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二連の宝珠  作者: れんじょう
冬柊の終焉
25/38

彷徨う 【3】

 誰かが傍にいる、ということ。


 相手がこんなちぃさい子ぉでも、こんなに照れくさいもんなんか。


 握った手があったかい――――



 だんだんと加月という存在に慣れてきたこうだったが、それでもまだ子供に対する、小さいころからの警戒心がなくなったわけではない。

 それでもずっと手を握っていないと不安そうな加月をみて、子供本来の気弱さを見たような気がした。


 この子ぉはどこの子かわからんけど、とりあえず日向に会わすまでは俺がしっかりしとらんとあかん。


 見下ろすと、加月がそれに気がついてにっこり笑いかけてくる。

 「お兄ちゃん」といって慕ってくる。

 加月の存在がふんわりと暖かい真綿のように、こうの心を(くる)んでくれる。


 ―――――頑張れ、俺。


 もう半ばやけくそ状態で、前から歩いてくる温厚そうな老人に声をかけた。


 「あ……あのっ! す…珠洲へいく道はこっちでいいんですかあっ!」


 下を向いて真っ赤になって叫んでいるこうに、その老人はそんなこうを不思議そうにみて、「そうじゃな。 お前さんが指差している反対の方向じゃな」と丁寧に教えてくれた。


 ――――反対の方向って………。 俺ってやっぱり阿保?


 がっくり肩を落とした日向に、加月がくいくいと手を引っ張って「お兄ちゃん、おじいちゃんにお礼」と、まるでどちらが年上かわからない発言をされてしまった。


 「うわっ! あ……ありがとうございました!」


 まるで人形が挨拶をしているようにかちかちに固まった挨拶を返すと、「気をつけて行きなされ」と言って、老人はほほ笑んで遠ざかって行った。


 はあ。 なんとかなるもんやなー。

 胸をなでおろすってこういうときに使う言葉なんとちゃうかなぁ。


 『こう……。 幼子に助けられてどうする。 もっときちんと挨拶くらいしなければ、恥ずかしいぞ』


 「そんなん、わかってるっちゅーねん! ……ほんま助かったわ。 ありがとな、加月。 もうちょっとであのおじいちゃんにお礼も言われへんとこやったわ」


 「お兄ちゃん、また独り言言ってる。 でもなんで加月にお礼いうの? お兄ちゃんに偉そうな口きいて嫌われるかなって思った。 お礼言われるなんて、加月思ってもみなかったよ。 うれしい」


 年上のお兄ちゃんに年下の加月から「お礼をいわせる」ようなことを言ったら、お兄ちゃんはきっと加月のことが嫌いになるだろうなあって思っていたけれど、まさかそのことで逆に「お礼」を言われるなんて、お兄ちゃんってなんてすごいんだろう。 加月の知っている大人という生き物は、子供からそんなことを言われたらすぐ怒って「馬鹿にするな」とか「子供のくせに知った口をきくんじゃない」とか、そういうことばかりいって自分がどれだけ加月からみたら馬鹿に見えるか分かってない態度をすぐとるのに。


 お兄ちゃんで、やっぱり間違いがないんだ。

 

 自分の判断に狂いがなかったと、加月は子供らしくもなくほくそ笑んでいた。

 


 こうは、加月に「うれしい」と言われたことで、真っ赤になった顔が耳たぶまで赤くなり、それを隠そうとぶんぶんと頭を振ってみせた。

 こうにとって、何か自分のためになるようなことをされた場合はお礼をいうのは当たり前のことなので、そのことで「うれしい」なんて言われるとは思ってもみなかった。


 そんなことで「うれしい」って言われるんや。

 ―――――加月のために、出来るだけのことをしよう。


 単純なこうだった。



 

 

 結局こうたちがいる場所は、珠洲とは全く方向が違う華無(けな)という宿場町近くで、そこから逆方向に二十里ほどで珠洲となることが分かった。

 日が暮れるまでにはせめて崔居(さい)にはたどり着いておきたかったので、こうと加月はできるだけ早足で街道を戻っていたが幼い加月の足では崔居までは難しいということが分かり、結局華無で一泊することにした。


 一度人に物を尋ねるということができるようになると、本来人懐こい性格のこうは、どんどんとあたりの人に声をかけるようになって、情報収集をおこなえるようになった。 そして宿をとることもできるようにもなった。

 これはひとえに、こうが人に尋ねごとをするたびに加月が尊敬の眼差しを向けてくれるということがわかり、こうの気持ちを前に押し出してくれたからほかならない。

 そのことに火焔は加月に感謝していた。

 

 ―――――これでこうはもう大丈夫だろう。 日向によって外に出て、加月によって前に進むことを覚えた。 たった一日で、ここまで成長するとは思わなかったが、これはいい誤算だろう。


 こうの胸元にある袋のなかで、火焔は慈愛に満ちて光り輝いていた。


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