平穏無事と幼女の問い
陛下の御許から引き下がった幼女は泣きながら与えられた部屋に放り込まれる。
幼女の身を案じてか公爵令嬢と裸鎖がついている。
泣きじゃくる幼女を裸鎖は優しく抱きしめる。
「嬢ちゃん、陛下では判らなかったのか?」
「ぐすん・・・・・・・・・うん。」
「そうか、誰も答えられないのだろうな・・・・・・・・・・・」
「どうして?」
「うーん、なんと言ったら判らんが聞いてくれ。石を投げたらたまたま其処に人がいて怪我をした。石を投げた奴が悪いけど、人にあてようと思って投げたわけではないからどうして自分に当たったのかと言う質問には其処にいたからだとしか答えられないだろ。」
「う、うん。」
「幼女の親だって、不作だった土地に居たから飢えて死んだ。それだけとしか言えないんだ。勿論幼女たちを食わせるために自分の飯を抜いたとかあるけど結局はたまたま・・・・・・・・・・運が悪かったと・・・・・・・・・」
「どうして運が悪かったの?」
「知らん。俺はこれから如何するかを考えるしかないと思っている。」
「鷲鼻で太鼓腹のおじちゃんが如何したいといっていたけどそれと一緒?」
「鷲鼻で太鼓腹って・・・・・・・・・・嗚呼、商会公か・・・・・・・・幼女も遠慮ないねぇ・・・・・あの人は王様の次くらいに偉い貴族様だぞ。まぁ、良いけど・・・・・・・ 現実主義のあの御仁の事だ。どうしてという質問の後にどうすれば防げるかと考えるのだろうな。」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・よくわからない。」
「幼女が何か失敗した後で次はこうしようと考えた事あるか?」
「ある!」
「太鼓腹の・・・・・・・・・商会公は次は如何したら同じ事を防げるのか考えているのだろう。だから幼女の如何したいのかと聞いたのだ。」
「へんなの、でも、同じ思いする人はいないほうがいい。」
「・・・・・・・・・・・・・。その悔しさを忘れるなよ。」
「どうして?」
「同じ思いをさせないように!」
「どうしてあたちが悔しい思いして人にさせてはいけないの?」
「悔しい思いを食い止めるためだよ。」
「わかんない・・・・・・・・・・・」
「そのうちに判るさ・・・・・・・・・・」
「ふーん・・・・・・・・・・・・」
訳が判らない顔をしている幼女の頭をなでながら、菓子をつまむ裸鎖。
裸鎖の菓子を取ろうとする幼女に菓子を分け与えながら・・・・・・
「皆が戻ってくるまで時間がかかるから、なんか話しでもするか?それとも寝てるか?」
「うーんと・・・・・・・・・・・お話!」
「どんなお話にするの?」
公爵令嬢が聞いてくる。
「うーんと、どうして全裸けんじゃさまはふくをきているの?」
「ぶっ!」
「裸鎖のおじちゃん汚い!」
あまりの質問に裸鎖は口の中のものを噴出してしまったようだ。
「ごめん、答えられない。それは本人に聞いてみな。」
「賢者様答えてくれなかった。おねーちゃんわかる?」
「え、えっと・・・・・・ こんな話を聞いた事あるけど・・・・・・・・・・」
公爵令嬢は法務官全裸出奔事変の話をする・・・・・・・・
「家で着替えて服を返せばいいじゃない。どうしてその場で脱いだのだろう?」
その場にいる誰もが答えられなかった・・・・・・・・・・・・
国王との謁見から数日、補佐見習と傷跡娘は治療のための旅に出る。
陛下から貰った金貨の他にも諸侯から書類整理の礼金とか、餞別だと渡された金もあるから数年は遊んで暮らせるはずだ。
馬鹿な補佐見習は治療と路銀くらいしか持たずに出発している。残された金は全部、孤児院やら元街娼が独り立ちするためにと寄付してしまっている。傷跡娘もそのことに文句を言わず。自分の治療費すら寄付してといっていたが流石にそれは周りが止めた。
「傷跡娘もなぁ・・・・・・・・補佐見習だけいれば良いみたいな所あるからな。」
「補佐見習も傷跡娘のことを気にかけているからなぁ・・・・・」
「似合いの二人だと思いますよ。」
「でも、見ていてもどかしいのよねぇ・・・・」
「ほんと、早くくっつけと。」「中々くっつきそうにないけど・・・・・・・・・・・」
「仕方ないよ、補佐見習がヘタレだから・・・・・・・・」
「それは否定しませんが・・・・・・・・・」
「皆、宰相府から書類の贈り物だぞ!」
どさっ!
補佐見習達が居ない分、書類を孤児娘達と手伝っている・・・・・・・・・・
孤児弟は男爵位を貰ってから公爵令嬢やら末王女に捕まって其れなりの格好をしろと針子の群れに放り込まれている。
なんか針子と一緒に画板と木炭を持った女性たちが・・・・・・・・居るようだが・・・・・・・・・・
見なかったことにしよう。どうせ孤児弟で肌色の多い絵を描こうともくろんでいる腐った面々だろうし・・・・・・・・・・・
「ちょ、だんな!助けて・・・・・・・・・・」
知るか!お前は私とは同じ男爵位、自力で何とかするのだ!
「うわぁぁぁぁ・・・・・・・」
「黒髪孤児男爵、髪の色に合わせて黒色の上着なぞ・・・・・・・・・」
「それよりも藍色にして、銀で縁取りしてみるとか・・・・・・・」
「そこで胸元を叩けて・・・・・・・・・・」
「それじゃ衣装合わせにならないでしょう!」
「孤児弟、何を着ても似合うな。私と並んでも私が引き立つ!」
「末王女様、私の弟分をとらないでもらえますか?彼は私のそばで控えてもらうのが絵になりますから。」
「公爵令嬢、いくらなんでも孤児弟に無理やりはいけないぞ」
「あらあら、そんなことはしていませんよ。お気に入りのお兄ちゃんを取られたからって焼餅焼かないでくださいな。」
其処を偲び足で逃げようとする孤児弟、しかし無情にも捕食者は彼女達だけではなかった。
「いやぁ、孤児弟君。君が面白い事業を興そうとしていることを聞いたのでねぇ・・・・・一口かませてもらおうかと!」
鷲鼻の太鼓腹の商会公である。
商会公は孤児弟の肩をしっかりと掴み顔を近づけて・・・・・・・・・
「しょ、商会公・・・・・・・・・・顔が近いです・・・・・・・・」
「是は失礼!しかし、目隠し布とは面白い商売だ。我が商会でも取り扱いしてみたいから融通してもらえぬかね?」
「それは、いいですけど・・・・・・・・・・・・自分のところで作られたほうが・・・・・・・」
「それはおいおい考えるが、商業組合では独占認可を受けているのが孤児弟だろう。君に断りを入れるのは筋というものだ・・・・・・・・・・・・まぁ、ゆっくりと話そうではないか!部屋には君の好きな菓子を用意してあるから・・・・・・・・・」
「ちょ、ちょっと・・・・・・・・・・」
半ば引きずられるように連れ去られる孤児弟。
それを呆然と眺める末王女と公爵令嬢。
「まさか商会公様に連れて行かれるとは・・・・・・・・・」
「横から攫われたような気分・・・・・・・・・・」
まわりは、商会公孤児弟とは異質なかっぷりんぐねぇ・・・・だの、はらだいこぷれい?だのろくでもないことを言っていたのは気にしてはいけない。きにしたくもない!
だれだ、異世界男色文学を持ち込んだ馬鹿は!
孤児弟は中々忙しいようなので、こっちで仕事を進めておこう。
奴も独り立ちしなくてはならないから商会公に揉まれて行くと良かろう。
けつの毛まで抜かれんようにな・・・・・・・・・・
「わしは男のケツの毛なんか抜かないよ!」(by商会公)
生き馬の目は抜きそうだが・・・・・・・・・・
それはさておき
「そういえば王室顧問、こんな話が流れているぞ。」
「どういう話だ?民部官。」
「先の謁見で陛下に問いかけた幼女がいたろう。あの子が『どうしてぜんらけんじゃなのにふくをきているの?』と質問したそうだ・・・・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・・・・・あのガキ・・・・・・・・・・」
「それを聞いた貴族連中が腹を抱えて大笑い。老街道筋男爵が笑いすぎて腰を痛めているし・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・・」
「おれも聞いたぞ、貴族連中がその答えを面白おかしく考えようとお茶会を開くとか・・・・・・・・・・・」
「そういえば幼女を呼んで判定させようとかなんだとか・・・・・・・・・・」
「お前のところに話しいってなかったんか?」
「全然聞いてないなぁ・・・・・日時と場所がわかったら教えてくれ。」
「押しかける積りか?」
「否、幼女の後見の一人として随伴するのが正しいあり方だろ。」
「ほどほどにな・・・・・・・・・・・」
「旦那方、又仕事が届きましたぜ!」
「小間物屋、其処に置いといてくれ。」
「かしこまりまし・・・・・・・・・・・(ばたん」
「うわぁ!小間物屋!」
「又か・・・・・・・・・・・・」「今月何度目かよ・・・・・・・・・・」
「精力剤箱買いして常備しているだろうに・・・・・・・・・・」
「それ小間物屋以外にもお前等飲んでるだろう。」「勿論、徹夜明けに便利だぞ。」
倒れた小間物屋には誰も見向きもしていなかった。
そのうちに近衛が来て、又かと回収していった。
夜頑張りすぎだ!小間物屋!
「一晩中ではなぁ・・・・・屋敷の下働き連中が嘆いていたよ。元気すぎるのは結構ですけど五月蝿くて眠れないって・・・・・・・・・・」
「どこまで馬鹿なんだ・・・・・・・・・一度子供作れば大人しくなるのでは?」
「かもな・・・・・・・・」
どこかげんなりした顔の民部官であった。
一度ここで缶詰にしていたほうが腎虚対策に良いのでは?
気働きが出来るし、便利重宝に使い勝手がいいのに・・・・・・・・・・・
自重しないからなぁ・・・・・・
なにはともあれ 自重しろ!
幼女が呼ばれてお茶会が開かれる。
幼女もこんな場所があるなんて聞いたことはあるけどまさか自分が来るなんて・・・・・・・・・
おっかなびっくりである。付き添いとして公爵令嬢がいるので、緊張はしても不安がっていない。
貴族達も幼女は余興として呼んでいるから礼法の間違いとかは咎めだてをしない。
一応黒髪孤児男爵の後見を得ている孤児という事になっているが、六大公爵の庇護下にいるのは明白なので馬鹿なことはしないだろう。
馬鹿な集まりには呼ぶのだが・・・・・・・・・・
本当この貴族共は暇人だな。王室顧問や官僚達が見たら近衛の一群引き連れて連行して仕事させようとするだろう。
お茶会は始まり会話と共に笑い声が響いている。
そして、幼女が打ち合わせどおりに
「どうしてぜんらけんじゃはふくをきているの?」
と声を上げる。
貴族共は考えながら・・・・・・・・・
嫌がらせだろうとか、一時的な錯乱状態だろうとか色々言い合う。
一頻り意見が出た後、王兄殿下が
「裸になると風が当たって気持ちいいだろ。王室顧問もそれを狙ったんだろう。」
「かぜがあたるときもちいいの?」
「そうだとも、験しに幼女も脱いで見・・・・・・・・・・・・・ぐはっ!」
下品なあまりに最低な物言いに王兄殿下の言葉の最中で殴り飛ばしてしまった公爵令嬢。
はっ!と気がつくと周りからの視線。
あたふたと慌てる公爵令嬢。
傍若無人な公爵令嬢とは言え、相手は王族・・・・・・・
下手すれば一家断絶とかなりそうだし、やばいやばいやばい・・・・・・・・
そんな公爵令嬢を助けるかのように
「よくやってくれました公爵令嬢。我が兄とは言え・・・・・・・・・・・・・ここまで病気をこじらせていたとは・・・・・・・・・・恥ずかしい・・・・・・・・・」
王弟殿下が王兄殿下を蹴り飛ばしていると
「うちの娘に色目使いやがって!いくら可愛いからって・・・・・・・・・・」
「我が孫にも付きまとっていたぞ。孫は一番可愛いからなぁ・・・・・・・・」
「子供の敵が・・・・・・・・・」
げしげし、どかどか、ばこばこ、ずかずか・・・・・・・・・・
参加した貴族共が皆して王兄殿下を蹴り飛ばしている。
「うちの子が可愛いからって色目使いやがって!」
「我が孫のほうが可愛いから常日頃から付きまとうのだろう・・・・・・・・が許さん!」
「聞き捨てなりませんな・・・・・・・・・・」
「客観的な事実だ!」
「・・・・・・・・・・・・」
更には親馬鹿と爺馬鹿の争いが起こるし・・・・・・・・・・・・
何がなんだか・・・・・・・・・・・
是を見ていた幼女
「貴族ってばかばっかりなの?」
と質問して場を更に混沌とさせたのは笑い話である。
幼女が関わった貴族って・・・・・・・・・一癖も二癖もあるものばかりだったからなぁ・・・・・
ごめんよと謝りたい気分だ。(by記録を記した某貴族)