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王都帰還と義勇兵

全裸賢者様が弟子の叫びに応じて王都を発たれて三月ほど、その時の戦支度は万全で煌く鎧に人馬の群れが是でもかとばかりにひしめいていた。


王都の民達は誰もが思った。

賢者様の激に応じて多くのものが立ち上がり、御伽噺の再来とばかりに世界に喧嘩を売るのだろう。そして、悪い貴族様を懲らしめて目出度し目出度しと・・・・・


そうしているうちにも月日は経つ、半月がたち、一月がたち・・・・・・・・・・・・

季節が変わって、実りの時期が過ぎて眠りの季節がくる。


王城には報告が届いているから心配する声がないのだが、王都にその情報が届かない・・・・・・・・・・・・・

伝手があれば状況がわかるのだろうが、判っている者は心配してないからほとんど情報を流さない・・・・・・・・・・・・・聞かれれば答える程度なんだろうがそんなものである。


そうして何時しか一つの噂が流れた。

賢者様と弟子達が帰ってこないのは戦場で怪我をして動けないからではないか?


全裸賢者が怪我をして療養中なのは事実だが、戦になったと言う話と保護された人々のあまりにみすぼらしい姿に真実味が増す。

生粋の王都の民は小さな頃から御伽噺を聞いている。其処に出てくる六公爵の先祖達の活躍や関わる人々の命がけの献身、始まりの子供の叫びを刻み込まれていて育っている。

最古からの王都民はその伝説の一端を担ってきた者が先祖である事を誇っているし、おれっちの先祖は御伽噺で公爵様に水を捧げたんだ!とか、鉄丈の従者の弟の子孫だとかと言う家系がそこらじゅうに居たりする。多分誇張とか自称もあるのだろうが御伽噺の事、皆大らかに受け入れているし子孫を自称する者達も先祖に恥じじないよう身を処している者たちが大半である。


要は、王都の民は大馬鹿者のお人よしなのである。

でなければ、スリを働いた孤児弟を庇う衛士などいないだろう。


兵の大半が帰ってきたあるとき、賢者様の一行が見当たらない事に不審を抱いたある市民が兵に聞いてみると。

「賢者様は後から来る。矢傷を負われた中、不正がないか無理をしたらしくて少々行軍についてこれなかったからな。」


賢者様負傷・・・・・・・・・

人々は保護されて王都で養生しているし、最初にたどり着いた子供たちは孤児院で保護されている。そこで感動の再会とかがあったり、子供達だけで行かせた事に反省して涙する親の姿とかも・・・・・・・・・



如何して賢者様が戻ってこないのだろう?

市場で酒を飲む姿がないことはとても寂しいし売り上げにも響く。

つられて来る貴族や他国の戦士たちの姿がないのもとても寂しい・・・・・・・・・


早く戻ってきて欲しい・・・・・・・・・・

ならば迎えに行けばいいじゃないか?

王弟を自称する禿げた親父の言う事は信じられるか?

それならば弟子達の一人を連れてきて説明させるだろう!

手助けに行った異国の戦士達は傷ついているし、兵の数も足りない・・・・・・


最悪の状況とか戦場を覚悟して準備しないと・・・・・・・・・

せいぜい、数人が馬車と護衛を仕立てて様子見にいけばよいかと思っていたのだが賢者様を守るための人数が必要だなと言う話になって我も我もと押し寄せてくるのであった。


その情報を聞いた衛士は吃驚してとりあえず王城のほうに問い合わせるから落ち着けと言うが収まりが聞かないのである。

そこで賢者様のご実家である聖域守護辺境伯家の当主が私兵団を率いて押さえに来るのだが、どうせ実家の頭首争いとかで云々と聞いてくれない。


温厚な人柄で知られる辺境伯様も末弟を見捨てただの殺しただのといわれてカチンと来たらしくお前等は暫く待っておれと囲む始末。

まぁ、辺境伯様は優しいお人柄。態々末弟のためにと集まってくれた義勇兵の為に酒やら食べ物やらは差し入れたのだが・・・・・・・・・・


其処で意気揚々となった酔っ払い義勇兵達。


酔わして騒がしておけば暫くは大丈夫だろうと早馬で状況を知らせたり迎える準備をしたりするのであった。


この(自称)義勇兵たちは無意味に騒いだだけだったのだが、王族も辺境伯家も咎めだてする事はないのだった。勿論、彼等は手弁当で数日もいたから素寒貧になって細君やら母親から反省しろと折檻を受けた者が多いという(合掌)



王都の古老がその当時の事を語る。

何で王都の城門に六大公と王弟殿下(はげ)が?


「おれのルビにはげと振るな!それに市民達がお前の事を心配しているんだ派手に元気な姿を見せて安心させてやれ!」

「温泉でのんびりするんだったら、手紙くらい寄越せ!」

「いいですわねぇ・・・・温泉。お勧めの宿を教えてくださるかしら・・・・・・・・」

「庭園公、それは後にでも・・・・・・・・・」

「でも羨ましいのぅ、綺麗所従えて物見遊山。ワシもやりたいよ。」

「奥方連れて行けばよいじゃないですか!」

「あの古女房をか・・・・・・・・・・・若い子と入りたい。」

「また、奥方様に折檻されますよ。」

「それは兎も角、進もうではないか!城門がふさがって邪魔だと言われそうだ。」


「「「「「「御意!」」」」」」


我等は城門へと入る。


先触れの旗手は鉄色の騎兵鎧を纏い王国旗をたなびかせる。

それに従うように六本の旗を風にはためかせる歩兵。


古びた腰布の東方開放建国公旗

一輪の花に女性の姿を重ね合わせた西方庭園建国公旗

古びた金貨袋を束ねただけの商会建国公旗

様々な種族の髪を織り込んだ無地の人外建国公旗

海老茶に双葉の刺繍を施した農園建国公旗

黒地に金糸で馬の刺繍を施し、各部族の名前を銀糸で刺繍している騎馬建国公旗


その後ろから白銀の軽鎧に白の戦外套(サーコート)其処に刺繍されているのは

【幼子の叫びを聞いて汝何をする】

と古き言葉。まるで世界に対する嫌がらせを我等はするのだとばかりに白銀の盾を構え、我が両腕は聖域也(アジール)を奏でながら行進する守護聖域辺境伯儀仗兵団(自称)

見事な方形陣でその内側から楽隊が演奏している。王族が一番怯える曲の一つであろう。


「何をやったんですか御主人様?」

「件の王族追放のとき王都全域でこの曲を流して囲んだらしい。」

「それは・・・・・・・・・(汗」

「でも、逃亡奴隷とか言われなき罪で息を顰めていたものたちはこの曲を頼りに保護を願い出たらしいから歌うなともいえなくなってね・・・・ 時折、嫌がらせ代わりに辺境伯家では奏でるのだよ。」

「嫌がらせですか・・・・・・・・・・らしいですね。」


その後に王弟を頭に錐形陣を組む六大建国公。

皆、其々の乗騎に騎乗している。

って、言うか人外公は竜に乗っているし、農園公は荒ぶる毛長牛、庭園公は黒虎かよ!

後に続くのは孤児弟が乗る黒馬。

それに従うように美形の女戦士である公爵令嬢、荒野の民の騎馬戦士(モヒカン)が来る。


その上空を【飛行】の腕輪で飛んでいる孤児娘達。勿論風の神の加護でスカートの中は覗けない!



うむ、我が加護は完璧だ!(by風の神)



極北戦士団に囲まれるように強力兄弟がそれぞれ大剣と鉄棍を片手に幼女とその兄を肩で座らせている。

見た目厳つい戦士達は其々の得物を手に子供を守るとばかりに雄叫びを上げている。


こうやって見るとどっちがどっちだか判らないな。


「御主人様、婆様に頭が上がらないのが強力兄弟で、大使夫人に頭が上がらないのが極北戦士では・・・・・・・・・・・」

「その区別の仕方はあまり意味がないぞ。」

「・・・・・・・・・・・・・」




そして、それに続くのが私と孤児姉が乗った馬車である。

王都の前で今まで乗っていた馬車を幌無しの馬車に乗り換えて民草に顔を見えるようにしている。

私は孤児姉に酌をさせながら杯を掲げて飲み干すのである。


「御主人様如何して酒を?」

「そりゃ、私が元気であるのを示すのは酒を嗜んでいる姿が一番だからだよ。」

「こういうときにまで・・・・・・・・呑まなくても・・・・・・」

「ほら、膨れていないで・・・・・・・・」

私が孤児姉の頭をなでると孤児姉は仕方ないなとばかりに杯を満たすのである。


そして性愛神殿の面々が傷だらけの旗手を頭として馬車で進む。

それを守るかのように騎馬戦士達と奴隷戦士達が始まりの御伽噺を謡いながら進むのである。







世界の子供を集めたる 我等王国(はざまのくに)の民草よ

今より語るは建国の 大地に眠る父母の痛みに満ちた叫びの話


遠く昔の大地には 諸々の民がそこにあり 交わり知らず過ごしてた

神々の加護厳しくも 大地のゆりかご優しくて

生まれて死ねる幸せと 子供に繋ぐ喜びに満ちた世界はそこにあり


異形の民は旅をして、人の子増えて街広げ

互いに出会うは運命か


互いに違う(なり)だから互いに異形と争わぬ。

争い満ちて世界は揺るぎ、人の子は自ら聖王と

異形の子等はまとまりて、魔王を立てて旗印

互いに憎しみ争いて、攻めては引いての浪のよう


違う(なり)でも思いが通う 語れば判り 杯交わす

幸いの型見出した 小さな小さな異形の子

父は異形で 母は人の子

互いに出会い 認め合い 生まれ落ちたは混血児(あいのこ)

愛の子なるか 哀の子なるか

それは彼しかわからない・・・・・・・・・


戦場(はざま)の地にて古くより風と大地を奉る 馬の一族其処にあり

彼らは戦を好まずに 全ての民を友とする。

疑心暗鬼の世界の中で何たる愚かな行いか 

男は焼かれ焔の舞よ 女は大地に捧げられ 

一族の血は絶えんとす 彼等が願うは荒野の平穏

如何して互いに争うか 優しき彼等に知る術もなく


戦の耐えぬ両者ゆえ 戦奴隷は山となる。

その地を耕す農夫は言った 耕すそばから赤い水

石かと思えば誰かの骨と・・・・・・・・・

戦い続ける時代は続き 奴隷は戦の中でしか生きられないと思い込む

そして魔王の軍勢が押し寄せて 我が身の最後にふさわしき

戦いなるかと勇み出る 

無情なる哉人の子は 奴隷の群れを盾として

下がり酒宴を行いて 篝火を見て笑いあい 焼ける煙を馬鹿にする


大地が産んだ癒しの子 異形の者を癒しつつ 

戦で悲しむ我が母を 癒し命を与えんと

削るは命の塊で 失う光 傷は癒えずに・・・・・・・・・

異形の民は馬鹿にする 愚かな娘役立たず

盲目(めしい)の娘は故郷を 出されて流浪の旅をする

手にした無骨な鉄の杖 導きの手は声なき男

いつかは大地を癒さんと 男は娘の杖となる


戦の費えはどこに来る? 名もなき民を搾り取れ!

この一戦は人族の興亡かかるものなれば

妻子も売って金にしろ! 無情な王の一言に

全てを失う商人の 嘆きの叫びは如何許り!

失う全てを取り戻す 無力な男の戦いは

黄金の壁を築くまで 妻子と幸い戻るまで


耕すそばから灰になる 農夫の嘆きは大地の嘆き

実りの詩を分かち合え 互いに幸い称え合う

千の剣で万を滅ぼし 万の実りで億を満たして

其処の腕で剣を振るう 其処の腕で鍬振るう

どちらが幸いなのだろう 農夫の問いは世界に消える


叫びあげるは最初の子

その問い答えるものはなく

戦火絶えぬ廃墟の町で

飢えて朽ち逝く無力な子

人も異形も関係無しに子供は集い

異形も人も関係無しに子供は集い

互いを兄弟姉妹とし

互いを友と認め合う

叫びあげるは最初の子

その地の王に拾われる



人の防人たらんとす 古き血筋の盾の王

叫びの子供を拾い上げ

集いし子供を鍛え上げ

故郷荒らす人と魔を 殴り世界に雄叫び上げる!

荒れた故郷前にして涙を流す盾の王

集いし六つの剣を前に

子供に王位を授けたる


神をも殴り 叱りつけ

和平の道に導かん!

始まりの子の叫びは響く

千すら越える悪意の中を 万すら越える殺意の中を

人が押すなら壁になり 異形が押すなら盾となる

そうして荒れた故郷を 整え国の型をなす


戦に飽きた人の子と 殺しに飽いた異形の子

手に手をとって流れ着く


世界を殴った始まりの子供は国の王となる

人の子からは裏切り者で 異形の子からは愚か者

世界を分けたこの国は人と異形の盾になる

世界は戦に飽いている 大地は鮮血呑み飽きた


今は大地の傷癒し 今は心の傷癒す

今は世界の傷癒し 今は戦の火を絶やす


我等狭間の王国に生まれ幸い求める民よ

(なり)の違いはなんのその

語れば友となりうるものよ


さぁ、杯を高く掲げて 幸いの詩を紡ごう


今より遠く 古に互いに杯交わしたる

古き建国の英傑達のように

古き建国のお人よし達のように



乾杯!





騎馬戦士と奴隷戦士が謡い合う建国の昔話を王都中に響かせながら

市民たちは戦始末を見ようと駆け寄る。

そこで六大建国公に囲まれた孤児弟は一つの物語となるのだろう・・・・・・・・・


「しかし、御主人様荒野の天幕で聞いたのと違う気がしますけど・・・・・・・・・・」

「大筋では変わらないさ、でも其々の主観があるからね。」

「そうですか・・・・・・・御主人様顔が赤いですが大丈夫ですか?」

「どうも、建国の語りを聞くと恥ずかしく思えてくる。先祖の歯の浮いたよう発言が嫌なのだろう。」

「くすくすっ・・・・・・・・・」




先触れの旗手が叫びをあげる!

「さぁ、王都の自由民からなる義勇兵諸氏よ!幸いをつなげんと叫びをあげた黒髪孤児準爵とその精兵達に礼を持って迎えよ!」

王都中から集った義勇兵達はそれぞれの得物を高く掲げ我等を迎え入れる!


それに応じるように孤児弟は神秘緋金属張扇(オリハリセン)を高く掲げる。

日の光に乱反射する赤銀の張扇は世界に対して突っ込みを入れるとばかりに力を湛えている。




うむ、我が神器は世界の理不尽に対しても突っ込みを入れるようになったか・・・・・・・・・

笑みを求める者の為ならば我が力を授けたかいがある(by演芸神)


あっ!なんか演芸神の分際でまともな事を言っていやがる・・・・・・・・天変地異の前触れか?


失礼な!(by演芸神)

でもねぇ・・・・・・・・演芸神だし(by文芸神)


因みに、この場所には強力の婆様と灰髪の兄妹は居ませんが、先に宿を取って休んでます。行進に付き合う理由はないですからねぇ・・・・・彼等には



さて、酒を買って来ます。

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