メクラ娘と黒髪孤児
法務副長は最新の部下である補佐見習に向かい合っている。
「補佐見習、君には暫く南方国境辺境伯の経理部門に出向してもらう!」
「何でそんな遠くに?」
「とはいっても、王都にある伯の館兼南方国境辺境伯が所有する商会事務所になるのだがな。」
「又なんで・・・・・・・・・」
「いやぁ、それが・・・・・・・」
法務副長の口調は歯切れが悪い・・・・・・・・・
「出向の意味合いがわからないのですけど・・・・・・」
「実は、あそこの商会は我が国の産物を輸出するんだが、どうも計算が合わないと経理部門から言われてな・・・・・・・・・・監査を兼ねて書類整理をすることになったんだ。単純に前の担当者が逃げてしまってな、書類が溜まったところでやっつけ仕事をしたのが原因なんだが・・・・・・・・・・このままでは我が国の産業にも影響が出るからと泣付かれてしまったんだ。悪いが暫く行ってくれんか?」
「そりゃ、まぁ・・・・・・・・・・勝手が違うから役に立つかどうか判らないけど、それでよければ・・・・・・・・・・・」
「いやぁ、助かったよ!うちの奥が伯の姉に当たるんだが義弟に泣きつかれて困っていたんだ。多分10日程で済むし、伯の所から案内人が来ている。悪いがすぐに向かってくれ。」
「副長、俺一人でいいのか?」
「傷跡娘君はこっちでも手が足りてないところの補助に当たってもらう。夫婦別作業で寂しいだろうが我慢してくれ!」
「夫婦じゃねぇ・・・・・・・!!」
「そう言っているけど傷跡娘どうなの?」
「・・・・・・・・・・・・///」
「まだ恋人気分でというところか。」「いや、補佐見習の甲斐性のなさから言えば手を繋ぐのが手一杯とか・・・・・・」
「それなのに大好きだからねぇ・・・・・」「離れたら心配になるわけだよ。」
「・・・・・で、傷跡娘は離れてしまう事に心配じゃないのかな?」
「・・・・・・・・・・・・・・大丈夫。彼は私を捨てるだけの度量がない。」
「こりゃ参ったね。」「おじさん達は暑くてかなわんよ・・・・・・・・」
「勿論、傷跡娘を捨てるような事があったら死ぬほど痛めつけるけど・・・・・・・・・・」
「五月蝿い!!って、外堀から埋めていくな!」
「・・・・・・・・・・・・あたしが嫌なの?」
「そうじゃなくって!・・・・・・・・・・・・・えっと・・・・・・・・・・・///」
「ほらほら言っちまえよ!」「其処だキスしろ!」
「このバカップルが!後は本人同士の告白合戦だけだから、さっさと済ませて楽になれ!」
「しかし暑いねぇ・・・・・・其処の犬耳の侍従官、これって食える?」
「こんなにあてられたら食えませんよ。ちなみに白眉心系です。」
「判るか!」
「うおっほん!」
法務副長の咳払いが場を静かにする。
「「・・・・・・・・・・・・・・・///」」
若い二人は固まったままだ。
書類の山に埋もれた恋物語を掘り起こすものはなく、補佐見習は連行されてしまい傷跡娘は仕事に戻る。
「しかし、副長・・・・・よく貸し出しの話を受けましたねぇ・・・・・・」
「そりゃぁな、色々見せるのも必要だし補佐見習にも人脈が必要だろう・・・・・・・・・・」
「それ以前に官僚部屋の実情的に・・・・・・・・・」
「まぁ、宰相閣下から伯からの報酬で酒手の補填をしろと厳命されてな・・・・・・・・・・お前等呑み過ぎ!」
「「うっ!!」」
「補佐見習が売られたのは官僚さん達が飲みすぎたから?」
傷跡娘の視線にたじろく官僚達・・・・・・・・・・
「彼には他にも東南香料子爵と北方針葉樹林帯伯、東方士爵連合領にも派遣される。王室顧問の弟子というのは即戦力らしいからな・・・・・・・・」
「で、どれくらいで戻ってくるので?」
「半月から一月くらいでかな?お前等、補佐見習が尻拭いしているんだから、ちゃんと仕事して酒を慎めよ!」
「前半は了解!」
「「「「「後半部分は鋭意努力します!」」」」」
官僚達の酒は控えられたかは言うまでもなかろう。
おさけはたのしくてきりょうにー(by酒精神)
温泉町についてから一月程・・・・・・・・
宰相閣下と法務副長に頼んだ依頼で補佐見習は忙しい思いをしていることだろう。
どうせ意地っ張りで自力で金を貯めようとするが何時になるか判ったもんじゃない!
少しでも金を稼がせる手助けをして貰いたいと一筆認めたのだが返事はすぐに戻ってくれ!
孤児娘達を引き連れているのが痛いのだろう・・・・・・・・・
後釜君達とか色々いるのに何故足りないのだろうか?
「正確には酒精と潤いが足りないと財務官様から手紙がありましたが・・・・・・・・・」
「城付の侍女とか居るだろう!」
「侍女さんや下働きのおねーちゃん達は危険地帯だから一人で行っちゃだめだとか、護衛付じゃないと来たくないと・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・何やってやがるんだあいつ等?」
温泉町での目隠し布姿は住民達の間で馴染んで、気にもされなくなっている。
灰髪の盲目少女の為に行った実験は中々、悪くない結果を出している。
療養神殿からも問い合わせがあったり、目病持ちの盲目達からも販売して欲しいという声がちらほら・・・・・・・
近隣から態々、馬車とかを乗り継いできている盲目達を無碍に出来ないので魔法陣を銀貨一枚で販売している。
原価じゃないかといわれるが、まだ商売じゃないし・・・・・・・・目隠し布で利益を取ればよいだろう。
実際、色とりどりの目隠し布は本来の用途のほかにも髪留めのスカーフ代わりとかにも重宝されている。
今居る宿は期間限定のメクラ商会とでも言うべきか・・・・・・・
後で商業組合に挨拶行かないと・・・・・・・・
「だんな、何か大掛かりになってきてますね。」
「一人だけ恩恵を受けさせるのは簡単だが灰髪少女がそのせいでいらん思いするのは良くないだろう・・・・・・・・・だったら、商売にして沢山の者に恩恵が与れるようにするのが一つの手だ。」
「如何して身の回りだけ助けないんだい?だんなの財力だったら、十分に出来るだろう。」
「馬鹿言っちゃいけないよ。助けることは出来る、でも全部は助けられないだろう。そして助けられる事に慣れすぎてはいけないだろう・・・・・・・・・・・・」
「なぜでしょうか?御主人様。」
「お前等姉弟の様な根のしっかりとした者ならば助けられた事をきっかけに世に飛び立つことが出来よう。でも、助けられて当然とか考えて怠ける者が出たら困るだろう。怠け者が多いと私が怠ける事ができないじゃないか!判るか?世の中働き者が多くして私を養ってもらわないと困るんだ!」
「だんな、最後のネタ振りは良いから・・・・・・・・・・・・」
ネタ振りではないんだがなぁ・・・・
本気で安楽な生活を送るには社会に余力が必要だ。そのためには盲目と言えども社会で役割を担ってもらわないと困る。
少なくとも盲目が表を歩き回れば彼等だって何かしらの働き口があるはずだ。
そうすれば、労働人口が増えて税収が増える。回りまわって貴族年金の支給が増えて・・・・・ 収入が増えた市民達の購買能力も増えてくれれば私の投資しているところからの配当も増える・・・・・・・・・・
左団扇でウハウハだな・・・・・・・・
取らぬ狸の何とやらと言う格言が異世界にはあってな・・・・・・・・・・(by商業神)
それ以前に、守護辺境伯一族から仕事が途切れる事なんてないだろう。(by某王国地方担当地方神)
金運はいいだろうけど仕事運がなぁ・・・・・(by運命神)
おいこら神々!不吉な事を言うんじゃねぇ!
「王室顧問、神々に対して不敬ですよ!」
女神官に怒られた・・・・・・・・・・・・
まぁ、事業として成り立ちそうだな・・・・・・・・・・
この事業は孤児弟の発案だから彼に任せてしまうか。
「だんな、おいらに押し付けようとしてないか?」
「まさか、ちゃんと後見するよ。但し、お前が中心となるんだ!」
「なんで、おいらが・・・・・・・・」
「何時までも私の下で燻っている訳には行かないだろう。そうでなくても引き抜きの手が多いのだ!ならば力をつけて価値をあげておけ!」
「なんか、そうしたら仕事の山に追われる日々を過ごしそうでいやなんだけど・・・・・・・」
「孤児弟、御主人様の隠遁癖がうつりましたか?」
「ねーちゃん、それはないよ!」
「兎に角、黒髪孤児準爵原案の目隠し布販売はお前が仕切るんだぞ!お前の働きで盲目共にも外を歩く楽しみが出来るんだ。悪くない話だろう。」
「そうなんだけど、おいらの子供時代ってどこ?」
「そんなのは知らん!」
孤児弟は青春の悩みを抱えながてしまったようだ・・・・・・・・・・
「おにいちゃん、よしよし・・・・・・・・・・・・」
幼女にまで慰められるとは、まだまだだな・・・・・・・・
まぁ、一月もいると温泉客の中に既知が居たり人脈が出来たりもする。
療養神殿経由で温泉町の領主である温泉伯爵とかと語らう事があったり、近隣の領主からも目隠し布を産業として成り立たせたいと言う問い合わせがあったり・・・・・・・・・
この近辺の領主は以外と産業を起こしたがっているなぁ・・・・・
「貴族様、この近辺は農業をやるには温泉の影響か良くないらしくて・・・・・・・・・・・自給自足に毛の生えた程度の生活ですからねぇ・・・・・・こういう特産品が在れば、領民の生活にも潤いが出てくると考えているのでしょう。」
灰髪の少年が地元の地の利を知っているからか答えてくれる。
「ふむ、温泉町のお土産とか療養器具としての需要があるだろうからな。ある意味温泉町を中心とした経済圏でおこぼれをあずかりたいと・・・・・・・・・・・で、どうする?孤児弟。」
うーん と暫し唸ってから。
「おいらは儲けようとは思っていないですから、広めて良いんじゃないかと思うけどな。どうせおいら一人の手では足りないだろうし温泉町近辺は信頼の置ける誰かに任せて早く恩恵が得られるようにしたらどうかな?」
お人好しだな孤児弟は・・・・・・・・・
但し、利益は少なくとも取らないとダメだぞ!
「おいらは食っていければ良いからね。それより働く皆がちゃんとご飯食べれるようにしないと・・・・・・・・・・」
「若旦那、儲けるだけ儲ければよいじゃない?」「慈善事業じゃないのよ。」
「ある意味慈善じゃない。」「それでも商売でしょう?」
周りが喧喧轟々・・・・・・・・・お前等の金じゃないだろう!
「単純な話、だんながおいら達に満足に飯を食わせて身奇麗にさせて教育までさせるのって貴族の嗜みだろ?」
「まぁ、そうだが・・・・・・・・」
「だったら、おいらもそれに従って働いてくれる者達に十分食えるように行き渡らせないと嗜みにかけてしまうだろ。」
「ぷっ! くくくっ!」
一本取られたな。あの年で私を超えていこうとするとは・・・・・・・・
主人として師匠として悔しいやら誇らしいやら・・・・・・・・・
「勿論利益は考えるけど、貧しい人だろうと出来るだけ多くの人に使えるようにすれば宣伝にもなるし売れる数は増えるだろ?はくりたばい?だっけ?商会公の教えでもあったろ・・・・・・・」
「ねぇ、孤児弟うちに来ない?未来の公爵とか狙えるわよ!」
「公爵令嬢、さらっと勧誘しないように。」
孤児弟は引く手数多だ・・・・・・・・・
私の最高傑作だからな。
「孤児弟、これを持っておけ!」
「だんな!金貨じゃ!」
「勿論、呉れてやる訳じゃない!お前に出資するんだ!大人達に舐められんように気を引き締めていけよ!」
「はいっ!」
金貨20枚は多かったかな?
我が従者の門出の祝いには丁度良いか・・・・・・・・・・
「王室顧問、守護辺境伯爵家で商売する形になるんですか?」
「多分、それの一部門という形だな。それが孤児弟が舐められたりしないですむだろう。私達が後見するのだろうしな・・・・・・・・・・」
「王室顧問の旦那、黒髪の若旦那が商売始めたら灰髪の兄妹を雇ったら如何です?兄は計算出来るから店番に持って来いだし、妹は看板娘と言う事で・・・・・・・・・・・・」
「強力弟、なんか看板娘の意味取り違えている気がしないでもないが悪くないな・・・・・・・・・・」
「俺達兄弟と違って外見も誠実そうだし頭も悪くない、妹も手先が器用だから自分で目隠し布を作って飾り立てればいいじゃん。」
「くっくっくっ!お前等兄弟では、店に立ったら客が逃げてしまうだろうからな。」
「旦那!それは酷いですぜ!」「男は顔じゃない!筋肉だ!」
強力兄弟の情けない苦情に周りの衆は笑い声を上げるのであった。
タタミイワシの香り漂う宰相府。
時々海苔の香りも漂うのだが、ここは海鮮居酒屋ではない。
れっきとした王国政治の中枢を担う者達が日夜、書類と格闘する場所である。
そこで悪巧みをする三人の中年親父。
「宰相閣下、補佐見習を南方国境辺境伯家に派遣いたしました。」
「うむ、王室顧問も回りくどい事をする。経理の査察にかこつけて、補佐見習の人脈広げとは・・・・・・・・・財務長、君のところの査察部隊でも良かったのでは?」
「もっとも、王室顧問としては補佐見習に小遣い稼ぎをさせるのが主目的みたいですが・・・・・・・」
「ふむ、なにかあったのか?法務副長。」
「いや、なに・・・・・・・・傷跡娘の傷跡を消すのに治療費がかかるらしくて、それを自力で稼ぎたいと言う事を察したのでしょう。王室顧問はひねくれ者ですから回りくどい事をしているのでしょう。」
「ああ、あの傷跡が残念な可愛い娘か、補佐見習が躍起になるのも判る。実際の話として、依頼した各貴族家は王室顧問を嫌っているところもあるぞ。それは大丈夫なのか?」
「それは大丈夫でしょう。補佐見習の力量は経理実務者としては有能ですからね。若手としてはと言う但し書きはありますが・・・・・・・・・それ以前に彼も王室顧問にしごかれた恨みがありますから・・・・・・・・・」
「恨み言を言い合って仲良くさせようってか・・・・・・・・・王室顧問は悪役が好きだと見える。まぁ、危険がなければ問題ない。一応、ワシの方からも手の者をつけておくけどな・・・・・・・・」
「おやおや、宰相閣下も甘いことで・・・・・・・・・・」
「あれは、失うに惜しい人材だからな。寧ろ今からでも引き抜きたい!」
「引き抜かないでください!ワシが死にます!」
「無論冗談じゃ!」
「目が本気ですよ!二人とも!そして財務長、其処で財務官として引き抜くための予算作成しないで!」
「ちっ!」
「おやおや、何をたくらんでいるんだい?」
「面白そうな話ね・・・・・・」
其処に訪れたのは国王夫妻。多分、仕事で来たのだが三人の悪巧みに耳を傾けて面白そうだと首を突っ込んだんだろう。
「これはこれは陛下に妃殿下・・・・・・・・・・」
「大した話ではないのですが・・・・・・・・・」「悪巧みと言うほどの事でも・・・・・・・・」
「話を聞かせてもらえるか?」
「はい、赫々云々・・・・・・・・・・」
宰相閣下が補佐見習の派遣と傷跡娘の傷の治療費の話をしたら・・・・・・・・・
王妃がニヤニヤと顔を歪める。
「これは若さ溢れるかっこつけだこと。」
「補佐見習も意地っ張りだな。一言周りに相談すれば予算くらいつけるのに・・・・・・・・」
「陛下、一応国庫なので贔屓は宜しくないかと。」
「堅い事言うな財務長。あの子達は功臣だぞ。それに報いなくてどうする(ニヤニヤ」
「そうでしょうとも・・・・・・・・・・ でも、男の甲斐性と言うのを見せたいと言う補佐見習の意地を尊重してあげるのも上の嗜みかと(ニマニマ」
「で、法務副長は派遣と言う形で金を稼がせようとしたわけですよ陛下。」
「まぁ、補佐見習の人脈を広げて将来につなげるのが一つと、あわよくば貴族家のあらを探して弱みを握れればと言うのもありますが・・・・・・・・・・」
「おぬし等も悪よのぅ・・・・・・・・・・(ニマニマ」
「いえいえ、王室顧問の悪辣さに比べれば(ニタニタ」
「そんで、稼いだ金で傷跡娘の治療をするところを見て冷やかすのですな、あの王室顧問は・・・・・・・・・(ニマニマ」
「この男達ときたら子供の純情を話の種にするのね・・・・・・・・・酷いわ・・・・・・・・・」
「そういう王妃様は一口乗らないんで?」
「勿論、女性陣達とのお茶会で話題にするわよ。こんな可愛らしい話皆食いつくわ・・・・・・・・(ニヤニヤ」
「王妃様も人が悪いですな(ニタニタ」
「そろそろ補佐見習だっけ、あの子の働きには一目置いているから褒賞とか渡したらどうかしら?」
「王妃よ、それは良い考えだな。王室顧問一門が居ない間官僚部屋を支え続けたのだからその功は褒め称えるのにふさわしいな。」
「この分だと治療費以上に稼いでしまいそうですな。」
「いや、何・・・・・・・・旅路の費えも入用でしょうし、問題ないでしょう。」
「若い二人の婚前旅行ですかな・・・・・・・・(ニヤニヤ」
「そのまま帰ってきたときにはお腹に子供とか・・・・・・・・・(ニタニタ」
「好きあっている二人だから問題ないですしな・・・・・・・・(ニマニマ」
「その時は式を盛大に挙げませんとね(ニヤニヤ」
「こらこら、お前達人相が悪くなっているぞ。」
「陛下こそ・・・・・・・・・」
「我は可愛い配下の為に心砕いているだけであって・・・・・・・・・」
「語るに落ちてますわね。」
「「まったくです。」」
補佐見習が知らない間に傷跡娘の治療費が集まりそうな宰相府であった。
勿論、依頼した貴族家達からも礼金と言う形で補佐見習の所に来るのだが、これも宰相や法務副長が手を回しているのは言うまでもない・・・・・・・・
補佐見習のためと称して、貴族家に恩を売ったりあらを探したり・・・・・・・・・官僚達の大酒に釘を刺す。あくどい中年親父達であった。