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二連の宝珠  作者: れんじょう
冬柊の終焉
24/38

彷徨う 【2】

シリーズで書いている【紅玉】を合わせて読んでいただくと、こうの生い立ちがわかり、読みやすくなると思います。

シリーズ分けしてしまってすいません。

 はあ。 面倒(めんど)くさいなー……ってか、なんでやねん。


何度駄目だと行ってもこうから離れない、自分よりもはるかに歩幅が小さい子供の手をひいて、街道を歩きだした。

 

 あれか? なんかの試練か? 俺、なんか悪いことしたか? 子供苦手やっちゅうねん!


 ぎゅっと手を握りなおして、ついつい見なくてもいい件の子供を見てみると、こうのほうを向いてはにかんだ笑顔を向けてきた。


 ……だから子供は嫌いや。


 その笑顔を真正面から受け取ることができなくて、こうはバツが悪くなった。


 だいたい、どこのだれかもわからん俺をなんでそんなに信用するんや。 なんか俺、この子に気に入られるようなこと、したか? まあこのままいったら人攫いやしなー。 とりあえずその辺の人に声かけて、この子の親、捜さんとあかんねんろうなー。 ……めっちゃいややけど……。


 「なあ。 お前なんていう名前や?」


 「加月(かつき)。 おじさんは?」


 「おっ……おじさんて! そんな歳とちゃうわ! せめて兄ちゃんって呼んでくれ! ……って、ちゃうちゃう。 俺の名前は、こう。 でもやっぱり兄ちゃんでええで?」


 「……お兄ちゃん」


 それでええわとばかり頷いて加月から視線を外すと、これからどうしようかと思案していたが、何度考えても自分が加月を連れて歩くのはあり得ないと思い、物凄く嫌な気分になるのを抑え込んで道行く人に加月の親を知らないか尋ねることにした。 勇気がとても必要だと感じながら。

 きょろきょろとあたりを見回して、とりあえず一回は言わなあかんなぁと、こう的には力を振り絞って出した言葉が、


 「すいませーん。 この子の親、誰か知りませんかぁ」


 その声は小さすぎて、真横にいる加月にすら届いていない始末だった。 加月は加月で、さきほどまでは普通に話していたこうが、いきなり蚊の鳴くような声でしゃべったので驚いてしまい、握った手をぱっと離してしまったが、こうに逃げられるとでも思っているのかすぐに強く手を握ってきた。

 そんな加月をみて、やっぱりあかんかとばかりにもう一度、今度は大きく息を吸って貯めてから、こうの持てる限りの声量で叫んでみた。


 「すいませーん! この子の親、誰か知りませんかぁ!!!」


 街道を歩く人たちが一斉にこうと加月を見たけれど、誰ひとりとして加月を知っていそうな人はおらず、結局こうは「恥かいてもぉた」と真っ赤になった顔を頭に巻いている手ぬぐいで隠してしまった。


 加月はおっかなびっくりとこうを見上げていたが、自分のことを思いやって恥ずかしいのも我慢して声をはりあげてくれたこうを見て嬉しくなって、くすくすと笑っていたが、ちょっと真顔になってこうに言った。


 「加月、ここがどこかわかんないし、ずっとひとりだったから親もいないよ」


 「そんなことないやろ? 加月は髪もきちんとといてもらってるし、着物かてええのん着てる。 名前も漢字つこうてるから、貴族さんやろ? ああ、そうか。 一緒にいつもいる人とはぐれてもうたんかな? 貴族さんって、お付きの人おるもんなー。 きっとその人、加月のこと捜しまわってんのとちゃう?」


 ふるふると加月の豊かな髪が左右に振れた。

 それはこうの考えを否定するものだった。


 「ちがう。 加月にお付きの人なんていないよ。 加月はいつも一人だもん。 ここにどうしているのか加月もよくわからないんだけど、でも絶対いつも一人だったよ」


 こまったなー。 俺も迷子やけど、この子も迷子やん。 迷子二人おったら、迷子にならんとかあるんかなぁ。 ほんま、困ったわ。


 空を見上げてひとりごちてるこうの耳に、胸元の珠から言葉が届いた。


 『こうしていていも仕方がないのだから、人に声をかけて珠洲まで行く道を尋ねてはどうだ。 珠洲には日向やなゆた、光の主人もいるだろう。 そこでこの幼子をどうするか聞いてみればいい』


 「う。 それが簡単にできひんのは火焔がよう知ってるやろ」


 『さきほど、大声を出してあたりの人に尋ねていたのは誰だ? こうだろう。 やればできるのだから、いい加減腹をくくって人に声をかけてもよいのではないか?』


 「お兄ちゃん、一人で何を話してるの?」


 火焔の存在をしらん加月が不思議に思うんは仕方がないけど、視点を変えてみると一人でぶつぶつと話している変な人、なんやろうなあ、俺って。

 でも火焔のこと、言わんほうがいいやろうしなぁ。


 「うー。 俺、よう独り言いうから、慣れて」


 疲れた笑いを浮かべながら加月にそう伝えると、胸のあたりにある巾着袋から『これからは一人でなく誰かがいるということに慣れないといけないな』と火焔がこうにしか聞こえない声でそう呟いた。


 


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