宮仕えと孤児姉
孤児姉が王室顧問に仕えるようになってから一年弱。
寝起きの悪さと食道楽には渋々白旗を上げている。
子供達への甘やかしは仕方ないと諦めている。
酒量の多さには閉口しているが分が悪く、性愛神殿通いには不屈の闘志をもってしても止めることはかなわない。
こう考えると彼女が王室顧問を敬愛することは不憫としか思えない。
彼女が抱いているのは師父への敬愛なのか女として惚れているのか?
どちらにしても不憫としか言いようがない。
幸いなことに王室顧問は孤児姉に対しても激甘であるため、彼女の願いは大抵の事はかなえてやるのだろう。
先に挙げた事は除いて・・・・・・・・・
所詮彼は道楽貴族、その業からは逃れられないということか・・・・・
孤児姉が呆れて嘆く様が目に浮かぶようである。
王宮雀某の日記より一部抜粋。
最近冒頭がひどいのだが・・・・・・・・・
「ご主人様の他者からの評価です。自制してください。できれば私を可愛がってくれると・・・・・・・」
照れた顔して要求を突きつけてくる孤児姉。
この甘ったれが・・・・・・・・・甘やかしてくれるのならば沢山いるだろうに・・・・・・・・・
そろそろ、孤児達の雇用期限が切れる。
お試しだし孤児達の職業訓練代わりだし・・・・・・
「王室顧問、職業訓練に国家機密満載のここを選ぶのはどうかと思うぞ。」
「王宮管理官、子供達を他に引き渡すが・・・・・・・・・」
「すまん、もっと寄越してくれ。出来れば返り討ちにした後裸で吊るすのはやめさせてくれ。裸でいいのは可愛いい女の子だけだ!男の裸なんて王妹殿下一味くらいしか喜ばないだろう。」
「もっともだ、王妹殿下を喜ばすなどあってはならないことだしな。襲撃者に対してどのように吊るせばよいかな?」
「そもそも吊るすな!子供達だけでどうやってあんなことが出来るのかが疑問だが・・・・・・・・・・」
「子供達、返り討ちにするのは良いけど、裸で吊るしたりとかは駄目だからね。汚いものを表に出したらみんなが嫌がるってあそこのおじちゃんが怒っているからね。」
「はーい。」「ごめんなさいおじちゃん。」「きをつけまーす。」
「お、おじちゃんって・・・・・・・・・・・・まだ、二十代なのに・・・・・・・・」
「おーひさまの(国家機密)分の一だね。」
いらん計算だけは速いな。うなだれる王宮管理官、お前は弟に先を越されて来月にはおじさんと呼ばれる身じゃないか今更何を言っているんだね・・・・・・・・・
「ぐはっ(吐血」
「はいはい、王城管理官。往生する振りはよいから・・・・・・・・・・その指輪には見覚えあるし。」
特殊効果の指輪型魔具、王都市場外れの魔具専門店で銀貨二枚で販売中。(by魔具専門店店主)
って、さらりと宣伝するな!どこから紛れ込んだ!
「どうも、種明かしするときに宣伝機能が働くみたいだ。」
「いらん所に力を注いでいるのだったら価格安くしろ!」
「王室顧問も似たようなものでしょう。」
「財務官人聞き悪いぞ。無駄な部分があるから余力を持って安全に出来ると経験上知っているだけだ、あの店主みたいにぎりぎりまで無駄を詰め込んだりしない。」
「どっちもどっちだな。」
「まてっ!聞き捨てならんぞ。式部官!少なくとも儀礼部分で全身タイツの儀杖兵を仕立て上げたお前には言われたくない。」
「そういえば儀杖兵から苦情があったな。『俺のが小さく見えるからナスを仕込むことを許可してくれ』と」
「そもそも小さい分際で何を言っているのやら・・・・・・・・・・」
「ご主人様、官僚の皆様方。さすがに子供達の前では・・・・・・・・・・」
ふむ、自重しよう・・・・・・・・
「お前らも自重しろ。」
「少なくとも王室顧問には言われたくないね。」
「同意だな。」
口々に言い募る官僚共。少なくともお前らには言われたくない。
「どっちもどっちだと思うのだが、と思うのはまだ僕が官僚に染まりきっていないということなんだろうな。」
「染まったら人として終わりだろう。」「せめて俺らだけでも官僚府の良心であり続けないと・・・・・・・・・・」「うわぁ!言うねぇ・・・・・」
ボソッと小声で呟きを交わす後釜達に無言で詰め寄る官僚共、口は災いの元という諺を知らないのだろうか?
「ほうほう、私等の事をそう思っていたのか。」「誤解を解かないといけないな。」
「相互理解にかけると仕事の運営に差し支えるからしておくか・・・・・・」
「い、いえ・・・・・・・・・そこまでしていただかなくても・・・・・・・・・」「そういう行動が・・・・・」
「そういう行動が何だって?」「ひぃぃぃっ!」
胆力が足らんな、後釜君たち。少しは子供達を見習ったらどうかね?
「ご主人様、それはそれで問題だと・・・・・・・・・・・」
そうか?王侯貴族をも肩書きで相手にせず、己で切り開こうとする気概があるだけなんだがな。
「子供達、おじちゃん達は話し合いで忙しそうだから他に行こうか・・・・・・・」
はーい!
「ご主人様この場の収拾はいかがするつもりで?」
「ほっとけば良かろう。仕事もたまっていないしな・・・・・・・・・」
「それとも二人きりが良かったか?」
「ご主人様!」
顔を真っ赤にしている孤児姉は可愛いものだ。ちょっとからかっただけなんだがな。
さて、何処に行ってみるかな?
子供達をぞろぞろと引き連れて・・・・・・・・・
「おや、王室顧問子供達を連れて何処まで?」
「王妃様、官僚どもが子供の教育に悪そうなやり取りしているものですから他の部署でも手伝おうかと・・・・・・」
「それならば子供達を貸してくださらない。社交の場に出るのならば礼法とか教えたほうが良いでしょうし。」
「ふむ、町方で糧を得るから必要ないと思っていたんで精々商家とか貴族家に招かれたときの基本しか教えてないですから願ってもないですな。」
「ならば暫く借りていきますよ。」
「子供達、このおば・・・・・・・もとい、王妃様に着いていって礼法を習って行くと良い。王妃様、礼法の講師なんてすぐに来てくれるのですか?」
「それならば末王女のついでにと命ずるだけですから問題ないですわ。」
「なら良いのですが・・・・・・・・ あまり色々吹き込まないよう願いますよ。」
「それは責任もてませんわね。」
嫌な事を言いながら王妃は子供達を連れて行ってしまった・・・・・・・・・・
二人きりなんだが如何するかな?
枯野の季節だから花は温室しかないし・・・・・・・・
そういえば冬物の服とかあるのか?
「冬物ですか?外套があるくらいですが・・・・・・・・・」
「ふむ、少し服を見繕ったほうが良いな。爵位持ちで可愛い従者が外套一枚の着たきり雀というのは宜しくない。王宮内は暖房が効いているとはいえ、市場とかは寒くなるだろうしな・・・・・・・」
「では、孤児娘達や孤児弟とかも・・・・・・・・」
「孤児弟は男爵位と自力の収入があるから自分で用意させればよかろう、末王女とか公爵令嬢あたりが貢ぎそうだが・・・・・・・・・・・ 孤児娘達は今仕事中だし後で用意してやればよかろう。それともお前が選んで渡してやるのでも良いし。」
「孤児院のほうも・・・・・・・」
「そっちは後で古着屋にでも手配を頼もうか、どうせ汚すだろうし質より量だ。仕立て上げていたらきりがない、というか間に合わない。」
まぁ、たまには可愛い従者を着飾らせるのも面白かろう。
その後剥いて・・・・・・・・なんてことはするつもりは今のところないのだがな。
「出していただいても良いのに・・・・・・・・・・・」
嫁入り前の娘がそんなことを言うものではないよ孤児姉。
「宰相閣下、当家に王室顧問卿家の孤児姉を迎え入れたいのですが口添え願えませんでしょうか?」
「北方街道伯、それはどっちの意味合いで?配下としてかな、それとも血族に迎え入れるという意味でかな?」
「後者のほうですな。詳しく言えば我が愚弟が見初めまして・・・・・・・・・妻に迎え入れたいと。」
「それは止めたほうが良かろう。王室顧問は彼女の事を溺愛しているしお手つきだぞ。(注:現時点ではそんな事実はありませんby作者)」
「お手つきですか・・・・・・・・・・確かに日夜常に侍っているから、そう言う事もありますな。それでも良いと愚弟は言っていますが、なにとぞ・・・・・・・・」
「悪いが協力は出来ん。」
「何故です?あんな大酒呑みで女好きの性格がねじくれ曲がった道楽貴族の元では彼女が可哀相ではないですか!」
「その評価は否定できないのが辛いが、彼女自身が好んで寄り添っているからな・・・・・・・陛下の誘いすら断りいれているし・・・・・・・・・・」
「あんな、服飾美意識のない中年が振られるのは当然として、何故なんです?」
「それは不敬発言だぞ。どうしてもと言うならば聖域守護辺境伯家に申し入れたらどうだね、一門の党首からならば王室顧問も話くらいは聞くだろう。」
「そうですか、お手間を取らせて申し訳ございませんでした。辺境伯家に申し入れてみます。」
「力になれんで済まぬな。まだ孤児達を配下に入れたいとかならば話を通せるのだが、孤児姉は王室顧問のお気に入りだからワシでもおいそれと手をだせんのだよ。貴殿の成果を期待せんで見ているぞ。」
その後北方街道伯は辺境伯家でも断られて、弟に諦めるよう言うのであった。
これは何処にでもあるような貴族の縁談の不発。若者の失恋であった。
「宰相閣下、口添え断って宜しかったんで?」
「そりゃ、そうだろう。孤児姉の思慕の目を見れば叶えてやりたいと思うのは当然だし、王室顧問も嫁の一つももらえばおとなしくなるだろう。」
「孤児姉の思いについては当然ですが、あの王室顧問が大人しくなるかと思えないですが・・・・・・・・・・」
「孤児姉がいるから、多少は騒動の被害も防げているのは事実ですが・・・・・・・・それを説明して諦めさせるとかしないので?」
「王室顧問の良心というのは事実だが、それを公然とさせて役割とするのは酷いだろう・・・・・・・・・・年端も行かない娘にそれを強要するか?」
「確かに・・・・・・・・・・・」
王国の良心、宰相府の遣り取り。
今日も某王国はたいした騒動はありません。