嘘吐娘と姫大使
ふむ、引退勧告が失敗してしまったか。いつもは自分の利権に五月蝿い貴族共がこの時ばかりは自分で利権を取り込もうとしないとは・・・・・・・・・
「ああ、隠遁生活をしたいなぁ・・・・・・どこかの馬鹿王族が認識されないばかりに隠遁できないなんてなんてなんて私は不幸なんだ。折角役に立つ配下もつけてあげようとしているのに。」
「王室顧問、それが王族をこき使いながら面と向かって言う台詞か?」
かりかりかりかり・・・・・・・・
ぺらぺらぺらぺら・・・・・・
「けんじゃさまー、しょるいのけんさおわりましたー。王弟殿下のけはえ薬、ひよーたいこーか無いからさくげんたいしょーにしていいですか?」
「おい!餓鬼!仮にも王族ある本人の前で気にしていることをハッキリと言うな!不敬罪で牢屋に送るぞ!」
「えっと、本人だったの?ごめんなさい・・・・・・・・・・ でも、インチキ薬に金貨数枚とか財政的に余裕が無いのに何をしているのかと思ったので。」
「大丈夫だよ!僕たちを牢屋に送ったら仕事はこのおうてーでんかがすべてやるはめになるから。」
「口の減らない餓鬼が・・・・・・・・ 事実なだけに余計に癪に障る。」
「はいはい、王弟殿下。年端もいかない子供相手にすごまないでくださいよ。口も育ちも悪いけどできばえだけは一級品なんだから・・・・・・・・・・・・」
今いる場所は官僚部屋、世界で一番の政治的に危険といわれる場所である。
政治的に危険とか何を言っているのやら・・・・・ 危険なのはどこにいるのだろう?
私なんかは隠遁したいと願う下級貴族だし、官僚達だって酒を与えておけば大人しく働くだろうに・・・・・・・・・・
って、いまだに解放されていないけど何をしているんだ。王室政府!
どかどかどかどかっ!
「子供達、その書類はお前達が大丈夫だと言うならば通しておきなさい。後、毛生え薬は王弟殿下の数少ない気休めだからそっとしておこうね・・・・・・ ただでさえ不憫なんだから・・・・・・・・」
「「「はーい!」」」
今いる孤児達は第二陣である。第一陣は商会公に引き取られたり、諸家に持ってかれたりしている。
今回は領地無下級貴族の子供達も連れ込んで仕事させている。
意外と貴族の子供も負けず嫌いな面からか根性を見せている。
やらせているのはさわりの部分だけどね、それでも役に立つ役に立つ。
うまくすれば親も喜ぶぞ。
「賢者様、この案件は私の実家的には不都合なんですが替わってもらえますか?」
「どれどれ?ただの計算間違いだから気にせず進めなさい。最終指示者はここにいる王弟殿下だからお前が心配することは無い。」
「かしこまりました。」
下級貴族も稼ぐ場所が無いから、ちょっとした商家や職人に比べると生活面で苦しい部分もあるし、そういっても子供が小遣い稼ぎする部分が少ないから丁度よいのだろう。下級貴族の小遣い稼ぎは家庭教師か代筆くらいしかないからな。
「母上なんかは刺繍で内職していたなぁ・・・・・・ 小遣い銭を稼いだら自分の剣を買うんだ。いつかは立派な騎士になって英雄談に語られるようになりたいんだ!」
「あはははっ!ついでだから孤児院で学んでいる間に公爵私兵団の軍事教練も受けてみるかな?」
「いいんですかっ!」「ぼくも!」「俺もお願いします!」
男の子達の食いつきは思いの外良い。がんばれ男の子、もし筋が良いようならば近衛とか推薦してやるからな。
「賢者様、近衛とか軍部に回したら会計とか後方管理部門とかに配属されそうな・・・・・・・・・・・」
孤児娘の危惧はたぶん正しい。そこで書類を持ち込もうとしている護衛官とその一団とか王都西部地域軍団長とかが今のやり取りを聞いてお互いに男の子達の顔と名前を控えている。
って、言うか罰はまだ解けてなかったのか護衛官。
「我が友王室顧問よ!この子達は我等が正しく導くから譲ってくれないか?いつになったら罰としての文官配属が終わるのか分からんからな。」
「護衛官よ、近衛軍団長が罰はもう終わったんだが便利だからこのまま幹部教育もかねて文官部門で仕込むといっていたぞ。」
「ぐはっ!」
軍団長の一言で崩れ落ちる護衛官。これでも近衛士官(騎士)なんだがなぁ・・・・・・・・
高名な護衛官の情けない姿に子供達も呆れ顔。
「護衛官、騎士志望の子供達の前で情けない姿をさらすな。子供たち、強い騎士様といっても書類に弱いとこのように無様晒すからお前らはこれを踏まえて文官修行も行うんだよ。判ったね。」
「「「はーい!」」」
貴賓問わず子供たちは理解してくれたようだ。
「ところで賢者様、兵士と騎士の違いって?」
「騎士というものの正確な定義は無いんだよな。他国では騎士団に所属している者を騎士としていたり、貴族の子弟がある一定の教育を受けたりしたら名乗れる資格みたいな扱いだけど、わが国に置いては特に規定は無い。爵位持ちの士官待遇の者とか、近衛士官教練課程を修了したものが慣習的に名乗っているだけだし・・・・・・・・自由騎士といっても自称している住所不定無職とか、士官崩れが元騎士と言うことを示している程度だし・・・・・」
「そういえば、市場で酒飲んでいるだけの聖騎士様っているけどあれは普通の騎士と違うの?」
「酒飲んでいるだけって・・・・・・・あれでも、聖徒王国からの大使で結構偉い人なんだが・・・・・・・・・・聖騎士と言うのは人族連合において優秀な騎士に送られる名誉称号だな。彼の場合は聖徒王国の盗賊団を平定した事で贈られたが・・・・・・・酔っ払いにしか見えないのは否定できないのだがな。後でそのときの話をしてもらうがよいよ。本人嫌がるから。」
「どうして?」
「彼に憧れて騎士を目指して命を落としていく子供を見るのが嫌なんだと。それに盗賊団に囚われた人達の末路とか・・・・・・・・・・」
「もしかしてあのときの妹分みたいなことになっていたの?」
「ああ・・・・・・・・・・・今でも苦しんでいる者がいるらしいから手柄を語りたくないと零していたな。」
「普通誇るじゃない馬鹿じゃないの?」
「痛みを想像できるからだろう、それを救えないのは本人にとって恥としか思えないのだろう。」
「でも、そんなすごい人がどうして王国の大使なんかに?」
そ、それは語れないな・・・・・・・・・聖女様が腐って(文学的意味合いで)しまったのを見て苦言を発したら左遷されたなんて・・・・・・・・・・・ しかも忌々しき異世界人に王妹殿下なんていう腐れの元締めのいるこの国に嫌がらせ代わりに送られたなんて・・・・・・・・・・
「聖騎士は人族連合の民に珍しく色々な種族への偏見はあるけど嫌悪感を抱いてない人材だからね。冷静に判断できると聖徒王国から命令されたのだよ。おかげで私等も交渉ごとが楽になったんだけどな。」
「ふーん、人に歴史ありなんだね。」
「何を判ったような口をきいて、生意気だな。」
雑談しながらも手は動く、やっぱり男の子だねぇ・・・
こういう勇ましい話に食いつくところなんかは。
「子供達よ、今からでも近衛に来るか?歓迎するぞ。」
「馬鹿いうな、王都西部地区軍団に来い。士官候補生として騎士教育をしてやる。」
「お前等、わしの配下を奪い取るな!」
「王弟殿下臨時雇いの者を自分の配下としないでください!」
馬鹿ばっかし。本当、いつになったら官僚達は戻るのだろう?
私はこれで何通目かになる、【官僚保護命令書】を綴るのであった。
「皆様、一息つかれたらどうでしょうか?」
王弟殿下付の侍女が茶と茶菓子を持ち込んでくるまで、書類仕事に勤しむのだった。
ふぅ
一服後、私は孤児姉を連れ官僚共を見物しに行く。さっさと戻って来いというために。
「ご主人様、官僚の皆様方は寒くないのですか?」
ぶらーん、ぶらーん
ぶら下がっている官僚を見て孤児姉は質問してくる。
寒い季節に風に吹かれて蓑虫状態、寒風干の野菜でも雨が当たらないように気をつけられていると思うのだが・・・・・・・・・・・・私は貴族だし干し野菜の製作光景は良くわからないが。
そんな官僚達に先客がいた。
「ねぇ、皆様うちの国に来ませんこと?酒国ならば勤務中の飲酒も問題なければ認められていますわよ。」
「いい条件だねぇ・・・・・」「乗り換えるのも悪くないか」
「さすがにぶら下がっているのにも飽きたし、酒国といえば酒処!旨い酒がたくさんあるはずだ!」
「いいですわねぇ、歓迎の宴を開きますから其処で存分に皆様の功を見せ付けてください。」
「あははははっ!酒国の酒徒は何するものぞ!」
「酒蔵と酒の生産量を増強しておいたほうが宜しいのでは?姫様。」
「姫様自ら頭を下げて誘いくださるとは光栄の極み!」
このばか者が!私でさえ他国に行けないのに請われていくだと!許せん!この売国奴が!
「お前等、仕事から逃げようとたくらんでいるんじゃねぇぇぇぇぇぇ!!」
私の神秘緋金属張扇がうなりをあげる!
輝き放つ神秘の光!
これこそが・・・・・・・・・・って、なにをしているのやら!
官僚共は叩きのめされて吹き飛ぶ!ぶら下がっている縄が千切れて遠くまで飛んでいく。
そして彼らは流れ星となったのであった。
「姫大使様、いくらなんでもうちの官僚達を引き抜くのはやめてください!」
「いいじゃない!酒も飲めて仕事もできる男なんて貴重よ!後、貴方の所に灰髪の少年いたでしょ。彼も欲しいわね。あの子可愛いから気に入っているの。譲ってくださらない?」
「だめです!灰髪少年は地味に暮らしたいとぼやいているんですから・・・・・・」
「勿体無いわね、結構どこにいっても重宝されるのに・・・・・・・・」
「奴の地力は否定しないけど地に足をつけた暮らしをしたいと小商いで満足しているんだから無理やり引き抜かない!姫大使様の脱ぎ癖の始末でどれだけ彼が男共の要らん嫉妬を受けているか判らないでもないでしょう!」
「えー!彼が要れば安心して飲めるのに・・・・・」
ここにも性質の悪い酔っ払いがいたか!
手には酒瓶、飲んでるな!
「あら、王室顧問ともあろうお方がお堅い事を・・・・・・」
胸先をつんつんつつくな、孤児姉が白い眼で見ているから・・・・・
「ご主人様の場合は自分が仕事中で飲めないのに昼間から飲んで楽しそうな姫大使様を妬んでいるだけですから。」
「あら、孤児姉。婚約おめでとう。ところで本当にこんな男でいいの?」
「はい、ご主人様がいなかったら私は今ここにいませんでしたので一生かけても返しきれない恩を受けてますから・・・・・・」
「あらあら、ご馳走様。良い子見つけたわね王室顧問、ここはおめでとうと言うべきかしら?」
「祝いの言葉は受け取っておきましょう。糞陛下に命令されたのではなければ受け入れられるのですが・・・・・・」
「あらあら、亡命しません?酒国なら優秀な教育者を募集していますわよ。」
「法曹家ではなくて、教育者ですか・・・・・・・私の評価って・・・・・・・」
思わぬ評価に苦笑の隠しきれない私である。
「結構貴方の子供達って活躍しているじゃない。今度酒盛市場男爵を紹介してくださらない?あの子の酒盛市場はうちでも取り入れようと思ってね。良いでしょう?」
そのくらいならば・・・・・・・・
「紹介はしますけど奴はあれは失敗だったと思っているんだがな。実務面だと奴の母親が仕切っているから彼女と顔役達にでも聞けばよかろう。」
「悪いわね。しかし母親に仕切らせるなんて意外と実利に聡いのかしら?」
「単純に身近で人材を集めようとしただけじゃないのか?」
「まだ人脈は少なそうですしね・・・・・・・・」
「ご主人様、官僚の皆様が逃亡してますが・・・・・・・・・・・・・」
私が姫大使と談笑している間、飛ばされたのをいいことに逃げ出すとは・・・・・・・・・・・・
「近衛兵!だれかおるか!官僚共が逃げ出した!即座に捕縛して来い!生死は・・・・・・・・・・・・仕事できる状態ならば問わん!」
官僚共が捕まるには数日の時が必要だったと後に近衛兵が愚痴っていた。