語りの後と奴隷屋敷
「傷跡娘、補佐見習との祝いの品としてあの【地主】の首なんか持ち込んだら喜んでもらえるかな?」
「うむ、それは良い。」
「大使の皆様方、干草郷の場所に心当たりはないですかな?」
「ふーむ、どこかで聞いた覚えがあるのだが・・・・・・・・・・・・何処だったかな?傷跡娘、君の思い出にどんな作物があったとか景色があったとか覚えて居るかね?」
物騒な贈り物を提案している極北戦士に応じる大使達。
極北の馬鹿達は単純に傷跡娘の境遇に涙しての事である。大使達は本国でも人気の【傷跡娘の物語】の主人公と縁を結んで外交のネタにしようとしているのだろう。決して、【酒盛男爵】の字を持つ補佐見習を気に入ったからではないからだろう。
「王室顧問、君の子供達は多彩で華やかだな。幼子の為だけで千をも越える人を集めて正しに行ったり、惚れた娘の為に身命を削る男がいる。まだ、何か隠していないか?良い子がいたら我が国で面倒を見たいのだが・・・・・・・・・・・」
「東南貿易都市国の!王室顧問の子供達は我が家にこそ相応しいのですぞ!」
「何を言う!魔王国に縁深き者がいるのだ!我らがまとめて・・・・・・・」
「光明神が気に入っているのだから聖徒王国に・・・・・・・・・・」
ごちゃごちゃ五月蝿いな・・・・・・・・・・・
傷跡娘の語りが終わり、勝手に私の可愛い子供達の処遇について討論する馬鹿者達。
「あのように馬鹿な子供達は療養神殿で治療しないといけないでしょう。例えば一生かけてでも!」
「あらあら、心の傷を癒すためには我等が性愛神の御技が一番ですわ。」
「嗚呼、生きるは物語。文芸神殿で・・・・・・・・・・」
「「但し、文芸神殿。オメーは駄目だ!」」
「な、なんで!」
「王室顧問、今派遣されている子供達はまだ処遇が決まっていないよな。王命である!全て国へと仕官させるように!」
「断る!」
「王室顧問、次期宰相の件は諦めるから寄越してくれないかな?」
「おまえら!自分で人を育てろ!!お陰で私の直臣が居なくなっているだろうが!」
「王室顧問落ち着いて・・・・・・酒でも飲んで・・・・・・・・・」
「ふいぃ・・・・・」
「王室顧問が育てているのは文官とかで配下の侍従じゃないだろう。だから皆喉から手が出るほど欲しがるんだよ。」
「財務官・・・・・・・・・私は間違っていたのだろうか?」
「方向性は間違っていないよ。ただ、子供達があまりに有能すぎるから・・・・・・・私のも一人寄越して。」
「財務官お前もか!」
「わしも補佐見習が居てどれだけ助かっているか、この生まれながらの酔っ払い共に囲まれて仕事をするのは骨が折れる。年若いが苦労しているのだろう、良識的で生真面目な若者が居るだけで安心して仕事できる。」
高評価だな補佐見習。
「ご母堂、貴女には他にご子息が居ませんかな?」
小売婦人まで口説くな、南方香料地帯子爵!
「いえ、私の子はあの子一人ですけど貴族様。」
「それは残念、あの若者の弟妹分ならばさぞかし有能なのだろうと期待したのだが残念だ。」
「いえ、ご期待に添えませんで・・・・・・・・・・」
小売婦人は戸惑っているぞ。まだ笑い話だから良いか。
「南方香料地帯卿、お主の話は終わったか?ご婦人、立派なご子息を育て上げた経歴と、酒盛市場の取りまとめる手腕が気に入った。ワシの元にこないか?」
「え、えっと・・・・・・・・なにがなんだか・・・・・・・・・・・・・・私のような女を捕まえて何を冗談言われているのですか貴族様?」
「いや、子供を見れば親がどれだけ丹精こめたか良く判るものだ。そして、聞く話に拠れば傷がいえる前の傷跡娘を我が娘当然と受け入れて慈しんでいたではないか。能力と言い、人品と言いワシは大いに気に入っている。さぁ、西方国境地帯伯であるわしは歓迎するぞ!」
「貴族様、市場の理事である小売婦人を持っていくのは止めてください。市場の運営が・・・・・・・・・」
「そうだそうだ!貴族王族が一番の人材を持っていくからこっちが大変なんだぞ!後、王室顧問様、灰髪の兄妹を早い所返してください。市場に通うもの達から問い合わせが多すぎて大変なので・・・・・・・・・」
おや、こっちにとばっちりが・・・・・・
「王室顧問卿、貴殿の養女である孤児姉を我が嫁に・・・・・・ごげふっ!」
「孤児娘達の誰かを当家のよ・・・・・・ひゃふっ!」
「孤児娘達をすべてわが・・・・・・・・たわらばっ!」
可愛い子供達をそんな目で見る馬鹿者達は思わず粛清してしまった。
なんか陛下の姿もあったけど気にしない。
「不埒なものが多すぎて面倒であるな。」
「気にしろ!孤児娘達を我が直臣に取り立てたいということのどこが不埒者だ!」
「若い女性を沢山囲うその姿勢から不埒者の臭いが・・・・・・・・・孤児娘達、陛下から離れておきなさい。何されるか判らないからね。」
「「「はーい。賢者様。」」」
「陛下、孤児娘達を囲うとかどういう話なのですか?」
「王妃よ、単純に目の保養と事務能力から・・・・・・・・・・・」
「嗚呼、それならば良く判りますわ。むさくるしい男や酔っ払いに比べればかわいい子供達や娘に囲まれて仕事したいですわよね。そういうことで王室顧問寄越しなさい。」
「何がそういうわけなのですか!自分達の好みじゃないですか!能力で決めて官僚達を周りで重用してくださいよ!」
「嫌よ、酒臭いんだもの。」
「それはいえる、母上じゃないけど官僚部屋に入ると酒臭くて頭が痛くなる。」
贅沢な王族親子だ。定期的に風を通しているのだがなぁ・・・・・
「無理だろう、官僚部屋の中に酒樽を常備されてるのだから・・・・・・・・・・・」
「一部屋に一つ酒樽は必需品であろう。」
「・・・・・・・・・・・・酒国の常識で語らないでください!姫大使様!」
嗚呼、混沌とした雑談風景であるな。
奴隷公の侍女達が料理と酒を持ち込み始めるまでこの光景が続くのであった。
大きな肉を丸湯でしたものが振舞われ、強い酒がそそがれる。
味付けに使われるたれは繊細であるがどこか戦場の料理を思わせる風情である。
ご婦人達の為に小さな焼き菓子とか、ゆでた野菜などもあるが肉塊がその存在感を主張している。
「そう言えば干草郷、聞いた覚えがあるな。」
「おや、商会公どこかご存知で?」
「いや、配下の物が隊商するのでその近辺を旅したことがあると・・・・・・・・・・それよりも、性愛神殿や衛士のところに奴隷商人の調書があるだろうが。」
「そういえば・・・・・・・・ 法務副長卿、その資料を閲覧することは可能ですかな?」
「身を持ち直しているものがあるから大っぴらにしたくないのだが、調べて結果を教えることくらいは問題なかろう。」
商会公が切欠で傷跡娘の故郷がわかりそうである。
一度、彼女を母親の弔いとかしてあげることが出来ればよいな。
「傷跡娘、故郷の場所が判ったら一度行って見るか?」
「行って見たいとも思いますが、怖いです・・・・・・・・・・・・・・・・賢者様。」
「はははっ! その折には護衛の口は我等極北の民に!」
「否、北の蛮族に任せるわけに行かないだろう!文明人たる聖徒王国の者が案内するのが筋だろう。」
「貴殿等、傷跡娘は我等の子。我等解放奴隷軍団が連れ添うのが宜しかろう。」
「歩兵共がかのような少女を長旅させるのに歩かせるなどとは・・・・・・・・・・我等荒野の民が恙無く旅をお約束いたそう。」
戦士達が可愛い傷跡娘を導く栄誉を得ようと舌戦を繰り広げる中
「所で補佐見習、お前はあの【地主】が憎くないのか?」
「雷竜公、憎くないといえば嘘ですけど俺には成すべき役割と守りたいものが多すぎて・・・・・・・・・・・」
「こらこら、無理難題を押し付けるな。竜の長よ!ここにいる少年は虐げられし者達の為に裏方に徹しているのだからな。それを見捨ててまで私憤に走る事はできまい。」
「なるほど騎馬の長よ。少年よ、知らずに吐いた大言許されよ。」
「いえ、問題ありませんので・・・・・・・・・・・・」
「あまりうちの馬鹿弟子を焚き付けないでくださいよ。派手に騒ぎたてるはそこの孤児弟の馬鹿だけで十分なんですから・・・・・・・・・」
「王室顧問卿、それは酷い・・・・・・・・」
「まぁ、愛するべき大馬鹿者ですからね。私の義弟は。」
「ほめているのかけなしているのか判らないよ。」
公爵令嬢の軽口に孤児弟は顔を顰めて文句を言うのであった。
「所で貴族様?奴隷商人を捕まえてその場に居た者達は解放されていますけど、そのまま売られた者達は助けないので?傷跡娘様の話を聞いて助かった者がいるのに助けられなかった者がいる理不尽は・・・・・・・・・・・・・やりきれないです。」
我等貴族達の馬鹿なやり取りを見ていた、市場の衆の一人がそんな疑問を発してきた。
動向の市場の衆達は何を馬鹿なことをとか怯えて袖を引いたり注意を促そうとしているのだが、一度口から毀れ出た言葉は元に戻れない。
その一言で場が静まり返る。
「ふむ、我が親愛なる民草よ。質問の答えを得ることを許そう。我が王国内であれば、奴隷の存在が許されておらぬので救い出すのは可能だ。他国においては一人の為に戦争を起こすのかという話が出てしまい助けることが出来ない。せいぜい売られた国に対して返還要求を出すくらいだ。それでも無事に帰ってくるのは極僅かだがな・・・・・・・・・・・・」
辛そうに言う陛下に市場の衆も項垂れて詫びの言葉を繰り返す。
「では、再度返還要求文書を出すとしましょうか?大使様方も本国に伝わるよう御助力願えますかな?」
「うむ、王国外務官殿。実効があるかどうかわからぬが必ずや陛下の耳に入るように確約いたす。」
「我が国も同じく・・・・・・・・・・確実に上奏いたそう。」
「かたじけない。」
「奴隷商人から没収した金銭で買戻しをするのは・・・・・・・・・・」
「では、民武官、商会公と協力して取り計らえ。」
「「はっ!」」
「性愛神殿は戻された彼等の治療と保護を承りましょう。」
「同じく療養神殿も世界の傷を癒すが為に・・・・・・・・・・・」
「我等荒野の民は同胞達の痕跡を辿ろう。遥か昔から囚われた兄弟達の子供もいるはずだ。」
「荒野の、我等解放奴隷軍団の手はいらんかね?」
「それは助かる。」
口々に話が進むのには驚いている。
酒で軽くなっているのか?
私も何かをするべきなのだろうか?
そんな事を思っていると宰相閣下が発言する。
「陛下、そこにいる王室顧問は国内法のみならず人族連合憲章、基本法、神殿連合法等にも精通しておりますから他国において奴隷の入手先等不正があった部分で問いただして開放させるのはいかがでありましょうか?」
「良いのか?どう考えても他国の貴族達が泣いて逃げる劇薬だぞ。それこそ我が国が戦火にまみれる原因となるだろう!外交文書の草案作りで使うなら兎も角、それは良くない!」
「本気で勘弁して下さい!宰相閣下!うちの財務官が・・・・」
「こっちの法務大臣が・・・・・・・・」「交易卿が・・・・・・・・・・・」
「御主人様、何をなさったのですか?」
孤児姉の問いは笑ってごまかすしかないな・・・・・・・・・・・・
どれも是も家庭教師した相手やら学閥を同じくする同窓ではないか。
特にあれこれした覚えはないのだがなぁ・・・・・・
大使達の必死に止めている中、事もあろうに宰相閣下は
「なに、我が国由来の奴隷達を返してもらえれば派遣なんてしませんよ。」
と脅しかかった。
しかし、私をだしに使うとは気分が良くないなぁ・・・・・・
それでも喧喧轟々としていながら妥協点が見つけ出されるのであった。
所で補佐見習、お前の仕事が増えるぞ・・・・・・・・・・・・・
補佐見習を見てみると、それに気がついたのかうなだれていた。
傷跡娘に慰められるのは役得だろうか騒動の元であろうか?
そればかりは彼に聞いてみないとわからないのだった。