傷跡娘と王妃様
盾の血を引く男あり 古よりの聖なる血
男は子供を弟子とする 街で朽ちたる娼婦の子
娼婦は男の手当てもあって 息子を抱くこと出来る
落ちたるその身は卑しくも 母の思いは偉大なり
その身を誰かに委ねるは 愛し我が子の為なれば
母の思いは誰が為 息子もそれを感じ取る
金銀金剛ちりばめた 街の明かりの片隅で
朽ちたる者を見向きもせぬは 王都の者の情けなし
盾の男の甲斐あって 親子は暮らしの道繋ぐ
王に楯突く古き血の 叫びに祖王も苦笑い
遥か昔に盾の血に 叫ぶ血族今何処
盾の男は少年を男にすべく鍛え上げ 子供は母の愛を知り
千の苦行を成し遂げる
子供の叫びは最果てに朽ちる誰かの代弁か
王なる者の無能なら 救い上げたる手となろう
無知なる子供の愚かな叫び 今は誰もが嘲笑う
今は小さき少年の 叫びは誰もが聞き流す
恐れよ子供をその先を 驚け君よ少年の
決意は種火 いつかは焔
とある酒場で詠われた【傷跡娘の物語】より
ヨタカが寝床に戻りサカサムクドリが飛び立ち始めたとき。
朝が始まる。
夜遅くまで語り続けたのか眠たげな三人を見て私は仕方がないなと苦笑する。
別に孤児院へと向かうのはゆっくりでも構わないのだが、小売婦人も仕事があるだろう。
自分だけの商売ならば休むのもありなのだが、市場の世話役の一人となった責任もあり身支度を整えていた。
馬鹿弟子も眠たげな表情を浮かべつつも身支度を整えていた。
私はそんな親子三人に挨拶をし、共に食堂へ行こうと誘う。
小売婦人は市場へと向かい・・・・・・・・・
その後他の世話役達から態々こんな時位休めば良いのにと窘められたそうだが・・・・・
我等も孤児院に向かうとしよう。
「補佐見習、隊商の方から私物とか荷物が届いてますが・・・・・・・・・」
長旅だし色々荷物もあるだろう・・・・・・・・・土産物もあるのか。
「賢者の旦那、力添えありがとう御座います。これは口に合うかわかりませんが・・・・・・・・・・」
ふむ、温泉地近くで高名な醸造酒の原酒ではないか。心憎い事を・・・・・・・・・・
「補佐見習よ、別に私は何も成しては居らぬよ。全てはお前が自力で得たもの、礼には及ばぬ!」
酒は嬉しいがな・・・・・・・・・・・後でチビチビとやるとするか。
そして、土産の数々を開いて孤児娘や孤児姉には綺麗な鈎編みを渡したり、寮の面々には小物だの目隠し布だのを・・・・・・・・主に女衆が選ぶので賑やかだったのは笑い話としておこう。
因みに孤児弟には末王女か公爵令嬢にでも送るのによかろうと鈎編みに銀糸をあしらった目隠し布を用意している。多分、温泉伯あたりに目隠し布の宣伝に協力してくれと頼まれたのだろう。
一通り配り終えた所で孤児院へと向かおうとする。
残念ながら孤児娘達や孤児達は仕事が溜まっていると言う事で我等のみで行くこととなったのだが・・・・・・・・・
さて、行こうか・・・・・・・・・・・先に市場で土産でも見繕うかな?
そんな矢先に
「王室顧問様は居られるかな?王妃殿下の命により補佐見習準爵、傷跡娘準爵を伴い王宮へ参られたし!」
王妃め、我慢できないのか・・・・・・・・
王宮からの使者に補佐見習と傷跡娘は苦笑をする。
「・・・・・・・・・・賢者様、孤児院は明日にしますか・・・・・・・・・・・」
「行ったら良い話の種にされそうで嫌なんだがなぁ・・・・」
気持ちは判るぞ補佐見習。お前等は噂の恋人達になってしまっているからな。
「御主人様、用意を整えていくしかありませんね。」
「仕方あるまい・・・・・・・・・・少しは自重して欲しいものだ。」
「王妃様には暫し再会の時をと申し上げたのですが・・・・・・・・・・」
使者殿は悪くない、悪いのは気も利かない大と・・・・・・・げふんげふん
多分、陛下あたりも一枚噛んでいるに違いないが。
「使者殿、貴殿は悪くない。明後日辺りには用意を整えて挨拶に伺う予定ではありましたから・・・・・・・・・・」
「そう言っていただくと助かります。」
そう言っている間に用意は整い、王宮へと向かうとしますか・・・・・・・・・・
王宮にて陛下の執務室そばに設けられた応接室の一つに我等一同が迎え入れられる。
王妃だけだったら後宮部分に迎え入れられるのだろうが・・・・・・・・・
「長旅で疲れているであろう中良く参った。」
陛下は労うかのように言っているが、好奇心が見え見えなのはバレバレである。
「傷跡娘、その顔を見せてくださいな。」
王妃に関しては完全好奇心で呼びつけましたと全身で表してやがる。
「陛下におかれましては旅路への配慮、補佐見習及びに傷跡娘感謝申し上げます。」
「補佐見習よ、温泉伯から聞き及んで居るぞ。あの地方の書類仕事を片付けたことを・・・・・・・・・」
「いえ、それは手慰みで・・・・・・・・手を出したまでで、そのお陰で神殿からも・・・・・・」
「向こうから礼状と今後も度々人を寄越してくれないかと言われた。礼については受け取るが後半部分は・・・・・・・・・・・で、旅は如何であったかな?」
陛下は補佐見習を相手に旅路や温泉町の風俗を聞いてしるし、王妃は傷跡娘の顔を撫で回して・・・・・・・・・・・
ああでもないこうでもないと思案している。弄り回す気満々ですね。
「良いじゃない、可愛い子を着飾るのは楽しいわよ。王室顧問だって孤児姉を先日色々着飾らして楽しんでいたそうじゃない。本当、孤児娘と傷跡娘私に下さらない?孤児弟でも良いわよ。」
「犬猫の子じゃないのだから気楽に言わないでください。それに傷跡娘は補佐見習の売約済みですよ。そして、王妃に譲ったとばれたら私が母に何をされるか・・・・・・・・・・・・私兵団率いて取り戻しに着そうで怖いですから・・・・・・・・」
「残念ねぇ・・・・」
「でしたら、何処かの年若い侍女とかを弄り回せばよいでしょう。本人も親も良い人脈が出来たと喜びますよ。」
「それでしたら、もうやり尽くしましたわ。楽しかったですけどあの子達は一通り自分の魅せ方を判っているから面白くなくて・・・・・・・・・・・やはり一から作り上げてみる楽しみを味わえるのは貴方の娘達以外に居ないの・・・・・・・・・・・」
「程々にしてくださいよ・・・・・・・・・・・・官僚共からの苦情を受けるのは私か宰相閣下なんですから。」
多分聞かないだろうが一応釘を指す。
「それにしても、傷跡娘がこんな可愛い子だとは・・・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・別にかわいくなくても良い。補佐見習だけ見てくれれば十分だったのに周りの目が面倒です。」
「うわぁ、暑いですわね。」
「それには同意ですな。」
会話に混ざってきた陛下も
「こんな可愛い子に慕われるとは補佐見習も幸せ者だな。如何だね傷跡娘、ワシに乗り換え・・・・・・げふっ!」
王妃様、陛下のわき腹は官僚共や護衛官ほど丈夫じゃないので容赦ない一撃は止めてください。
崩れ落ちる陛下に目もくれず
「貴方達は何時契りを結ぶの?」
「ちっ!ちぎ・・・・・・り?」
「・・・・・・・・・・・・・・///」
「契りの儀式よ。夫婦の誓いを立てるのでしょう? まさか、もう挙げてきたとか?」
「い、いえ・・・・・・・未だですけど・・・・・・・・・・そこまで考えたことはないですし・・・・・・・・・・せめて一人前になるまではと思ってましたが・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・・・・・」
口篭る補佐見習に無言になる傷跡娘。どちらも真っ赤だ。
可愛いものだな。
「王妃様、若い二人はまだ恋人気分を味わいたいと思っているのに無粋ですよ。」
「そうでしたわね、私には恋愛期間というのがなかったから羨ましくて・・・・・・・・・・」
はいはい、しおらしくしても可愛くないですから・・・・・・・・・それにかかるのは陛下くらいですし・・・・・・
「今ではワシもかからんぞ。何度もやられたらなぁ・・・・」
王妃様・・・・・・・・・・・
陛下と私の冷ややかな視線に目を背けて、笑って誤魔化している・・・・・・・・・・・
陛下もいつもの事にあきれ果てた顔をしたが私に対して本題を告げる。
孤児達の処遇である。
あの子達も王宮にて十二分に活躍してくれている。少々やり過ぎな気もしないでもないが・・・・・・・・
主に貴族緒家に対する会計処理の間違い探しとか襲撃者に対する情け容赦ない処置とか・・・・・・・・・・・
「旦那、何やっていたんだ?」
補佐見習、そんな冷ややかな目で見られても・・・・・・・・・私の何時もの書類仕事を手伝ってもらったから数倍量の処理が出来ただけだぞ。それが、過去数十年分の殆どを洗い出して現場が大混乱しているだけなのに・・・・・・・・・・・
「それはやりすぎというもんだろうがぁぁぁぁぁ!!」
補佐見習も平民の常識で考えていると・・・・・・・・・・・
「御主人様、貴族の常識でもない気がしますけど・・・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・官僚の基準で考えると回りが死ぬ。」
「・・・・・・・・・・・・・・うん、まぁ、少々問題点が出てきているけども、子供達は良くやっているよ。投入箇所を間違えたかなと思っていたりもするけど・・・・・・・・・・」
「それは言えますね。資料整理とかにも半分くらい回しておけば良かった気がしますが・・・・・・・・・お陰で官僚達の常識に染まってしまって・・・・・・・・・・後が怖いのですが・・・・・・・・・・」
「末王女付の教師からも非難の声が・・・・・・・・・・・・・子供達に何をさせているんだって・・・・・・・・・」
「あらあら、私に預けてくだされば元の可愛い子に戻りますわよ。」
「それはそれで王妃様に預けたら、ただの愛玩動物になってしまいそうですし・・・・・・・・・」
「猫可愛がりしているからなぁ・・・・・」「子供の教育もまともに出来ていないのに・・・・・・・・」
「ちょっと、それは酷い言いがかりですわ!」
「では、言いますけどねぇ・・・・王都によりつこうとしないで旅をしている王太子殿下に剣術にはまって政務をしない次王子、姉王女は降嫁しているけど嫁ぎ先で旦那泣かしているし、末王女は孤児弟にまとわり着く害虫だし・・・・・・・・・・苦情はこっちに回ってきているんですから何とかしてください!隠居できないじゃないですか!」
「そうは言っても、上三人は否定できないのが辛いですけど最後のは孤児弟にとっても良い話でしょうに!」
「本人が嫌がってなければね。アレにはもう、何人も良い仲のご婦人がいるんだから・・・・・・・・・・・」
「それは初耳ね。詳しく聞かせてくださる?」
言い争う私と王妃・・・・・・・・・・・・・何時になったら王族と縁を切って隠居暮らしが出来るのか?
しかも、孤児弟の女性関係に興味深深だし・・・・・・・・・・・私に実害ないから良いけど。
「結局そっちに落ち着くんだな・・・・・・・・・・・」「賢者様だし・・・・・・・」
「でも、苦情処理とかは結構面倒でしたわ。」
「で、王太子殿下は今どこに?」「三日ほど前は霜降国にお邪魔していたそうですわね。ただ南方の黒獅子を担いでいたから如何やってきたのか不明ですけど・・・・・・・・・・・」
「それってなんかの呪い?」「・・・・・・・・・・・・方向音痴の移動魔術師?」
「傷跡娘の正解ですわ。」
「陛下、王妃様、執務が溜まっているので片付けて欲しいのですけど・・・・・・・・・・」
痺れを切らして応接室に入った事務官の嘆きは誰も聞いていなかった。
哀れ事務官。
腹が減ったのでここまで。
昼酒も飲みたいなぁ・・・・・