宮仕えと灰髪少年
市場で何時もの様に働いているある日、世話になっている王室顧問様から声がかかる。
「灰髪少年、王宮で働いてみないか?」
「はぁ?」
一介の孤児で何の取り柄もない私に何を言っているのだ?
生活するだけならば市場の売り子と目隠し布だけで十分なのに・・・・・・・・
「お前は読み書き計算ができるだろう。王国政府の経理部分の手伝いをしてほしいのだ。」
「王宮勤めなんて兄さん出世じゃない!」
「少年、わし等に構う事はないから好きな道を進んでいいのだよ。」
妹に婆様・・・・・・・・・・・・
どう考えても嫌な予感しか・・・・・・・・・・・
「なに、心配することはない。何ならば短期の一時雇いにして後腐れないようにしておくから・・・・・・・・・・・・」
「しかし、王宮には黒髪孤児男爵とか孤児娘準爵の皆様方が要るではないですか?」
「人が足りない足りないとうるさくてねぇ・・・・・孤児院の小さな子まで毒牙にかけて呼び込もうとしているのだよ。一月でいいから来てくれないか?お前の能力は買っているんだ。」
「行ってくればいいじゃない。話の種になるわよ。」
気軽に言うなよ妹よ。幾ら私等が庭園公様のお気に入りとなっているからといっても国政業務なんて気楽にできるものじゃない。
「大丈夫じゃろうて、この貴族様は子供相手に無茶はしないだろうし・・・・・・・・市場のほうもワシ等だけで十分賄える。嫌ならば無理強いはしないが見てみるだけ見てみてもよいのでは?」
ふーむ、悩む・・・・・・・・・
「すぐに答えを出せとは言わんよ。孤児院の子供達とかも仕込まないといけないし・・・・・・・・・・」
言いたい事だけ言うと王室顧問様はお付の娘達を連れて飯屋へと進むのだった。
さて、どうしたものだろうか?
あの後、わいわいがやがやとアホ臭いやり取りが続き、王命で押し切られてしまった。
拒否権って何?
「ご主人様が拒否しても孤児たちに個別に誘いの手が来るだけですので、条件面でごねたほうが得策かと・・・・・・・・・」
孤児姉の言うことは尤もだ。しかし、子供たちの意思を無視して将来を決めるのはどうかと思う。
これが貴族階級だったら、最初から国の禄を食んでいるので拒否できるわけないのだが国から見捨てられて朽ち果てる寸前まで追い込まれた挙句に国の道具となれというのは酷である。
「賢者様、深く考えないで誘ってみたらどうなの?」「一月とか期限区切ってお試しでとか・・・・・・・」
「一月ならば我慢できるんじゃないの?小遣い稼ぎしたいという子もいるし。」
「小遣い稼ぎならば市場で売り子とかすればよいのに・・・・・・・・・・何ならば職人とかの働き口を紹介するのに・・・・・・・・・・・」
「孤児娘達の活躍が目立っていますからね。王室からだけでもなく貴族緒家からも問い合わせがきていますし一度弟妹分の質を見てもらって高く買ってもらうのも一つの手かと・・・・・・・」
「あきらめなよ、だんな。王族貴族連中も一度問題起こせば懲りるだろう。」
「仕方ないか・・・・・・・・・・・お前ら、子供たちの面倒をしっかり見ろよ。」
「「「「「はいっ!」」」」」
では、孤児院に行きますか・・・・・・・・・・
チビ共に土産でも買っていくかね。
ぞろぞろぞろぞろ・・・・・・・・・・・
市場にて灰髪の少年にあったのでついでに誘ってみるが乗り気ではなさそうだ。
「そりゃ、そうでしょう。庭園公の所で色々弄ばれたんだから。」
「それ以前にアクの強い大使達を見ているから苦労すると思っているんじゃない?」
「私たちの次の犠牲者。」
まだ根に持っていたんか・・・・・・・・・
「あれには傷ついたから食事奢って!」「美味しい物じゃないと駄目!」
「お腹空いた!」
食事くらいで機嫌治して貰えるならば安いものだ。どこで食べるかね?
ついでだから婆様達も一緒にどうだい?
「灰髪の兄妹を連れて行くがよかろう。わし等親子はもう一稼ぎしてるよ。」
ただ飯と聞いて目を輝かせている強力弟を殴りながら婆様は答える。
「まぁ、良いさ。ほら灰髪兄妹、食事にしよう。」
「「はいっ!」」
そうして私達一行は近場の飯屋に入るのだった。
皿の数が増えて、卓上が賑やかになっている中、もう一度灰髪の少年を誘ってみる。
「王室顧問様、私でも大丈夫なんでしょうか?」
「大丈夫だって、私らでもできるんだし。」「権力の味は甘いわよ。」
「そこそこ王宮内も知っているから大丈夫だって。」
「灰髪少女ちゃんも一緒に来れば?」「えっ!私も来てもいいの?」
「読み書き計算くらいはできるんでしょ?」「できるけど・・・・・・・」
「大丈夫、官僚の皆は良い人だから。」
官僚が良い人か?その辺の疑問は置いといて・・・・・・
灰髪少女のほうは不安がっているが乗り気のようだ。成程、妹から攻めて埋めていくのかうまいことやっているな孤児娘達は・・・・・・・
それほど犠牲者仲間がほしいのか・・・・・・・・・・・・
「ご主人様犠牲者とはひどいと思いますよ。」
自重しよう。
水菓子やら何やらまで鱈腹に食べた我等は灰髪兄妹と別れ、孤児院へと向かう。
孤児院にて、院長と麦秋老に宮仕えに耐えうる子供達はいるか聞いてみるとほぼ全ての子供達が大丈夫だと太鼓判を押されてしまった。どんだけ仕込んだんだ!
「王室顧問様が面白がって色々仕込んだんじゃないですか。」
「並みの貴族の子息以上の出来栄えだな。礼法とかはこれから仕込まないとまずいが。」
「読み書き計算と各地の産物に法学に神学くらいしか教えていないのに。」
「って、言うか私兵団の中でも教官とかいるからそっち経由で色々教えられているし、神職とか作付け頭とかが興味のある子供たち相手に専門的なこと教えているし・・・・・・・・・・どこに進むんだろう?弟妹達は・・・・・・・・」
孤児弟は案じているが、お前も結構どこに進みたいのかわからないぞ。
私の言いたいことを察したのか孤児弟は無言で悩み始めた。
悩め悩め・・・・・・・・・・・
後見から外れたといっても柵が少ないうちに進む道を選んでおくが良い。そのための翼はお前にはあるんだ。
「賢者様、私達で誘って良い?」
「良いけど、好き嫌いだけで選ぶなよ。」
「大丈夫、任せて!」「気をつける。」「私達の使い勝手で選ぶから。」
「誰を犠牲にしようかな・・・・・・・・・・・」
なんか不穏当な発言が・・・・・・・・・
「ほら、ご主人様孤児娘達に悪影響が・・・・・・・」
「王室顧問、宮仕えするものを犠牲者とか・・・・・・・・・・どんな扱いするんだ?」
「王室顧問様・・・・・・・・・・可愛い子供達が不憫な思いするのは見過ごせませんよ!」
はははっ・・・・・・・そんな酷い扱いはしていないのだけどね。
結局、王室顧問様に口説き落とされて(孤児娘さん達や妹の勢いに負けたとも言う。)王宮に召しだされることとなった。
読み書き計算はできるがこの位だったら市場の商人達はほとんどできる。農家の露店には出来ない人がいるけどそれでも誤魔化しとかは殆どない。
一度誤魔化しをしたらその店に顔を出せないしそれを見ていた店からも締め出しを食らってしまうのだから。
それはさて置き、王城の門衛さんを始めとして結構市場の常連さんがいたのは驚いた。近衛の兵隊さん達は妹を見て困ったことがあったら声をかけてというし、下働きのおじさんやおばさん達も何度も市場で見かけた顔だった。
官僚の皆さんも市場で入り浸っていた酔っ払いだったと知り、安心する。
ぜんぜん見知らぬ人の中で働くというのもちょっと気後れするから。
仕事自体も帳簿付けの延長だったんで確かに私達を呼ぶ意味がわかった気がする。
ふむふむ、しかし間違いが多い・・・・・・・・・・
これを一つ一つ確認するとなれば人海戦術で行わなければならないのは理解した。
そこで縁故のない孤児達を使うというのも理にかなっているかな。
これが何処かの貴族の子弟だったら色々義理とかあってやり辛いだろうし・・・・・・・・
まぁ、一月の間付き合うとするか・・・・・・・・・・・支払いもよさそうだし。
意外と貴族の方々も市場で見かけた顔があって吃驚である。
向こうにしても私達兄妹が居ることに驚いているのだが、王室顧問様の紹介でと説明すると納得してくれる。
なんか、可哀想な者を見る目で居るのは気のせいだろうか?
市場で顔馴染みとなった子爵様に聞いてみると
「知らずにきたのか・・・・・・・・・・・・・・これは言って良い物かどうか、官僚部屋は出世の窓口なのだが激務のあまり倒れるのが多くて貴族の子弟とかが良く逃げ出すんだ・・・・・・・・・・・ほらっ!あそこを見てみるが良い。」
子爵様に示された方向を見ると・・・・・・・・・
身形の良い若者が近衛の兵隊さんにつかまっている姿が見える。
なんか、書類は嫌だとかこの私を誰だと思っているんだとか、幾らで買収できると言っているけど聞く耳持たずに官僚部屋に連れ込もうとしている。
成程、世の中書類仕事に向かないものがたくさん居るからなぁ・・・・・
「もし、何かあったら相談に乗るから。乗るだけしか出来ないけど・・・・・・強く生きるんだよ。灰髪少年!」
と肩を強くたたかれてしまった。どんな場所だここは?
それでも仕事量は多いけど死ぬほどでもないし適度の休憩をとれば問題ない。
その辺の配分が出来ないのだろう。貴族の見栄とかも大変だな。
数日働けば仕事の配分もわかってくるし、時折庭をぶらつく余裕も出てくる。
あまり遠くに行くと良くないといわれているので近場限定だが・・・・・・・・
王族の場所とかいくと不審者扱いされたりするんだろう。
「そんな生易しいものじゃなくて・・・・・・・・・男色家の貴族とかそれを見物する令嬢達とか・・・・・・・・男の子達は気をつけるんだよ。気をつけても駄目なときは駄目なんだが・・・・・・・・・・・某なんて・・・・・・令嬢達の妄想がうわさになって・・・・・・・・・・はぁ・・・」
うわぁ、聞くんじゃなかった。
しかし、この場所は顔なじみの客が多い。
「おや、灰髪の少年ではないか?先日買った目隠し布、あれの具合は良かったぞ!また販売してくれ!」
「卿もか?あれを娼館で試したら燃える燃える。久方ぶりに腰にくるまで楽しんだよ。」
「あれは良いな。自分で使ったら中々新鮮だったし・・・・・・・・・・」
どうして、ここまで来てこんな話を聞くんだろう?
あの目隠し布は盲目の為の道具なのに・・・・・・・・・・
貴族様、ここまで来て聞きたくなかったです。そして公の場でおおっぴらに話さないでください。
挙句の果てには財務長と外務長が目隠し布の上得意だったりするんだ。
市場で色々詳しく聞かされてうんざりしているのにここでも聞かされる羽目になるとは・・・・・・・・・・・・
流石にほかの孤児達や妹には言っていないようだが、私も聞きたくないんだ!
本当にどんな顔して仕事すればよいのだろう?
勘弁してください・・・・・・・・・・