メクラ娘と灰髪少年
とある王国王宮内官僚執務室
どうしてたこ部屋と俗称されるのか?
それはこの官僚の執務風景を見たとき逃げようにも近衛兵が巡回して制裁処置を頻繁に行っていたのが異世界人の目に留まったとき、たこ部屋とつぶやいたのが始まりとされている。
その異世界人にたこ部屋とはどのようなところだと聞いてみたら・・・・・・・・・労働者を騙して監禁状態で働かせるところと答えたらしい・・・・・・・
その当時の官僚達は自身の労働環境にぶちきれて、国王に怒りの鉄拳を食らわそうとしたら王族が逃げ出してしまい苦労したと史書に記されている。
官僚達の首謀がどこの貴族家だかは言わずもがな・・・・・・・・・・
現在も監禁こそされないが日々増え続ける書類と仕事に追われ続けている官僚達の居場所は貴族達の危険地域として認識されている。
曰く、近づいたら仕事を押し付けられる。
曰く、目が合ったら自身が官僚になってしまう。
曰く、適当な書類を作ったら軍を送りつけられる。
曰く、王族が泣いて逃げ出したらしい・・・・・・
他にも噂があるのだが、ほぼ事実なだけにたちが悪い・・・・・・・・
貴族たちは護衛もなしに近づくことはしてはいけないと共通認識されている。
最も護衛がいても無駄なのだが・・・・・・・・(合掌
必要なのは酒とお菓子・・・・・・・・ちなみに現金は厳禁である。
賄賂は別に構わないのだが、そこで余計な仕事が発生したらそれこそ官僚達がぶちきれるからである!
そんな王城の危険地帯、官僚部屋に一人の少年が書類と格闘していた。
彼の名は法務副長付法務補佐官見習。
父親の顔は知らず母親は彼を育てるために体を損ねた。
その母親を誇り、同じ境遇の者を作らないようにとこの場にいるのである。
その彼は今悩んでいる。
傷跡娘。
彼女も両親は既に亡く、その名残が顔につけられた惨たらしい傷跡である。
その傷跡でさえも、親が可愛い顔をしていると心無い者に無体されるから最後の力を振り絞って、誰もそういうものとして見向きしないようにつけたのだと言う。
この傷跡は方々手を尽くしたのだけど癒す術が見つからないと言われて諦めていたのだが、偶然か幸運か王室顧問が旅先で傷跡を消す術があると手紙に認めていた・・・・・
今王室顧問は温泉地に居るらしい、其処の療養神殿で傷跡を消す術があるらしい。
ただ問題は消すのに金貨6枚かかると言う事だ。
確かに補佐見習も傷跡娘も同年代の者に比べれば・・・・・・・いや、一般市民から比べると数倍の収入を得ているのだが金貨6枚は大金である。
何年か働いてやっとこさ貯めて・・・・・・・・・・・そんなことしたら傷を消す頃にはいい年したとなってしまう。消すならば今から消して彼女には楽しい青春を送って欲しいものだ。
とはいえ、金策をする相手も知らないし、金策をしたらそれをネタに色々面倒事があるだろう・・・・・・・・・・・
生き馬の目を抜く程ではないが身辺の清廉さを求められる職場に宜しくない。
師父であり後見である王室顧問に頼めば気楽に出してくれるだろうが、これまでにも恩義があり世話になっているのにこれ以上手間をかけさせるわけいかないだろう。それ以前に傷跡娘に対して自分の力だけでどうにかしたいと見栄にも似た男心もある。
とりあえず、金がなければどうしようもないなと考えるのを放棄して目の前の仕事に没頭するのである。
金を出してもらうのは良いとしても少しずつ返していくしかないのだろうなとか思いながら・・・・・・・
そして、今でも素晴らしい笑みを浮かべる傷跡娘から傷が消えたとき彼女の笑顔がどれだけ素晴らしくなるだろうなと思いにやけてしまう。
そして、今積みあがった白い山を前に補佐見習は筆を手に崩しにかかるのだった。
視力補助機能付目隠し布形魔具と共に聖域守護辺境伯魔術師団の四席が届けられた!
「俺は荷物じゃない!」
彼の手には過去色々作られた試作品の資料が握られている。
「王室顧問様、召喚に応じ参りました。」
「では、早速彼女に対して目隠し布の説明を願いたい。」
灰髪のメクラ少女を見て四席はこれが盲目状態に効果的に作用するかどうかは確定できませんがと前置きをしたうえで目隠し布と結びつける。
少女は少し戸惑った様子を見せたが、慣れてくると物を避けながらそこらにいる普通の子供みたいに動き回る。
今までの周りを探りながらの動きと違う。
「あははははっ!見える見える!みえるのぉぉぉぉぉぉぉ!!」
少女は笑いながら泣き、泣きながら笑い兄である灰髪の少年を抱きしめ、行き倒れたところを助けてもらった強力兄弟の手を握ってありがとうありがとうと言い続けるのである。
成功でよかった。
「王室顧問様、色が見えないとか魔力を定期的に補充しないといけないとか色々問題点があるけどよろしいので?」
「それはおいおい片付けていけばよいだろう。」
「まぁ、私が呼ばれたのはこれが商売として成り立つかどうかなんですけどね・・・・・・」
「で、これはどれくらいで作れるのだ?」
「一つ銀貨一枚程度でしょうか、目隠し布自体はそこらにあるものを使えるので元手は然程でもないのですが・・・・・・・・・・・・ 魔具に使われる魔法陣を作るのに手間も材料もかかりますからね・・・・・・・・・・」
銀貨一枚か・・・・・・・・・商売とするとなれば銀貨数枚程度。
一般市民の数日程度の稼ぎか・・・・・・・・見えないことの不便さを考えれば出せなくもない値段だな・・・・・・・・
もう少し安くならないかな?
「まぁ、材料の質を落として魔力の補充頻度を上げるとかすれば銀貨半分くらいまで落とせるでしょうが・・・・・・・・・・・」
「使用者の魔力を吸い取る形にしたら如何だ?」
「それでしたら銀貨半分でもおつりが出る程度になるかと・・・・・・・・・作ってみないとわかりませんが・・・・・・・・」
ちなみに初代庭園公が使った目隠し布は定期的に魔力を補充する型だったのだが、自分の有り余る魔力で定期的に自力補充していたらしい。今少女が恩恵を受けている目隠し布は初代庭園公と同型の魔法陣を利用している。
不便だったと言っていたからこれは失敗だと研究もされなかったらしい。
せいぜい、手品師や大道芸人が目隠しして何かする芸の仕込みとして利用する程度だった・・・・・・・・・
勿論、彼等は飯の種をばらされたくないから隠匿するだろうし、製作者にしても其処まで無粋でないからおおっぴらにしなかっただけなんだろうが・・・・・・・・・・
少女は色々な動作をしてみる。
階段を上ってみたり踊ってみたり・・・・・・・・・・女衆に混じって家事をしたり・・・・・・・
最初はおっかなびっくりだったのだが馴染んでくると手際も危なげなくなっている。
「灰髪少女、使ってみてどうかね?」
「そうですね、今まで見えなかったことから比べると色こそないけど普段使いには不便がないですね。色がないと言っても濃淡で結構判別できますし・・・・・・」
「ふむ・・・・・・・・・・・」
これは少なくとも盲目にとって朗報になるだろうな。
暫く少女を観察対象として雇うとして・・・・・・・・
商売として使えるように問題点を浮かびだしてみるとするか・・・・・・・・・・
目隠し布は何枚かあるけど誰か着けて見る?
孤児娘達と女衆の何人かが立候補してくれた。
男としての意見も聞きたいから強力兄弟、お前等も実験材料だ!
「旦那、実験材料はないでしょう!」
「酷い・・・・・・・・」
「四席、魔法陣の改良について色をつけることと、自動吸収式にすることにはどれくらい時間がかかる?」
「自動吸収式にするのは数日、10日もあれば形作る事ができると思いますが、色については・・・・・・・・・どれくらいかかるか・・・・・・・・・・・まぁ、魔力の補充についても【灯火】とか【種火】位の初歩的な魔法が使える程度の魔力があれば大丈夫だから大半の人が問題ないはずですよ・・・・・・・・・・・・」
「ここに居る人間でどれだけ補充できるんです?」
「孤児弟、おおざっぱに見てみると、強力兄弟と女衆の何人か除けば自力で補充できるよ。」
「成程、二種類の商品が必要になるのか・・・・・・・・」
「そういう見方があるのですね、魔力のある人用とない人用と・・・・・・・・・・・」
とりあえず、進めてみて頂戴。
数日が過ぎた。
治療を受けた灰髪の少年が涙目になりながら腕の痛みに耐えているのを公爵令嬢がこれはいいものを見たとむふーむふーと鼻息を強くしていたり、温泉に毎日浸かり続けて性愛神殿の女衆が艶々テカテカになっていたり。
婆様が行き倒れ兄妹を気に入って町を連れまわして遊んでいたり・・・・・・・・・・・
私の矢傷も傷跡を残すまでとなった。左肩に違和感が残るけど、日常生活には問題なし。剣は握れなくなったが、戦うのは柄ではないし隠居生活送るから問題なかろう。
「御主人様、多分仕事押し付けられそうですが・・・・・・・」
孤児姉、それは言わないでくれ・・・・・・・・・・ 本当になったらへこむから。
目隠し布をつけている人の群れと言うのは思いのほか目立っていた。観光客はこの地方の名産品なのかとかそれとも大道芸の一座の顔見世なのかと聞かれまくったのは笑い話である。
最初のうちは誰か付き添いを用意して町を巡って見たのだが、そのうちに一人で回っても目立ってしまう事を除けば問題ないことがわかった。
目隠し布って、目立つんだなぁ・・・・・
其処は上手い解決法がないな。
眼帯にして片目だけ覆うとかしてみたらどうだろうか?
「それは片方だけしか見えない状態だった・・・・・・・・・・・」
他にも細々とした問題点があった。
「替えが欲しい・・・・・・・・」
「垢染みて不潔になった・・・・・・・・」
「洗濯できるの?」
まず出てきたのが、衛生面。今使用しているのが女性ばかりだし、汗臭くなったのはつけたくないよね。
洗濯は大丈夫だがその間の替えが確かに欲しいところだ・・・・・・・・
それに布に刺繍しているから擦り切れたりもする。
「四席さん、魔法陣を布の間に包み込んで使うとか出来ませんの?」
女衆の一人の発言に四席は験しにと魔法陣を描いた札(霊木製)を目隠し布ではさんだ物を作ってみる。
「これは普通に使えますね・・・・・・・・」
「後、お風呂入ると布だからぐっちょりと濡れるけどこれならば新しい布に変えれば良いから楽だわ・・・・・・・・・」
「それに、色々な目隠し布を用意して楽しめますわね。」
目隠し布を道具として考えないで衣装として考えるのか・・・・・・・・・・・・
女性らしい視線だな。
「御主人様でしたら、どんな柄にします?」
「・・・・・・・・・・ふむ、白か黒地に幾可学紋様をあしらって見るとか、葡萄唐草も捨てがたいな。」
「単純に黒地に銀糸の縁取りなども似合いそうですね。」
「一つ作ってみるかな。私自らがつけていればとっつきやすかろう。」
そんな会話をしながら何日か過ごして居るうちに、色とりどりな目隠し布が出来上がる。
魔法陣を布ではさんで覆うだけでも効果があるとわかったら。
刺繍で色々な紋様を縫い付けたり、布自体も厚手の無粋な布から薄手の染め抜いた布を使ったりレースを使用したりするのもいる。って、言うか何時の間に作ったの?
「いやぁ、目隠し布でどこまで出来るか鈎編み針のレースを手慰みで作ってたものですから。」
「これで一つ手に職がついていると言うんじゃないのかね?」
「婆様言いすぎですよ。」
「いやいや、女衆のその技があれば十分食っていけるって!寧ろ俺がヒモになって・・・・・・・・・いてっ!」
ろくでもない発言をした強力弟は婆様の鉄拳制裁にあった。
「あたしゃ、口説き落として嫁を作れとは言ったが、女にぶら下がるヒモになれといった覚えはないよ!」
「いたいいたいいたいいたい!」
まぁ、馬鹿はほっとこう。
レース編みの目隠し布は灰髪少女のお気に入りになったらしく。好んでつけている。
レースだけだと強度の面と肌への刺激から表面はレースを飾りつけ、裏面は柔らかい布で顔を保護する・・・・・・・・・
少女も女衆や婆様に教わりながら自分で作っているのだった。
皆してキャッキャウフフしながら手仕事をしている姿と言うのは絵になるねぇ・・・・・・
「だんな、平和でいい光景ですねぇ・・・・」
「そうだな。」
この目隠し布にはまだ問題があったのだが、それがわかったのはその夜。
温泉に浸かってゆるりとしていた孤児娘の一人が自分の顔を鏡で見た途端・・・・・・・・・・・
「いやぁぁっぁぁぁあぁぁぁぁぁ!!」
と悲鳴を上げる。
何事かと駆け寄ると女湯の前で孤児姉が我等の侵入を拒んで大事無い事を告げる。
そして暫し、宿の共用部分で待っていると落ち着いたらしい孤児娘と女たちが現れた。
どうしたのかと聞くと
「布の部分だけ日焼けしなかったから・・・・・・・・・・みっともなくなってしまいました・・・・・・・・・・」
孤児娘の顔を見ると、確かに・・・・・・・・・・・
黒白くっきりと分けられている・・・・・・・・・・・・・・これは確かに悲惨だ・・・・・・・・・
うぷぷ・・・・・
女の子にとって悲劇だろなぁ・・・・・
ぷぷぷ・・・・・・・・・・・
笑っちゃいかんだろう!
「賢者様酷い!」
「悪い悪い!後で日焼け止め処方してもらうから。」
「絶対だよ!」
「それよりも化粧で誤魔化せますわよ。」
「その手があったか・・・・・・・・」
女衆も見てみると程度の差はあれ日焼けの跡が・・・・・・・・・・・ここのところ晴れ間続きだったしなぁ・・・・・
「其処までは面倒見切れないです。」
四席も困ったような顔をしている。
そういえば庭園公はフードつきのローブを纏っていたけど、そういう理由があったのかも・・・・・・・
思わず伝説の格好に込められた女心を突き止めてしまった気分である。
暫く表に出れないかな?
さて、今宵も酒が切れたのでこれまで。日焼けはスキー焼けとかをイメージしてもらえれば・・・・・・・・・