろう。

なんて酷い事をするのだろう西方国境地帯伯。


「オイラガ、オイラガカンリョウ・・・・・・・・・チガウチガウチガウチガウ・・・・・・・・」

「孤児弟しっかりしろ、お前は官僚じゃない!あんな非常識な連中と一緒じゃないんだよ!」

「私達はただの手伝い官僚と違うから!」

「うわぁ!孤児弟が壊れたぁ!」


孤児娘達が孤児弟を宥めているけど効果がないようだ。

致命的な一言をつぶやいた伯に周りの視線は冷め切っている。


「伯爵様、流石にあんな少年に対して官僚扱いは・・・・・・・王室顧問卿ならば兎も角。」

まてや!あとでじっくり話をしようか!


「ひぃぃぃっ!」



仕事自体は私達総出で一時もかからなかった。

なんでこの程度の仕事で苦労するのかね?


しかも数年前からの仕事もあったぞ、なにをやっているのか?


「王都の子供たちは化け物か!」

「あれだけの量をこなすとは!」

「俺達はできない、さらにこれを超える官僚って何者なんだ?」


伯の書類を手伝っている国境警備隊員(若手)達のざわめきは答える者がいなかった。

孤児弟を壊しておいて仕事をさせるなんて何て卑劣漢なんだ。


って、言うか国境警備隊員達をもっと文官修業させろ!

「かんべんしてくだせぇ!」

「ごしょうですから!」


どれだけ書類嫌いなんだ。









その日の午後、私はでぶ兎が飛び跳ねるわけでもない平原をゆるりと散策している。

護衛を連れていかないのかと言われたのだが別に危険はないだろう。

そこにいるのはでぶ兎に救出された愚民共。後は公爵私兵団くらいなものだから危険はないだろう。


しかし、この兎は本当に野生動物なのか?

のそのそと動き回って俊敏さのかけらもない、もぞもぞと草を食んでいて人間の姿を見てもおびえることなく堂々としている。




ふんふん



でぶ兎が鼻を鳴らすようなしぐさで私に近寄ってくる。

私は何も持っていないぞ。

酒があったか。飲むか?


器に酒を注いで地面に置いてみる。

でぶ兎は鼻を鳴らしながら近づいていき一口舐めて飛び去って行った。

酒の味が判らぬとは哀れな獣め。

などと思っていると、戻ってきて一心不乱に舐めている。


意外といける口だったらしい。

初めての味でびっくりしたのか?



普通野生の生き物は酒を飲まないだろうしねぇ……(by森林神)

自然発酵した樹液をなめる生き物もいたぞ。(by知識神)


酒を舐める、野生動物らしさを忘れた生物を眺めつつ瓶から酒をあおる。





すぴすぴ



でぶ兎を酒の供に平原の侘しさをその身に味わっていると何時ぞやの神に逆らった馬鹿な元農奴の馬鹿ものが項垂れているのが目に入っている。

何へこんでいるのだろう?周りの奴隷戦士達は肩を叩きながら励ましているようだけど効果がないようだ。酒を呷って笑いながらでは意味がないのだが。

初戦は奴隷戦士、人の機微に疎いのだろう。


私が馬鹿者のそばに近づくとでぶ兎も我が従者よろしくついてくる。

本当に野生動物か?


とりあえず、馬鹿者の様子が気になった(好奇心)から話を聞くとしよう。

「裸鎖、どうしてこの馬鹿が項垂れているのだ?」

「王室顧問の旦那か、この若者は悲鳴を聞いて勇んで行ったら浮気がばれて折檻受けている男とか、二股がばれて修羅場になっている娘さんとか・・・・・・・啓蟄神の神像にいたずらをして反省文を書かされている子供とかに引っ掛かってばかりで・・・・・・・・・・」

「助けを求める悲鳴には無条件で引っ掛かるんだな。しかし、助けられたのはいなかったのか?」

「それならば、その笑い話をはずしても十分すぎる結果が出てますぜ。地代の代わりに体を差し出せとふざけたことを要求して無体していた地主を一匹大木の飾りつけにしてやったし、王国民以外の農奴や奴隷にいなくなった我らが民草の分まで負担を押し付けようとしている馬鹿な貴族を吊るしたり、自分のところの農奴を奴隷として売りに出そうとしていた地主聖職者を吊るしたり。」

「けっこうな活躍じゃないか!でも、なぜに吊るすのだ?」

「そりゃ、あんなものを大地に託したら大地が吐き気を」催してペッと吐きだすからに決まっているじゃないですか!」

「そんなものを吊るす立場にも立ってみろ。木だって嫌がるだろう。」

「ふむ、そこは考えてもみませんでしたな。」


だけど考えてみたら他国の地主や貴族達に対して無茶苦茶しているな。

その点は大丈夫なのだろうか?


そして項垂れている馬鹿者は、だれも慰める者がいなかった。

仕方がない、私が手を貸すとするか。


「声が聞こえているのだろう馬鹿者よ。ならば明日からも行くがよい。百の声を聞いて一つくらい本当に助けを求める声があるのだろう。効率が悪いがそれはそれで成果があるのだから問題はない。今日の所は酒を飲んで寝て居れ!」

「貴族様、このろくでもない呪いは何とかならないんですかねぇ?夫婦喧嘩の仲裁とか二股の修羅場なんてもう嫌だ!!」

「たぶん、お前が何とかしないと解けない呪いだろうな。しかし、お前は面白いな、どうすればそんなばかばかしい悲鳴を拾ってくるのやら本当に疑問に思えるぞ。」

「くそっ!ここには味方がいないのか?」

「いると思うのか?少なくとも私は性愛神の忠実なる僕、性愛神信者が多いのにだれもお前のやったことの結果に同情するわけないだろう。」

「ちくしょーーーーーーーっ!」



馬鹿者は夕日に向かって駆け出して行った。

若さゆえの悩みというべきか

あっ!でぶ兎の穴に足を取られて転んだ。


この兎は穴兎だったのか。


すぴすぴ


私の周りには酒の味を覚えたでぶ兎が一心不乱に草を食んでいたのだった。



若者に幸あれ(by性愛神)


だったら、もう少し精度を高めてあげましょうよ。性愛神様。

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