王都各所と竜の宝物
竜族と言う者は多少の差はあれ収集癖を持ち合わせている。
彼等の収集癖に対抗できるのは今は数少なくなった蒐集妖精か人族の偏執的収集家くらいな者だろう。
あるものは金銀財宝を求め、またある者は武具を集める。
知識を集める者があれば同好の士でないと理解できないような者を集めている者もいる。
又聞きで悪いのだがある竜族の収集品は贋作の美術品ばかりだったなんて理解に苦しむものもあった。
勿論竜族を貶める事をするつもりはないのだが、どこに琴線に触れるものがあったのかが疑問である。
実際に竜族の収集品には金銭的価値のある物が多く、下手すれば天文学的価値になったり世界に一品だけの貴重品だったり欲望を掻き立てるのである。
そのためか勇者・魔王時代においては人間族のみならず、魔王連合下の諸異族からも狙われて大変だったとの記録も残されている。(人族連合の歴史書には竜族の秘宝は元々神からの下され物で竜が独占していたのを勇者達が世界のためにと譲り受けたなどという記述も見られる。)
勿論竜族の収集物を得るとなれば並大抵の力量では難しく、軍等を派遣しても内部犯による横領、収奪物の分配における内紛、保管、運搬の為の知識を持つ者の確保等々、確保してからの管理が大変であったと推測される。
少数精鋭で向かうと言う手もあるが、竜族は下位種族であっても軍の一隊と互角に立ち向かえる力量を持ち生半可な者では命を粗末にするだけであったという。
勇者魔王時代の竜族の収集物は戦火にさらされ、簒奪者により奪われ、無知な者がガラクタ当然に扱って失われたものが多い。何とも嘆かわしい事である。
史書を紐解いても竜族が魔王連合に属したのは比較的後期の事で、理由は地理的な問題と人族連合よりもまともだったからと言う程度の事でしかない。実際、戦闘に際しては防衛戦のみ参加し(補給等々の問題もあったとされる)、地理的条件により盾の王率いる某王国(狭間の国、裏切りの園等とも称される。)に帰属した竜族も少なからずいる。
現在の竜族も自身の本能とも言うべき収集癖から様々な分野の収集を手がけている。彼等の収集物はその分野での世界の英知が詰まっておる物も多く、学者や研究者等から研究させてくれと言う声も出ている。
高名な収拾物について幾つか例を挙げると極北連合の僻地に居を構える氷竜族には氷像を収集するものがいて、【永続化】【不変】等の術法を用いて保護しているのだが暖地に持ち込もうにも物が氷なだけに溶けてしまうから持ち出せないというおまけ付である。それでも芸術を志す者や好事家にとっては垂涎の物らしく一目見ようと極北の地に赴く者も多い。(氷竜族側も日を決めて一般公開している。観光旅団も結成されているので極北に赴いた際には見てみると良かろう。)
某王国の聖域守護辺境伯領傍にある土竜族自治区では宝石と言うかその原石や各種鉱石の収集をしている者がいて、ここの金銭的価値は大したことはないのだが学術的価値や世界中の岩石を分類しているといっても過言ではない数の収集物は地属性の魔法使いや学者達が集って議論を戦わせていたりもする。(同じ地において、蘚苔類の収集をしている竜族がいるがこちらは薬師や植物学者が来ているらしい。)
金銭的価値というと魔王領奥地にある火山地帯に居を構える火竜族の長老であろうか?彼の収集物は鋼玉に限定しているのだが質量共に世界一の価値があるといえよう。(一般には公開されておらず、筆者も長老が訪れた事がない南方奥地の鋼玉を土産に特別に閲覧したのである。)中でも護符を封じ込めた人造鋼玉は今では事実上失われた製法で火竜族の秘宝と言っても過言ではないだろうか。
もし君が竜族と縁を結び彼等の宝物を見せてもらえるとなったら光栄に思えるだろう。それは君を信頼に値すると認めたからである。但し、その収集物に過度の期待をしないほうがいいだろう。一般人の理解を超えるものを収集している竜族もまた多いのだから。
【竜族に関する観察記 性癖・収集物編】より抜粋。
最近市場で酔いつぶれている雷竜公を運ぶうちに腰を痛めるものが続出である。
魔王異族連合大使館で二日酔いの雷竜公を放置して鬼族随行員と茶を喫している。
勿論目的は腰を痛めた者への見舞金をせしめる為であるのだが、どちらかというと雷竜公に自重を求めるためである。
人であっても重たいのに【人化】しているとは言え竜である。実は見た目よりも重たいのである。(それでも軽量化の魔具を使用しているらしい。)
ましてや、正体を露にして酔いつぶれている時はそのまま放置してやろうかとも思ったと、とある衛士はぼやいていた。随行の者達は別に風邪を引くくらいだからほっとけというが、邪魔なのである。
はっきり言って邪魔なのである!如何やって運んだら良いというのだ!
「そりゃ、コロと荷車で・・・・・・・・・・・体に縄をかけて引きずるんですよ・・・・・・・」
しみじみと呟く鬼族随行員。だからって、船着場から船に載せる振りをして水路に落とすのは止めて・・・・・・・・・・
水路が詰まって邪魔だから・・・・・・・・・
「面目ない・・・・・・・・・・・ワザとじゃないんですけど・・・・・・・・・・・落として流れていったらどれだけ楽かなぁ・・・・と思ったのは否定しません。酔いつぶれなければ良い方なんですが・・・・・・・・・・・」
たしかに・・・・・・・・・・ 竜族の中には強者としての自信からか威圧的になりがちなのだが(彼等には悪意はない、ただ見栄を張りたがる性質があるだけだ。)落ち着いた物腰で他者に威圧感を与えないように振舞っている。
外交の交渉としても長い年月を生きてきた知識や見識は生半可な者を退けるには十分であるし、竜族という見栄えは魔王領の地力を示すのにもってこいである。でも、酔っ払いなんだよなぁ・・・・・・
「前任の古妖精卿ならば運ぶのに楽だったんだが・・・・・・・・・」
「古妖精卿でしたら、婚約者に浮気がばれて本国にご機嫌取りに・・・・・・・・・・なんでも貴国の官僚の一人が関わっているとか。」
「多分財務官だろう。遠い親戚だといっていたし。」
「あの時は大変でしたよ・・・・・・・・・・・国家機密が漏れたのかと思ったら浮気で痴話喧嘩だなんて魔王様も呆れてましたよ。」
「なんと言うかすまんとしか言いようがないな・・・・・・・・・・」
「いえ、王室顧問卿が謝ることではなくて、あの助兵衛妖精が巨乳娘あつめてウハウハしていたのが悪いんですから・・・・・・・」
「まぁ、私の愛人を奪い取ったんだからざま見ろと言いたいが・・・・・・・・ 風聞で婚約者に愛想つかされたと聞いたが?」
「それは本当ですね、只その前に婚約者に上位精霊術による制裁を受けて全治3ヶ月の重傷を・・・・・・・・・」
「おいおい、魔王領にも治癒術士とか療養神殿の神職とかいるだろ!」
「それが・・・・・・・匙が飛んできて・・・・・・・・・・」
「ああ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
流石にあんな馬鹿につける薬はない!(by療養神)
私は茶で口を湿らし気持ちを落ち着かせる。つまり古妖精卿は最低限の薬のみで自然治癒に任せたと・・・・・・・・・
あわれな・・・・・・・・・・・
「で、王室顧問卿。この酔いどれ竜を如何しますかねぇ・・・・・」
「別に、当方としては酔いつぶれても魔王連合側で介抱してくれるのならば問題ないのですが・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・判りました巨人族か竜族を介添えとして用意しますか・・・・・・・・・・」
「あまりでかすぎるのは設備の用意がないぞ。」
「わかってます・・・・・・・・・・・・」
数日後、市場から連絡が来た。
「賢者様、雷竜公様とお付の方々が・・・・・・・・・・・・酔いつぶれて・・・・・・・・・・・・」
「小売婦人、介添えとして来ている者がいたはずだが?」
「それが・・・・・・・・・・・」
市場についてみると・・・・・・・・・・・・・
潰れていた。竜3、巨人2、鬼4、岩妖精6、牛頭1、人馬2、その他分類不明6・・・・・・・・・・
確かに力自慢だよなぁ・・・・ どうして全部潰れているのだろうか?
「賢者の旦那。このデカブツ共は竜の爺様と何人かで飲んでたんだが・・・・・・・・・・・竜の爺様に飲まされて、嫌いじゃなかったのか樽ごと・・・・・・・・・・・・がぶ飲みしまして・・・・・・・・ごらんのありさまで・・・・・・・・・・・・巨人のデカブツが潰れたときにうちの露店を・・・・・・・・・・・・」
そういう近隣の農家の売り物を見てみると・・・・・・・・・見事潰れている。農家の親父は涙目である。
これは泣いても仕方がない・・・・・・・・・・哀れに思ったわたしは農家の親父に迷惑料と手間賃として銀貨を数枚握らせて酔っ払い共を運ばせる。農家の親父は側にいる男達に声をかけて酔っ払い達を荷車に乗せている。
「旦那、運べるのは積み込んだんですが、でかいのは如何します?」
「ばらしてよければ、ばらしますが・・・・・・・」
「おいおい!食えないし血で汚れるだろうが!」
「竜って旨いという話を聞いた事が・・・・・・・・・・・」
竜って、食えるのか・・・・・・・・・今度試してみるか・・・・・・・・・・・・
「まてまてまてまて!王室顧問卿!その物騒な考えはどこかに捨ててくれ!」
一眠りして酔いが覚めかけたのか介添えの竜族が慌てて声を上げる!
介添えが潰れてどうするんだ!
「申し訳ない。ほらっ!闇妖精族の魔道師殿。おきて、酔い覚ましの術法を・・・・・・・・・・・」
竜族の介添えは正体不明の黒ローブを揺さぶって起こすと術を強請る。
寝ぼけ眼の黒ローブ、ごにょごにょいって・・・・・・・・・・・・術法を・・・・・・・・・・・・暴発させた。
その場にいた全ての者の酔いを醒ましたのは良かったのだが・・・・・・・・・・・・範囲が広すぎた。
他の酔客の酔いを醒まし、市場中の酒から酒精分を抜いたのだった・・・・・・・・・・・
「ああっ!うちの酒が!」「これ10年物だったんだぞ!」
「てめぇ!この黒ずくめ!俺の酒を返せ!」「魔王国の!これは聖徒王国に対する嫌がらせですか?」
「王室顧問!酷いじゃないか!やっと宰相閣下から逃げて酒盛していたのに・・・・・・・・・・」
「私のせいじゃない!って、言うかお前等仕事サボって酒盛するな!孤児娘達に仕事押し付けているんじゃないだろうな?」「えっと・・・・・・・・・・・・・それは・・・・・・・・・・」「たまには若手に任せるのも・・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・・・君達、孤児娘達に仕事丸投げして昼間から酒盛とは良い身分であるな!」
「げっ!宰相閣下!」「この馬鹿者をひっとらえろ!」「はっ!」
「ちょ、ちょっと待ってくださいよ。なんで私まで!」「ついでに次期宰相候補の君も手伝ってくれるよね!!」
「誰が次期宰相候補だ!断る!」「そんなことを言わなくても良いぞ。栄達は男子の本懐ではないか!」「自分が楽したいだけだろう!」「そうだが。」「うわぁ、最低だこの宰相閣下は!」
酔いを醒まされて怒り狂う各国の大使達、宰相閣下率いる近衛中隊を前に逃げ惑う官僚達、ついでとばかりに連行される私・・・・・・・・・・・・私は騒動の鎮静化を勤めていたのに・・・・・・・・・・・・・・仕事中だよ。
そして、酒精を抜かれて消滅しかけている酒精神!
「うわぁ!酒精神様!」「誰か酒を酒をもってこい!」
あははっ・・・・・・・・ まさかわたしがやられるなんてねぇー 色々酒を楽しめたし悪くない神生だったよー(by酒精神)
「うわぁぁぁ!だれだ!酔い覚ましを暴発させた馬鹿は!」「早く早く酒を!」
「畜生!主成分が抜けきってやがる!」「こっちは酢になってる。」
「もってきたぜ!」「早く酒精神様に!」
「おっと転んだ!」「馬鹿野郎!酒樽が・・・・・・・・・・・・・・」
ごつっ!
どくどくどくどく・・・・・・・・・・・・
酒はかける物じゃないよー 呑む物だよー(by酒精神)
樽をぶつけられ、壊れた樽から流れ出た酒を浴びて何とか一息つけたようだ・・・・・・・・・・・・
良かった良かった、酒精神さまが消滅したら世界中の酒が・・・・・・・・・
それは健康的ですわね(by街路神)
たまには宜しいのでは?(by花の神)
ひどいよー(by酒精神)
危なかった・・・・・・・・・
「もしかして我々は恐ろしい事を・・・・・・・・・・・」
「もしかしなくても世界の崩壊の瀬戸際だったぞ。」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・」
肝が冷えたのか介添えの竜族は鱗だらけの顔からでも判るほど血の気を失っていた。
周りの魔王国の連中も・・・・・・・・事の成り行きに驚きを隠せていない。
そんな中でも黒ローブは一人酔っ払ってふらついていた・・・・・・・・・・・・・・・
翌日、市場の損害をまとめてくれた小売婦人をはじめとする顔役と共に魔王連合大使館に向かう。
「雷竜公、流石に今回の件は洒落になりませんよ。」
「済まない・・・・・・・・・・・・・」
術法の暴発の影響なのか痛む頭に顔をしかめつつ積みあがった白い山(多分始末書)を片そうと呻いている雷竜公とその一派。後ろからは昨日酒盛に参加していなかった大使館員やその配下達がにらみをきかせている。
「王室顧問様、この件はきっちりと魔王様に伝えておきますので真に申し訳御座いませんでした・・・・・・・・・・・
この老いぼれの酔いどれドラゴンが!とっとと手を動かして詫び状を綴りなさい!」
狼牙棒を片手に雷竜公に仕事を遂行させている長耳の老大使補佐官に損害の明細書を渡すと私達一行は大使館を辞するのであった。
数日後、魔王直筆の詫び状と損害補填は雷竜公から取り立ててよいと差し押さえ許可状を受け取った。
そういえば竜の収集物って価値があることが多いけど雷竜公は何を持っているのかな?
商会公から差し押さえの専門家を借りてきて、雷竜公の私邸に向かう。
なぜか極北戦士達や聖騎士達・・・・・・・・・・・・各国の大使達がついてきているのですか?
「そりゃぁ、我々も酔いを醒まされた挙句に飲んでた酒もダメにされたのでな。魔王から差し押さえ認可状を貰ったし・・・・・・・・・」
分配でもめそうだな・・・・・・・・・・(汗
「どうもー、酒盛市場の管理組合です。先日の損害の取立てに来ました。金貨20枚です。」
「各国大使から先日の酒代。併せて金貨12枚です。」
「酒精神殿です。酒精神様の治療代金貨8枚になります。」
「「「さぁ、耳を揃えて払ってくださいね!」」」
にじり寄る被害者達・・・・・・・・・・・後ずさる雷竜公・・・・・・・・・・・
「ま、まてまてまてまてまて・・・・・・・払うから・・・・・・・・・・・・金貨は・・・・・・・・・・・えっと、35枚しかない・・・・・・・・・・まからんかのぅ・・・・・・・・・・・・・」
「「「「「ダメです!」」」」」
「さて、楽しい差し押さえですわね!野郎共!雷竜公の宝物庫に行きますわよ!」
「「「「おおっ!」」」」
なんか楽しそうだな・・・・・・・・・
雷竜公の差し出す金貨にも目をくれず、乱入する被害者達。なんで、小売婦人が号令かけていたんだろう?
「そりゃ、酔っ払い大使の担当が小売婦人でしたから・・・・・・・・・・・・」
えっと、なんかすまん・・・・・・・・・・・
調度品も美術品も目もくれず宝物庫に向かう一同。金貨と美術品くらいで損害分は払えないか?
なんか目的と手段を取り違えているけど・・・・・・・・・・・
急ぎ足で進んでいるが調度品とか壊してないしほっとこう。
そしてたどり着く宝物庫。扉を開けた途端、流れ出る冷気と微かに漂う酒精・・・・・・・・・・・・
こ、これは・・・・・・・・・・・・・
「酒蔵か!」
「ごくっ!長年商いの道に携わっておりますがこの酒の質と量は・・・・・・・・・・・・・ 」
「おおっ!これは霜降国の30年もの!」「こっちには極東の古酒が・・・・・・・・・・」
「この樽は廃業した、野葡萄酒造の・・・・・・・・・・・最後の作品。」
「私はこれを・・・・・・・・・」「それは俺が目に付けていたのに!」
「・・・・・・・・美味!」「何抜け駆けしてやがるんだ!」「俺にも寄越せ!」
「うわぁぁぁぁ!やめてやめてくれぇぇぇぇぇ!」「酒の恨み!思い知れ!」
「それは、二度と手に入らない・・・・・・・・・そっちは、金貨20枚もしたんだ!」
うん、びみだねー、こっちはおみやにー(by酒精神)
ごきゅごきゅごきゅ・・・・・・・・・・・・
雷竜公の宝物庫から収集物が呑まれていく・・・・・・・・・・
飲んでいるのは市場関係者以外の大使達とか極北戦士達なんだが・・・・・・・・・・・
「雷竜公様、私達は金貨で宜しいですわ。」
「とほほ・・・・・・・・・・・・・」
こうして雷竜公の宝物庫は現在の蛮族に荒らされるのであった。
「はいはい、飲んだ酒差し押さえた酒は正直に報告願いますよ。不正に申告したら本国に請求書回しますからね。」
差し押さえ担当もえげつないなぁ・・・・・・
「飲まれた酒の方が高くついたぞ!その分は請求しても問題ないだろうな。」
「我が国では関知致しませんので・・・・・・・・・・」
雷竜公の飲まれた酒 34本金貨40枚相当・・・・・・・・・・
更に不明な酒25本金貨10枚相当・・・・・・・・
その差額を元に一騒動と本国からの始末書の山が大使達を襲うことになるのだが別の話である。
酒精神が飲んだ分は?
われにたいするささげものたしかにうけとったよー(by酒精神)
神様特権かよ!
因みに雷竜公の姪に当たる雷竜姫の収集物は【ヤオイ同人誌】だったりします。
世界一腐った竜の収集物。作者も書くのは嫌過ぎる。