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二連の宝珠  作者: れんじょう
冬柊の終焉
9/38

旅立ち 【8】

 約束の時間にそろそろなろうかとしたころ。

 約束通りに日向が旅装束に身を包んでやってきた。

 

 ひめさまもさきほどまでの正装から商人の娘さんが旅をするような格好になり、わたしはお付き添いの人。 どこからどうみても、旅の商人一行さま。

 違っていたのは、娘さんがほんとうは冬柊のひめさまで、用心棒が近衛、お付き添いの人は…これはかわっていないような。

 とりあえずあやしまれないような格好ということで。


 でもちょっとまって?

 だって、ひめさまは言い方が悪いけれど『光の主人』が見つかるまでの身代わりのはず。そして、冬柊にはいまのところ『光の主人』の色合いで生まれた子供はひめさま以外いないはず。なので、ひめさまの髪や瞳の色をみただけで、どんなに町人の格好をしていようがひめさまだとわかる。

 なのにどうして、ひめさまは町人の格好をしているのだろう。 意味がないのに。

 じっとひめさまを見ていると


 「あら? 気がついた? 町人の格好をする必要がないのにどうして私が着替えているのか」


 それよりもどうして町人の着物を女官のわたしを通さずに入手できるんですか? そちらのほうがよほど気になるんですけど。


 「おしゃべりする時間なんて後からたくさんあるのだから、せっかく用意も整ったことだし、そろそろ出かけましょうか?」


 使命を帯びた旅にでる、というよりも、すぐそこまで遊びに行くような気軽さでひめさまが言った。   

 

 「晃陽、そのいでたちはどうしたことだ?」


 普段は表情をあまりみせない王さまが、呆然と戸口にたっていた。

 王さまが部屋に入ってきたのが全く分からなった……女官にあるまじき失態。 取次の者の声もしなかったけど。


 「お父様、ちょうどよかったですわ。 後からお父様のところに行くつもりだったのですが、お父様がお越しくださいましたからその必要もなくなりました」


 父親の驚愕を綺麗に無視して、ひめさまがきりだした。


 「今から、行ってまいります」


 「……っ!」


 明らかに動揺した王さまを、ひめさまはなぜか憐れむようにみていた。

 そのひめさまの視線を受け止められないという風に、王さまが視線を外されてから呟くように言った。


 「……そなたは、恨んでいるのか」


 「恨む? 誰をです? わたしは誰も恨んではおりません」


 妙にきっぱりとしたひめさまの態度が逆に、王さまの疑問をさらに深めたようだった。


 「そなた、どこまで知っておる?」


 「……どこまで、と申されてもその意味がわかりかねます」


 あくまで「何かの」しらを切りとおすつもりのひめさまに、王さまが嘆息をもらした。

 

 いや、それよりも一体ひめさまは「何を」知っていて「何を」隠されているんだろう?

 あの茶屋にいるときからずっとずっとひめさまの態度はおかしいとしか言いようがなくて。

 これから光の主人を探し当てるまでずっと共に行動するのに、いくら主従関係だといってもひめさまが大きな何かを隠されていると感じるのに、ひめさまにわたしは付いていけるのだろうか…。

 いや、ついていかねば。

 そしてわたしにできる限り、ひめさまのお世話と、そして冬柊のために光の主人をみつけなければ!


 「お父様、本来でしたら明日の朝に出立という命を受けておりますが、わたくしの一行は今日この時間に出立したく思います。 どうか承知おきくださいますよう」


 他人行儀に礼を尽くして話すひめさまをみて、なにか言いたげだけれど、なにか諦めたように頷いたのでした。

 そして日向とわたしに向かって、冬柊の王が軽く頭をさげて(!)


 「道中、わが娘晃陽をよろしく頼む。 そしてできれば光の主人を見つけ出し、…闇の支配者を倒してほしい…そなたたちに課せられた問題は、計り知れぬほどの苦難であろうが、冬柊の民のため、ぜひともやり遂げて、そして王都まで無事に…無事に戻ってこよ。」


 そういってもう一度軽く頭を下げて(王さまが二度も頭を下げるなんて!)、ひめさまを一瞥して、部屋を出て行かれた。

 日向やわたしに一礼をして願うほど、王さまはひめさまのことを思われている。もちろん冬柊のことを思われての一礼なのかもしれないけれど、けれどわたしには王さまのひめさまのことを思う気持ちの表れだとしか思えなかった。


 部屋の外では王妃さまが何か言いたげに王さまとひめさまを交互に見ていたけれど、おうさまは王妃さまの背中に手をまわし、そのまま去っていかれた。

 




 「さあ、おうさまにも出立の挨拶もできたことだし、今度こそ本当に出かけましょう」



やっと本当の出立となりました!

はー、長かった!

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