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二連の宝珠  作者: れんじょう
冬柊の終焉
20/38

道程 【6】

 「まちがいない。 ひめさんは日向が捜している光の主人や。 なんで隠してんねん? その証拠にひめさんの胸元で光ってるのは、護人の珠やろ? 火焔の力が増したんも、光の護人がそばにいるからや」


 火の主人であるこう(・・)さんのいうことなんだから、間違いがないと思うけれど……。

 でも、まさか。

 どうしてもそう思ってしまう。


 こうさんといえば日向をみて頷いているし、日向はこうさんの言葉を噛み砕いて無理やり飲み込んだような変な顔をしている。

 そして、そして火の主人から『光の主人』だときっぱりと言われたひめさまはというと


 下を向いて、光る胸もとを凝視していた。

 自分に起こったことが、信じられないというように。


 それから、ふーっと大きく長い息をついて胸元にあった金襴の袋を取り出し、ゆっくりと顔をあげて、日向やわたし、それにこうさんと護人の火焔さんを見回して苦しそうに言葉を吐き出した。


 「……しかたがないわね。 ――――【朝陽(あさひ)】」


 そういったとたん、ひめさまの手の中にある袋から光を放ちながら珠が浮いて出てて、ひめさまの後ろ横にゆっくりと人影ができる。―――けれど、あまりにも強烈な光が人影をも白く染めだして、護人の姿が全くわからい。 目が、……目がいたい!


 「朝陽……、嬉しいのはわかるのだけれど、もう少し落としてくれない?」


 『人型をとれたのは本当にほんっとうに久しぶりですので? これくらいは当然といいたいところですけど……仕方ないですわね』


 言葉と共に先ほどまでの強烈な光が消え、柔らかく温かい光がひめさまの背後から差し込んでいる。 そこには頬に手を添えてにっこりとほほ笑んだ光の護人、朝陽がたたずんでいた。


 ――――主人は護人と同じ姿をしている――――

 

 そういわれるように、やはり光の護人はひめさまと同じ髪と瞳の色を持っていて、並ぶとまるで双子のよう。 けれど、火の護人火焔さんの瞳に白眼がないように光の護人の晃陽さんもまた、瞳に白眼がない藍白の珠で。 どこを見ているのか計りかねる綺麗な綺麗な混じりけのない宝石のほうな珠だった。


 「本当はもうすこし後から話そうと思っていたけれど……、まさか日向が火の主人と護人を連れて帰ってくるなんて、誤算もいいところだわ。 本当はもっとあの黒い渦巻く雲の近くに行ってから話そうとは思っていたのだけれど」


 まるで自分に言い聞かせるように、ゆっくりと言葉をつないでいくひめさま。


 「こう……さんがいうように、わたしは光の主人。 護人は、私の後ろに立っている朝陽。 間違いはないわ」


 「ほらな? おうてるやん」


 空気を読まないこうさんが、「合っていることを言ったから褒めて」とばかりにまるでしっぽを振っている犬のように日向をみたけれど、日向の形相を見て固まってしまった。


 「……どうしてです?」


 静かな怒りをふつふつと全身から湧きあがらせて、日向はひめさまを見据えて言った。


 「どうして今まで自分が主人でないと、護人などいないと? この旅の目的である光の主人を探すというのは、茶番でしかないとわかっていながらなぜ、私やなゆたを巻き添えにしてまでなぜ旅をしようと考えたのですか?」


 「……それは……あまりいいたくはないわね?」


 「それで許されるとはお思いですか?」


 この期に及んでとぼけようとする姿勢のひめさまに、日向の堪忍袋の緒がぶちっと切れそうになるのを感じた。

 

 わたしはもともとひめさまの第一女官だから、ひめさまが行かれるところには一緒に付き添っていくのが当たり前で。ただ今回のように果てが見えない、それも命が危ぶまれるような旅に出るとは思ってもみなかったけれど、それでもひめさまがいく限り、たとえ指名されたからとはいえお役をいただいたのだから全うしたいと思っている。

 近衛の日向にしても、王族を警護するための役職についているのだからひめさまを警護するのは当然だけれども。


 今回のことは根本的に間違っている。


 私たちは、何を探しに旅にでたんでしょう?

 私たちは、何のために旅にでたんでしょう?


 ――――――道化師。


 私と日向は、ひめさまに踊らされている道化師のよう。


 「ちがう。 なゆた、それは違うの」


 まるで私が考えていることが読めるように、ひめさまは否定する。

 それだけ私の表情がひめさまには読みやすいということ?

 私はそれだけひめさまにとって操りやすいということ?


 「なゆた……なゆた。きいて。 ……日向も、こう…さんも」


 ぎゅっとにぎった両手に、さらに力を込めて。 

 意を決したようなひめさまが、言葉を紡ごうとしたその時


 どんっ


 爆風で土壁が吹き飛び、茶屋ががらがらと倒壊したとともに、その機に乗じて一人の男がひめさまに向かって長剣を構えて突進してきた!


 「覚悟!」


 きんっ 

 

 土埃が立ち込める部屋(?)の中で、茫然と立っているひめさまの前に日向が構えて、侵入者の剣を防御していた。


 「! 貴様……飫肥(おび)! どうしてここにいる!」


 侵入者は日向を知っているようで、また、まるで裏切り者のようにその声は驚きながらも蔑んでいた。


 「その声は、まさか紀伊どのか?!」


 「そうだ! だが貴様、なぜそいつに加担しているのだ! この裏切り者め!」

 

 紀伊と呼ばれた侵入者の剣が、ひるんだ日向の上段から切りかけるが、その剣を日向は下段から受け止め、そのまま刃先をもって力の限り押した。 まさかの力技に、紀伊は体制を崩し、そのまま瓦礫を踏み外し倒れ込んだ。 ゆっくりと紀伊のほうに近寄ると、彼はおとした剣を手で手繰り寄せようとして手をせわしなく動かしていたが、その手を足で踏みつぶして剣先を紀伊ののど元に向けた。


 「裏切り者とはどういうことだ?」 


 「いけしゃあしゃあと! そこにいる闇の支配者を殺れる絶好の機会を、貴様は!」


 「闇の支配者……? ひめがか? 貴様、何を勘違いしている?」


 紀伊の信じられないような勘違いにあきれて、日向は剣をさげた。 とたん、紀伊が痛みを無視した動きで剣をひらい、そのままひめさまに向かって投げつけた!


 「【朝陽】」


 ぱあっ


 あたり一面に光が出現し、その一筋が投げつけられた剣に差し、剣が光によって消滅した。


 剣の消滅……?


 護人の力を初めて目の当たりにして、ただでさえ混乱している思考が完ぺきに停止してしまった。

 

 ―――――ありえない


 人の生きる世界に、あの力は害にしかならない。

 凄すぎて、恐ろしすぎて、他のことを考えられない。


 ひめさまに向けた剣が投げつけられた途中でなくなった事実が、今私を凍らせている。



 どうしよう、どうしよう、どうしよう!


 


 


 

 



なゆた、完全にパニックになっています。


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