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酒盛男爵と宴会始末。

酒盛卿の持ち物として杯と神秘緋金属張扇(オリハリセン)が有名である。


杯に関しては、男爵位を得るときに時の国王陛下から一献勧められて見事な飲みっぷりを見せた所から杯を下賜されたのである。本人は酒にあまり強くなかったらしくこの杯一杯くらいが適量だったと言われているので計量器の役割もしているのだろう。是は某王国の酒精神殿に奉納されている。


神秘緋金属張扇(オリハリセン)、元は彼の師である全裸賢者卿が王家の仕事の報酬として下賜されたものである。全裸賢者卿は是を用いて理不尽を強いる馬鹿を叩きのめしたり、無粋者を排除する事で演芸神の加護を得たのである。時に神々でさえも餌食にしていたから【神殺し】に最も近いものとして恐れられていたのは別の話。それが酒盛卿に渡されたのは、酒盛卿が自らの力を示し独り立ちをするという時に餞別として授けたのである。その時に世界に対する抗いの誓いを立てた酒盛卿に神々が慈悲を示し、更なる加護を与えたのである。

その加護を得た神器をふるい、路傍で朽ちる寸前であった幼子を嘲笑う領主を叩きのめしたり、奴隷に落とされた少女を救い出したりと名乗りとはかけ離れた事を行っているのである。

もっとも、彼が【傷跡娘の物語】の街娼の子であることを知れば納得のいく話なのであるが・・・・・・・・・


この神秘緋金属張扇(オリハリセン)の行方は現在知られていない。

晩年彼が弱者保護の為に破産し掛けた時に売り払ったとも、弟子のうちで抗いの叫びを挙げた馬鹿に授けたとも言われているが真相は不明である。


多分、何処かの空の下で誰かの嘆きに抗うために振るわれているのだと信じたい。



某王国奇人列伝 酒盛卿の章より抜粋

酒盛りは酷かった・・・・・・・・・・・

王都中が酒びたりになったのではないかと思うくらいに。


「御主人様、酒の臭いが消えないです。」

「賢者様、お風呂の中まで酒臭いのは・・・・・・・・」「もう何日か経ったんだけど如何して酒が尽きないの?」「酌のし過ぎで腕が痛い・・・・・・・・・」

「それは兎も角、この惨状は如何したものか?」


そこらじゅうに転がる酔っ払い、流石に王侯貴族や女性は部屋の中だの家だのに運び込まれているのだが男だの極北だの大使だの人馬だのは放置されている。

差別だって?

否、区別だ。

王侯貴族は何かあると後が面倒だ。復讐だの面子だの関わって衛士隊の仕事が増えて大変だ。

女性は・・・・・・・・・・・お持ち帰りされて取り返しの付かない事になったら目も当てられん。

平民の男ならばせいぜい、薄い財布を抜き取られたり顔に落書きされたりする程度だろう。

それでも、ねっころがっている酔っ払いの大半は極北だの大使達だの人馬だの竜だの巨人だの岩妖精だの鬼だの・・・・・・・・・・・重たくて運びたくないものだけなんだが・・・・・・・・・・・


「だんな、枯野の季節に是はひどくないかい?」

「俺の祝いの席で風邪をひいたとかとなると嫌なんだが・・・・・・・・・・」

「・・・・・・・・・・・大丈夫、馬鹿は風邪ひかない。」


大丈夫、そんなことがあろうかと衛士隊の皆さんが毛布だの藁だの落ち葉だのをかけてくれているから。

運びきれない男達が死屍累々とねっころがっている所に毛布だの藁だのをかけている。

どこの戦場風景だ。


「ねぇ、賢者様・・・・・・・・・・・あそこで寝ているのって王弟殿下では?」

「孤児娘、王弟殿下と言うのは我々の心の中でのみ生きているものなんだよ。現実にいるわけないじゃないか。」


「ひでぇ・・・・・・・・」


路傍で酔いつぶれている王弟殿下(はげ)の懐を狙っているものがいる。

介抱する振りして近づく者に衛士が肩を叩く。素直に連行されていくこそ泥。


「いやぁ、あそこの貴族様?良いおとりですねぇ・・・・・そこだけ見張っていれば他を見回らなくてもどんどん捕まえる事できますから。」

衛士君アレは一応王族・・・・・・・・・・別に良いけど・・・・・・・・







そうして、補佐見習の成人祝いが終わった。

後始末が残っているのは考えたくもないけど・・・・・・・・・・・・


数日は二日酔いだの酔っ払って出来た怪我だのが原因で王都中が停滞しているのだ。

そんな中でもけろりとして仕事をこなしている官僚達。心なしか肌の艶が違う・・・・・・・・・・・


彼等の主食が酒だからー(by酒精神)


なんか酒精神が酒国から某王国(わがくに)に鞍替えしそうだな。


「王室顧問卿、酒精神様を奪わないでください!」

「いきなりですね酒国の姫大使様。酒精神とうちの灰髪少年と交換だとしたら?」

「ううっ・・・・・・・・・・どっちも欲しいし・・・・・・・・・」

「だんなぁ・・・私を売らないでください・・・・・・・・」


何故か出仕している灰髪少年。お前は街に戻ればよいものを・・・・・・・・・

「えっと、外務長から資料整理が終わるまでいてくれと泣き付かれまして・・・・・・・・・・」

「資料は日々増えるから抜け出せないぞ。」

「えっ!」

「それよりも灰髪少年。私に仕えない?弾むわよ。」


ぼよよん☆


何を弾むんだか・・・・・・・・・

灰髪少年は断りたいし逃げ出したい気分で一杯な様子なのだが適当な文句が出てこない。


「姫大使様うちの若いのを引き抜かないでくださいよ。」


外務長が現れた。恰幅の良い腹と血色の良い肌が酒食を楽しんでいることを示している。

若い頃は浮名を流してまくっていたらしいが・・・・・・・・若い頃はね・・・・・・・・


「王室顧問卿、悪意を感じるのだが・・・・・・・・」

「地の文を読まないでください。それ以前に私が後見する者を勝手に引き抜かないでくださいよ。姫大使様もです。」

「使い勝手良いのだがなぁ・・・・ 外交交渉には向かないだろうが接待役とか管理役として。」

「気が利く従卒と言うのは獲がたい。それに可愛らしい顔立ちだから・・・・・じゅるり。」


姫大使・・・・・・・・・・・

「私は仕事途中なので・・・・・・・・失礼します。」

灰髪少年は逃げ出した。捕食されると思ったのだろうか?間違いではないが・・・・・・・・・・




それは兎も角・・・・・・・・・・灰髪少年を故郷に帰すか市場で働かせるか・・・・・・・・・ほっとくと官僚にされてしまう。

「御主人様、それはそれで栄達かと・・・・・・・・・・・・」

「如何考えても、栄達ではあるが本人が希望していないだろう。」

「そうなんですけど・・・・」





そんなこんなで数日後、陛下から呼び出しがある。

私等主従に孤児娘達、孤児弟に傷跡娘夫妻(仮)

「・・・・・・・・・・・(仮)、何時になったら・・・・・・・・・・・」

「(仮)はねぇだろう。賢者の旦那。」

「では、名実共に夫婦なのか?名目上は夫婦でも実際夫婦らしいことしているのか?」

「・・・・・・・・・・・///」


まだらしいな。


謁見の間、文武百官がそろい貴族達もちらほら・・・・・・・・・

「王室顧問及びに孤児院官僚補佐群、陛下の召喚により参りました。」

「うむ、本日はそこにいる補佐見習についてだ。是はわしからの結婚祝いとして取って貰って構わない。補佐見習参れ。」

「はいっ!」


陛下の傍に近づいた補佐見習。玉座より降りた陛下は補佐見習の準爵章を取ると新たに男爵章を渡す。

「是までの功により、補佐見習を男爵として任ずる。補佐見習よ、是を受け取り王国の為に働いてくれ。」

「えっ!俺そんなに役立っていないのに?」

「馬鹿を言ってはいけない。君は王国を書類地獄から解放したんだぞ。しかも、緒家においての働き領民から十二分に感謝されている。男爵ですら少ないくらいだ、それとも末王女かどこぞの貴族の姫君でも与えようか?」

「い、いえ陛下・・・・・・・・それは本当に要りませんので・・・・・・・・・・ って、傷跡娘!捨てられるのって目で見るな!」

「冗談じゃ!」


周りを見るとニマニマと・・・・・・・・・・陛下もからかいが過ぎるなぁ・・・・

誰も窘めないのか?

ねぇ、王妃様・・・・・・・・顔背けやがった。グルであったか。

年端も行かない少年少女の淡い恋物語を引っ掻き回すくらいならば仕事しやがれ!

宰相閣下や長達の顔を見てみると苦い顔をしているのが大半、微笑ましげににやついているのが少数。

悪趣味なのは財務長に民部長か良く判った。


私はそっと補佐見習の傍に近寄り高らかに宣言する。

「此処に来場の方々に申し上げる。我が弟子である補佐見習男爵。否、見習男爵等と言うのはごろが悪いので彼の成果である酒盛市場から酒盛男爵と号する事を認めてもらいたいのだが如何であろうか?」


おおーっ!!

ふむ、名付けが良いではないか。名を贈るとは粋な事を・・・・・・金もかからんしとか

確かに見習男爵だと語呂が悪いな・・・・・・・・・・ ワシとしては云々・・・・・・・・

貴族諸氏も悪くないと好印象だ。陛下のほうを見てみると・・・・・・ふむふむ・・・・・・・先手を取られたかとか言っているが是自体には反対はないようだ。


「ふむ、王室顧問の言。受け入れて彼をこの後酒盛男爵と名乗ることを許そう!」


うわぁぁぁ・・・・・・!!

大半の貴族諸氏は名乗りを許された補佐見習に対し、今までの功績と酒盛市場の設立にまつわる話を知っているのか好意的に捉えているようだ。

多少良識派の者からは酒盛とはなんか不謹慎だとか言っているのが居るが少数派。

って、言うか自称良識派の面々も先日の振る舞い酒で赤ら顔の千鳥足になっていたから大きなことは言えないのだが・・・・・・・・・西方国境辺境伯とか北西城塞都市伯とか・・・・・・・・


好意的に思われているついでだ、箔をつけてやるとしよう。

私は神秘緋金属張扇(オリハリセン)を一つ召喚すると、高く掲げる。

「我が弟子よ。路傍に朽ち果てようとしながら、母親や弱き女性の盾となるべく精進を重ねて今の境涯になった事には誇りに思う。汝の理不尽に対する抗い(つっこみ)に一助となれば幸いと思い是を贈ろう。」


神秘緋金属張扇(オリハリセン)を高く掲げたまま私は詔を発する。

「我王室顧問は弟子である酒盛卿の幸いなるを求める生き様に敬意を表し、この演芸神の加護のついた神秘緋金属張扇(オリハリセン)を彼に捧ぐ。世界よ!神々よ!照覧あれ!そして、願わくば理不尽に対する抗いが実を結び、嘆きの海の嵩を増すことがない事を!!」


私は神秘緋金属張扇(オリハリセン)を補佐見習に渡し一歩下がる。

赤銀の輝きは室内にも拘らずきらめきが増している。


貴族達も神の加護のついた神器を惜しげもなく渡すという私の行動と神秘緋金属張扇(オリハリセン)から零れ出す神気と輝きに驚き言葉を失っている。


「師よ。名と神器の贈り物、真に有難う御座います。出来れば酒盛という名はちょっとと思うのですが・・・・・・・・・・」


補佐見習の言に周りから忍び笑いが広がる・・・・・・・・

「なれど、この授かりし神秘緋金属張扇(オリハリセン)に賭けて、誰かの涙を強いる者には神々であろうと抗う(つっこむ)ことを此処に誓う。」


見事だ!(by演芸神)


補佐見習の宣誓がなされた後、神秘緋金属張扇(オリハリセン)から光が満ち溢れていく。

祝福された物に更に神の加護がつく・・・・・・・・・

古の勇者や魔王でさえ加護付の物に加護を賜るなんて事はないだろう。

でも、演芸神なんだよなぁ・・・・・


五月蝿い!(by演芸神)


光が収まると神秘緋金属張扇(オリハリセン)の形が一回り小さくなって、刻まれている文様が複雑になっている。多分神聖言語かなにかであろう。


しかし、補佐見習でも古臭い言い回しが出来るとは・・・・・・・・・・日々成長するものなのだな。

彼の母親も連れて来れば良かった。


それは彼女の夢にでもこの様子を送ってみさせるとしよう。(by療養神)


補佐見習は自らの神秘緋金属張扇(オリハリセン)を見つめて呆然としている。

いきなりの超展開に思考が追いつかないのだろう。


でも、お前の戦いには剣は要らない。言葉と帳簿がお前の武器で目立たぬ数字がお前の戦果だ。

誰もが嫌がる仕事で、功績は理解されない。多分敵も多い生き方になるのだろう。

それが官僚と言うか帳簿屋としての道を進む宿命だ。

私が守ることができるのは長くはないだろうし、助力できるのはそれより少し長い程度。

せめて、是くらいの御節介は許して欲しいものだ。


補佐見習が呆然とし続け、私が感傷に浸っている間に陛下が侍従に命じて何か持ってこさせている。


「酒盛男爵よ。お主の号に合わせてワシの杯を受けよ!」

「はいっ!謹んでお受けいたします。」


陛下の言に正気に戻った補佐見習が陛下から杯を受け取ると溢れんばかりに酒を注がれる。

ふむ、よき香りだ・・・・・・・・・・・


「先日の振る舞い酒で王宮にはろくな酒が残っていないのだが許せよ。」

「いえ、陛下方に置かれまして私への過分なる祝いの品、路傍の平民の身である私には光栄の極みであります。」

「今は王宮男爵位、民守る剣の身分だ。そして、王国になくてはならない功臣。年若く、吹けば飛ぶような身分であるが、王国を支える大事な屋台骨よ。それに報いる事をしなくて何が王よ!!」


部屋一杯に迸る酒精の香り・・・・・・・・・・・・・

これは・・・・・・・・・・

古き酒精に香草薬木を漬け込んだ一品。元となる酒精が良いものを使っているから、杯一杯でどれだけの価値があるのか・・・・・・・・・


ごくりっ!


どこかで喉を鳴らす音が聞こえる。

もしかすると私自身の音かもしれない。


補佐見習は注がれた酒を煽ると一気に飲み干す。

大きくない杯に注がれた酒は時間を掛けずに補佐見習の喉を通り過ぎる。



ぷはぁあ!


おおっ!

貴族達の歓声の響く中、大きな声で一息つくと空になった杯を見せ付けるように高く掲げる。

補佐見習、それは酒合戦のだ・・・・・・・・・後で教えておかないと・・・・・・・


「うむ、見事!酒盛男爵の名に恥じぬ、見事な飲み方よ!今後とも宜しく頼むぞ!」

「はい、陛下・・・・・・・・・・・」


少しふらついているなぁ・・・・・ そういえば奴は酒を飲むのが初めてではないのだろうか?

そうして、補佐見習は酒盛男爵となった。



だらだらと続いています。今宵は酒が飲みたいので是まで。


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