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二連の宝珠  作者: れんじょう
冬柊の終焉
3/38

旅立ち 【3】

 おかしなことに、一の姫の部屋はとても静かだった。

 伝令がいっていないのかな? それともひめさまがまだ御戻りでないのかな?

 戸の前に座り、中にいるだろう者に声をかける。


 「なゆた、戻りました。」


 「おはいり。」


 あれ?今の声は…

 すっとふすまを開けて中に入ろうと顔をあげたとたん、母上さまのお顔がすぐそばに!


 「母上さま!」


 「すっとんきょうな声を出すものではありません。 もちろん私です。 お前は一体どこにいたのです?」


 こ…こわい。 本気で怒っている母の顔なんてあまり見たくないんですけど…。


 「まあそこまでにしておきなさい、あそうぎ。」


 はい、と母が目礼した先をみるとやはり王妃様がおられ、その横にはひめさまが控えて…控えて…え! もう戻ってるし! そして着替えてるし!

 かなり驚いたけれど、女官教育の賜物で礼儀だけは先にすませなければ。


 「王妃さまがお越しになるとはついぞ知らず、お出迎えもできずで申し訳ございません。」


 そうご挨拶を申し上げようとしたとき、口元をよい香りのする扇子で押さえながら王妃さまがおっしゃった。


 「よいよい。今回は急に晃陽の顔をみたくてこちらに寄ったのじゃ。そんなことより、はよう中におはいり。」


 「は…はい。失礼いたしました。」


 かしこまって一礼をしてから部屋に入り、ふすまを閉めた。


    


 ふふっ

 なゆたったら本当に母親に弱いのよね。面白い。

 王妃第一女官のあそうぎと私の第一女官なゆた。 比べてみると顔だけではなく雰囲気も本当によく似ているんだけれど、二人ともそのことをわかっているのかしら。

 親子って本当はどこかしら似るものだけど、わたしと母は本当にどこも似ていないし、父にも似ていない。そのことが昔からとても不思議だったけれど、母にいわせれば私の髪や瞳や皮膚の色のなさがそのように見えるだけでちゃんと似ているらしい。

 冬柊の国の民は、基本的には黒髪と黒曜石の瞳を持つ。

 けれど、たまに色が違う子が生まれるのだそう。…わたしのように。そして色が違う子には護人がついている。…わたしのように。

 ただ、私には護人がついていないように思われているけれど。

 あそうぎとなゆた。

本当に仲の良い親子。信頼し合っている親子なんだといつも感じる。

 わたしと母とは違う。

 わたしと母の間には、深い溝がある。もちろん父との間にも。

 こうやってたまにわたしに会いに来てくださるが、それは本当にめったになくて。

 どうしてもあそうぎ親子との違いをいつも探してしまう。

 ああしてふすまの前で二人で小さな声で話している姿がうらやましいと思ってしまう。私には母とああいう風にはできないから。

 それでも公務の間を縫ってこうやって部屋まで来てくださることを私はうれしく思わなくてはいけないのに、どうしても思えない、ひねくれた心。

 ああ、駄目。また迷宮にはいってしまう…




 「そういえば母上さま、東の空をご覧になられましたか?」


 「当然です。 王妃さまはその空をご覧になられて、一の姫さまが心配になられ、こちらに参ったのですから。」


 一の姫が心配で? どうして?


 「やはり不安を誘うような雲ですから、母親としては子を心配するのは当然でしょう。」


 たしかにあの雲をみれば不快な思いをするし、それが不安となってわが子を心配されるんだろうか? それとも日向が呟いたことに関係してるのかな?

 ひめさまはというと、王妃さまと話すことなくじっと私と母上さまを見ていた。



   *******************


 「失礼いたします。一の姫さまに書状をお持ちいたしました。」


 そう言ってなぜか日向が部屋に入ってきた。手には冬柊の家紋が入った正式の盆。

 なんで日向が王さまからの書状を持ってくるの?

 目線でそう日向に訴えたけど、日向は見て見ぬふりをした。


 「ひめさま、王より承ってまいりました。」


 差し出された書状に、ひめさまはちょっとためらわれていたように感じられた。

 王さまとこのような書状のやり取りを見たのは、わたしは初めてだけども、王妃さまも母もなぜか顔をこわばらせて件の書状を見つめていた。

 まるで書状の内容がわかっているように。

 書面を広げて読むひめさまの顔がみるみるうちに青ざめ、手が震えだしたのが遠くから見ていてもわかった。


 「わかりました。今すぐ伺いますと伝えてください。」


 「…は。」


 返事をきくやいなや、日向はささっと退室してしまった。わたしに一瞥もなしで。

 いったいなんなんだろう。何かおかしい。


 「ひめさま、どうされたのです?」


 「なゆた、会見の間に行くよう手配して。それが終わったらあなたも正装してわたしに同行してね。」


 わなわな震える唇から絞り出すような声で、けれどその表情ははっきりとした意思が感じられ、最後には少し笑ってひめさまは王妃さまをご覧になりました。


 「お母様、お別れのようです。」


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