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二連の宝珠  作者: れんじょう
冬柊の終焉
36/38

黒珠 【弐】

 『みぃつけた』




 え?

 ぞわりと細胞がひっくり返ったような悪寒が全身を走った。

 思わず両手を身体に巻きつけてしまうほどの、悪寒。




 『みぃつけたあぁぁっ』


 


 またさっきの、地の底からぬめりと出てくるような、喉もとに腕をいれられて無理やり出さされた声のようなものが聞こえてくる。

 

 「う……あぁ……っ!」


 吐気を伴って口元に手を当てると、ぞわっと汗が噴き出してきた。

 けれどその声が聞こえたのは私だけのようで、日向やこうさん、ひめさまや珠をもつ加月さえも何事もないようにふるまっている。


 『ふふふっ』


 どす黒いその音がだんだんと声高く、私の耳朶に響き渡る。

 立っていられないいほどの、強烈な音。

 血の気が落ちて、すうと体中が冷えていく。


 ああ、私このままいくと倒れて死んでしまうんだろうな

 

 不思議にそんなことを考えていたその時、


 「なゆた?気分が悪いのか?」


 ひめさまを背の後ろにして護っていた日向が私の蒼白になった顔面に気がついたようで、ついと横に並んできた。

 けれども声をかけることすら苦痛になっていて、日向に伝えることができない。


 『おまえ、わたしがわかるのね』

 「うっ……あ、あ、あ、ああああっ!」


 なんで

 なんでなんでなんでっ!!

 聞きたくないっ!

 聞きたくないのに、どうして私には聞こえるの!?


 それが頭の中にこだまする度、訳もなく涙が溢れ出て、それを聞きたくないがために耳を塞いで頭を振り続ける私は、きっと他のみんなには気が狂ったように映っただろう。


 「ひ……ひゅ……がっ!たっ」

 「なゆたっ?!いったい?!!」


 日向が私の体を抱えるように押さえこんでくれていても、がたがたと震える身体が止まることはなくて。

 聞きたくない音が頭の中を支配する。


 『おまえ、も、みつけた』

 「ひっ!」


 私のあまりの変わりように驚いたこうさんやひめさま、加月がそばに近寄ってきてくれたけれど、加月のもつ黒い珠が涙にぐしゃぐしゃになった私の眼には先ほどまで感じていた温かみのある闇の珠が、今では恐ろしいほど禍々しく『無』へと導くものにしか見えなくなっていた。


 「あっ……あ……あっっ!!」


 頭の中を弄繰り回され盗み見される不快感からくる吐き気と恐怖からくる震えを抑え、なんとか腕を上げて加月の持つ珠を指さすと


 ぶすり


 闇の黒い珠から、まっしろい腕がはい出していた。


 「きゃああああっっっ!!!」

 「うわっ!」

 「加月、それを離せっ!!」


 加月は自分が作った黒い珠からどうして白い腕が生えたのかわからないみたいで珠を離せないようだったけれど、その骨のように白い腕が加月の手に延びて握ろうとしたので、珠を掘り投げようとした。

 けれどすでに遅く、その小さな腕を白い腕に握りしめられ、加月の腕を反動に禍々しく歪んだ珠から腕が出ようとしていた。


 「いやぁぁぁぁぁだああぁぁっ!!!」


 必死で振りほどこうとしても小さな加月には力がなくて、こうさんがその白い腕を掴もうとしても結界がはられたように加月に近づくことができなかった。


 「火焔!結界を!」

 『承知』

 「朝陽。闇を打ち消して」

 『わかったわ』


 火の護人である火焔さんが辺り一面に結界を貼ったと同時に、光の護人である朝陽さんが闇の珠に光源の矢を放った。

 闇玉にあたった矢はぱあっと四散して闇玉を包み込んだものの、そのまま白い腕が出ている辺りに吸い込まれるように消え失せてしまった。

 続き様に二矢、三矢と放たれた光源の矢が、虚しく闇玉のなかに吸い込まれていく。


 「加月っ!」

 「いやあああああぁぁああぁっ!!!」


 その間にも白い腕が加月を禍々しい闇に落とそうとしていた。

 闇の珠は加月が作りだした大きさのその何倍にも膨れ上がる。そして頭の中の声はその膨れ上がる速度と同じように大きくなっていく。


 『あは。あはははははっ!……とりもどすのっ!!』


 目の前では加月が大きく広げた手をこうさんに向けて必死で伸ばし泣き叫びながら、闇の珠に取りこまれていった。


 「加月ーーーーっ!!!」

 「あ・あ・あ・い、いやああああぁあぁああああっっ!!!」

 「火焔っ!今の珠、追えるか?」

 『追える?いや、追う必要はない。あれは闇の支配者の色。東へといけば必ず出会うモノだ』

 「朝陽っ?!」

 『その通りよ。それに闇の支配者が生み出す闇の中に無防備に飛び込むなんて、死を意味するわ。だから変な気を起こさないでね』


 そうして目の前の闇が中央に向かって吸い込まれていき、最後には跡かたもなく消えてしまった。

 それと同時に私の頭の中に響いていたあの忌まわしい音とぞわりと這いあがる悪寒も綺麗に無くなっていた。


 「あ……かつきが……」


 闇の珠が存在した場所をただ見ていたみんなが、私の声に驚いて一斉に振り向いた。

 さっきまでは日向の腕の中で狂ったように叫び喚き震えあがっていた私が一体何を言うのかと思っている、そんな顔だった。


 「加月が、闇に囚われたの……」

 

 

 

 


 


 

 


 

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